折れて砕けた名剣よ
リンが魔法練習する
リンはセルリオとユラゲと別れ、勇者を見送った後、ギルドの”鍛錬場”に来ていた。
魔法の練習をしたいとギルドの職員に相談した所、お金を払う事で的としての案山子をもらえる個室と、広い運動場のような場所で他の冒険者達もいる大部屋が有ると教えられた。
個室の方はお金が残りのお小遣いがまだ余裕もあったので個室の方を選択した。
「それに、気を抜くと浮いちゃうもん。あんまり人間じゃないのがバレると不味いよねー」
玉のような汗を流しながら、荒い息を吐いていれば、必死に特訓をしている雰囲気を出せるだろうが、生憎この身体は体温調節をする必要が無いからか汗をかかず、息も荒れない。
アイドルはトイレに行かないと言うが、汗は果たしてどちらなのだろう?
グルグルと雑念に支配された所で、込めた魔力が飛散して、ポロリと小さな氷が落ちた。
勇者が作った氷は、不純物の少ない透明な氷だった事に対して、うちの氷は白い。
まだまだ精進が足りない様子だけど、努力は最も嫌いな単語故に、面倒になって来た。
「氷矢」
再び魔法を構成し、伸ばした腕の先に氷が作成されていく。
作成した拳程の結晶を、前方に進出させて案山子に当てるが、突き刺さる事もなく砕け散った。
(むーん、どうやら硬度が足りない様子)
勇者にちょこっと教わった程度で攻撃魔法をつかえる程、うちはチートでは無い凡人なのです。
ただ現代人故に、科学的にも現象を想像する事が可能なのは大きなアドバンテージなのですよ。
でも面倒、ひっじょうに面倒。
めんどくさいめんどくさいめんどくさい。
努力、友情、勝利とかクソ喰らえ。
楽して力をノーリスクで手に入れる、天才的な能力と、戦闘センスに驚異の身体能力。
そんな感じで良いのに、実際は影が薄くなる能力に、貧相な体型と身体能力、魔法の才能も微妙。
クソ喰らえ。
地べたに座ってため息を吐くが、咎めるものは誰もいない。
個室の方で良かった。
ぼんやりと案山子を眺めいたうちは、カッと目を見開き手を伸ばして叫ぶ。
「雷矢ッ!」
パチパチと手元で2、3度発光して終了。
駄菓子かな。
勇者の話によれば、慣れないうちはゆっくりと発動まで魔法を構築すれば良いらしいが、いかんせん飽き性である。
この身体となり、飽き性に磨きが掛かったうち的には、魔法構築中に飽きるのだ。
100メートル走で、途中で飽きるでしょう?
そんな感じよ。
え?普通飽きない?
もう、明日から頑張ろうかな。
そんなうちに天啓が舞い降りた。
必殺技だ、必殺技を覚えるのだと。
つまり、必殺技なら魔法構築に時間が掛かってもチャージしてるっぽいし。
そうと決まれば名前から決めるべき。
氷属性を使うから爬虫類とかに効きそうだし……ドラゴンも爬虫類っぽいし。
ドラゴン…竜……竜を殺す剣。
竜殺剣にしよう。
うちはフワリと浮いて起き上がり、再び魔法を発動させる。
ゆっくりと拳大の尖った結晶を生み出し、雷の魔法も詰め込んでいく。
振動と共に氷の色は透明から、緑が掛かった色へと変わる。
「その命、貰い受ける竜殺剣ッ!」
甲高い音て手元で弾けた氷と雷が幻想的に光った。
ダメでございます。
その後も何度か試す事で、漸く出射にこぎ着けた所で、ノックの音と共にギルド職員の方がレンタル時間の終了を知らせに来た。
その時何気なく聞いたら、氷魔法は水、雷魔法は風の上位魔法であり、其々滅多に見られないと聞いた。
うちは、どうやら色々飛び越え過ぎていたみたいだし、発動も出来なかったし。
足取り重く、ギルドの酒場へと戻った。
希少(強いとは言っていない)
由来となったネァイリングは、竜を切ることなく折れました。