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異世界旅事情  作者: 幸茶兎
6/10

蜂蜜酒は魔法のお酒

リンちゃんの種族が正式に判明します。

皆さま、ご機嫌いかがでしょうか?

リンでございます。


フジェーダの街にたどり着くまでに、王族や貴族の馬車と遭遇したり。

盗賊に襲われたり、大変でした。

なんて事ももなく、うち達は日が昇り切る前に街へとたどり着くことが出来た。

入り口には長蛇が出来ており、何やら騒がしい雰囲気だった。


「何やら、混み合っておりますね。うちは並ぶの苦では無いタイプだけれども、お2人はどう?」

「うーん、私も普通に待てるかな」

「自分も……いや、2人と一緒なら、どれだけ待つ事も苦で無いぜ」

「と、セルリオはキメ顔でそう言った」


なんて3人で姦しく騒いでいると、漸く門の前までやって来た。


「こんにちは、お嬢さん方」

「こんにちは」

「旅人さんかい?」

「ええ、私達は冒険者になろうと思いまして……」

「お嬢さん方は綺麗だから、冒険者なんて荒っぽい仕事しなくても、幾らでも働き場所はありそうなんだけど」


おじさんの門番は、そう言って首を傾げている。

下卑た薄ら笑いではなく、本当に心配してくれている様子なので、セクハラでは無いのだろう。

荒っぽい冒険者は、やっぱり命の危険があるのかな?

おお、怖い怖い。

ユラゲと門番の会話を聞きながら、うちは宙に浮かない様に気合を入れる。

むぁーんっ!


「どうしたリン?うんこか?」

「おいおいセルリオ、淑女はうんこなんて言うもんじゃないぜ?もっと、丁寧に……御うんちですわっ!」

「まぁ、こう言う子達なので、冒険者は向いていると思いますから、ご心配には及ばないですよ」

「成る程?」


門番さんから、何か生暖かく見られながらも、うちたちは無事に入れる事になった。

あぁ、そういえばと、門番さんは続ける。


「お嬢さん方は、勇者に会いに来たのかい?」

「「「勇者?」」」


うち達3人は聞き慣れない単語に首を傾げた。

勇者ってアレかな?

変態的な行動をする人の事かしら?


「ありゃ?知らないのかい?まぁ、冒険者に聞けば詳しく教えてもらえると思うよ」


ふーん、変態紳士的な勇者とは、確かにその様な存在は知名度が高かろう。

取り敢えず、無事に街に入れたうち達は冒険者ギルドを目指す。


「えっと、場所を聞いとかないとじゃない?」

「そうだな」

「ふふ、うちの社交的なコミュ力を敬えっ!」


うちは取り敢えず、歩いていたお婆ちゃんを呼び止める。

ちょっと、声を高くするのがポイントだ。


「ねぇねぇ、ちょっと良いですか?」

「なんだい?」

「冒険者ギルドって、何処にあるんですか?」

「おやおや?お使いかい?アンタみたいな子供が行ったら、絡まれちまうよ?」

「むぁん、違うんだぜ。うちは立派な冒険者になって、ぶいぶい言わせるんだっ!」

「冒険者?あんたみたいな子供には危ないったらないよ?」


shit!

お節介なお婆ちゃんに声を掛けちまったらしいぜ!

お小言と、世間話、泊まるところや売り子の仕事をオススメされたが、うちはハードボイルドな冒険者になりたいってお婆ちゃんを説得する。

あれ?

なんで知らないお婆ちゃんを説得してるの?

適当に人選したうちは、自分のミスを呪いながらお婆ちゃんから赤い果実を貰う。

リンゴっぽい。


「報告ですぜ、冒険者ギルドの位置は不明ですが、リンゴっぽいものを頂きました」

「見てた、冒険者を目指す孫とそれを止める祖母の別れを唐突に見せられて、困惑しかない」

「場所は、私が聞いておいたよ」

「有能な親友を持って、うちは幸せです」


取り敢えず、貰った果実を服で拭いて齧り付く。

シャクシャクして、水分が豊富で、リンゴと梨を合体させた感じの食感と味。

水分補給や、オヤツとして食べられてるのかも。

売られているリンゴっぽい果物を眺めつつ、うちら3人は歩くけど、結構注目を集めている気がする。


「うーん、うちらが可愛い過ぎて注目を集めてしまう」

「ああ、否定できないな」

「そう?確かに見られてる気はするけど、異世界では割と美男美女は多いイメージなんだけど……」


チラリと周囲を眺めてみたけど、西洋人が東洋人を区別しづらい様に、東洋人も西洋人の顔は区別しづらいのでよく判らなかった。

まぁ、うちは日本にいた頃から、アイドルの見分けが出来ないレベルなので、関係ないけどー。

うちは屋台の肉が焼ける匂いに鼻をヒクつかせながら、獣人さんから貰ったキノコで買えるのか考える。


「そういえば、セルリオ……」


うちは、頑張って顔の輪郭の彫りを深め、意味も無く襟を掴み、ちょっと顎をあげる。


「どうした?」

「今ひとつ分かった、ショゴスは屋台の煙を少しでも吸うと、鼻の頭に血管が浮き出る」


あっと、鼻を押さえるセルリオと、不思議そうに首を傾げるユラゲ。


「う、嘘だろリン太郎!?」

「フゥーハハッ!嘘だっ!だぁがっ!間抜けは見つかったなっ!」


さて、テンションを急に上げた分、急に下がるので、リンゴの芯を見えない様に身体に取り込む。

実は、よく分からないけど、有機物は別に口から以外でも取り込む事が出来るとお爺ちゃんの所で分かったんだよね。

どうも、種族的に魔力にして取り込む事が出来るらしいけど、自分の常識で食べ物だと思う物しか無理みたいだけどね。


「で、移動するのに飽きて来たんだけど、もうすぐ着くの?」

「うん、もうすぐかな?」


そうこうしていると冒険者ギルドのものと思われる看板の掲げられた建物までやってきた。

「おぉ、如何にもな剣と盾と、杖のエムブレム」

盾を中央に剣と杖が交差したマーク。ユラゲが聞き込みで手に入れた情報に合致していた。


「うちらは美少女なので、絡まれない様に気をつけようぜベイビー。火傷しちまうぜ」


ウェスタンな感じの、よくあるガンマン映画にありそうな酒場の扉を特に意味も無く豪快に開ける。

無駄に豪快に開けたせいで、中の屈強なおじさん達の視線を集めたけどそれはそれ、うちは受付嬢の所は無視して、コップを磨いてるカウンターに一直線。


「おじさん、蜂蜜酒(ミード)下さいなっ!」

「違うっ!」


ぱしんとユラゲに頭を叩かれ、ブー垂れるうち。


「えぇー、ずっとお酒飲んでないしぃー、命の水を補給したいんだけど」

「はぁー……、命の水は兎も角、先に登録しましょ。そうしたらキノコ売り払って、確実自由行動で良いから」

「はい、お姉ちゃんっ!」

「妹きゃらを演じるのなら、行動から見直してね」

「厳しい」


マスターに頭を下げたユラゲに、襟を掴まれ引きずられるうち。

ユラゲパワー凄くない?

ゴリラ族なのかも、でもそんな事言ったら怒りそうだ。


「ねぇ、ユラゲってさ」

「ん?」

「ゴリラの獣人なの?」

「違うよ」

「そっかー……」


怒らなかった、心が広いぜ。

セルリオは既に受付嬢に声を掛けており、登録の有無を確認しているみたい。

そしてやって来た受付嬢前、冒険者の説明が始まったけど、ちょっと違う事を考えてたら話に置いていかれてちんぷんかんぷんになってしまいやしたぜ姉御達。


「では、今回は代筆致しますね。名前と性別を教えてください」

セルリオが文字が書けないことは異国からの旅人だからと言い訳していたけれど、ワタワタしていて面白かった。

「年齢とか特技とか種族は良いの?」

「はい、特技は出来れば申告してもらった方が、見合った仕事の斡旋をしやすいかと思いますが、あくまでも自己申告。正式な評価は、ギルドの依頼結果から此方で判断致しますので、簡単なもので結構です。また、年齢や種族はデリケートなモノとなるので、ギルドの者と会話が成立するのであれば、来る者拒まずが方針ですね」

「じゃ、自分からで。名前はセルリオ、性別は……女?特技は今の所、特に無いかな」

「私はユラゲ、女。特技は力がそこそこ……だと思います」

「うちはリン、雌。特技は美少女」


そうない胸を張ってみると、受付嬢は華麗に流して、カウンターに3枚の鉄の首飾りを置いた。

首飾りには、塗料で名前が書かれており、ちょっとこれ剥げそうで心配。


「これで冒険者の登録は完了です。今渡したタグは、常に身につけて下さい。身分証となりますので」

「これって、剥げたりしないの?」

「ええ、魔法塗料なので、余程の事が無ければ……ドラゴンの炎に炙られるとかしなければ大丈夫です」


はいっ!

あと、話殆ど聞き流してごめんなさいね。

うちは心中で謝りつつ、カウンターへふらふらと引き寄せられる。


「あー、もう良いよ。キノコは私達で売っておくから、ご飯にする?」

「はいっ!」


やったー!、とカウンターを目指すうちですが、先程から目立つ行動を取っていた為か、屈強ななおじさん達が前に立ちはだかる。


「嬢ちゃん、俺達と飲もうぜ」


おいおい、うちは安い女じゃねぇぞ?

そんな簡単に誘いに乗る訳ないでしょ。


「くっくっくっ、蜂蜜酒(ミード)奢るぜ?」

「ハイヨロコンデーっ!」


ワイワイと騒ぐおじさんのテーブルに着き、蜂蜜酒を奢って貰った。


「おいしーっ!」

ダン!とおじさんの顔ぐらいあるジョッキをテーブルに置く。

「凄い飲みっぷりだな、ちっこいのに……ドワーフの血でも入ってるのか?」

「わかんないー」

「そうか、そうか。と言うかほっそいな、冒険者やるならもっと肉付けないとダメだぞ!ほら肉喰え肉」

「わーい、おいしいねー」

「美味いか?もっとあるぞ」

「すっごーい」


あれぇ?

なんだか、親戚の集まりに行った時みたいになってるぞい?

うーん、うちは蜂蜜酒が好きなフレンズなんだねっ!

蜂蜜酒は美味しいし、ご飯も奢って貰ってるし、幸せですな。

暫くおじさん達と飲み会していると、キノコの査定が終わったのか2人が戻ってきた。

ただ、おじさん達と飲み会しているのは思わなかったのか、うちの事を見回して……おお、見つかった。

ヒラヒラと手を振ると、顔を引攣らせつつやってくる。


「「あの、うちの娘が申し訳ありません」」


失敬な、うちは迷惑なんてかけてないのですが。


「おう、ちっこいのの連れか。あんまり目を話すなよ、冒険者は物騒だからな」

「ごもっともです」

「ほんと、すいません」

「おいおい、うちはこれでも大人ですよ。蜂蜜酒飲めるからねっ!」

「よしよし、大人だ大人。じゃぁ、俺達はこれから一仕事行くから、良い子にしてるんだぞ」

「ガッハッハっ!またなちっこいのっ!」


おじさん達は代わる代わるうちの頭をポンポンして出て行ったのです。

うーん、親戚のおじさんだ。

テーブルに残った料理はうちのお皿によそわれているだけとなっており、エプロンをつけたお姉さんがちゃっちゃと片付けて、軽く拭く。

そうして2人は、なんとも言えぬ表情で着席した。


「なんかさ、社交力上がってない?」

「というか、可笑しいぞ。溶け込むと言うか、ぬらりひょんみたいに知らぬ間に馴染んでる」

「あー、やっぱり?容姿の所為かな?」


メニューを読むのが怪しかったうちらは、確実適当に肉や魚を頼んで食べる。

そういえば、セルリオって調理済みの肉を食べても強くなるのかね?


「容姿も有るけど、種族やスキルも有るんじゃない?」

「確かにな、多分警戒心が薄くなるとか有るかもしれない。ちょっと弱々しい仔猫とか、そんな感じに印象を与えるというか、操作しているんじゃないか?」

「え?パッシブ魅了なの?洗脳なの?うちの種族って、結構危険物?」

「種族じゃなくて、スキル由来じゃないかな?私のスキルがもう少し、上手く使えるようになったらハッキリすると思うけど」

「ふーん」


うちの特性について考えつつ、お姉さんが料理を運んで来てくれる。

デカイ、量が多い。

うちは肉を頼んだんだけど、おっきいハンバーグの肉塊ですな。

冒険者ギルドだし、客は皆んな大食いなのでしょう。

まぁ、うちらもこの世界に来て結構食べれる様になったし。


「あ、おいしーっ!肉肉しいっ!」

「肉だからね」

「ふふっ、貴女ベオルさんに気に入られて良かったわね」


あら?お姉さんが話しかけて来たけど、ベオルって誰?

微笑んだお姉さんは、うちらのテーブルの椅子を引いて座った。

お仕事良いのかな。

恐る恐る、ユラゲが手を挙げる。


「すみません、ベオルさんってどなたなのでしょうか?」

「ああ、貴女達は今日来たみたいだし、知らないのは当然ね。ベオルさんは、貴女……ええっと」

「拙僧、リンでござる」

「ござる……?うん、リンちゃんがさっき食事を貰っていたパーティのリーダーよ。この街唯一の銀級冒険者なの」

「「ぎ、銀級っ!?」」


あ、セルリオとユラゲが驚いてる。

多分、高いんだろう。

階級の話とか聞いてなかったけど、取り敢えず驚く真似しておかないと。


「貴女達みたいな、年頃の美人な冒険者って、割と厄介事に巻き込まれやすいのよね。だから、ベオルさんは心配してリンちゃんに声を掛けてあげたみたいだけど、彼は強面だから女の子は大抵泣いちゃうのよ」

「え?渋くて格好良くない?」

「リンは結構おじさん好きだっけ?」

「むぁー……精神的に末っ子なので、頼りになる歳上が好きなタイプになるのかな?でも、歳を取ったらああいうおじさんになりたいよねっ!」


お姉さんはちょっとら固まって、うちの事をジロジロ見てきた。


「お、女の子よね?」

「あ、そうだった」


ちょっと、残念だけど取り敢えず、ソフトボール2個分くらいのハンバーグとの奮闘を再開せねばならぬ。


「まぁつまり、強面で怖がられるおじさん達は、初めて餌付け出来た貴女を気に入ったって事だから。この街限定だけど、早々トラブルに巻き込まれる事は無いと思うから、安心して怪我しない様に冒険者しなさい」

「ええ、教えて頂いてありがとうございます」


まぁ、お礼を言うのはユラゲなんですけど。

お仕事に戻ったお姉さんを尻目に、手は止めず黙々と……あ、蜂蜜酒も飲まないと。


「うーん、多いと思ったけれど、割と食べれちゃうね」

「自分は全然お腹いっぱいにならない……空いても無いけど」

「うちは、食べるのに飽きてきたので、これでお終いでごぜーます」


さて、お食事が終わったし。


「蜂蜜酒を飲もう」

「「働け」」

「えー、うちめっちゃ仕事したよ?冒険者内の有権力者の後ろ盾を得ましたよ、ふっふーん!崇めて良いよ?」

「まぁ、正論ね。何でちょっと目を離した隙に、イベント消化してるのか分からないけれど」

「だな……っと、悪い。自分はちょっと野暮用が出来たから、合流は冒険者ギルドで」

「おーきどーき?」

「うーん、微妙に間違ってない?」


セルリオは席を立って、冒険者ギルドから出て行った。


「じゃぁ、私は武器屋の下見してくるよ。所持金で何を買えるのか、確認しておかないとだし」

「因みにお金はお幾ら?」

「宿屋で話すね、取り敢えず此処はこれで足りるでしょ」


うちに銀貨を5枚渡すと、ユラゲも出て行った。

良いもん良いもーん!

お一人暮らしのうちは、1人酒は慣れてるもーんだっ!

カウンターに移動して、ちびちびと飲みだして暫く。

隣に1人の青年が立った。


「隣、良いかい?」

「ダメです」


はぁ、ちょっと顔が良いからって、誰でも(なび)くと思ったら大間違いだぜ。

うちは、か弱い乙女とは違うんだ。


「うーん、一杯奢るよ?」

「はぁ、うちはそんな安い女じゃないんですよ。そういうお店に行けば、チヤホヤされるんじゃねーですかね?」

「ふふっ、蜂蜜酒ばっかり飲んでるから、こう言うのはどうかと思ってさ」


マスターに出された蜂蜜酒に、カランと音を立てて氷が落ちた。

ろ、ロックだこれっ!


「はーっ!?て、天才か?特別に許可しよう!一家に一台欲しいっ!」

「うん、有難う。冷蔵庫扱いで、釈然としないけどね」


隣に座った青年は、黒目黒髪で……アレ?この人日本人?

なんだか、嫌な予感がするのです。


「僕の名前は、ユウキ。よろしくね」

「あ、はい」


はい、会話終了。

隣に座る事は許可したが、話す事は許可しない。

あ、なんな良さげな台詞だし言おう。


「君ってさ、不死者(アンデット)?」

「は?」


なんかヤバそうなので、カウンターの席を横に一個ズレる。

あ、でもよく考えたらうちは人族から外れてる気もしないでも無いけど、セルリオよりは人間辞めてないから人族っしょっ!

うん?

ギザ歯って、人族?


「ああ、別に害そうって気は無いよ。今はね」


青年がパチリと指を鳴らすと、周囲の音が静まり返った。


「認識障害と、音漏れ防止の結界だよ。これで、周囲の人に聞かれたく無い話も出来る。まぁ、助けを呼ぶ事も出来なくなるんだけどね」


微笑む青年を、うちは睨む。


「指、鳴らす必要有ったのですか?」

「……」


ちょっと顔を背ける青年、どうやら格好付けたかっただけの様子だ。


「大丈夫、格好付けるのは大事だとうちも思いますよ」

「……うん、先ず聞きたい事を答えて欲しいな。君が何処から来たのとか、君の事情はとか、そう言った情に係る事は、君が討伐対象となるのかの確認をしてからだよ」


ヒヤリとした感触に目線を下げると、いつ抜いたのか首元に剣が突きつけられている。

命の危機に、現実感が追い付かず、取り敢えず手元のコップを口に運ぶ。

はー、美味しい。


「ふぅん、余裕なのかな?」

「酒場で酒を飲むのは当然だよ」

「単刀直入に聞くけど、君は姿奪い(スナッチャー)なのかな?」

「……レトロゲームの?」

「……」

「むぁっ!違います違いますっ!姿奪い(スナッチャー)じゃないでやんすっ!」


真面目に答えたのに、怒られてしまった。

理不尽。

だが、青年は直ぐに剣を仕舞ったので、うちは肩の力を抜いてカウンターにもたれる。

うち、生還っ!


「どうやら、本当みたいだね。でも、地球から来たにしては珍しい容姿だと思うけど、転生者?」


「地球?」


「ふふ、いまさら誤魔化しても遅いよ。冷蔵庫に反応しなかっただろう?冷蔵庫って言葉は、この世界では無いんだよ。魔道具で似た様な物もまだ作られていないからね、氷を地下に保存する冷凍室くらいかな、今の技術じゃ」


「迂闊。でも、うちが地球から来たとして、貴方に何の関係が?」


青年は人差し指から炎を出して笑う。


「君、この世界に来たばかりだから、魔法使えないんじゃないかと思ってね」

「うぐぅ、魔法の使い方とか知りたいっ!でも、タダじゃないんでしょう?うちの身体が目当てとか?」

「同郷のよしみで、幾つか質問に答えてくれれば、君の種族について分かる事、簡単な魔法の使い方を教えてあげるよ?」

「そっちにメリットが見られないんだけど?」

「うーん、僅かでも姿奪い(スナッチャー)の情報があれば儲けもの、後は君の種族を知る事は、此方にもメリットが、あるんだよ」


情報が握られるのは結構痛いかも知れないけれど、うちは自分の種族もよく分からない。

種族の立ち位置を知らなければ、これから危険に陥る可能性がある。

でも、もしも姿奪い(スナッチャー)とやらがうちの事を指すならば、死ぬけど。

あー、1人行動はやっぱりよかないかもーっ!


「実はさ、僕は聖女の予言が有ってここに来ていてね。彼女が言うには、高位不死者(ハイアンデット)姿奪い(スナッチャー)がこの周辺に同時に出現したらしいんだ。そうして、見かけない種族に、世間知らずの発言、この世界に来たばかりであろう君を見つけたって訳さ」


予言とか、便利過ぎでは?

それにしても、高位不死者(ハイアンデット)

姿奪い(スナッチャー)はよく分からないけど、名前的に変身能力を有している筈だから、もしかして。


「え?高位不死者ってうちの事?」

「だと思うんだけれどさ、何か身体的な特徴は有るかい?不死者(アンデット)は、腐っているとか特徴がある筈なんだけど……」


チラリとうちを見る青年は、うちが無自覚に姿奪い(スナッチャー)だったら斬り殺すと考えていそう。

おっそろしいけれども、この世界は弱肉強食で有ることは、この街にたどり着くまでに解っている。

ならば、少しでも知れることは知るべきなのだろう。


「歯がギザギザ」

「うんうん、他には?」

「うーん……」


考え事をしている所為で、フワリと半透明になった身体が浮かぶ。

ありゃりゃ、気が抜けてしまったか。

お酒飲んで、ふわふわしてるから、ちかたないのだけれども。


「他には、特に特徴的なことは無いよぉ?」

「それだよっ!?」


oh、青年よ、ちょっと余裕たっぷりキャラから、素が漏れてますよ。


「こほん、君のその姿。霊体系って所だね、実体化できるのは高位不死者(ハイアンデット)だから……?いや、でも邪な気配は感じないし、かと言って精霊の様な気配も無い、もしかして……」

「なになに?」

「あ、っとごめんね。君は姿奪い(スナッチャー)じゃないのは分かったけれど、君の種族について考えていてさ。そうだね、不死者(アンデット)と精霊は実は近しい存在なんだよ」

「ふーん?」

「うんうん、とりあえずは生物が死ぬと、魂のエネルギーが解放される。そのエネルギー媒体となる魂のカルマ値が、善寄りで精霊に、悪寄りで不死者(アンデット)が産まれるんだよ。エネルギーとなった、魂の量が多い程位が高くなり、君の様な高位不死者(ハイアンデット)へと至るんだけれど……」


青年はそれで言葉を切り、ジロジロとうちを視姦しだす。

ヒィってなるね。


「あの、視姦はちょっと……」

「い、いやごめんっ!そんなつもりじゃないよっ!」

「報酬を釣り上げて貰えないと……」

「あ、うん。魔法をしっかりと指導させていただきます」

「で、うちが何か?」

「うーん、魂の総量によって高位へと至るから、精霊も不死者(アンデット)もカルマ値が高いほど高位って事になる筈なんだ。そして、カルマ値が高くなると、周囲へカルマ値に応じた気配を何となく振りまくんだよね。善なら綺麗な、悪なら禍々しいオーラというか……そして君は、全くオーラが無い。一応僕も勇者だから、そういうのは敏感なんだけどさ」


あれ?これって、貶されてます?

貶されてるね。


「机上の空論というか、推測で今まで観測されていない種族にね、カルマ値が0で高位な不死者(アンデット)というか、精霊というか、その中間に産まれた存在がいるんじゃ無いかと語られてきた種族がいるんだよ……」


え、レア?うちってレア種族?

ふふ、これは、うちの時代が来てしまった?


「あ、ちょっと得意げになってる所申し訳無いんだけど。ぶっちゃけ、カルマ値が0って事は、種族的にかなり弱いからね。赤ちゃんみたいなものだからね?」

「え?」

「いや本当に、魂となったエネルギーの総量が高い程、必ずカルマ値もどちらかに傾く筈なのに、未観測のUMA的な存在なんだよ君は」

「え?」

「あのね、君の種族は恐らく“無垢なる霊体”。不死者(アンデット)にも、精霊にも分類されず、カルマ値が偏る程協力となる霊体系の種族の君は、多分最弱なんだと思うよ。あ、ああっ!で、でもアレだよ!?観測されて無いだけだから、“無垢なる霊体”は強い種族かも知れないからねっ!落ち込まないでくれよっ!!」


嘘、うちの種族弱すぎ?

え?マジでぇ?

クソ雑魚なん?

うちって、クソ雑魚なのん?


落ち込んでいるうちに、青年くんは霊体系種族について教えてくれた。

まず、食べ物を魔力にして取り込む事が出来るので、排泄はせず大食いである事。

アイドルですな、うちって。


そして、霊体系の種族は、アストラル体となって物理的な接触は不可能となる事。

代わりに、アストラル体時は、肉体という鎧を失っている為、魔法による攻撃には弱くなる事。

なるほどなぁ、とうちは狼男さんの声を思い出していた。

アレは確かに頭を揺さぶられる様な感じだった。


また、街中では、余計な面倒事を回避する為に、アストラル体になる事は辞めた方が良いと。

後は、幽霊だし適正有るでしょと、小さな氷の出し方と、おまけに小さな電気の出し方を教わった。

氷や、電気というか雷は、複合や上位魔法と呼ばれる云々の説明は、違う事考えてたら聞き逃してた。

主に必殺技的な事。


「今は、小さな魔法だけど、繰り返し使う事で立派な武器になるよ」

「ほうほう」

「じゃぁ、僕は行くけど……良かったら、一緒に来るかい?これでも勇者だからね、キチンとした仕事を紹介できると思うよ」

「うーん、うちは良いかな。キチンとした仕事って、好きな時に休めないでしょう?」

「そっか、王都に来て困ったことがあったら頼っておくれ」


立ち上がって立ち去ろうとした勇者に、うちは思い出した事を聞く。


「そういえば、姿奪い(スナッチャー)ってどんなのなの?」

「ああ、君の話で忘れていたよ。姿奪い(スナッチャー)は、変異型スライムと言われている。捕食した生物に変身する事が出来て、能力も真似る事が出来る。スライム本体は、深緑で光沢があり、特徴的な匂いを纏っているんだ。昨日会った人が、知らず知らずに姿奪い(スナッチャー)に成り代わっていた。そんな事態が引き起こるんだ」


勇者はうちの目を見る。

彼の瞳は、穴のように黒かった。


「ねぇ、姿奪い(スナッチャー)の事知っているかい?」


「うーん、スライムの知り合いは、居ないよ」

「そっか、またね」


勇者が去って行ったのを見送って、うちは変異型スライム、姿奪い(スナッチャー)への恐怖に震える。

この街にもしかしたら居る可能性があるのだ、早く2人と合流して伝えないと……っ!

そうして焦燥に狩られながら、優雅にうちは勇者奢らせた蜂蜜酒と、ステーキを口に運ぶのであった。

くっ!変異型スライム姿奪い(スナッチャー)っ!!

一体どこに潜んでいるんだっ!?

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