2ー035 ~ 火の精霊
うーん、『どういうこった?』と言われても正直答えに困るんだよね。
どういえばいいのか。
勇者の秘密だ、って言ったって相手も勇者、大先輩だし…。
兵士のみなさんを返してから訊いてるわけで。そのへんわかって言ってるんだろうしなぁ。
精霊の加護だってまるっきりウソでもないし、言い訳に使ってしまってるし…。
全部話すのはいいんだけど、どこから話すべきだろうか…。
- ハルトさんに隠すつもりは無いんですよ。それで段階を追って説明したいと思います、いいですか?
「そうだな、いいだろう、俺も別に問い詰めようと思っているわけじゃない」
おや、何だか安心したような表情。なるほど、するとさっきのは言葉どおりで、問い詰めているのではなく怒っているのでも興味からでもないということか。理由がありそうだからまずそこをきいてみようかな。
- そこでまず、ハルトさんがそのように仰るということは、精霊の存在を伝説などではなく、確信を持っていらっしゃるわけですよね?、どうしてなんです?、良かったら話してくださいませんか?、あちらで。
とテーブルのほうを示す。ハルトさんはそれに軽く頷き、歩きながら話した。
「ああ、確信はある。だがこの目で見たわけじゃ無い。そうか、まずそこからか…」
ぞろぞろとテーブルに着く一同。ささっとお茶とお菓子の乗った大皿を出すリンちゃん。
当然のように手を出す女性陣。ハルトさんも苦笑いしてる。俺も。
2人無言で一瞬顔を見合わせて、妙な連帯感を持ってしまった。
「この『フレイムソード』だが、最初から俺が持っていたわけじゃない」
そう言ってハルトさんが話してくれたのはこういうことだった。
ヨーダと呼ばれていたヨダ=ソウイチロウという最初の勇者が持っていたこと。
彼はハルトさんにとっては師であり友であったこと。
勇者である前に人であること、それでも勇者であろうとして苦悩していたが立派な尊敬すべき人物だったこと。
50年前に剣を託されたこと。彼が一度だけ『剣の声をきいた』と語っていたこと。
ハルトさんはそれを信じて剣の腕を鍛え続けたこと。
数年前に1度だけ、声のようなものを聞いた気がしたが、そのときは激しい戦闘の最中で、よく聞き取れなかったのを悔やんでいること。
「俺は剣に宿る精霊の声だと思う。声色は覚えているんだ。聞けばわかる。だから精霊について知りたい」
- なるほど、そういう事情があったんですか…。
「『精霊の加護』というのが方便かもしれんとは考えた。だがもし方便でないのなら、教えてくれないだろうか?」
50年100年、俺にとっては想像もつかないほどの年月に思える。そんな道を歩んできたハルトさんたち先輩勇者は素直に尊敬するし、その気持ちを汲むなんて偉そうなことは言えないが…、よし、その『剣の声』とやらを確かめてみようじゃないか。
- わかりました。では少し確かめたいので、『フレイムソード』を少し貸してもらえませんか?
「ああ、構わない」
ハルトさんは腰から鞘ごと抜き取って手渡してくれた。
さぁ、試してみようか。
●○●○●○●
さすがは伝説の武器。恐ろしい力を秘めているとわかる。
リンちゃんに障壁を強めに張ってもらい、そこから30mほど離れる。
何故かハルトさんだけじゃなくみんながその障壁の前に並んで立っている。
メルさんとネリさんなんか目がきらっきらだ。wktkってやつだな。
まず、普通の感覚で魔力を篭めてみた。
白く輝き出す剣身。
「白色!?……だと…?」
ハルトさんが呟くように言っているのが聞こえた。
50m先ににょきっと作った土壁に向けて構え、一歩踏み出すとともに振ると、そこに向けて白熱の剣が伸び、振り終えると元に戻った。
土壁はあっさりと切断され、切り口は黄色から赤でドロドロだ。
振ったときの熱で足元から土壁まで放物線のような形で焦げている。
普通の感覚で魔力を篭めてこれか…、多めに篭めるとどうなるのか怖いぞ?
熱気がすごいので少し抑えよう。
としたら急に後ろに青年が現れた。驚くリンちゃん以外のギャラリー。
俺は魔力感知で精霊クラスの存在だとわかったのでゆっくりと振り向きながら挨拶をする。
- 初めまして、ナカヤマ=タケルと言います。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?
『ほう?、驚かないのだな。よかろう、私はフェブリ=カロール#$%&だ。タケルと言ったか?、私を喚び出すとはなかなかのものだ。褒めてやろう』
- お呼びたてしたつもりはなかったんですが…。
『何だと!?、用も無いのに私を私を喚んだというのか!?、しかし確かにその剣によって喚ぶ声を聞いたぞ?』
「タケルさまに呼ばれたというのに偉そうなのデス、光栄に思うべきなのデス。フェブリ=カロール#$%&!!」
え?、ちょ、リンちゃん!?
『な!?、光の!?』
『そうです、勝手に湧いて出たのならタケルさまに傅き、お言葉を賜るまで静かに待てばよいのです、身の程を知りなさい無礼者』
え!?、ウィノアさん?
『うっ、水の…、タケルとやら、お前は一体…』
「タケルさまを呼び捨てに!?、まだ分からないのデスか!」
『お前はこいつの何だというのだ…!』
「お前にお前と呼ばれる筋合いはないのデス!、あまり物分りが悪いと消すデスよ!?」
な、何かヤバくないか?、ここで精霊戦争勃発しちゃう!?、俺逃げたほうがいい?
『何だと!、この…』
『消しますよ?』
『うっ……』
たぶん火の精霊さんだと思うけど、フェブリさんって言ったっけ、リンちゃんとウィノアさんから言われて、青い顔して大人しくなっちゃったよ。
火って青いほうが温度高いんじゃなかったっけ?、どーでもいいか。
『タケル様、このような無礼者にお声などかけてはなりません、ささ、そのような無粋な剣などそこらにでも捨て置きましょう』
『そ、それはさすがに酷いのではないか?、それは仮にも伝説の、』
慌てるフェブリさん。と状況に全くついて行けてない俺。とギャラリー。
『あら、まだ居たんですか?、ささ、タケル様、そんなものポイしちゃいましょう』
『あっ、今それを手放されt…』
あっ、ウィノアさんが俺の手から『フレイムソード』をそっと取ってホントにポイって…、今剣身のとこ持ってませんでした?、熱くないんですかね?
そんで情けない表情のまますぅっとフェブリさんが消えちゃったんだけど。
- 借り物なんですから、そんな雑にしちゃダメですよ。一応はこれでも伝説の武器なんですから。
と言って拾う。魔力を通さないようにして鞘に収め、ハルトさんに返しに行こう。
あ、メルさんまた跪いてる。って立ったままなのハルトさんだけじゃん。
他は跪いてるわけじゃなく、地面にへたり込んでた。
『そんなモノにまで敬意を払う必要なんてありませんのに…』
「そうですよ、タケルさまは博愛すぎです」
- そういうのじゃないんだけどね…、ハルトさん、これお返しします。
「お、おい、い、いまの、それと、そちらの、こちらの、」
またか…、でもこれからもあるんだろうな…。
- ハルトさん、落ち着きましょう。とりあえず剣を受け取ってください。
「タケル君、いや、タケル殿!、頼みがある!」
- は、はい?、なんでしょう?
「もう一度、火の精霊様を喚び出してくれないか?」
- はぁ、それは構いませんが…、
「記憶にある声色は確かに今しがたの精霊様のお声だった!、その剣の持ち主としてお言葉を賜りたいんだ、頼む!」
- あっ、頭を上げてくださいハルトさん!
『あれを喚び出したとしてもまた同じモノが出てくるかどうか、わかりませんよ?』
「そうですよタケルさま、煩わしいだけですよ?、時間のムダです」
- ちょっと2人とも、って、それどういう意味?
リンちゃんとウィノアさんは顔を見合わせたが、どうやらリンちゃんが続けて説明をするようだ。
「火の精霊というのは、意思疎通は可能ですが気まぐれに過ぎるのです。具体的には人の形をとるとき、それが一定ではなく、出鱈目に老若男女のどの姿をとってくるのかがわかりません。性格は基本的には同じですが姿によって多少の差があるようです。熱しやすく冷めやすい、そして物事に拘らないので過去のことを覚えません。自分に関係することには知識がありますが、関係のないことには興味を持たない、とても扱いに困る存在なのです。タケルさまが喚び出されても、そちらのハルトさんのことを覚えているかどうかわかりませんし、姿によっては勝手気まま傍若無人で周囲のことなどおかまいなしですから迷惑されると思いますよ?」
それはひどいな。ハルトさんなんて言葉を失って口を半開きにしてるよ?
- つまりこの剣の能力を引き出すとその迷惑な精霊さんが出てくる可能性があるってこと?
「いいえ、あんな事をしなくても宿っているのは確かなので、魔力を篭めて呼べば現れるでしょう。ですが剣にこびりついたゴミのようなものなので、煩わしいなら消し飛ばしますよ?」
ゴミて…、酷いなw
- その場合、もう出てこなくなると?
「その場だけですね。そしてまた出てきた場合にはそのことを覚えていない可能性があります」
- ということらしいんですが、ハルトさん、どうしましょう?
「それでもやってみてはもらえまいか?」
- わかりました。
「やるんですか?、タケルさま。やめておいたほうがいいと思いますが…」
ウィノアさんも頷いてる。
- まぁやってみるよ。別に能力を揮う必要はないんだよね?
「はい」
- んじゃここでいいか。
鞘から抜いて、魔力を篭める。今度は弱めにしておいて徐々に上げていこう。
早速出てきたよ。ほんとだ、違う精霊さんだ。
『ふぅん、この私を喚び出せるなんて大したもんじゃない?』
- タケルと言います。あなたは?
『アドレ=カロール#$%&よ。ねぇ何して遊ぶ?、どこを燃やして欲しい?、凍らせるのでもいいけどやっぱり爽快感が欲しいものね?』
なんだこれ。高校生ぐらいか?、身振り手振りが大仰で芝居掛かっててわざとらしい。あーあ、ハルトさん固まってるよ。そりゃそうか。
- さっきは確かフェブリさんだったと思うんだけど、代わってくれたりしない…よね?
『フェブリ?、さっき?、興味ないわ、ねぇ他に言う事ないの?』
- ごめんね。
『あっ、ひど…』
俺はそう言って魔力を止め、鞘に入れた。
何か言いかけてたようだが、そうしないとなんだか危険だったからだ。
リンちゃんもウィノアさんも臨戦態勢みたいになってたし、アドレさんだっけ?、あの精霊さんの魔力がぶわっと燃え上がるように膨らみかけたんだよ。
- 確かにこれはリンちゃんの言う通りですね、どうします?、フェブリさんが出るまでやります?、まぁもう1回ぐらいやってみましょうか。
「すまんな。頼む」
- はい、では。
またすぐ出てきた、今度は少女っぽい。
『へー、お兄ちゃんいい魔力ね。ステキだわ』
- タケルといいます。あなたは?
『ジェリダ=カロール#$%&っていうの。よろしくね、お兄ちゃん』
少しは話が通じそうなような気がする。
- 喚び出すたびに姿や名前が違うのはどうしてなんです?
『お兄ちゃん細かいこと気にするのね。私は私よ?、そんなことどうでもいいから遊びましょ?、私鬼ごっこが得意なの。鬼を追いかけるの。どれが鬼なの?、どれを追いかければいい?』
あ!、これヤバいやつだ!。急いで消そう!
- ごめんね。
『そんな…』
あーヤバかった。目つきとか魔力とか。『どれが』って皆のほう見てたよ、獲物を探す目つきで。しかも魔力が膨らみ始めてた。ヤバすぎる。
- これ……戦闘中なら戦力になりそうですけど、危険極まりないですね。
「ああ、そうだな…。……俺は火の精霊を出せないことを喜べばいいのか未熟だと嘆けばいいのかわからなくなってきたよ…」
- そうですね、お察しします。何だかすみません。
「タケル殿が謝ることではないだろう。ところでそちらの方々は、精霊様でしょうか?」
- あっはい、こちらが水の精霊ウィノアさんで、そちらは光の精霊リンちゃんです。
二人とも声を出さずに頷いただけだった。ああ、火の精霊が宿ってる剣の持ち主だから直接喋りたくないのか。あとでハルトさんにはそう伝えておこう。
と思ったらハルトさん土下座してるんだけど…、またか、またなのか…。
だからウィノアさんの実体化は危険なんだよ…、はぁ…。
火の精霊とは別の意味でだけどな。
●○●○●○●
いろいろヤバかった火の精霊召喚だった。一番偉そうなフェブリさんが一番大人しかった気がする。女性って怖いね。いやはや…。
あ、いやみなさんの事じゃないですよー、どうしてこうみんな勘が鋭いのか、ちょっと思っただけじゃないか。4人でピクっと反応してこっち見るとか、どうなんだ?
もしかして魔力感知の訓練の成果なのか?、そんで俺って感情とか考えてることが魔力にダダ漏れ!?、だったらやだなぁ、訓練のとき試してみようか…。
それはさておき、あのあとウィノアさんとリンちゃんを拝み倒してたハルトさんと、リンちゃんには慣れてたけどウィノアさんには慣れてない2人が拝み倒してたのを収拾つけるのが大変だった。精神的に。
え?、ひとり足りないだろって?、ああネリさんね。彼女はそういう信仰心薄いみたいだから大丈夫だった。
ウィノアさんがじっと見て、サクラさんがネリさんの袖を引っ張って、それで土下座してた。俺もしなくちゃいけないような気がしてきたけど、そうすると収拾つけるひとが居なくなる。
それに気付いて、ウィノアさんをとめようと肘んとこ軽く引いただけなのに、よよよと俺にしなだれかかってきて、リンちゃんの機嫌が悪くなった。
ウィノアさんをそっと押して、リンちゃんに近寄ってとりあえず頭撫でておいたけどさ。そしたらウィノアさんが膨れてた。どうしろと…?
それでテーブルんとこまで行って、みんなが落ち着くまで待ってたんだけど、ちゃっかりウィノアさんまで席についてたんだよね。
そんでどこから出したのか、夏みかんみたいなフルーツの入った籠がテーブルの上にあって、それ剥いて食べてんの。
もしかしてどこかでお供えされたものだったりして。
俺も剥いて食べたけど、夏みかんとも違うしライムでもないしグレープフルーツでもない、でも柑橘系だということはわかった。美味しかったよ。
この果汁でアイスキャンデーとかシャーベットとかあるといいね。ってリンちゃんに伝えておいた。そのうちモモさんが作ってストックしてくれるんじゃないかと期待しよう。
ところでウィノアさんも飲食できるのね。今まで見たこと無かったんで飲食しないのかと思ってたよ。
20180708:未変換だった箇所を漢字に訂正





