表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/321

2ー043 ~ 急には止まれない

 食事の煮炊きで、これもついでに消費しようって、以前拾ってあった(たきぎ)を使ったんだけどね。

 それに混じってというかくっついてた木の実があったみたいで、これが何だか甘くて(かぐわ)しくとてもよい香りがしたんだよ。


 「すんすん、とても甘くていい香りがしますね、タケルさま何をくべたんです?」


 そしたら近くで調理の手伝いをしてくれてるリンちゃんに見つかってさ。

 まぁそりゃ横にいるんだから当然なんだけどね。


 というわけで、俺も何なのか知らないから、他にもないかなって薪をポーチから出して2人で薪をごそごそと探してたわけよ。


 そんでもってそんなことしてたら目敏(めざと)い人に見つかるのも道理なわけで…。


 「どうしたんですか?、何か探しものですか?」


 とか、


 「さっきから甘い香りが気になってたんですけど!、って何してるの?」


 とか、


 「お、お手伝いが必要でしょうか!?」


 とか、


 「いつも美味しい食事をありがとうございます。先ほどから甘い香りがしているのですが今日は何でしょうか?」


 とか、


 「さっきから良い香りがして辛抱堪(しんぼうたま)らんのだが…?」


 と、結局全員集まってきたので仕方なく説明をした。


 それでポーチにある、以前集めた(たきぎ)を全部だして全員で探したところ…、うん、そうなんだよ、いつ拾ったのか覚えてないぐらい、『あ、これ薪に使えるな』って思ったのはひょいひょい拾ってしまうクセがついちゃってるせいなんだけどね…。


 ついでに乾燥魔法って勝手に呼んでるけど、燻製作ってたときにリンちゃんが乾燥してくれた魔法を、模倣して応用してるもんだから、多少湿ってようが何だろうが、適当なサイズにしてポーチにしまう直前に、手軽に乾燥してしまえるので、つい、ね…。


 そんときにいい香りだったりすると心のメモに…、ああうん、いいだろ!、そうだよ!、忘れてたんだってば…!

 マジでちゃんとメモ帳を作って書くクセつけとかないとダメかな、俺…。


 ま、それはそれとして、同じ実が3つ見つかった。


 でも香りが違うんだよね、(あぶ)ってみたけどなんか薄い。


 もしかしたら熟成というか発酵というか、そういうのが必要なのかもしれない、ということでこういうときには光の精霊さんにお任せするのが一番!


 光の精霊さんたちには当然、発酵だの熟成だのの概念があるようなので、リンちゃんに軽く説明するだけでわかってもらえたようだ。


 光の精霊さんの里に連絡してもらったところ、なんと栽培種だそうな。

 お菓子などに使うエッセンスやオイルとして、普通にあるんだってさ。


 でも燻製にそれを使ったものは無いんだと。


 そんじゃやってみてはどうかということで、森の家んとこの燻製工場(笑)で試してもらうことになった。まぁダメ元で。


 一応、(いぶ)すときの香りと燻製自体は違うものになるかもしれないこと、燻材(くんざい)にするよりは、燻液(くんえき)にして漬けるときに使ったほうがいいかもしれないことも伝えておいた。


 で、そういう話をしていると、燻製が食べたいとか言われてさ、君たちこないだ川魚の燻製を美味しいって平らげてたよね?

 あ、そう。肉がいいんですかそうですか。


 そうまで言われては出すしかないわけですよ。今は何種類か製品(笑)があるので、出せる分だけ並べてさ。


 「これは…、美味いな、酒があれば最高なんだが…」


 ああはいはい、ありますよ、出しますよ。米酒麦酒穀物酒果実酒。

 お酒は光の精霊さん産だけどね。

 こういう機会でもないと、消費しないもんだから、何でか勝手に増えていくんだよね。


 俺は酒飲みじゃないから、んー、そりゃ料理に合わせたりして飲んだりしたときには美味しいとは思うけども、それはそれなんだよね、無くても平気、みたいなさ。

 だから俺だけだと消費しない。精霊さん産なので贈答用にって訳にもいかず、貯まって行く一方なんだよね。


 「この燻製にはこの酒が合うな。素晴らしい」


 大満足な表情のハルトさん。

 そこに、

 「塩味と酸味、そして辛味。そこにこの甘さと爽やかさ、これってお米なんですか!?、ああ、幸せです…」

 「何っ!?、……おおぉ…、この組み合わせも素晴らしいな、いや、この酒が米とは信じられぬ…、うーむ…」

 「これって林檎(りんご)でしょうか?、ラベルの絵にほら」

 「こっちのは葡萄(ぶどう)の絵がありますよ」


 ちょっといろいろ並べすぎたかな?

 でも俺が置いたやつじゃないよな?、リンちゃんか?


 「このエールっぽいものは麦の香りが素晴らしいですね。チーズや肉の燻製に最高です、ノド越しの爽やかな刺激、エールにはないこの爽快感、これはクセになります」


 メルさんあんた飲んでいいのか?


 「こちらの強い酒は、口の中に残る深みのある香りが、特にこのシチューに合いますね…、はぅ…美味しいです」


 カエデさんは蒸留酒のほうに手をつけたっぽい。

 燻製じゃなくさっき作ってた煮物を食べてくれてるようだ。


 って、皆そんなに飲んで大丈夫か?、これ昼食なんだが。






●○●○●○●






 結局だらだら飲んで食べてしまったせいで、中央東7のダンジョンには行かずに川小屋へ戻ってきた。


 誰だったか、『緊張感を持ったほうがいい』なんて注意してたひとが居たよな?

 その誰かが真っ先に真っ赤な顔になってたんだが…。


 まぁ、そういう日もあるか。


 俺?、俺はもともと量を飲むほうじゃないしなぁ…、リンちゃんと2人で給仕や料理してただけ。後片付けもあるしな。


 そんで酔っ払ってる勇者4人+王女の5人を『スパイダー』からおろして、川小屋のリビングに座らせ、まだ飲み足りないとか言われて仕方なく、お酒とおつまみを並べておいた。


 何で室内なのかというと、中は空調と部屋の隅の氷があるので快適なんだよ。

 外はもうだいぶ暑くなってきたものなぁ、夏なのかな。


 そんで俺は、リンちゃんにここを任せて、オルダインさんに報告をしに行こうかなってところ。


 ああ、大岩のところのダンジョンは土魔法で入り口んとこフタだけしておいたよ。

 そうしないとまた魔物に棲み付かれたら面倒だからね。

 騎士団が駐屯地を作ってくれるようになれば、フタを解除しに行くさ。


 何かひさしぶりに走ってる気がする。


 どうせ1人なんだし、魔物ももう全然見当たらないんだから、もっと飛ぶぐらいの速度で…、ん?、飛ぶ?、そうか、そういえば土魔法で重力扱えるんだっけ、それと風魔法で補助して自分を飛ばすアレをやれば、飛べるんじゃね?

 えーっと、障壁結界をこんな感じで…、そこに土魔法を混ぜて、こうかな?、おお、浮いた。あとは風魔法で…。


 やってみた。できた。


 おお、これは結構快適だぞ?、ってか早!、速度どんくらい出てんのかなこれ。


 何か結界の中に居るだけだから座ってても寝転んでもいいんだけど、うーん、飛行魔法って言えないな、これ。

 こう、スーパーな男や、ウルトラな男みたいな飛行じゃないな。快適だけど。


 あ、もう新拠点が見えてきた。降りるか。






 あれ?、ちょっと速過ぎ!、ちょ!、強化強化!、ヤバ!、うぉ!


 「何事だ!」

 「それがその…」


- すみません、タケルです。ちょっと着地に失敗しちゃいまして、ははは…


 叱られた。






●○●○●○●






 「なるほど、分かりました。貴重な情報に感謝しますぞ」


 オルダインさんたちに竜族のことや卵のことを、『ツギのダンジョン』でのこともあわせて説明した。

 ついでに竜族の攻撃が目に見えず聞こえないもので、正面にある物体を(もろ)くするものであることも言っておいた。超音波とか言っても伝わらないからしょうがない。


 一応、必要かどうかわからないが、卵のあった大岩ダンジョン1層の地図と、卵のスケッチ、あとは殻の破片も渡しておいた。


 「ところで、言い辛いのですが、もう少し普通に来て頂けますかな?」


- あっはい、申し訳ありません、気をつけます。


 何せスゲー音したもんなぁ…、でっかい穴になっちゃったし。埋めたけどさ。

 いくつか天幕も倒れたんだってさ、馬もパニックになったそうだ。


 集まってきた人たちには謝り倒したよ。はぁ…。


 帰って風呂に入ろう。俺も土まみれになったし。






●○●○●○●






 でも懲りずに帰りも飛んでみた。もちろん新拠点から見えなくなってから。

 着地のことをちゃんと考えて減速すればいいんだよ。


 え?、さっき?、うん、ごめん。焦って減速が間に合わなかったんだ。

 今度はちゃんとやるさ。






 な?、ほらちゃんとできるんだってば。

 というわけでだいぶ手前にかっこよく……とは言い切れないけどそれなりで安全に着地して、そこから走って川小屋へ戻ったんだが…。


 何で『スパイダー』が川小屋の壁に突き刺さってんの?


 「どうして勝手に乗って動かしたデスか!」


 そりゃ怒るよなぁ…、そんでリンちゃんの前に正座させられてる2人。

 え?、ネリさんは当然として、カエデさんも?、どゆこと?


 地面のあとをみると、動かしてすぐに突っ込んだわけじゃなさそうだ。

 走り回って、戻ってきたときに止まり切れずに突っ込んだのか。

 ふうん…、結構スピード出るもんなぁ、急に止まれるわけじゃないしさ。


 それと、酔っ払い運転ってやつか。うん、情状酌量の余地がないな。


 現状からすると、ほぼ事故ってすぐだな。

 見たところ怪我はなさそうだけど、一応きいておくか。


 歩いて近寄り、泣き顔で正座してる2人と目線を合わせるようにしゃがむ。


- 怪我、してませんか?、大丈夫です?、頭打ったとかありません?


 「あ、タケルさま…、申し訳ありません、あたしがしまい忘れていたばかりに…」


 ああ、管理責任ってやつか。留守を任せたってのもあるもんなぁ、でもそんな完璧を求めてるわけじゃないし、使用者限定がまだついてなかったんだし…。


- リンちゃん、小屋の中のひとたちを含めて、怪我人は?


 「サクラさんがびっくりして椅子から落ちたときにテーブルの上のシチューで軽い火傷をしたのと、落ちて割れたビンを片付けるときにハルトさんが指先を切った程度です」


- この二人は?


 「ぶつかったときに膝や手に打撲をした程度のようです」


- そうなの?


 涙目で頷く2人。

 反省はしてるみたいね。大した怪我がないならいいか。


- そんで、『スパイダー』は?


 「壊れました。コアを取り出すにもタケルさまの魔力でロックされていますので…」


 ああそっか、俺じゃないとできないんだっけ。


- んじゃコア取り出してくるよ。






 まぁすぐ横なんだけどね。なるほど、脚部のところがひしゃげてるなぁ、ある程度は自動修復したはずだけど、修復が止まってるってことは壊れたってことなんだろうな。


 中に入って、運転席のところまで行くと、前面の窓と天井は結構ひしゃげていた。

 よくこれで運転してたほう、ネリさんかカエデさんかわからないけど、無事だったなぁ…。


 コントロール台のところだっけな、コア。

 ポーチから説明書を取り出して、停止手順をもう一度確認してから、手順通りにしてコアを取り出した。


 そういえばこれって、土魔法で作った塊からできたんだよな、コアを取り出したけど形がそのままなのはどうすればいいのかな…?

 いやまぁ、中に居るまま崩れてきても困るけどさ。土かぶることになるし。


 あ、そうだった風呂に入りに戻ってきたんだった。


 「……馬車だって、人だって、急に止まれないことぐらい子供でも知ってるデスよ!、」


 ああ、お説教続いてた。そろそろとめておくかな。

 え?、だってあまりリンちゃんから叱るとさ、あとで楽しい罰の訓練ができないだろ?、じゃなくて、リンちゃんばかり悪役になっちゃうだろ?


- リンちゃん、もうそれぐらいで。


 「タケルさまは甘いのデスよ!、ネリさんなんて2度目デス!、タケルさまからも叱ってくださいデスよ!」


 かなり怒ってるなぁ、それにしてもネリさんはともかく、カエデさんが?、ってのが気になるな…。

 さっきのようにしゃがんで2人に目線を合わせる。


- まぁまぁ、ところでカエデさんはどうしてなんです?


 すると正座したままのカエデさんは口のところを指差して、パクパクしてる。

 ん?、声が出せないってこと?

 リンちゃんを見上げる。


 「喋らせると2人で口論し始めてうるさいので黙らせたデス」


 リンちゃん…、ってかそんなのできんの?


- ……カエデさんだけ解除してあげて。


 「わかりました」


 ネリさんが涙目で自分を指差して口パクで訴えてるけど、ちょっと放置。


- で、どうしてなんです?


 「あ、声が、あ、えっと、その…、私も運転に興味があって、ネリが、えっと、すごく楽しかったって、今度のは前より安全だからって、だ、ダメだって言ったんですよ!?、でもその、今ならちょっとだけ動かして元の場所に戻せば大丈夫だからって…、ご、ごめんなさい!、こんな…、ことに…、なるなんて…、ひっ、その…、うぅ…、ぅえぇぇ…」


 あらま、泣き出しちゃった。まるで子供だなぁ、まぁしょうがない。

 一歩踏み出して頭を抱えて撫でてやった。


- 大丈夫、怪我しなくてよかったね。運転、楽しかった?


 「…(こくん)…」


 ぶつかる時は怖かったんじゃないかな、妙なトラウマになっても困るし。

 さて、カエデさんが少し落ち着くのを待ってから、ネリさんだ。

 ネリさんのほうも涙目というかもらい泣きしてて、目鼻が赤い。


 さて、ほんとこいつどうしてやろうかw


- カエデさんはお部屋に行っていいですよ。リンちゃん、ハルトさんとサクラさんの怪我は?


 「すぐにメルさんが治しました。今はそれぞれのお部屋で待機してもらってます」


- そっか、んじゃ片付けようか。


 「はい」


 そう言って立ち上がると、ネリさんが自分を指差してアピールし始めた。


- 正座。


 って人差し指で膝のとこ指差して言うと、しゅんとなって大人しくなった。

 ついでだからこないだ作った土アレイがあったよな、ああ、あったあった。これ持たせて身体強化させとこうか。


- はい、ネリさん身体強化してこれもって。


 え!?、ムリですムリです!、みたいなジェスチャーしてるけど、正座してる脚の上に差し出した。


- 手、離しますよー、3・2・1


 涙目になって両手で支えるネリさん。

 泣いて落ち着いて泣いてを繰り返してたからか、袖んとこが濡れてるし目鼻も赤いんだけどね。

 ちゃんと身体強化してるようだ。そうしないと持てないもんね、これ。

 2個じゃなくて1個なんだからまだましでしょ?

 片付ける間このままでいてもらおうか。


- リンちゃん、これ土魔法で分解して大丈夫なの?


 「できれば、ガラスと金属部分は避けてもらえると助かりますが…」


 ふむ。素材にしたほうがいいもんね、アルミがあったらもらおうかな、水筒にしたいし。


- そっか、やってみる。


 ん?、金属部分って結構少ないな。こうして分解してみると土を固めて板状の石にしてるけど、内側は蜂の巣みたいになってるわ、すごいな、面白い。

 でも機関部とかどうなってんのかさっぱりわからん。前回のもそういえば普通に分解できたっけな、椅子やテーブルを土に戻すときと同じように。

 脚部は芯と関節部が金属か…、どうなってるんだろうな、もしかしてコアに一部金属部品が内蔵されてたりしてたのかな、ポーチとかみたいにさ。ガラスも。


 ま、考えてもわからん。分けて分解するの結構手間かかるけど、なんとかなった。


- こんな感じかな?


 「はい、ありがとうございます、(こんな短時間でできるなんて…)」


- ん?


 「いえ、助かりました」


- そう。それで小屋の壁はどうしようか?


 「あ、小屋にはコアがありますのでこちらでやっておきます」


 ああそっか、ある程度は自動修復するんだっけね。


 (ずず~)


 あ、ネリさん下向いて、ん?、鼻水すすってたのか?

 声出せないままほったらかしたのが(こた)えたか、さすがに。


- リンちゃん、ネリさんも解除してあげて。


 「わかりました」


- ネリさん、反省しました?


 「……じばじだ……」


 あー、両手が塞がってるから、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだよ…、しょうがないなー…。

 土アレイを取ってあげて、ポーチからタオル出して渡す。


- 顔洗ってきていいですよ。


 「はひ……」


 のそのそ立ち上がって、あ、脚痺れてるのか、手伝ってあげたいけど、これも罰のうちだということでのそのそ歩く背中を見送った。


 晩御飯抜きにしようと思ってたけど、やめとくか…。




20191109:誤字訂正。 内臓 ⇒ 内蔵

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキングぅ!
小説家になろうアンテナ&ランキング
ツギクルバナー
2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ