3人よれば、姦しい
リンは改造人間である。
嘘だ、実は幽霊と人のハイブリッド種族なのだ。
滅びた古代人のある博士が、幽霊と人のハイブリッド作ったら萌えるに違いない。
という、安着な性癖から生まれた、希少種族なのである。
その名は霊人族。
このハイブリッドが作られた時代では、幽霊娘への萌えが少数派であった。
それ故に滅びた悲しみの種族なのだ。
っていうのも嘘なのだ。
リンの霊人族は、本人の欲望から産まれた種族なので他には居ないのだ。
これは本当なのだっ!
世界の皆様こんにちは!
うちの名前はリンだよっ!!
親友と泥酔して、起きたら美少女になっていたんだ。
覚えているのは飲んだ帰り、2人よりも強いうちにしては随分酔ってたけ。
まぁ、ワイン一本とハイボール数杯とカルーアミルク数杯も飲んだら潰れちゃっても仕方ないと思うんだよね。
そのとき誰かが言ったんだよ。
二人のどちらかだったような、でも妙に威厳のある声だったような、よく分からなかったけれどさ。
「お前たちは以前、異世界に生まれ変わったらどんな風になりたいか決めたことがあった。それは今でも変わってないか?」
「もちもち、うちらは変わらないよ。これまでも、これからもずっとさ」
不思議な事もあるもんですね、目が覚めたら美少女が2人おりまして、親友だと言うのでございます。
まぁ、良いんだけど。
そんなこんなで旅にでまして、3人でのんびりと道を歩いていく。
のどかな風景は、元いた日本で忘れた土や草花の匂いが鼻を通る。
「さて、うちは重要な問題に3つ程気がついてしまったのだよ」
「重要な事って何?」
ユリゲがうちの方を見て尋ねる。
得意げに胸を張ってみたが、うちの胸は薄かった。
「まず、キャラ付けですよキャラ付け。うちらの様な麗しい乙女が、俺とか汚ならしいお言葉を使ってはいけないのですわよー☆」
「成る程、キャラ付けって言うのはちょっと変だけど、粗暴な口調の女の子っていうのは俺達のキャラじゃないな」
「うーん、私が思うに、元からそれ程粗暴でも無いと思うけどね」
「取り敢えず、俺は両性になりそうだしボロが出ない様に一人称を自分にしとこうかな……」
「良いんじゃございませんこと?」
「良いと思うよ」
「自分もそう思いますわ」
ふむ、あんまし重要な問題じゃなかったか。
草に足を取られて転びそうになると、セルリオが手を伸ばすが、その手はスルリとすり抜けた。
半透明になったうちは、その勢いのまま転ぶかと思いきや、フワリと浮かんだ身体は地面に叩きつけられる事は無い。
「むあー、浮かぶー」
「ソレは重要な問題じゃないの?」
「3つの内には入ってねーでごぜーます」
フワリ、フワリと浮かぶ身体は、重力の楔から解き放たれており、水中に浮いてる気分になる。
浮かんだままでの移動は出来る様で、うつ伏せに寝た姿勢のまま、歩く2人に並走する。
くるくると人差し指を回すのは、ちょっぴり頭が良さそうに見せる仕草だ。
勿論、本当に頭の良い人は、こんな事なんてしないんだけれど。
「うちはね、ジッちゃんが言っていた能力について気がついたんだけど」
勿体つけて焦らすうちだが、焦らし過ぎては2人の興味が失われてしまう。
適度な焦らしは大切なのだ。
付き合いの長さから、2人が焦れるのが分かる。
「それは、名前なんだぜ!」
「「名前?」」
「おうともさ、うちらは名乗り上げる技名っ!それがオレらの宿命!」
「韻を踏むのは良いからさ、技名考えてないって事でしょ?私は食べて診べるし、普通に食診で良いかな。捻ってもアレだし……」
「ふふ、なら自分は運まかせの奇跡でどうだ?」
「むぁん、中々やりますね」
こ、此奴!
実はずっと考えてたに違いないっ!
凄いスラスラと出てきたぞー!
うちも何かカッコよくしないと。
うーん、影がうすい。
隠れる。
幸もうすい。
「はー、凄い。全然思いつかない、めんどぅだし、そのうち考えよう」
「言い出しっぺ……」
「それ、絶対に考えないよな?」
「そうだっ!ユラゲの食診でうちを見てもらおうっ!そうしたら、スキル名も分かるんじやないかなっ!?ついでに、この宙を舞う身体についても」
「んー、確かに生物に使った事は無かったわね。料理の素材とか調べてただけだし、っていうか私は舐めれば良いの?」
「うちは初めてなので、優しくしてください」
プルプルとバイブレーションするうちに近づくユラゲだが、相変わらず半透明のうちに触る事は出来なかった。
「取り敢えず、まずは触れる様に、なりなさい」
「うーん、気合い入れればいけるかな?」
「自分は気合いで身体作れたし、多分いけるんじゃないか?」
「むぁーっ!世界中のおんにゃの子達よーっ!うちに乳を分けておくれーっ!!」
「いや、そんな事で……」
気合いを入れたうちの身体は、半透明から元に戻り、同時に落下を始める。
渾身のドヤ顔で2人を見るが、呆れた表情をしていたのでドヤ顔を辞めて、真面目な表情に切り替える。
「まぁ、うちの身体は勿論だけど、食診のスキルについてもある程度分かっておいた方が良いってわけさ。今は魑魅魍魎闊歩する異世界、無知な子供は喰われてしまうのさ」
「良いけど、取り敢えずキャラを確立して欲しいんだけど」
「おいおい嬢ちゃん、そいつは無理って話だぜ?」
今は異世界、うちは自由気ままに生きるって決めたので、飽き性な性分故に致しかねなし。
飽きっぽさが、より強く出ているのは、この身体が思念に引っ張られているからじゃないかと推測出来る訳。
だって、幽霊って思念体じゃ、ありませんこと?
取り敢えずと、ユラゲはうちの肌を触る。
人差し指と中指の先に、粒子的な(考えるな感じろ)ものなのか、魔力的な(心で考えろ)ものなのか。
うちにはよくわからないですけれども、それをペロっと……こ、これは!?って感じで調べる事が出来るのが食診らしい。
料理人には死ぬ程羨ましいスキルである。
「……ぺろっ」
「技名言わないの?」
「頭の中で叫ぶんじゃないのか?」
「あー、ちょっとまって……情報量が多い」
ユラゲはそう言って頭を抑えて難しい顔をしている。
うーん、顰めっ面?顔を顰める?
どちらにしろ?何れにしろ?眉間の皺が寄っている。
「取り敢えず、リンの能力の名前は分かった。種族はちょっとごちゃごちゃしててよく分からない……」
「あら、名前は付いているね?リンちゃんビックリっ!」
「この世界との隠れんぼって名前だよ。効果はちょっとわからない、多分私も能力に慣れてないからだと思うけど」
「語源が混じってるけど、まぁ響きは良いから気に入りました。自分の能力は、使っているうちに分かるんじゃないかな?」
「かな、自分の運まかせの奇跡……そう、運まかせの奇跡も運命に導かれるままに起こる魔法だ」
「んで、2つ目は解決したと言う訳で 、3つ目なんだけど。実はこれがうちの本題なんだよね」
ちょっと真面目な顔を作って2人を見やる。
勿論、2人だって、うちの話が馬鹿な内容じゃないってわかっている。
うちは再び脱力していくと同時に、お風呂に浮く様に宙を舞う。
「武器持ってないけど丸腰でいいのかなーって」
「良くないっ!っていうか、何で最初に言ってくれなかった!?」
慌てるセルリオとは対照的に、シャドーボクシングをしながらユラゲは笑う。
「いや、私は拳で戦うし。武器はあったら使うけど」
「うむ、うちは何か俺たちの冒険はこれからだって空気を読んで……」
切羽詰まった表情のセルリオ、真面目なのは良いけれど、そんなんじゃ異世界で行けてねーぜ。
如何なる時もワイルドに、それがうちの信条ですわ。
なんて考えていると、閃いた様に顔を上げた。
「……ま、魔法を使おうっ!」
「えぇ、えぇ。お爺様も魔法がある世界だと仰っていました。けれども、うち達はその様な知識は御座いません。セルリオ様、どうか自棄になられぬ様に……」
「や、ヤバイぞ……」
「まぁ、そこそこヤバイ」
「うちは逃げ隠れできるのでヤバくない」
「……確か、魔法はイメージだと聞いた様な」
顎に手を当てて、ユラゲが急に思い出したかの様に呟く。
都合の良いタイミングなのはご愛嬌、ユラゲはあんまし魔法に興味持ってなかったみたいだし、うちはヒマな時間はゴロゴロしてましたので。
では、取り敢えず試してみようと3人で歩きながら、ブツブツと魔法の使用を試みる。
「我が闇に答えろっ!漆黒の翼っ!!」
「……ユラゲ120%」
「ちちんぷい!」
謎の呪文を唱え出し、それぞれ魔法をイメージするが、吹き抜ける風にはなんの変化も見られない。
因みに、上からセルリオ、ユラゲ、うちだ。
意気揚々と旅に出たうちらであったが、武器を持たず、水と保存食程度。
防水油紙と、選別に貰った背負い袋が各自1つずつのみ。
獣畜生や盗賊から見れば、鴨がネギを背負って居るどころか、自らお湯を沸かして待っているが如く。
はてさて、うちらは無事にフジェーダ街にたどり着く事が出来るかどうかは運次第。
リン「イー」
セルリオ「何してるのリン?ショッ○ーのマネ?」
リン「違います、うちが実はギザ歯属性である事を世間様にお見せしているのでごぜーます」
ユラゲ
「ふーん……舌とか頬噛んだら辛そうだね」