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016_犬千代の帰参

 


 戦いが終わった戦場。

 死者がどれだけ出たか分からないけど、そのほとんどは斎藤軍の兵士だ。

 誰かが欠けることなく、俺たちは今回も生き残った。

 犬千代さんも足立六兵衛を討ち取っているので、帰参できそうだし、俺もミッションをクリアできそうだ。

 ミッションといっても、『犬千代の帰参を手助けしよう!』ではない。


【ミッション】

『戦功を立てよう! : 西美濃攻めで戦功を立てよう!』

『報酬 : プレゼントをランダムで三個』


 あの後、このミッションもメールで送られてきたのだ。

 犬千代さんのミッションもそうだけど、俺自身の戦功もダブルで立てろとは、なかなか難しいことを言ってくるものだ。


 えーっと、豊臣秀吉の逸話で墨俣の一夜城というのがあるけど、残念ながら今の俺がいる時代にはそれはない。

 なぜなら、墨俣には斎藤方の砦があって、現在、俺たちはその墨俣砦に入っているからだ。

 この砦を得ているのに、わざわざ一夜城を築く意味が分からないでしょ?

 この墨俣砦は戦いがあった森部から少し北にいったところにあって、龍興の居城である稲葉山城が遠くに見える。

 つまり、稲葉山城から目と鼻の先にある。距離にして十数キロといったところだと思う。


 緊張の瞬間。

 信長様の前に犬千代さんが進み出る。

「足立六兵衛でございます」

 信長様が眉をピクリと動かすと立ち上がって、足立六兵衛の生首をじっくり見分する。

 俺までドキドキするから、早く何か言葉をかけてあげてよ。

「首取り足立で、あるか」

「はっ! 首取り足立でございます」

 信長様が手に持っていた扇子がぱちりと音を立てる。

「この猛将を討ち取るは城一つの価値あり! 帰参を許す!」

「ははぁぁぁっ! ありがたき幸せ!」

 犬千代さんが平伏した。

 うんうん、よかったね。なんだか涙が出てくるよ。


 今回の戦いで、斎藤軍の長井甲斐守、日比野下野守、足立六兵衛、神戸将監などの武将の首級を得た。

「日比野下野守であるか! 見事だ。褒美を楽しみにしていろ!」

「ありがとうございます!」

 俺も日比野下野守という武将を討ち取っている。

 この日比野下野守は犬千代さんが討ち取った足立六兵衛の主で、犬千代さんが足立六兵衛を討ち取った後にたまたま遭遇してしまったのだ。

 この日比野下野守も運が悪いというか、殿に切りかかってきたから、殿を護るためについバッサリとやってしまったのである。

 本当にこの体はスペックが高い。刀なんて触ったこともない俺が、手足を無意識で動かすように自然に刀を振っているのだ。

 俺はこの時代へ送られた時に改造人間にでもされてしまったのだろうか? と思うほど自然だ。

 だけど、精神は現代人のままなので、結構くるものがある。


「犬千代さん、帰参できてよかったね」

「これも彦七郎様や勘次郎殿のおかげだ。感謝しても感謝しきれぬ」

「犬千代、これから飲み比べもできぬな、寂しくなる」

 殿は犬千代さんとよく飲み比べをしていた。

 いつも殿はすぐに潰れてしまって、翌日は二日酔いで大変なのに懲りないんだよな。


「彦七郎様はまず清次殿に勝てるようにならねば、話しになりませぬぞ!」

 酒の飲み比べだと、俺、雲慶、犬千代さん、清次、殿の順に強い。

 ちなみに、清次と殿はそれほど変わらない強さだけど、犬千代さんと清次の間はかなり開いている。

「むっ!? よし、清次! 古木江城に帰ったら飲み比べだ!」

「望むところです! お殿様」

「殿、あまり無理をされますな」

 俺はいつも諫め役だ。殿は聞いてくれないけど。


 森部の戦いの後、墨俣砦を占拠した信長様は、墨俣砦を拠点にして十九条(現在の瑞穂市)に砦を築いた。

 それを見た龍興も軍を出してきたので、織田軍は十四条(現在の本巣市)で斎藤軍を迎え撃った。

 この十四条の戦いでは明確な決着はつかなかったけど、織田信益様が討ち死にしてしまった。

 この織田信益様は信長様や殿の兄弟ではなく従兄にあたる人で、犬山城の城主である織田信清様の弟になる。

 この時、織田信清様は信長様に敵対していることから、織田信益様は必死だったんだろう。

 それで突出してしまって、討ち取られてしまったのだから、哀れな人だ。


 十四条の戦いでは勝敗がつかなかった。

 織田信益様が討ち取られているので、負けと言われることもあるかもしれないけど、勝敗なしということで徹底されている。

 ただ、その後すぐの軽海(現在の本巣市)の戦いで勝利を収めることができたので、全体で見れば勝ちなんだろう。

 軽海では斎藤軍の稲葉又右衛門を討ち取っていて、この稲葉又右衛門が討たれたことで斎藤軍は瓦解したのだ。

 そして、この稲葉又右衛門を討ったのが、犬千代さんと信長様の乳兄弟である池田恒興様だ。

 犬千代さんはここでも戦功をあげていて、槍の又左の面目躍如である。

 この軽海の戦いの後、軍を引いた信長様に従って殿も軍を引き上げている。


 

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