001_運命の桶狭間
暑い……。
今年の夏も暑くてたまらん。
こんな暑いのに、営業回りなんてやってられるか!! と思って、喫茶店に入った。
「アイスコーヒー」
「アイスコーヒー一つですね!?」
涼しい店内で可愛い女子大生くらいの女の子が、元気な声で注文を復唱してくる。
こんなにいい環境で働いていたら、元気もあるよな。俺なんか、毎日炎天下の中を歩き回っているんだから。
営業職になんかなるもんじゃないと、思いながら女の子に頷いた。
しばらくすると、アイスコーヒーが俺の前に置かれたので、俺はそのアイスコーヒーをのコップを掴んで飲もうとした。
あれ……??? 急に意識が遠のいていく。
テーブルの上でガラスのコップが音を立てて倒れた。
俺、どうなるんだ!?
次に目が覚めると、森の中にいた。
「え? 森? 嘘?」
そうか、これは夢なんだ。うん、夢だ、夢!
久しぶりにこんなリアルな夢を見たな。この草なんて踏みつけたら潰れて葉には傷がついている。
着ている服は……なんじゃこりゃ? 俺、侍になってる!?
服だけじゃなく、刀まであるぞ!?
まさか、ちょんまげ……はなかった。ちょっとホッとした。
「ははは、マンガの読みすぎだな」
夢はいいとして、ここはどこだろうか? 歩いてみるか。
……一時間後。
「はぁはぁ……なんで夢で疲れるんだよ。だいたい、森っていうより山じゃん!?」
勾配があって上るにしても、下るにしても結構疲れる。
さらに時間が経ち、俺はあることに気がついた。それは……。
「夢じゃねぇだろ!?」
そう、俺は疲れ果てているのだ。
「困った……ここどこだよ?」
何度でも言おう!
「ここどこだよ!?」
本当に困っている。だけど、もう夕陽になっている。もうすぐ日が沈む。
ヤバいぞ、こんな森の中で夜になったら、どんな獣に襲われるか分からないぞ!?
とにかく、下へいこう! 人里を探さないと!?
「あった!?」
でも、人はいなかった。
あったのは、古ぼけたお堂のような建物だ。
これでもいい。屋根と壁があれば少しは生き残れる可能性がある!
俺はお堂の中に入って扉を閉めた。
床に座り、なんでこうなったのか、冷静に考えてみる。
「……さっぱり分からん!」
俺の理解の範疇を越えている。
なんで俺がこんな目にあわなければならないのか? 俺はそんなに悪いことをしたのだろうか?
真面目なサラリーマンだったんだぞ?
そりゃぁ、暑い夏には涼しい喫茶店に入って休憩したけど……。
寒い冬には、暖かい喫茶店に入って休憩したけど……。
暖かい春には喫茶店に入って居眠りしたけど……。
涼しい秋には喫茶店に入ってマンガを読んだけど……。
普通のサラリーマンだったんだぞ!?
「はぁ……これからどうすればいいんだ?」
とりあえず、今持っている持ち物を確認しよう。
刀と短い刀(短刀?)が一振りずつ。
懐にはなぜかスマホが一台。
刀とは逆の腰に竹の筒? ああ、水筒だな。今まで気づかなかったのが、一個? 一本? 一個でいいか。
手ぬぐいが一枚。
財布っていうのか? 昔の銭が入ったものが一つ。
壺? 手に乗るくらいの小さな壺が一つ。
米が入った袋が一袋。
この中で俺が持っていても不思議ではない物がある! それはスマホだ!
スマホを手に取り画面を立ち上げる。俺の指紋認証で起動するから俺のスマホに間違いない。
ただ、起動した画面は見慣れない。
まず、電波は来ていない。次にアイコンが五つしかない。
メール……なんで受信専用なんだよ?
検索……ネット環境に繋がっていて、検索とかできるみたいだけど、書き込みができない。
カメラ……写真と動画が撮れるようだ。
天気予報……まぁ、よくあるアイコンだな。
プレゼント……プレゼントくれるなら、俺を元の世界に戻してくれ! と言いたいが、このアイコンの使い方が分からない。
ちょっと待てよ、電源は? 電池残量表示がなくなっている? 使い放題?
「さて、これで何をしろと? もしくは、何ができるんだ?」
とにかく、今日は寝て、明日起きたら人里を探さないとな。
お堂があるんだから、そろそろ人里があってもいいよな。
……言葉、通じるかな? 大丈夫だよな、俺の格好は江戸時代以前の日本だ。多少、言い回しが違っても基本は日本語だよな?
寝よ。今日は疲れた。お休み。