武器と素材とエンチャント!
さぁ武器がほしい!何にしようかな。
え、サブタイトルがどっかに見たことある?
いえ、無理やりはめ込みました。
セルリオが野暮用があると立ち上がった時点より少し後、私もリンに多少のお金を渡しセルリオのあとを追うかのようにギルドから外へ出ていた。
セルリオの目的はわからないが、どうやら私の目的とは別みたいでギルド前で別行動となった。
私の目的は武器の下見。下見と言っても手頃な値段であれば購入まで考えている。
数日前のウルフとの戦闘時、セルリオのスキルで生み出された鉄パイプにより武器なしの戦闘は避けることはできましたが、また同じように行くとは限らない。武器は装備しておくに越したことはないと思った。
私は武器屋を目指して、セルリオが行った方とは逆の方へ向かう。
逆と言ってもあまり遠くはない。
ギルドの受付嬢に武器が欲しいのですが、買える場所はありませんかと聞いたところ。ギルドを出て一つ隣の建物のその横道、3軒目にあった。
なんでこんな横道にあるかというと、ギルドの近くに武器屋がある方が利便性が良い。しかし店を構えるのにはそれなりの広さが必要だったために、一番近くに店を構えるなら、横道の3軒目の立地が良かったらしく、ここに建てられたらしい。
ちなみに間の建物は薬屋らしい。薬草らしき植物や不思議な色のガラス瓶が置かれている。
――チリンチリン
メインストリートにあるようなオープン型の店のは違い、焦げ茶色の木製ドアを押し開ける。
立地のせいで薄暗く、天井には3つのランプが広く店内を照らしている。
店端には樽の中に乱雑に剣が刺されており、壁には業物といった具合の高そうな剣やら槍やらが飾られている。
「いらっしゃい!」
扉の前で店内を見回していると、店奥から明るい声の、おそらくこの店の店主であろう人が出てきた。
「こんにちは」
礼儀として挨拶だけする。
「本日は何か御入用ですか!」
「んー、剣が見たいんですけど……」
「剣ですか……?その前にお嬢さん。こかないらでは見ない顔ですが失礼ながら冒険者ですかい?」
――?
冒険者以外にも武器屋を利用するのかな?と思っていたが、疑問に思っただけで特にどうということはなかったので頷く。
「あはは……先ほど冒険者登録をしました新参者です。宜しくお願いします」
少しお辞儀をする。
「わかりました!お嬢が今後の冒険者として働けるように、できることをサポートさせて頂きます!」
店主の勢いのある言葉に少しばかりホッとする。
こういう武器屋はイメージとして怖いおっさんだったりするから。
「お求めのものは剣?でしたね!お嬢さんのような方なら魔法の方が得意そうですし……ワンドやメイスなんかがおすすめですよ!」
「あー私、魔法が苦手でして……」
「メイスなんかはハンマーに近いので剣よりは魔法と併用可能なメイスの方が――」
「剣見せてもらいますね」
「そんなぁ!」
店主を無視して、テキトーに樽の中の剣から1本を抜き取る。
十字剣と言ったところか、見た目はよくゲームなどで見られる剣身、鍔、柄で構成されるものだ。
「ブロードソード、一般的な剣よりも剣身が長いものになります!」
全長として70センチメートル。しかし重さは500グラムないくらいだろうか?長さ的にはちょうど良いけど、携帯ゲーム機でも持っているみたいに軽く感じる。
「このブロードソードくらいの長さが普通くらいの剣ってことでいいんですかね?」
「そうですね!長さ75.5センチメートル、重さ1.5キログラム!接近型の冒険者はよく好みますね!」
思っていた重さより重く、怪訝な気持ちになる。
この疑問を解消するべく、同じ樽の中にあるブロードソードより少し長めの剣を引き抜いた。
「そちらはロングソード!長さ85センチメートル、重さ1.8キログラム!先程と同じく接近型の冒険者が好みますが、柄が長い分多様性に優れております!」
店主の説明を流し聞きをし、先程と同じようにロングソードを持つ。
やはり先程のブロードソードと同じく重さをあまり感じない。店主の説明通り重さこそ大差がないのでしょうが1.8キログラム、2キログラムのペットボトルを元の世界で持った時は重く感じていたが、それと比べてかなり軽く感じてしまう。
軽く感じるということは自分の力があるということ、自分の力に関係する事柄といえば、同じく数日前のウルフ戦で使った食診で見た戦闘総技量。その中にあった筋力値。実際には1と示されていたけど、リンとの比較で5000倍あることだけわかった。リンがどれほどの筋力なのかはわからないけど、少なくとも5000倍というと数値だけ見れば規格外。相当な筋力とみてもいいでしょう。
それにもう一つ、この世界に降り立った時に聞いた声。
――お前たちは以前、異世界に生まれ変わったらどんな風になりたいか決めたことがあった。それは今でも変わってないか?
この、生まれ変わったらどんな風になりたいか決めたことがあった、の部分。
おぼろげですが覚えていることがある。
それは筋力を異常に高く設定して、他があまり強くしなかったということ。
おそらくは、私の筋力の高さと、今この状況でロングソードが軽く感じてしまうのが頷ける。
ついでになってしまうのですが、私の魔法が得意じゃないというのも、魔力がリンの0.00005倍ということから推察できてしまう。
「如何ですかね!初級者としての武器でしたらどちらもありかと思いますよ!お値段も上がりますが、同じ系統でより良質な素材でできたものもございますが!」
少し考えた。
「じゃ、その少し高めのものを見せていただいてもよろしいでしょうか」
「かしこまりました!お待ちくださいませ!」
そういうと、店主は店奥に引っ込む。
その間に、剣に食診を試みる。
――能力発動!
ソードをぺろり。ブロードソードとロングソードに能力が発動する。
剣の名前、長さ、重さなどは店主が言った通りの内容が表示され、他には素材が鉄ということがわかった。
「お嬢さん、すみません!」
ドキィッ!としてソードを後ろに隠し声の方に向き直る。
「新品は倉庫になかったみたいで、こちらの壁にかけてあるものがそうです!」
「あ、はい」
店主が壁の方を指しながらそう言ったので、そちらを見る。
壁には手に持ったままのロングソードと見た目こそ変わらないものが飾られている。
「そちらのロングソードは見た目こそ似てますが、鉄ではなくアルミナ素材となっております!」
「へー、これ握って見たいんですけど」
「かまいませんよ!」
店主に許可を取り、アルミナのロングソードを手に取る。
アルミナ素材のためか、先ほどよりさらに軽い。筋力のせいでゲーム機どころか菜箸でも持っているみたいな軽さだ。
――シッ!
軽く素振りをして具合を確かめてみるが、どうやらこの軽すぎてしまう感覚にしっくりとこない。
「私には軽く感じますね。比較的重めな剣ってほかにありますでしょうか」
「あぁ、ありますが……ちょっとまたお待ちを……」
今度は歯切れ悪く店主が引っ込む。
その間にスキルを使っておく。
ロングソード
全長:85センチメートル
重さ:1キログラム
素材:アルミナ、マナオイルコーティング
能力付与:-
スキルによるロングソードの内容、素材のところにあるマナオイルコーティングと、先ほどまでは確認できなかった能力付与の欄に目がいく。
言葉の意味はわかるが、何が別にアイテムが必要なのだろうか。この辺りは店主に聞いてみるのが一番早そう。
「おまたせしました――」
「――店主さん、聞きたいことがあるんですけどよろしいですか」
店主が戻ってきたと同時に先程の質問をする。
「武器に能力付与できるって聞いたことあるんですけれど、あるんですの?」
「ありますよ!」
「ちなみにそれってどのようなものなのですか?」
「特定の素材で作った物。これは武器でなくてもいいんすが、そこにマナコーティングを施したものに能力付与をすることで、エンチャント武器になるのです!」
おぉ、と言った感じてわざとらしく驚いてみる。
「お嬢さんが今握っている、アルミナのロングソード!それもエンチャントできる剣となっております!」
能力付与……エンチャントという武器の新たな可能性を知り、わくわくしてくる。
ファンタジーでは当たり前の剣にエンチャントができるとなれば、私の中にあった少年心がくすぐられる。
値段はいかほどのものか気になるが、やはりここはエンチャントができる剣にしておきたくなる。
エンチャント自体がどうすればいいのかわからないが、使えるのであればこれを手に入れておきたいところ。
しかし、このロングソードではまだ軽く感じてしまう。
ウルフを切ったときの感じだと筋力だけの攻撃でなんとかなるのでしょうが、もう少し重めが希望。
「店主、先程のブロードソードでこのロングソードより重く、エンチャントできる剣はありますの?」
少々面倒な注文をつける客だと思われてしまうだろうが、できれば後悔はしたくない。
「それでしたら、そちらに掛かっているものがそうです!」
アルミナのロングソードが掛かっていたとこより斜め上を指す店主。
店主が手にかけるより先に自ら手に取る。
もう片方の手で持っていたロングソードを店主に手渡す。
「あ、このロングソードはたぶん買わないので避けといてもらっていいですか」
了解した店主が剣を壁掛けに戻している隙に手に取ったブロードソードに食診を使う。
ロングソード
全長:75センチメートル
重さ:2.5キログラム
素材:モリブデン、マナオイルコーティング
能力付与:-
――シュッ!
一振り。
さっきよりはかなりいい。
ロングソードより短くなり扱いやすく感じる。重さは増してしまいましたが、今の筋力に見合った重さになりしっくりきます。エンチャントもできる剣、理想的な剣をみつけました。もっと重くても全然扱えそうですが。
「素材はモリブデン、鉄より重いため鉄のロングソードより重くなってます!素材であるモリブデンもエンチャント可能のため、お嬢さんの見合った剣ではないかと。先ほどのもののなかでは値段が一番高いですがね!いやー、これは加工が大変でして、まず融点が鉄よりずっと高くって設備が良いものでないと溶かすのすらままならないときておりますれば」
なんだか話が長くなりそうな気配がする。
店主の話を「文句ないですよ。これを頂きたいです」でぶったぎる。
「ありがとうございます!他にも何か見ていかれますか!ブロードソードでしたらやはりもう片方の腕に盾を装備するのが一般的ですよ!」
ふむ。店主の納得いく説明、一般的に盾なのかーと思うが、なんか個人的にどっちでもよく思ってしまっていた。
ブロードソードを店主に預け、店内をウロウロする。
両手剣に斧、鉄槌。弓に鞭? さまざまな武器が置いてある。
片手剣であるブロードソードと一緒に持つなら鞭か、装備を変えて遠距離からの弓という選択肢もあるが何か違う気がしてしまう。
できることならこの筋力を活かしていきたいところ。
これは……。
一つの武器の前で立ち止まる。たぶん鉄拳?である。
鉄拳と思ってみたが素材は皮なのか、そんな雰囲気をしている。
手に取ってみるとどうやら鉄製のものに皮が被っているものだ。
「鉄拳ですか!格闘戦と言ったらまさしくこれですね!小剣という選択肢もありますが!」
武器を眺めているうちにいつのまにか店主が後ろに立っていた。
「はめてみてはいかがですか!一般的には鉄拳は素早さが求められると考えられがちですが、一番は武器との相性かと思っております!鉄拳と拳の間に隙間があったりすると威力に大きく影響しますしね!」
店主に言われて、片手だけはめてみる。
「ああ、やっぱ男物が基本だからお嬢さんには大きかったでしょうか……ちょっとお待ちくださいな!」
鉄拳が並んでる棚から別の鉄拳を取り出しす店主。
「こちらをどうぞ!先ほどのものより小さいサイズです!」
渡された鉄拳をはめる。
「すごいですね。ピッタリです」
「でしょ!これでもそこそこ武器屋の店主をしてるんでね!」
流石店主といったところか、一回の試着で正しいサイズのものを当てるとは。
他にもこれという候補もないのでこの鉄拳を買うことに決める。
基本は物理で接近戦、物理がダメなら斬撃またはエンチャント剣での能力付与で戦えばいいであろ。そんな感じで考えていた。
「店主、この鉄拳もお願いします」
「毎度あり!あ、でもそちらエンチャントはできませんが大丈夫ですか?必要ならばそちらをお出ししますが」
「あー、鉄拳の方は大丈夫です」
「ありがとうございます!合わせて銀貨3枚と銅貨4枚になります!」
あいにく銀貨しか持っていなかったので銀貨4枚を差し出す。銀貨4枚ということは、宿4日分。
お釣りとして銅貨6枚を受け取る。
どうやら銅貨10枚=銀貨1枚みたい。
「そういえば店主、ここには様々な武器が置いてありますが、魔法で使うための杖なんかは置いてないんですか?」
リンあたりは魔法で戦うことを考慮し、魔法系武器が置いてあるか聞いてみた。
「ロッドのことでしたらうちにはおいてませんね。ワンド、メイスなんかは打撃武器になるので置いてありますが、ロッドや魔法書なんかは魔法道具店に置いてありますよ!」
ふむ、魔法系統の武器は別のお店に置いているのか、新たな情報を手に入れる。
リンの武器はそっちで買ったほうがいいのか……セルリオはどの武器を好むのかわからない。
少し考えたが、本人達に任せればいいかと思い考えるのをやめた。
「わかりました。ありがとうございました」
鉄拳とセットのベルトを腰に巻き、鉄拳をそこに引っ掛け、剣はショルダーバックのように背負う。最後にお釣りを受け取る。
全てを完了したことを確認し、店主に小さいお辞儀をして店を出た。
――チリンチリン
客が去った店内で店主ドノノ・ドレファンは感嘆のため息をついていた。
「まさかあの剣が売れるなんてな~。あれ、重くて不評だったのに短剣でも扱うみたいに軽々と振っちゃって、ほんとに女の子なのかな」
彼は壁の剣を一振り取り上げる。ユラゲに二番目に見せたアルミナ製の剣だった。
「ふん!」
彼はそれを振り回してみるも、ブォンと風を切る音がするだけだ。
「あの子が振ったときはもっとシュッ!って音だったのにな。この重さだと両手じゃないとまともに振れないよ。やっぱりあの子、普通じゃないのでは・・・?」
狭い路地を出て、メインストリートに出る。
――ダダダダッ!
あたりが騒がしい。
周囲を確認すると武器を携えた人、冒険者であろう人たちが駆けて行く。
「ちょっとそこの方」
同じように駆けて行く冒険者を1人呼び止める。
「慌ただしいようですが、なにがあったのですか」
「あぁ、街の東側で怪鳥が出現したらしい……ギルドからの緊急依頼が出て今から行くところだ」
「あ、ならば私――」
「お嬢さんははやく安全な場所に隠れたほうがいい、被害がどこまでくるからわからないからなー」
――ダダダダッ
私の言葉を待つより先に、冒険者の方は走って行ってしまう。
安全な場所に隠れたほうがいいって私の武器が見えなかったのかしら、私も冒険者なのに失礼しちゃう。
走って追いつけはするでしょうが、街の東側はセルリオが出かけて行った方向。
リンと合流して様子を見に行ったほうがいいのかしら。
小走りでギルド前に着くと。
「あ、ユラゲ」
軽く手を振って小走りしてくるセルリオ。
「セルリオ!無事だっだの!?」
「あー、怪鳥騒ぎのこと?いやーなんかこっちに帰ってくる途中であちらこちらで怪鳥が出たって騒ぎが聞こえたもんで、もう倒されてますがって感じなんだけどな」
頭を軽く掻く。
「大丈夫だったの?怪我とかは?」
「大丈夫大丈夫、ショゴスの仲間が助けてくれたから」
怪我がなく安堵する。
「それよりギルドの中入ろ、リンが待ってるかもしれない」
ギルドの扉に手をかけるセルリオの後について中に入って行った。
各々の用事を済ませて、再びギルドに集まった私たち。
ここから更にどんな冒険が待ち受けているのでしょうか。
……あ、エンチャントってどうやってするのか聞くの忘れてた。
でもそれはまた別のお話で誰かに聞いたりすればいいかな。