冒険にはつきもの?
3人目のユリス・ラース・ゲバルドラッシォン、略してユラゲです。満を持してですねー。
リンとセルリオはもちろん見てるだろうけどなんでこれ書くことになったのかなー正直わかりません。
2人は人間ではないのは読んでてわかるよねー、でもってユラゲは人間。察するに一番創造力豊かじゃないんだよ。こうなりたいとかいいながら考えたのにただの人とか設定雑すぎーw 執筆もしたことないんですね。
……でも、なんやかんやで一緒やるのが私がお母さんたる所以、かもしれませんね。
「お前たちは以前、異世界に生まれ変わったらどんな風になりたいか決めたことがあった。それは今でも変わってないか?」
威厳のある声が私の脳内に響いたことは覚えている。
「んー、異世界ねー。現状不満はないしー、人間としての楽しみがわかってるからなー……」
正直気分はすこぶる悪かった。お酒は苦手なのにたまにはいいかと思いながら3杯目でダウンしたんだろうね。いつもは2杯で押さえていたのに。
それでも声に対して応答できたのはなぜだろう、応答していたことも覚えている……。
酔いが覚めて起床したかと思ったら目の前に美少女がいた、何が何だか困惑しているうちに差し出された鏡には自分の姿ではなかった。鏡に映されたのは緑の髪色をした美少女だった。
そう鏡を差し出してきた美少女ことセルリオの話からするに、3人とも異世界転生してしまったらしい……。
正直実感がわかなかった。VRなんて言葉はあるがこんな没入感のある娯楽はあったとしても触れるツテも機会もない。現代科学でも私の知る限り存在しなかったんだからね。
でもこれが現実、受け入れるしかなかった。
先日親切にしてもらったお爺さんはものすごく真剣だった。セルリオとリン、姿は違うけどしぐさ言動が一致していたから。
なにより、全身に感じられる透き通るような清々しい空気が、現実を物語っているからね。
そんなことを考えながら、私たち――ユラゲたちはフジェーダ街へと歩みを進めていた。
「うちらって、フジェーダ街に向かってるわけじゃん?」
「そうだよ、目的地はフジェーダ街」
今の目的地である場所を再確認するようにセルリオが応える。
「方向こっちであってるん?ってかなんでこっちに歩いてるん?まぁ、うちはついてくことしかできんけどな!」
幸薄そうな、無い胸を張るリン。
「確かー、先頭を歩いてたの最初はセルリオでしたね。なんでこっちに?」
「なんでもなにもおじいさんが指差して教えてくれたから」
「そうだったのね!流石セルリオ!」
「とりあえずこの一本道を進めば、フジェーダ街にはたどりつけるって言われたから、困ることはないかな」
ふーん……そうだったんだ……。と思いながらまだまだ続く一本道とまだ明るい空、向かうべく方向と同じ、日差し射す方を見据えていた。
「あー、ところでなんだけどね。フジェーダ街についたらおじいさんに貰った銀貨で一晩は泊まれると思うんだけど……その後のことも考えるとちょっとマズいよね?」
つい数刻前にリンが言い出した丸腰――に踏まえて手持ちの持ち物の話を私は蒸し返した。
「さすがにマズいね……ユラゲの言う通り一泊はできてもこの後もお金は必要になるだろうし……食料も必要になる……」
「大丈夫ー!大丈夫ー!うちら転生者だし、転生者ってあんがいどうとでもなるのが転生者の宿命よ!」
真面目なセルリオが悩ましい顔を見せる。
自由気ままなリン、流石としか思うしかなかった。
「やっぱ、旅ならほら!モンスター倒して、アイテム拾ってーいけばなんとかなりそうなのよ!」
「私も最初はそう思ったけどねー、周りみてみてよ」
穏やかな風、それに乗って漂ってくるのは土や草花の匂い。とてもじゃないがモンスターが出る気配は全くない。
「おじいさんからは転生者とスキルについては教えてもらったけど、冒険者、またはそれに連なりそうな国、街のために働きをしている団体があるか聞いたら、昔はなかったらしいけど今ではそう言うのがあるかも知れないって教えてくれたよ」
「あるかも知れないって、それないかもしんないじゃん!正しいことを教えてくんなきゃ困るよじいさんや」
リンの言うことも最もだと苦笑しながらも、いちおう冒険者みたいなものがあるとわかったところで少しの希望は見えてきた。
――
「むあー、景色変わんないねーてか疲れたよー」
「疲れたもなにもーリンは浮いてるだけじゃんー」
リンにツッコミを入れながらも流石に疲れてきたことを実感する。
数刻前まで前方にあった日差しも、今は真上近くにまで移動していた。
(そいえばこの世界って地動説なのか?それとも天動説なのかなー)
私は今の状況からどうでもいいことを考えていた。
「あ!あれ見て」
セルリオがいきなり声を上げながら指を指した。その先にあったのは……。
「狼ですぜい、皆の衆」
「わかってるわよ」
「あれ……犬かと思った……」
「見た感じ大きいじゃん、あとモンスターと言ったら狼でしょ」
セルリオが指した先には犬にしては大きすぎる、たぶん狼なのだろう、この世界にも狼がいたのかと思った。
「狼ってーこの世界にもいたんだーってかはじめてみた!」
リンは相変わらず楽しそうにこの世界を楽しんでいるようだ。
「ね、さっき話してた今後についてなんだけど、あの狼倒してなにか……毛皮とか肉とか手に入れるのはどうだろう」
さっきまで超閑だった状況から、転機が回ってきた。
「どうしようかー、誰が殴りこむー?」
「うちはめんどぅだー、とりあえず言い出しっぺのユラゲにまかせるのだわさ」
(殴りたい……)
リンを殴りたくなった。
「殴りこむのはいいけど、大丈夫?狼もモンスターならそれなりに苦戦しそうだけど……」
確かにセルリオの言う通りだ、殴りこむにしてもこちらの戦闘技術がなければ狼すら倒せない、たとえ狼だとしても雑魚とは限らない、慎重にいかなければならない。
「そんなの、ユラゲが能力を使って自分の戦闘力でも見ればいいのでは?うちにやったように自分を舐めてから判断すればいいのではないのかしら」
リンのまとも過ぎる発言にあっけにとられながらも納得した。
正直この前能力を使った時に情報量が多い、意味不明な言葉があるなど安定しないことから戸惑いがあったのだ。
しかし今は今後の先を未来を分ける転機、自分のわがままが通してる場合ではない。
(――能力発動!)
能力発動と意識しながら自分の指先を舐める。
「なんで指舐めたん?卑猥?」
リンの言葉にツッコミをしたいところだが、頭の中に浮かぶ情報量に戸惑ってしまう。
その中から今必要である戦闘関連の能力を探す。
(――あった!)
たぶんこれだろう、頭の中で戦闘総技量と記された部分を見入る。
(――!)
ユラゲ戦闘総技量
筋力:1
戦闘技術:1
魔力:1
魔法技術:1
詳細ではないにしろ全てを把握した、私の戦闘総技量全て”1”つまり雑魚なのである……。
「どうだったのユラゲ、戦闘力わかったのか?」
私の顔色を見てセルリオが声をかける。
「私の戦闘総技量、全部”1”!悲し過ぎるわ……」
この回答に流石のセルリオも動揺を隠せず震えている。
「んー、それってー、筋力とか魔力と全部含めてなのん?」
私は今見えた状態だけのものを教える。
「筋力、戦闘技術、魔力、魔法技術、コレが全部”1”……」
「えー、おかしいのよー。だってユラゲって脳筋設定でしょ?何かの間違いじゃない?筋力も魔力も同等で”1”だったらチートよ、チートなのよ!」
確かにユラゲの戦闘面に関しては脳筋にした覚えはある、魔力関係に関してはむしろ下の下、戦闘面、魔力面共に”1”というのは確かにおかしい。
「ちっともう一度うちを舐めてみ?んで戦闘力を見極めるの」
無い胸を張るリンを無視して、腕を取り舐める。
「えっっち~な~」
無視して、頭の中に入ってくる情報から先ほどと同じ、戦闘総技量を探す。
リン戦闘総技量
筋力:0.0002
戦闘技術:0.007
魔力:2447
魔法技術:430
「どう?リンの戦闘力は」
いつのまにか復活してたセルリオが伺ってくる。
「リンの筋力、0.0002だった」
「キャハハー、うち弱々ねー」
大きな声で笑うリン、でもこれでようやく戦闘面では、リンの5000倍ということがわかった。
「理由はよくわからないけど、ユラゲの脳筋設定はちゃんと生かされてたんだ!これで心置きなく戦えるね!」
顔色が良くなったセルリオ、いつまでも声を上げて笑うリン。心置きなくとはいかないが、これならまともな戦闘ができると狼の方を見たが……。
――グルルル
距離はかなりあったはずなのに、いつのまにか距離数メートルと言ったところに狼はいた。
一体なぜ!?と思いながらもいつまでも笑うリンに納得してしまった。
「狼が来てる!回避を!」
私より先に気づいたセルリオが叫び、回避。
私はそれと同時にくらいに回避するが、リンは回避行動が取れていなかった、だがリンの目は見開い確実に狼を見ていた。そして――。
狼の巨体はリンを通り抜けた。
呆気にとられていたがそれもそのはず、リンは霊族なのだから、リンが意識して実体化しない限り通り抜ける。
「いやーいやーこわい!この世界との隠れんぼ!」
「ああ!リン隠れちゃったよ、ってか本当に見えないんだ」
リンが見えなくなったことで狼がすぐにこちらを振り向く。
狙いはお前だ、と言わんばかりの眼光がぎろりと私を見る。
私が今できることはたぶん殴ることのみ、戦闘なんて非現実なことはじめてだし、殴るだけではすまされない。こちらも手傷を負う可能性がある。
――シュ!
牽制のつもりで地面に落ちる小石を狼に向かって投げる。
筋力のおかげかものすごいスピードで飛んで行く小石。すんでのところで狼も身をかわすが、微かに毛をかすめるだけ、それを合図にか狼が一直線に私に向かってかけてくる。
この状態どうするか、殴るか?リンは消え、頼れるのはセルリオのみ。
「マイカード!」
セルリオの様子を伺うに彼女も彼女なりに戦闘に参加するため、運まかせの奇跡を発動させていた。
なおも迫り来る狼、まだわりきれない私はすんでのところで身をかわす。
「これだ!皇帝!」
引いたカードを掲げて叫ぶセルリオ。
正直なにが起こるかわからないが、こちらが優位に立てるのは間違いはないだろう。
そう確信しながらセルリオのもとまで後退する。
「ユラゲ……これを……」
自信なさそうに言うセルリオ。
私は狼をとらえ続けながらセルリオが持つそれを受ける。
――ポン!
手には金属の手応え、少し滑りそうではあるが、セルリオから渡された得物を握りしてるが……
「……」
頭の中にはハテナマーク、確かに武器なのではあるだろうがそれは見たことがあるといえばある、ないといえばない。正確にはテレビの中、いわゆる不良という人種が持つ武器、私はそれを握っていた。
「て、鉄パイプ?」
そう、それは鉄パイプだった。鉄が長く円柱の形をとり、軽くて振りやすい、金属ではあるため攻撃力はありそう。
だが不安だ、こんな鉄パイプであの巨体を倒すことができるのであろうか……。
「頑張って!」
すでに私から離れていたセルリオが遠目から声援をかける。
不満が無いといえば嘘ではないが、セルリオが用意してくれた武器。こいつでこの危機を打破するしか無い。
迫り来る狼、今度はそのアギトを私に向かい大きく開ける。
「――ッ!」
今度は左手で持った鉄パイプで狼のアギトを受け、そのまま右手で支えてなんとか受け止める形を取れた。
――グググッ!
噛み砕かんとばかりに狼の鼻先にシワがよる、それでも鉄パイプは砕けることなくなんとか耐えてくれる。
「――せい!」
体をそらし、鉄パイプをそらし、狼をいなす。
その生まれたほんの一瞬の隙を突き、まるで野球をするかのように鉄パイプを構え――。
「――ここで死んでくださいね!」
――
戦いは長引くことなくあっさりと終わった。
いなした狼、その横っ腹に向かって、渾身の鉄パイプフルスイングにより狼はぶった切られ、というか砕け散るようにグロテスクに死んだ。
「すごい!ユラゲ!すごい!」
賞賛をくれるセルリオ、私は無我夢中だったため目の前に倒れる狼を呆然と見つめていた。
「おわったー?っわあ!キモっ!」
戦闘が終わったのを確認してか、リンが能力を解除して可視化する。
なんで隠れたの!っと少し怒るセルリオの声を片耳で聞きながら。
――食診!
散った肉片を指で触ってから、舐めながら能力を発動させる。
セカンドウルフ・ソロの肉
セカンドウルフ・ソロという名の狼の情報を見ながら、役に立ちそうな部位を探る。
「ユラゲ~その肉に能力使ってなにやってるのさー、ぐちゃぐちゃの肉によくやるのよさ~」
リンが顔を背けながら聞いてくる。
「お金になりそうな部位と、あとこのモンスター、セカンドウルフ・ソロの情報をね」
能力を発動してからそのものの情報が表示されるのは一瞬だ。しかし数値を参照するのも意識的やればすぐに見つかるので実際のところ情報収集に時間はかからなことに気づいた。スキル発動中の時間はまるでポーズボタンで一時停止をしているかのようだ。
「それよりもこの肉、セルリオが食べたらなんかあるの?肉って細胞よね」
「あ、確かに、それを食べれば細胞を増やすことができる!」
「でもこのまま食べるのはーうちにはムリムリ!」
「そうよね……」
今すぐにはどうにもできそうにないので、戦利品としてセカンドウルフ・ソロの肉、毛皮、大爪を鞄の中に分配してしまう。
「なんかうち、お腹空いたかも。正確には空いてないけど」
「どっちなの?まぁ確かになにか食べたいかも」
「流石に私もお腹が空いたわね」
道の先に一本のそれなりに大きな木、木陰が出来ていて休憩にはうってつけそうなそこで休憩がてら食事をとる。
食事はおじいさんからもらった保存食。ブロック型のクッキー、少し甘めで疲れた体に溶けてゆく感覚がとても心地よかった。
――
休憩も終わり、私たちはフジェーダ街を目指して再び歩みを進めていた。
「フジェーダ街まであとどのくらいですかね?」
「おじいさんにはこの道を真っ直ぐとしか聞いてないんだよね……」
「これだとまだかかるんですかね」
他愛もない話で道をどんどん歩いて行く。
いつも賑やかなリンも今日は疲れてのか静かだ。
「あれ、道が……」
「分かれ道になっているわね」
長い道のみの果て、一本道と言われた道が二手に分かれている。どちらが正しい道かわからない。
「どっちが正しい道だと思う?リン」
セルリオがリンの聞きながら顔を向ける。
「でもあれ、立て看板があるみたいだし大丈夫そうよ」
立て看板に気づいて、教える私だが……。
「ユラゲ!リンが!浮遊しながら寝てる!」
突然のセルリオの反応に驚く私。何事かと思いながら呆れる。
リンは浮遊しながら前進しながら眠いっていたのである。
先ほどの食事で空腹が満たされたのか、容器は少し暖かく、眠っているのは仕方がないのか。
「すごい器用だけど……起こしてあげれば」
「これどうやって起こすの……」
セルリオの言ってる意味が分からずにいる私。
「そんなの肩でも揺らして起こせば――」
そして理解した、セルリオが慌てる理由が。
霊族のリン、アストラル体となっているリンには触って起こすという手段が出来ないのだ、そして迫るは立て看板。
これもなにか問題があるのかといえば大ありだということにセルリオはすでに気づいていたのだ。
迫り来るのは立て看板とその背後は森。物体に干渉しないリン。このまま真っ直ぐ進めばリンの体はあらゆるものをすり抜け森へとどんどんどんどん進んで行くであろう。
フジェーダ街へ一歩一歩確実に進んでいたが、ここで森に入ってしまえば最悪遭難になりかねない。
なんとしても、触るという手段以外で叩き起こすか、自然に起きることを願うしかなかった。
「リン起きて!」
「リン起きなさい!」
叫ぶセルリオとユラゲ、モンスターが襲ってきても御構い無しに叫ぶ。
それでも無反応、立て看板いや、森はあと数メートルまで迫っているが。
――
リンが立て看板をすり抜けどんどん森の奥へと進んで行く。
立て看板を避け草木生い茂るその森の中に足を踏み入れて行く二人。
日差しは来た道の方向へゆっくりゆっくり沈んで行く。
冒険にはいろいろつきもの、モンスターとの戦い、しばしの休憩、そして誰もが予想しなかった展開。
日差しはゆっくりと動いて行くということは、日が沈むということは一般的にいうと夜になること、これからどんな冒険になるのか私も楽しみです。