第4章 広斗vs優美子
対局室に入ると、撮影する人や解説の人達が準備をしていた。
「今日はよろしくお願いします」
稲葉さんと二人で挨拶をすると、よろしくです、など返事が返ってきた。
大事な試合前だと緊張するなぁと思っていると、それは稲葉さんも一緒のようで、対局室に入る前と違い、そわそわしている。
畳の部屋なので歩く度にザッザッと、響く。
撮影機器のコードを踏まないように、対局する机の前に向かうと、対局する机の前に着いた。
右側に稲葉様、左側に長柄様と書いてある紙が置いてあった。
お互い向かい合わせに並んで一例をし、座布団の
上に座る。
「………」
無言になる二人、対局時間まであと10分ほどある。
そしてその無言を断ち切るように
「お昼は注文致しますか?」
とスタッフの方が聞いてきた。
「はい!二人とも注文でお願いします」
稲葉さんが返答をするとメニュー表を渡された。
「長柄さん何食べますか?」
「俺はラーメンにします」
おすすめに書いてあったものを適当に選ぶと。
「決めるの速いですねー、私なんかいつも迷っちゃって」
「まだ少し時間あるしゆっくりで大丈夫だと思いますよ」
「ゆっくりと言われてもあと十分しかないんですよ!」
えっメニュー決めるのに十分以上かけるのか!?と驚いていると。
「何ですかその、メニュー決めるのに十分以上かけるのか!みたいな表情は!」
俺の考えていることを的確に当ててきやがった。これはまずいぞ、対局中も俺の読みをしっかり読んできそうだな。これは厳しい戦いになりそうだ。
五分後メニューを持ってきたスタッフがまた来た。
「注文はお決まりになりましたか?」
「はいラーメンでお願いします」
と素早く返答すると稲葉さんは。
「じゃあステーキでお願いしまーす」
昼間から重たいものをよく食べるなーと驚いていると、あと三分で開始しますと声がかかった。
その声と同時に、一瞬静まりかえった。
集中、集中だぞ。ここで勝つんだ。
対局は一局のみ、勝っても負けても文句なしの一局だ。
そして対局の時間はきた。
本番開始まで五.四.三.ここで声が無くなり、スタッフのサインだけが残る。二.一。
ここでテレビ中継が始まる。
「おぉーーー始まった!ヒロト堅くなってるなぁ」
飛夢がテレビを見ながら言った。
「相手の女の子もかなり緊張してるわね」
留美は飛夢に応えるように言った。
「まあ昨日はカツ丼食ったし、スーパーに売ってた伊予柑も食ったし大丈夫だろ!
伊予柑食うといい予感するぜ!」
「………」
ドヤ顔でギャグをブチかます飛夢。
そして静まりかえる部屋。
「今のめっちゃ上手くね!自信作だわ」
「さむいわ、いい加減恥ずかしいと思った方がいいわよ!」
そんな会話を留美と飛夢はしていると、
では対局開始してください。と解説の人がカメラ目線で言っているのが聞こえた。
「留美始まるぞ静かに!!」
「あんたがうるさいわよ」
「では対局を始めてください」
目の前にいる解説の人が言うと、俺と稲葉さんは一礼をし、対局を開始する。
先手稲葉さん後手俺で勝負が始まる。
そして互いに持ち時間十分ほど使ったところで、稲葉さんは一時休憩を求めた。多分トイレだろう。
そして待っている時間で俺は対局を振り返る。
相手は振り飛車が得意なようだ。振り飛車とは飛車を使って相手を攻める行為である為、
稲葉さんは飛車を王の前に置き、そのまま中央の歩兵を前に出しまくってきた。
俺は稲葉さんが飛車を王の前に動かした時点で、振り飛車が得意なんだなと察して、振り飛車に対応する為、向かい飛車の陣形を組んだ。
向かい飛車は、敵の飛車の前方のラインに自分の飛車を並べるもので飛車の向かいに飛車を置くので、向かい飛車という。
すると飛車を思うように動かせなくなったせいか、稲葉さんは持久戦に持ち込む戦法に変更し、王の守りを固め始めた。
このタイミングで一気に攻めても、逆にカウンターを受けることになると俺は思い、攻めるための準備をした。
自陣にある桂馬を二枚、銀を一枚、それと角行を攻める形で前に出し、中央にいる飛車を活躍させるために飛車の前にいる歩兵を前に出したところでタイムがかかった。
相手の王はガチガチに守られている、そしてまだ俺の攻めを受けきれる陣形の為、俺は相手の駒を少し狩に行かなければならない。
じゃあここからは角行で狩りをするか!
そんなことを考えていると稲葉さんが戻ってきた。
「では対局を再開してください」
そんなアナウンスが入ると稲葉さんが自信満々な笑みを浮かべながら駒を指してきた。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ついに始まった広斗のプロになるための対局!
広斗vs優美子の対局はまだまだ続くのでよろしくお願いします。
ここで次回予告!
二人の読みがどんどん深くなるにつれ、対局もどんどん熱くなっていく!
険しくなる広斗の表情一体何が!?!?
次回もよろしくお願いします。