2ー045 ~ 土魔法建築
翌朝は、4層を処理した。
まぁ何と言うこともなく、問題もなく、ちょっとトカゲばかりでサクラさんの顔色が優れなかった程度で、それ以外は前回と対処にそれほど違いもなく終わった。
両側の小部屋のところの隅には卵が何個もあったり、ボス部屋のところに『生』の角が転がってたりしたが、昨夜卵や角を持ち出したトカゲたちのことを思えば、それぞれの部屋がそういう役割なんだろう、ということだ。
もう埋めながら戻る作業もダンジョンの規模からして結構時間がかかるようになってきたなー、などと思いつつ、手慣れてしまったけど安全確認はちゃんとやらないと危険なので、そこはしっかりとやっていった。
後ろでみんなが魔法談義や戦闘の連携などを話してるのも同じ、と思ったら出口に近くなって今回は違う話が出た。
「そろそろハムラーデル国境防衛隊のところに一度、戻ろうと思う」
「カエデさんは?」
「私も一緒に戻ります」
「そうですか」
「防衛隊の拠点を例の大岩のところにどうかと思ってな」
「ああ、あそこなら水も食料も調達ができそうですね」
「うむ。それでタケル殿」
- あっはい、何でしょう?
急に呼ばれてちょとビクってした。何だろう?
「申し訳ないんだが、『く』の字池の南、上流側に橋を作ってくれないだろうか?」
ああ、そういえば川を渡らないとでしたね。
- いいですよ?、少し待ってください。出たら最新の地図を作りますので。
「お、おう、助かる」
渡してしまうつもりだからね。ハルトさんたちが戻って説明するのにも必要だろうし。
2枚ぐらい作って渡すかな。
とりあえず外に出ながら最後の通路部分を埋めた。
やっぱり出口近くだけは地面が陥没するんだよなー、不思議。
陥没した部分に土魔法で土を盛って完了っと。
- どのあたりまで防衛ラインを引くんです?、
と言いながら索敵をし、ポーチから羊皮紙を出してささっと現在の地図を焼く。
ハルトさんはその様子を微妙な表情で見ていたが…、できあがった地図を見せると真顔に戻った。
「そうだな、大岩の池の手前をこの川から南北に引ければいいな」
- では5km間隔で物見の櫓でも立てますか?
「うむ、しかし資材がないぞ?、ハムラーデル側の山林から持ってくるにしても大変ではないか?」
- 橋を作るよりは楽ですから、土魔法で作りますよ。
橋脚の根元が面倒なんだよ。深くまで杭みたいなのを作らないとだし。
でも心棒がないんだよね、だから実際大した強度はとれない。垂直方向だけは頑丈だけどね。
土魔法で鉄筋埋め込みたいんだけど、鉄がないんだよ。
どっかに鉱脈とかないかなぁ、人の手が入ってないやつ。
だって盗掘になるだろ?、手続きとか待ってたらいつになるかわかんないしさ。
え?、領土ってものがあるんだから発見したら領主に報告しないと盗んでるのは一緒だって?、まぁ俺は勇者(笑)だから、黙ってたらわからないし、大丈夫じゃないかな?、ダメかな?
見つけてから考えよう。うん、そうしよう。
「それは助かるが、いいのか?」
- 5mぐらいでいいならそれほど時間もかかりません。平地ですし、それほどの高さは必要ないでしょう。
「うーん…、では最初はこの位置にひとつ頼めるか?、それと大岩の上に登れるようにできないか?」
- なるほど、大岩も利用できますね。外側に沿わせるように階段を作ればいいですね。
「うむ、そうだな」
- ちょうどいいので最初だけお手本を作りますから、あとはハルトさんたちも練習がてらやってみるといいでしょう。
「なに!?、俺がか?」
- そろそろ土魔法で壁を作るぐらいはできるようになったんじゃないですか?
「無詠唱ではまだできないのだが…」
- 土壁作成は土魔法建築の基本ですから、できるようになっておくことは決して無駄にはなりませんよ。
それに、ハルトさんだけじゃありませんから。
メルさんやネリさんも居ますし、訓練だと思えば。
「……そうか、そうだな、わかった。やってみよう」
- 監督にリンちゃんをつけますので。
「そのような恐れ多いことは…」
- まぁ、頑張ってください、ははは
ハルトさんの表情が引きつってたけど、そういうことになった。
そして大岩のところに移動。もちろん『スパイダー』に乗って。
少し早いが簡単な昼食にした。
それから、大岩の東側に登るための階段を取り付ける土台を作る。
一応全員に説明しながらね。
「そのように深く掘るものなのか?」
- これは土台となる部分ですので、しっかりと作る必要があるんです。
本来こういう基礎部分もきっちりと鉄筋にしたいんだけどね、さっき言ったように鉄がないのでその分大きくなってしまうのは仕方がない。
そして岩に接する部分も凹みを作ってしっかり接続するようにする。
これは階段部分も踊り場や、何段かごとには必ずやってほしいので説明をした。
手すりについても説明したかったが、まぁそれはあとで俺がやればいいか。
- 土壁の応用だってことがこれでわかったと思います。
メルさんやネリさんは訓練が他のひとよりも長いので、そう難しくないはず、ですよね?
「はい、丁寧なご説明でしたし、魔力の流れもわかりやすく操作してくださったので、できると思います」
「え?、そうだったの?、メルさんあとで教えてー」
- カエデさんはまだできないかもしれませんが、教わりながらやってみてください。
「はい…」
- リンちゃん、悪いけど監督してあげてね。
「はい、タケルさまは?」
- 僕は橋つくりに行ってきます。できたら休憩できるように小屋建ててあげて。んじゃ!
と言うとズバッと走って、ある程度距離をあけたら飛び上がって例の飛行魔法だ。
「あっ!、タケルさ…ま…、もう……」
と言う声が聞こえたけど聞こえないフリで。
ところでこれ、あまりかっこいいとは言えない飛行魔法なんだけどね。
もうちょっとなんとか工夫して、せめて飛んでいるという格好がつくものにしたいんだけど、これはこれで楽なので、もうこれでいいかな、なんて思ってる。
さっき地図に印つけといたけど、縮尺がアレだからだいたいこのへんか。
四角錐の上をぶった切ったみたいな形でいいんだよな?
中に階段つければいいのかな、これ。んー、こんなもん?
もちろん地面を2mぐらい掘り下げて、杭用の穴もつけて、それで出た土と一緒に土魔法でズバッと四角錐の上をぶった切った形のものをデーンと作るだけ。空洞でね。
目分量で適当でもなんとかなるのが土魔法のいいところだよね。
魔力量に余裕があるからできるんだろうけども。
そんで中に階段つける。
手すりぐらいサービスしとくか。
上の四隅は柱を立てて、屋根つけて…大丈夫かな、真ん中にも柱たてとくか。
端は凸凹凸凹にするもんだっけ?、こんな感じか?、狭いか?
あー、ドアどうするかな、掛け金タイプで、ドアに貫通した棒を内側に出せば閉じ込められたりしないよな?、よし、できた。
あれ、ドアが開かない。あ、地面にくっつけちゃダメだった。土魔法で固めた岩の扉だからちょっと重いけど、苦情が出たら考えよう。
次は橋か、『く』の字池んとこだっけ。
さっさと行こう。
えーっと、馬車がすれ違えるぐらいの幅と、欄干が欲しい、って言われたんだっけ。
まぁ、落ちたら大変だもんな。
少し離れ、羊皮紙を取り出して、頭にイメージを描いて羊皮紙に焼いてみる。
おお、我ながら絵画のような石橋が…、いやいやこれでは狭いだろう。
基本イメージはこれでいいとして、幅を3倍にして、歩道をつけて、端のところをもう少し高く、
アーチ2つで中央に橋脚、かな、そんな感じでイメージして焼いてみた。裏面に。
うん。まぁ、こんなもんだろう。川底んとこ大丈夫かな?、見に行くか。
水面から見てみると、でかい石とかごろごろしてるな。ちょっと流れを整えるか。
といっても土魔法ででかい石を軽くして、橋脚予定のところにもっていくだけ。
橋脚に包み込んでしまえばいいからね。
前の橋んときもそんな感じで、川底周囲の土砂や石なども利用したんだよね。
いやー魔法って便利だねーホント。
うん、いい感じの橋ができたぞ。欄干が無骨だな、こう、細長い壷の上下がくっついたみたいな柱に…、おお、やればできるもんだ。
そうだ、灯篭みたいなのもつけとこうか。ランタンが置けるような感じに作っておけばいいかな?
灯篭の位置が高すぎた。メンテ用に階段つけとこう。よし。
金属が充分あれば、骨組みに使って鉄筋コンクリートみたいにできるんだけどなー、って、結構時間食ってしまった。凝り過ぎた。
やってしまったものは仕方ないので急いでティルラ防衛側新拠点へ行こう。
今度は墜落みたいにならずにちゃんと手前で降りて走っていく。
一応戦列というほどでもないけど、当番の兵士さんたちが馬防柵を並べてある後ろ、まばらに並んでいるのでその前で止まろうとしたら、先に敬礼――右手を左胸にあてる所作のこと――してたので止まらずに片手を軽く上げて挨拶しながら走り抜けた。
本営の天幕(小屋)にオルダインさんがいた。いつものように。
まだ確定ではないのですが、と前置きをして、ハムラーデル側防衛隊が大岩のところに拠点を作ってそこを最前線にするとハルトさんが言ってました、と伝えた。
「そうですか。なるほど、水と食料の調達ができる、と…」
- はい。全員分を賄える量ではないと思いますが。
ティルラ側からも将来的には拠点をそこに移す方向で考えてくださっていいと思います。
「そうですな、しかし今はまだ動かせませんぞ?」
そう。ティルラ側はまだ新拠点から動かせない。
ロスタニア側の処理がまだだからだ。
- はい、それでロスタニアからの返答は来てませんか?
「そろそろ連絡隊が戻ってきてもよいはずなのですが、まだですな。
ハムラーデル側への連絡隊は帰りを街道ではなく、勇者様たちの拠点のところの橋を渡って戻って来よりましたので、もう何日か前に戻っておりますが。」
- あ、そうだったんですか。それは知りませんでした。
「小屋には誰も居なかったので挨拶できませんでしたと申しておりました」
- 留守番を用意したほうがいいんでしょうか?、いえ冗談です。
妙な顔をされたのであわてて冗談だと取り繕った。
「ところで、どうしてロスタニア側の処理を先延ばしに?」
- 別に先延ばしにしている訳ではないんですよ。
こちらの中央を流れる川は、ロスタニア側のほうが本流でして、川幅がかなりあります。
作戦台の上の地図を指差しながら話す。
川幅がかなりあるというのは地図からでも見ればわかるんだけどね。
「ふむ、渡れませんか?」
- いえ、魔物があまり川を渡らないんですよ。
対岸ぐらいなら見える距離ですけど、向かってこないんです。
川幅が狭いと角サイと大型亀なら向かって来ますが、角イノシシや角サルは来ません。
「ほう、それで後回しにしたのですかな」
- 先に川幅の比較的狭い、ハムラーデル側のほうを安定させたかった、というのもありますが、ハルトさんたちハムラーデル側と先に接触することになった、というのが大きな理由ですね。
「なるほど…」
- ロスタニア側は、あまり情報がなかったというのと、ハルトさんたちもあまりあちらの状況をご存知ないようで、とりあえず今はハムラーデル側の前線を進めるというのなら、そちらに注力したほうがいいかなと。それでこちらの地図ですが…。
そういって作戦台の上に、持ってきた地図を広げる。
- ここに橋を新たにつくりまして、この場所に物見台をつくりました。
大岩はここ、池はこちら、これは以前の地図でも同じですね。
このあたりに防衛拠点を展開したいということでした。
防衛ラインはこれぐらいの位置で、物見台はその第一歩のようなものです。
拠点が落ち着くのを見計らって、物見台を5kmおきに増やそうと考えています。
「了解した。そういう状況ならこちらから定期的に連絡隊と荷を送るようにしても良いかもしれませんな。
勇者様の拠点を経由する形でどうですか?」
- わかりました。ハルトさんにもそのように伝えます。
あ、その地図は置いていきますね、それで羊皮紙を少し分けてもらえると助かります。
「そうですな、ではこれをお持ちください」
オルダインさんは後ろの棚から地図用に用意してあるものだろう、羊皮紙の束をどさっとまとめて渡してくれた。
- 助かります。ではまた。
お辞儀をしてその場を去った。
お茶を出そうとしてくれてたようで、ちょうどお盆に載せて運んでくるところだった。
片手で制して、お礼とお詫びを言っておいた。
気になっていた新拠点から北へ50kmほどにある、ロスタニアとティルラの間の箇所を見に行くことにする。もちろんだーっと走ってから飛んで行った。
索敵魔法ではダンジョンかと思ったが、違ったようだ。
ふーむ、これってさっき上から見たとき思ったんだけど、片側の崖の岩が倒れて谷底をフタして出来た洞窟っぽいな。淀みポイントも無いみたいだし、魔物も居ない。
なら放置でいいか。
さて、大岩のところに戻るか。
階段とか柵とかできてるかな…?
●○●○●○●
大岩のところに戻ってみたけど、ん?、何だか違和感が…。
階段?、だよな、一応。
1段の高さが5cm程で幅1mぐらいのなだらかな階段がずーっと…?
遠くから見ると緩やかな坂に見えたよ。
どうなってんのこれ。
「あ、おかえりなさいタケルさま」
- ただいま。リンちゃん?、これどうなってんの?、折り返さなかったの?
「えっと、ハルトさんが『大岩に沿わせる』って…、それで…」
- ああ、ぐるーっと螺旋状にやっちゃったのかー
「まずかったですか?」
- いや、それもひとつの方法だからいいと思うよ。
それでどこまで進んだ?
「いまちょうどこちらの反対側です。あまり進んでいません。
でもハルトさんとサクラさんも作業ができるようになりまして、交代で休憩しつつ進めています」
ふむ、なるほど。
- そっか、それはいいね、んじゃここから確認しながら手すりや柵をつけて追いかけるよ。
メルさんやネリさんは?
「あちらの小屋に居ます」
- んじゃ僕が戻ったんで作業が終わったらハムラーデル防衛隊のところに出発するよ、って伝えてくれるかな。ハルトさんたちを送っていくのにあまり遅くなっても困るだろうし。
「はい」
急いで登れるように、踊場を互い違いにつけて、梯子か急階段を設置するのもいいと思うんだけどね。
しかしえらくまた緩やかな階段にしたもんだ、これだと移動距離が伸びるよね、いいのかな?
まぁ、手すりと柵をしっかりつけていこう。
しかし踊り場もなくずっとゆるい階段だとこれはこれでなんだか苦痛だなぁ、あとで岩側んとこにところどころ台を設置しておくか。ランタンとか置けるように。
そういう大きめのマイルストーンがないと、永遠に続きそうに思えて精神的に辛いでしょ?、兵士さんとかさ。
マラソン大会とかで、電柱や区画のところを区切りに、あそこまで頑張ろう、とかやんなかった?、え?、河川敷を走ったからそんなもん無かった?、そりゃ御愁傷様で…、いやむしろ交通の危険が少なくてよかったのかも?
「おお、タケル殿。どうです、半周分できましたが…」
- そうですね、少しそのまま作業を続けてもらえますか?、どのみち周囲を見るためのものは必要ですし。
「わかりました」
この半周分あれば上までぎりぎり行けたかもしれないんだよね、作り方によっては。
「(小声で)タケルさん、実はネリがごねまして…」
- (小声で)え?、どういうことです?
「階段の角度がゆるすぎる、もっと移動距離を短く、踊場をちゃんと作らないと時間がかかり過ぎる、と…」
- そうですね、僕もそう思います。
「私も元の世界ではそういうものだったので、同じように思ったのですが、ハルトさんが、大岩に沿って階段を設置することに拘りまして、同じような魔法で済むので訓練にはもってこいだ、と…」
そう来たか…、訓練って言っちゃったもんなぁ…。
- なるほど、それでこうなったんですか。
と、ちらっとハルトさんが作業しているのを見る。
カエデさんも一緒にやってるところを見ると、分担してやっているようだ。
ハルトさんが大岩から壁を生やし、カエデさんが端のところに小さい板をつけて低い柵ができている。
板を重ねていくから階段がゆるやかなのか。
うん、実にムダが多い。
魔力操作も同様だから疲れるんだろうな、ああ、膨大な魔力を用意して、小出しにしてるのか、それで毎回の魔力操作が大変になって、効率も落ちるし疲れやすくなる。
訓練期間が短かかったもんなぁ…、ある程度はしかたないけども…。
もしかしてメルさんやネリさんの意見を聞かずに、この方法でやれと言ったのかな。
- まさか、これと同じ方法をメルさんやネリさんにやらせたんですか?
「はい。それでネリには反発され、メルさんはとても不服そうでしたが少しだけ作業されて、でもすぐ疲れたと言って小屋に…」
まぁそりゃそうだろうなー、あの2人ならもうどれぐらい魔力を練ってどうするってのが見えるはず。見るからにムダなやり方と同じことをしろなんていわれたらそりゃそうなるよ。
だいたい瞬間的に用意できる魔力量で言うとハルトさんは一番多いんだし。
もちろん俺以外の話ね。なんか俺は特に多いらしいから除外。
- このままだとまずいですね…。
「そうなんですが、私もハルトさんにはあまり強く言えないので…」
- あ、いやそういう意味ではなくて、時間的に、日が暮れちゃうなと。
「あ、そうですね」
まぁ、リンちゃんはあまりこういう面では積極的に指導してくれないもんなぁ。
しょうがない、なんとかするか。
- ハルトさん、作業中で申し訳ないのですが、このままですとハムラーデル防衛隊のところにお送りするのが遅くなってしまいます。
「お、そうだった…、手際が悪くてすまない。だがこれ以上早くは…」
- はい、なので僕が引き継ぎます。見たところかなりお疲れでは?、下の小屋に戻って休憩してください。
「そ、そうか、了解した。申し訳ない」
- 終わり次第、僕も行きます。
と、3人の背中に声を掛けて、改めて作られた薄い階段を見てみる……。
んー、これ表面から生えてるだけなのか、大岩のほうは加工してないのか…。
生やす面だってきれいにしてからのほうが魔力効率もあがるから疲れにくいんだけどね。一見手間だと思うだろうけど、そのほうが魔力構築も早く済むんだよ。
それに、これだと普通に落ちるんじゃないか?
今はまだ生成時の魔力が残っていて、位置が固定されているようだけど…。
しょうがない、ハルトさんにはあとで説明するとして、半周分のこれ、やりなおそう。
飛行魔法(笑)で大岩の上に乗ってみた。
これ、上部分を平らにしたほうがよさそうだな。それで柵つくって屋根を一部だけ、ん?、いやいや、そんな凝らなくていい。
一瞬、上部のところくりぬいて、とか考えてしまった。
よし、3人とも小屋に行ったようだ。
リンちゃんは小屋の前に立ってるけど。
ここからだと大岩のサイズ的に小屋のあたりは直接見えないんだよね。
でもたぶんリンちゃんになら魔力感知で見えてるはず。
ちっちゃく手を振ってみた。
あ、ちっちゃく手を振り返してる。軽くぴょんぴょん跳んでるし。可愛い。
癒されるなぁ…。
まず上部を平らにする。周囲に柵を。柱を立てて屋根を支える。
展望台はこれでよし。
展望台前後から岩を削って階段を作る。踊場を作りそこから半分は岩に埋もれたような階段を、表面を沿わせるときは少し食い込ませて、と。
高さが半分のところを周囲ぐるっと削る、削った高さと同じ位置に、ハルトさんが作った半分をもってき……ては効率悪いので、周囲ぐるっとベランダのように作る。
そこから階段をまたさっきと同じように降ろす。土台につながるように段数を調整して、と、途中ハルトさんたちが作った部分は悪いけど解除。
よし、こんなもんかな。
何気に結構消費するなぁ、これだったら普通に櫓を何個か立てたほうが楽だぞ?
残った部分も解除と。
ああ、明かり用の台も取り付けて…、ドーナツ型のベランダと踊場各所と展望台に立てて…と。
ふぅ、一応これでなんとか形にはなったかな。
近距離探査魔法を使いながら上空をぐるっと回ってみる。
うん、まぁこれなら使えるだろう。
さて、降りて説明しながら移動しないと、もうかなり日が傾いてしまってる。
「もうできたのか?、半時も経ってないぞ?」
- 慣れてますので。それと、すみませんでした。最初にもう少し説明をしておくんでした。
「頭をあげてくれ、タケル殿。一体どういうことだ?」
- ああいう岩に沿って建設をする場合には、ただくっつけるだけではなく、岩のほうにも加工が必要だってことを説明していなかったんですよ。
分かりやすいように土魔法で円柱を作り、周囲にさっき階段を設置したように加工しながら説明をした。
- このように、半分埋もれた形にしないと、土魔法が安定して物質が定着したあと、崩れやすいんです。
「そうだったのか…、こちらこそ考えが至らず申し訳ない」
- 塔や橋などのように、地面に乗って建設する場合なら、穴を掘って土台を作り、その上に乗せますので、そういう加工は必要ないんですが、今回のように岩の表面に這わせる場合には、岩自体にアンカー、えっと、固定するための杭を打ち込むんです。
「なるほど…」
- ところが土魔法だけでやっているわけで、鉄などの金属杭がありません。
なので、岩の表面に埋もれる形で支えなければ、将来的に持たないんです。
「その加工が必要だった、というわけか…、それでは俺たちが作った半周分は…?」
- 残念ながら、再利用するにも固定化を待たねばなりませんので、解除しました。
「全部、か?」
- はい、申し訳ありません。ムダな訓練をさせてしまいました。
「いや、ムダではないぞ。俺も無詠唱ができるようになったし、カエデもそうだ。だから全くムダというわけではない。それに勉強になった、次の機会があれば同じ失敗はしない」
- そうですか。とにかく使える形にできましたので、そこは安心してくださって結構です。
「わかった。手間を掛けさせたようだ、すまない」
- それと、余計なことかもしれませんが、僕やネリさん、サクラさんはハルトさんの時代よりもかなり進んだ建築文化を見て育っています。
「ああ、それはよく分かっている」
- んー…、ネリさんの言い方にも問題があったかもしれませんが、話をよく聞いてもらえれば、今しがた僕が作ったもののような加工方法ができたかもしれないんです。
「……そういうことだったのか……」
- どういうものをネリさんが想像したか、一緒に見てみませんか?
「そうだな。俺もどうなったのか気になる」
それで小屋の奥の部屋でふて腐れて寝転んでたネリさんと、相変わらず槍とにらめっこをしていたメルさんに声をかけ、全員で大岩のところに行った。
「あっ、階段ちゃんとなってる!」
たたーっと走って階段を少し駆け上がるネリさん。
- ネリさんが思ってたような階段になってます?
「うん、そうそう、こういうのじゃないとダメだって言ったのに、そこのおじさんは訓練だから板を重ねてつくるんだ、岩に沿わせるんだ、って話全然聞いてくれないんだもん…」
ほらね?、そうだと思ったんだ。でも『おじさん』て…。
皆の視線がハルトさんに集まってしまった。
「あ…、いや、その…、悪かった!、次はちゃんと話を聞く、済まなかった!」
深々と頭を下げるハルトさん。
決して物分りが悪いわけでも頑固なわけでもないんだよね、この人も。
ちゃんと説明ができれば、ちゃんときいてくれる、はずなんだ。
たぶん、ネリさんの言い方も悪かったんだろうと思う。
魔力効率のことも言っちゃったのかもしれない。
一応そのへんもちょっと言っておくかな。
- ついでと言っては何ですが、先ほど少しハルトさんとカエデさんの作業を見て思ったんです。
お二人の魔力操作はとてもムダが多いんです。
え?、という表情でこちらを見るハルトさんとカエデさん。
なんか頷いてるメルさんとネリさん。対照的だ。
- おそらく気負いが大きいのでしょう、大きな魔力を使って小さい作業をするので、損失が凄まじいんですよ、少しの作業でかなり疲れたんじゃないでしょうか?
「そういわれてみると、タケル殿のように早くもなく、作業量も少ないのに疲れたような…」
「はい、半周分のうち小さな柵だけを全体の7割ほどしか作業していませんでしたが、すごく疲れました」
- ネリさんやメルさんはそういうのがもう見えるようになってるんです、そうですよね?
「はい」 「うんうん」
- だから、階段の作り方のことだけじゃなく、効率が悪い、と言われたんじゃないでしょうか?
「ああ、そう言われてしまった、それでつい、訓練だからと…、なるほど、そういう意味だったのだな、メル殿、ネリ、重ねて詫びよう。済まなかった」
「勇者としてはハルトさんは大先輩だけど、魔法のことはあたしたちのほうが先輩なんだからちゃんと聞いてほしかったなー」
「ああ、すまん、確かにそうだった」
いやいや、そんな偉そうにいえるほどの差はないでしょ。
全く、すぐ調子に乗るんだから。
ということでせっかく作ってもらった部分を作り直したことはうやむやになった。
よかった。
20180714:助詞ミスや文言を訂正……orz
20180816:同じく。……まだミスがあるとは…。円筒⇒円柱
20181125:変更。 魔力感知魔法 ⇒ 索敵魔法





