013_犬千代の帰参
『ブー、ブー、ブー』
ん、唐突だな。今度はなんだ?
懐からスマホを取り出してメールを確認してみる。
【ミッション】
『犬千代の帰参を手助けしよう! : 犬千代は織田家に帰参したがっている。犬千代を助けてあげよう!』
『報酬 : プレゼントをランダムで五個』
犬千代さんの帰参か!? 言われるまでもなく、俺にできることはやるぞ。
しかし、どうやって帰参を適えるかだな。
こういう時は検索で……ふむふむ、美濃の国を攻めた『森部の戦い』で戦功をあげて帰参が適ったのか。
む、森部の戦いは今年じゃないか!? それでミッションが発生したのか!
つまり、もうすぐ戦争があるってことだよな……戦争以外でってわけにはいかないよな、思いつかないし。
戦争かぁ……。
「勘次郎! 七郎左衛門! 戦の仕度だ!」
あのメールから二日。この日がきてしまった。
殿は嬉しそうだけど、戦争は俺の心の闇の部分が増えていく気がするから、好んでしたいとは思わない。
「七郎左衛門殿、俺はこの戦いで二回目の出陣になる。歴戦の猛者である七郎左衛門には色々と迷惑をかけると思うが、よろしくお願いいたす」
「うむ、よい心がけだ! 貴殿は殿の近くにいて、後方から戦を見ているがよいぞ! 先鋒は俺が務めよう!」
信辰がニコニコ顔だ。こうやって立てていれば機嫌がいい。
これで信辰が戦功でも立てれば、好感度が上がるかな?
それはそうと、犬千代さんにもすぐに教えてやらないとね。
俺は急いで家に帰って、犬千代さんを呼んだ。
犬千代さんとおまつさんがやってきた。
「美濃へ攻め込むことになった。犬千代さんもいきますよね?」
「きたか! とうとうこの時がきたのだな! まつ! 出陣だ!」
「はい!」
犬千代さんとおまつさんは仕度のために長屋に帰っていった。
「さて、お菊さん。明日、出発するから、留守は頼むね」
「へい。お気をつけて」
「ばぁちゃん、旦那様は俺が必ず守るだぎゃぁ!」
「お前の方が旦那様に迷惑かけにゃーか、心配だがや」
「なんだって! 孫が信用できんのかて!?」
「孫やで心配なんだがね!」
「まぁまぁ、二人ともそこまでです。藤次は清次と雲慶を呼んできてくれ」
俺は二人の間に入って、二人の家臣を呼んできてもらうことにした。
「分かったがや」
しばらくして二人がやってきた。二人は近くの田畑で農作業をしていたらしい。
五月なのでもうすぐ田植えの時期だしね。
「美濃へ攻め込むことになった。明日出発だ」
「おお、とうとう出陣ですな! 腕がなりますぞ!」
長谷川清次は腕をL字に曲げて力こぶを見せる。なんなら、俺の筋肉も見せてやろうか?
「南無阿弥陀仏。殿のおんため、この蓬莱坊雲慶、しかと働きましょうぞ!」
この生臭坊主は筋肉ムキムキだ。筋肉と酒をこよなく愛する生臭坊主なので、俺と気が合う。
清次の身長は百七十センチくらいで、この時代では大きい方だが、雲慶は百九十センチくらいで俺よりも大きい。
しかも雲慶の胸板は俺が羨むマッスルなのだ!
清次は槍で雲慶は金棒だ。雲慶に金棒なんて持たせたらアカンやん。
翌日、俺は筋骨隆々の逞しい体をした風丸に乗って家を出た。風丸を引くのは下男の藤次だ。
その後ろを清次と雲慶が続き、俺たちを先導するように犬千代さんが進む。
犬千代さんの背中には嬉しさがにじみ出ている。放っておいたらスキップでもしそうだ。
今回、俺は報酬でもらった名工具足を着けて出陣している。
名工具足は結構な重さがあったけど、身に着けると重さを感じないんだ。
よくわからないけど、着心地はいいし、重さも感じないので、かなり楽だ。
「集まった兵は百か」
この古木江の人口からしたら多いかもしれない。
だけど、全体から見れば百人は少ないだろう。
小さな領地なので、たいした人口もいないし、収入も少ない。
信長様のように津島の港を抑えていると、結構な金が手に入るようだけど、数多くいる弟の一人でしかない殿ではそういった打ち出の小槌はないのだ。
俺たちは木曽川の手前で信長様と合流した。
この後、木曽川を渡り、そして長良川も渡る。
俺は馬に乗っているからまだいいけど、馬にのってないと渡るだけでも大変だ。
あと、なぜか知らないけど、俺は馬に乗れる。
今さらだけど、この時代の俺の体は剣術もできれば馬術もできる。
最初、服とかは変わっていたけど、体は俺の知っている体だったから結構戸惑った。
剣術ができるのは、この時代では悪いことではないけど、戦争はしたくない。
それなのに俺はこうして戦争に向かって進んでいるのだから、笑える話じゃないか。




