2ー030 ~ 試乗
「これはとても乗り心地はいいですね」
サクラさんがしみじみ言う。
うん。乗り心地『が』いい、ではなく、乗り心地『は』いいんだよね。
左右の音と、後ろが若干耕されてしまうことを除けば。
- 地面を走る音は仕方ないですよ…、あと、見た目もね。
「こんなのに乗れるとは思わなかったー!、すごい、すごい!、カッコイイ!!」
ほんっと、このひとだけはどこにツボがあるのかさっぱりわからんな。
ゲーム系かと思えばロボ系もいけるクチなのか?、ってロボじゃないかこれ。
「馬車や馬よりも早いですね。正面からの風が少々気になりますが、自分で走るときのように魔力を纏って保護すれば問題ありません。音も気になりますが、左右の脚が長いので、乗ったままでは槍が使えませんね、もっと長い武器が必要でしょうか?」
メルさんは一体何の視点なんだろう?、騎士団にこんなの配備するつもりなんだろうか?、広める気なんてないんだけど…。
「魔法か弓を使えば何とかなりそうですね」
「なるほど、これぐらい安定していれば弓も扱いやすいかもしれませんね」
「あとは矢盾が必要でしょうね」
「そうですね、相手からも丸見えですし」
現に今、魔法で遠くの魔物を倒してるじゃないか…。
何だか魔物じゃなく対人戦闘を前提に話をしてるようなメルさんとサクラさんに引くわー…。
こっそりリンちゃんに聞いてみよう。
- リンちゃん、これって武装あるの?
「これは試作品ですから武装はありません。正式採用時には前と後ろに武装がつきますが…、タケルさま、人種にそんな物騒なものを見せてしまわれるのですか?」
- え、どんな物騒なものがつくのさそれ…。
「TW@YL(4D=4とF{>R+-X@-=4ですね」
- え?、何だって?
「あ、えっと…、うーん…ヒト種の言葉でこれに該当するものが無いようです、すみません、原理を説明しようにもそこがまずダメで…」
ということは元の世界にも無かったような超兵器ってことか。
もしかしたら概念とか創作物にはあるかもしれないから、日本語になら訳せるのかもしれないけどね。
だったら原理とか説明されてもわからんだろうし、超兵器ってことでいいや。
しかしこの程度の乗り物にどんな物騒なもん搭載するつもりだよ光の精霊さんたち…。
正式採用って言ってたよなぁ…、なんかUFO的なものもあるみたいだし、おっそろしい種族だな、マジで。
一体何と戦うってのよ?
- ああはいはい、精霊さんの超技術兵器ってことね、何となくわかったからいいよ。俺が乗り回すものにそんなもの搭載しちゃったらマズいよね。それでこれって今は誰でも動かせるんじゃない?、今は便利だからいいけども。
「はい、それも正式採用時には使用者登録で動かせるようになるはずです」
- そっか、それなら大丈夫だね。俺が心配するようなことじゃなかったね、リンちゃんたちに任せるって言ったんだから、余計だったわ、ごめんね。
「いいえ、我々はタケルさまのお役に立ちたいのですから」
そう言って微笑むリンちゃん。可愛い。
いいよ、そうやって笑顔でいてくれるのなら。
でもね、いくら魔力感知で前見なくてもいいとはいえ、絵面がね…。
やっぱり前見て運転して欲しいな…。
●○●○●○●
なんだかんだ言いつつ、もう結構少なくなった魔物を発見次第倒して回収したりしてた割りには、新拠点から川の小屋まで小一時間ってところだった。
50km以上あるはずなので、時速100kmぐらい出てたんじゃないか?、もっとか?、俺が頑張って走るよりは遅いけども、ネリさんやサクラさんよりは早いかもしれない。
そう改めて考えてみると、俺ってもう人外だよなぁ…。
「(はい……ええ。やはり稼動部分の排熱処理には問題がありますね…、熱循環回路の見直しが必要でしょう、それとタケルさまが走行時に風防があったほうが良いと、ええ、はい、なるほど、パッケージングですか、はい、はい、あ、専用機には武装は不要とのことでした。え?…、そうですね、なるほど、ではその方向で、はい、お願いします)」
降りて小屋のところでお茶してる間に、リンちゃんは乗ってきた試作品のチェックをしながら光電話してたよ。そんなときまで電話のジェスチャー要らないのにね。
見た目小学生ぐらいのミニスカメイドが事務的口調で技術者と電話…、シュールだ。
「ねぇ、ねぇってば」
- はいはい?
「あれってあたしでも運転できるのかな?」
- できると思いますけど、したいんですか?
「うん!、高校卒業したら免許とろうって思ってたのにこっち来ちゃったんで運転とか興味あるんだ。乗馬はこっちで覚えたけど、やっぱり乗り物ってのとは何か違うし」
ああ、そうだろうね、馬は生き物だし。
でも俺、馬に乗れないんだよね、こっち来てからも乗る機会なかったから。
- へー、僕は馬車ならあるけど、馬の背にはまだ乗ったことが無いんですよ。
「え?、そうなのですか?、でもタケル様ならすぐ乗れるようになるんじゃないでしょうか?」
メルさん…、何その根拠のない微妙な励まし。
- いや、何だか大きい動物だし、怖いじゃないですか?
「えーー意外~!」
「馬よりもずっと大きな魔物をあれだけ倒しているのにですか?」
いやいや、馬は倒しちゃダメだろう。今の所は襲ってくる馬に遭遇したことないし。
- 倒すのと乗るのとでは違うと思いますけど、乗ったことがないからそう思うだけかもしれませんね。たぶん、メルさんは騎士ですから乗りなれてらっしゃるのでそう思うんですよ。
「私は最初から馬を怖いと思ったことは無いのですが…、あ、次に新拠点に戻ったときにでも、乗馬をしてみませんか?、そ、その…、怖いなら私と一緒に乗れば…、」
おお、乗馬体験ってやつだな、やってみたいかも。
この世界ってどこに行ってもだいたい馬が居るので、乗れるようになっていたほうがいいとは思ってたし。教えてくれるなら嬉しいかも。
「じょ、乗馬なら元の世界でもやってましたのでお教えできますよ!」
「あ、サクラさんズルいです!、はいはーい!、あたしも乗れます!」
何なんだこの2人は。って、サクラさん、そっか、お嬢様学校って言ってたっけ、そういうカリキュラムあるのかな、なんかスゲーな。ちょときいてみよう。
- お嬢様学校のカリキュラムに乗馬があるんですか?
「はい、選択科目でしたがありました。でも私は親が時代劇関係の仕事をしていたので、乗馬は小さい頃から祖父や父に連れられてよく馬場に通っていましたし、慣れているんです」
- なるほど、時代劇…?、ああ!、確かに映画とか馬がよくでてきてましたね!
「へー、そうだったんですか、ちぇー、だったら乗れるだけのあたしなんて出番ないじゃん~」
キミは何なんだw、口を尖らせてるけど、ほんと見かけと中身のギャップが激しいな、このひとは。
「その、『ジダイゲキ』とは何なのでしょう?」
あ、そか、メルさんに伝わらないよね。
- 時代劇というのは、現在よりも古い昔の時代を舞台にした演劇作品のことです。
「なるほど、それで乗馬が…」
伝わったのだろうか?、まぁいいか、何となく納得してくれたみたいだし。
- それで、ネリさんが運転してみたいなら、少しやってみます?、シートベルトは無いのであまり激しい動きをしないように、急激な操作は厳禁ですよ?
「はーい!、注意しまっす」
立ち上がってビシっと敬礼するネリさん。ほんともう、何なのこのひと。
リンちゃんに目線で合図をしたら、構わないようだったけど、何か雰囲気的にジャンケンで負けたような気分で俺が同乗することになった。
●○●○●○●
「わ!、動いた!」
そりゃ動くよ…。
「回った!、あははははは!」
左右のレバーを前後それぞれにすればそりゃそうなるって、回りすぎ!、何すんのこの子…。
急激な操作はダメだって言ったのに!
- ね、ネリさん回しすぎ、普通に運転してー!
「あはははは、たーのしー!、タケルさん何してるの?、あははは!」
今度は逆回転かよ!、土埃がすごいんだけど!
あ、あっち側はリンちゃんが障壁と風魔法で土埃を防いでる。ズルい!
それで嫌がってたんだな。
こっちも障壁張るか、ああぁ、目が回る…。
「こっちがブレーキだっけ?」
- 逆です、うわっ!
「あ、こっちがブレーキかー、あははは!、危なかったねー!、あははは!」
ぐいーんと曲がって小屋の壁にぶつかるところだった。心臓に悪い…。
「そんで、こうかな?、おお~、早い!、たーのしー!」
だからそんな急に魔力を篭めないで!、そっちは川が!、ああああ!
顔が引きつる!、この子には運転させちゃダメだ!
「おおっ、ちゃんと止まった!、ねぇこれって水の上とか行けるの?」
行けるもなにも、もうここ水の上ですが?
- これ以上深いところはここに水が入って来るのでダメじゃないかな?、戻ってくださいよ…。
「んー…、それがね?、なんか動かないの」
- え!?
なんですと!?
あ、リンちゃんが走ってきた。
そのリンちゃんに後で聞いたところ、一応フィルタというか制御弁というか、まぁとにかく入力した魔力に応じて出力が増大するのではなく、ちゃんと絞って必要な分だけ使用するようになっているそうだ。安全弁みたいなもんか。
当然のように言われたけど、入力が大きい場合は一旦余った分をプールするようにもなっているんだそうだ。スゲー…。
「タケルさま!、それはまだ水中稼動には!…、ああ…遅かったです…」
- だとさ。しょうがない、岸まで行きましょう。
「う、うん、ごめんなさい……、えっ?、そんな、荷物みたいに!?、せめてお姫様抱っこで!、あと、向きがおかしいですよタケルさん!、もしかして怒ってます!?、ごめんなさい!、許して!、タケルさーん!」
ネリさんを立ち上がらせて肩をもって向こうむきにしてから、襟首と腰の剣帯をもってそのまま両手で持ち上げ、俺の頭の上に背中をあてた。
そう、まさに荷物のように頭上に担ぎ上げたんだ。
それで無言で、川の中で若干斜めに傾いだ8脚の乗り物から水面に飛び降りて、駆け足で川岸まで行き、ネリさんを降ろした。
そうですよ?、ちょっと怒ってますよ。反省してくださいね。
という意味を篭めて、座り込んだネリさんの眼前に、苦笑いで人差し指を立てた手で念を押すジェスチャーをしておいた。
「う…、ごめんなさい…」
反省したのか、少し涙目のネリさんをそのままにして踵を返し、また川の中の乗り物、いい加減これ名前決めないとね、その所に戻って、土魔法でコアを露出させ、停止キーの魔法をかけてから数秒、コアの光が消えたのを確認してから、コアを抜き、座席を取り外して回収、本体を土魔法で分解、川岸に戻ってリンちゃんにコアを手渡したのだった。
もう、今日はダンジョン攻略する気分じゃなくなっちゃったなー…。
20230510: ネリの試乗前後の文言を訂正。





