2ー032 ~ 竜族
小屋に戻るか先に進むか微妙な時間だったので皆の意見を訊いてみたところ、進んでもいいということなので進むことにした。
それで、池を挟んで向こう側にもダンジョンがあるので、ああ、池のこと言わないとね。
ここの池は、池というよりはここだけかなり太くなった川のカーブ部分みたいな感じなんだ。北を上にみた地図でいうと、逆『く』の字なわけ。
池には川が2本ある。流れ込んでくる川と、流れ出て行く川がある。
上流側は、南西の方角にある山々のほうから流れてきていて、下流側は魔物侵略地域の中央を流れる太い川へと繋がっている。
それで今日潰したダンジョンは、『く』の字の頂点から少しハムラーデル側、つまり南に寄ったところにあったわけ。ハムラーデル東3、っていう事なんだけどね。
池の向かい側のダンジョンは、下流側の川の近くにある。
なので今から向かうダンジョンは、ハムラーデル東4。
ということで試作品改良型『スパイダー』の水上テストができるわけだ。
「今度のは水上も行けるんですか?」
- 説明書によればそのようですね。一応は、水上の試運転も済ませてある…。
ここでチラっとリンちゃんを見ると頷いてる。
- らしいです。でも何となく1回試しておきたいなと。
「はーい!、はいはーい!、水の上の運転してみたいです!」
- ダメ。
「えぇー?」
「ダメです」 「ダメだな」 「ダメですね」
- ほら、全員一致で却下。今回壊されたら向こう側に行くのにぐるーっと回るか船作ってせっせと漕がなくちゃならなくなるでしょ?、だからダメ。
「しょぼーん」
それ、口で言うもんなの?、擬音じゃないんだ…。
- もしかしてお留守番希望かな?
「あっ、置いていかないで!、大人しくしてますので!、はい」
また敬礼してるし。びしっと立って。ここんとこキャラ崩壊激しいな。
それだけ打ち解けてくれたってことなんだろうけど…、何だかなぁ、釈然としないものがあるな。
黙ってたら金髪碧眼のドイツ人で、たぶん誰が見ても美人だとか綺麗とか言うような子なんだよね、このひと。だからギャップが激しい。
最初偉そうに先輩っぽく振舞ってたアレは一体何だったんだ…?
まぁ考えてもしょうがない、慣れるしかない。
とにかく一度テストってことで俺だけ乗って池にのりだそうってことになった。
その前に、こちら側はカーブの外側だからか、もう今は流れが激しいわけじゃないんだけど、元の名残りなのか水面まで少し高さがあって、池にせり出してるんだよね、草とか生えてるし。
なのでいつもの土魔法でスロープつくってそこから池に入ることにした。
ゆっくり、って思ったんだけど、いきなり深いな、これ。池の中んとこにも土台作るべきだったか。
あまりスマートとは言えないけど、まぁこんなもんでしょ、って感じで池に浮かべることができた。
これあとで岸に戻るときどうすっか…、やっぱり下に土台つくるか。生態系?、今更でしょ。
水上は、オールのようにというか平泳ぎみたいに、左右4本がスイーっと水をかいで進むようだ。
長いカヌーでレースしてる動画を見たことあるけど、あんな感じ。
でも関節があるからやっぱり気持ち悪い。
慣れるしかないね。
「一定速度で進む感じじゃないんですね」
「そうあまり贅沢を言うものではないだろう」
「そうですよ、陸も水上もそのまま移動できるなんてすごいと思いますよ?」
戻ってくるとそんな話をしていたようだ。
まぁ、見た目はともかく、そのうち慣れるんじゃないかな。
それで皆で乗って、やっぱり重量が増える分、ちょっと沈むし進むのも遅くなったけど、途中で問題児が窓を開けようとしたぐらいで、無事対岸に着いた。
何が、『ボタンがそこにあったからつい…』だよ。窓に水しぶきがかかってるの見えてたろ?、窓開けたら水が入って来るじゃないか。外が気になるならサンルーフから出ればいいじゃないか。
皆に叱られてたからデコピンは勘弁してやったけど。
で、ハムラーデル東4だが、やっぱり4層あった。
その手前でいつものように小屋を作って夕食にして、ちょっと気になったので4層に一人で入ってピンガー撃って魔力感知してみたんだ。
すると中央東5と同じような構造で、同じように翼がちょっと生えてるトカゲっぽいものがボスのようだった。
それでとりあえず3層の小屋に戻り、皆に相談してみた。
- ここのボスも中央東5と同じように翼がちょっとあるトカゲだと思います。
中央東5と構造も似ているような気がします。前んときの地図、まだもってたかな、あ、あった。
「オルダイン殿に渡して来なかったのですか?」
驚いたように尋ねたのはサクラさん。
普通なら資料として全部渡すもんらしいね。
- うん、もう潰したダンジョンの地図なんて必要ないだろうと思って。
「なるほど、確かにそうですね」
- これを見るとほとんど同じだね。
「この左右の部屋も、やはりジャイアントリザードでしょうか?」
メルさんは自分の出番もあるかもしれない左右の部屋のことが気になったようだ。
中は分かりにくいけどたぶん小型と中型のトカゲだろう。
- 魔力の感じからするとそうじゃないかな。
「層の数といい、出てきた魔物といい、同じ時期にできたダンジョンということでしょうか?」
ふむ、さすがサクラさん。そういう観点もあったほうがいいね、あとで報告するのにも必要だろうし。
- 位置的にはこちらのほうが早い時期かもしれないけど、規模などは同じだね。
「あれって泳げるんですか?」
- あれ、って?
「羽が生えてるトカゲ」
- どうなんだろう、泳げても不思議じゃないけどね。泳げなくても翼あるし、もしかしたら川ぐらいなら跳べるかもしれない。どうかしました?
「ん~…、どうやって来たのかなーって思ったんですよ」
今の所、トカゲが移動してるのを見てないんだよね、ボスにせよジャイアントリザードにせよ。ずっと監視しているわけじゃないから、たまたまなのかもしれないけど。
「ところでタケルさん。今回は翼トカゲの様子を見てから倒すんですよね?」
ああ、やっぱり訊かれたか。
- いえ、やはり見える前に倒してしまおうと思っています。
「どうしてです?」
あ、なんか怖い、前回叱られたもんな。けどこれは言わなくちゃいけない。
- 前回のボス部屋の壁などが不自然に崩れていたんですよ。それで、もしかしたら遠距離攻撃で、壁がそんな簡単に破壊できるようなものをもっていたとしたら、近接攻撃をしに近寄るのはとても危険じゃないかと考えたんです。
「そんなにあたしのことを心配してくれるなんて……」
キミだけじゃないから。と、ネリさんに反論したいが我慢して無視しよう。
- 危険だと分かってからでは遅いんですよ…。
「わかりました。そういうことなら仕方ありません」
どうやらわかってくれたようだ。不承不承という感じがしないでもないけどね。
これでだいたい明日の方針は決まった。
●○●○●○●
その夜、アリシアさんから連絡があったとリンちゃんが知らせてくれた。
翼の生えたトカゲのでっかいやつ、あれ竜族らしい。魔物じゃなかった。
倒してよかったのか、って尋ねたら、むしろ倒さなくてはならないんだそうだ。
魔物から突然変異で生まれたとしか考えられないが、それを発見したのが最初で、角がない。
どういう理屈だか魔物を従える。
爬虫類に多く、複数いると鳴き声で連絡を取ったりするが、精霊や人間種とは意思疎通はできない。
魔物と同様に、精霊や人間種を襲う。
特殊個体だと超音波で破壊攻撃をしてきたりするらしい。
その破壊攻撃は危険極まりないので、遠くから魔法で倒すほうがいいと。
「タケルさまの採った方法は最良とも言えるんだそうですよ」
確かに、超音波で破壊攻撃ってそんなの近くで食らったらヤバすぎる。
それが使える相手かどうかわかってからでは遅い。
それじゃあの壁が脆くなっていたのはそのせいか…、人だと少しかするだけでもヤバそうだ。
攻撃範囲があの程度なら避けることもできるかもしれないが…、いや、音速でやってくるんだから常に首の正面に居ないようにしなくちゃならないんだし、危険すぎる。
攻撃範囲?、まてよ?、地図を比較……、うーん、言われてみればこっちのほうが大きい気がするって程度しかわからんな。
とにかく見える前に倒す。倒せなかったら逃げる。卑怯?、そんなこと言ってられねーんだよ。
別の大陸には集団で居ることもあるそうだ。
ああ、だから物騒な超兵器が光の精霊さんとこにあるわけだ。
- ありがとう。アリシアさんにもお礼を伝えておいてね。
アリシアさんかなり忙しいみたいだし。
「はい、あたしも知らされてない事でしたので…」
- 子ども扱いされてるって?
「い、いいえ、そうは言いませんが…」
- 物騒な話にあまり関わって欲しくなかったからじゃないかな。
「はい…」
- 勇者と一緒に居るんだから、そのうちイヤでも関わることになると思うよ。たぶん。
だからこうして伝えてくれたわけだし、今それについて悩むことはないよ。
「はい」
よし、これで心置きなく遠くから攻撃できるぞ。ハハハ。
え?、いやほら今後のこととかボストカゲの攻撃方法がどうのとか、情報がどうのとか言われてたろ?、やっぱりちょっと何だか悪いなーって気がしてたんだよ。
それが晴れた、っていうか大義名分ができた、みたいな感じ。
しかし超音波かー、弱いとコウモリみたいにソナー的なことができるのかもしれないけど…、対策ってどうやるんだ?、音だから真空中は伝わらないよな。
ってことは万が一倒せずに戦うことになった場合、風魔法で真空の壁を?、結界で挟んでつくる?、む、難しいぞそんなの。
周波数がわかれば相殺ってできるんだっけ?、ああ、もっと勉強しておくんだったなぁ…。元の世界だとちょっと調べればわかったりするけど、ああ、でもわからないことも結構あるか。やっぱ勉強できるときにやっとくんだった。
などと今更後悔しても仕方が無い。
とりあえず分かってることと言えば真空つくって直撃を避けるってぐらいか…。
できるのかなぁ…、ちょっと室内でテストってわけには行かないぞこれ…。
そういえばウィノアさんが前に声などを外に聞こえないようにする結界がどうのって言ってたよな。
あれってどういう魔法なんだろう、もしかしたら超音波攻撃もそれで防げるんじゃないか?
リンちゃんにはトイレ行くって言ってこっそり尋ねてみよう。
- 音を遮断する結界ってどうやるんです?、ウィノアさん。
そしてトイレに来て小声で胸元に話しかける俺。言うなって。わかってるから。
『こんな感じですね。でも竜族の超音波を防げるかどうか、試したことがないのでわかりませんよ?』
ふーむ、なるほど、やっぱり真空なのか。魔法瓶みたいなもんだなこれ。
といっても魔法瓶なんて作ったことないけどな。
- ありがとうございます。覚えました。こう……ですかね?
『さすがですタケル様。一度で覚えてしまわれたのですね』
- あっはい。ウィノアさんが分かりやすく手本を見せてくれたおかげです。
『ふふっ…』
考えてみりゃダンジョン崩すときに土魔法で振動与えてたし、いつもやってるアクティブソナーやレーダーの魔法、あれも光属性だけどパルスで振動だよな。
もしかしたら今教えてもらった結界で指向性を持たせられたら、俺も超音波で破壊とかできるのかな?
あ、ダメか。超音波っていうか魔力のパルス振動になっちゃうので、『音波』じゃ無い。たぶん出力あげたら結界を抜けちゃうんじゃないか?
出力の大きな魔力パルス振動が、どんな影響を周囲に与えるかわかんないからやめとくか。
ん?、出力?、あ、そか、別に出力大きくしなくてもいいのか。
器に水いれて、底に石ころでも入れて、その石に土魔法で超音波みたいな振動を与えれば、水面から霧がでるんだっけな。
それで水の途中に結界つくって霧が出なくなれば防げたってことだ。
それぐらいならすぐ外でもできる。
やってみた。霧が出なくなった。
よし。とりあえず防げるかもしれない。
ちょっと周波数上げていくか。ん?、あれ?、土魔法で作った器が割れた。
あ、そか、電子レンジみたいになるのか、何ヘルツとかわかんないから適当にやってしまったけど、マイクロ波まで?、あ、そかレーダー魔法みたいな感覚でやったせいか。
そりゃ割れるよな、結界で真ん中塞いでるんだから。膨張か。なるほど。
うーん、でも電界強度とかよくわからんなー、やっぱ一度は竜族の超音波を結界で止めてみる必要があるなー、これは。
今のところは防げればラッキー、って程度に思っておくか。
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作者注釈:
器が割れたのは密閉された水が一部、超音波振動によって霧化しようとしたのと、器自体に振動が伝わったため、一部がもろくなったせいだと考えられます。
つまりいろいろな条件が重なったために壊れたのであって、電子レンジになったわけではありません。
20180708:注釈追記





