2ー029 ~ 乗り物
夜になって、リンちゃんと話してみた。
何を?、ってそりゃ乗り物とか飛行機械とかそういうのの話だよ。
イメージした図面ってほどでもないか、絵のレベルだな、それを焼き付けたりして、いろいろ説明してさ、リンちゃんが筆記具でそれに添え書きのメモをしたりしながら聞いてくれてたんだけども…。
「つまりタケルさまは数人が乗れる乗り物が欲しい、ということですか?」
- う、うん。走るより早く移動できるとか、空を飛んで移動できるとか、そんなの。
「タケルさまより早く、というのはかなり難しいです。馬車じゃだめなんですか?」
- 馬車だと道がほら、整地されてないと跳ねるよね?、道じゃないところばかり移動してるし。それに遅いでしょ?
「なるほど。それで空を。そのための仕組みと概念がこれですか…」
- 難しいかな?
「いいえ、理解はできました。飛行機械をご所望だということもわかりました。しかし…」
- しかし?
「いえ、これは内密にお願いしたいのですが、あるにはあるのです。里になら」
- 飛行機械が?
「宙に浮いて飛んで移動する乗り物という意味なら」
- あるんだ?
「はい。そこで問題なのですが、ヒト種にそれを見せても良いものなのかどうか、あたしには判断できません」
- あー……。
そっか、そりゃ生きた馬が最速…走ったほうが速いひともいるけど、そんな文明進度のところに、いきなりUFOみたいなのを見せるわけにはいかんよなぁ……、うーん…。
「でもこちらなら、何とかなるかもしれません」
- こちら、ってこの6本足のやつ?
「はい。それほど速度がでるかどうかは、自動人形コアの技術者と話し合ってみないとわかりませんが…、昔こういうのと似たようなものがあったはずですので、それを応用すればなんとかなるのではないかと」
- んじゃ悪いけどその技術者さんに話してみてくれるかな?
「わかりました。乗る人数などはこちらで調整しますがよろしいですか?」
- うん、技術的な制約とかあるかもしれないので、そこらへんは自由にやってくれていいよ、もしお金とか必要なら頑張るし。
「それは問題ありません。わかりました。伝えてみますね」
そう言うといつものように片手で受話器のようなジェスチャーをして連絡をするリンちゃん。
あれ?、すげー早口で聞き取れない。あ、精霊語か?、いや、なんかいつもの音と違う、あ、いつもの音になった。まぁいいか、どっちにせよ聞き取れないし。
……。
えらい長いな。待ってても何だから先に寝ちゃおうかな。
「あ、タケルさま、どうぞお先に眠ってください。まだかかりそうですので」
- そう?、悪いね。んじゃお言葉に甘えるよ、おやすみリンちゃん。
「おやすみなさい、タケルさま」
小声になったけど聞き取れないのは同じ。子守唄だと思えばいいさ。
●○●○●○●
「…ま、タケルさま、朝ですよー」
- んぁ?、俺…の抱き枕…は?
「何寝ぼけてらっしゃるんですか、朝ですよ」
- あ、おはようリンちゃん。今俺何か言ってた?
「おはようございます、タケルさま。いいえ?、寝ぼけてらっしゃったのでは?」
- そっか…
軽く伸びをして首や肩を回して、と。
- よし、顔あらって訓練行って来る。
「はい、いってらっしゃいませ」
朝から美少女に起こされ、訓練に行くと美少女2人に和風美人がいて、ああうん、これだけでもモゲロとか言われる気持ちはわからんでもないね。でも手なんて出してないぞ。
とはいえ、イチャイチャするわけでもないんだよねー、眼福だと思うんだけど、でもラッキースケベみたいなのもないしさー、最初の1度だけリンちゃんがお風呂一緒だったけど、その後はちゃんと別々だし、脱衣所でばったり、なんてイベントもないし、魅惑のバストな受付嬢にも出会ったことはないし、ネリさんをおんぶしたりやサクラさんをお姫様抱っこしたことはあっても、胸当て鎧つけたままだし、腰だって鎧つけてたし…、案外思ったより役得じゃないんじゃね?、これ。
それはともかく、いつものように訓練をして、朝食を終えたらリンちゃんに、
「タケルさま、昨夜お話のあったものの試作品が届きましたよ」
と言われてびっくりした。
- え?、もう?、技術者のひとたち寝てないんじゃない?、大丈夫なの?
「そのへんは、大丈夫だと思います」
- そう?、ならいいんだけども…
リンちゃんの様子をみるとなんだか何か隠してるような雰囲気。まぁ、今は言いたくないんだろう。
「それで、どうなさいます?、試してみますか?、できればお早めに試されて、ご意見が欲しいと言われているのですが…」
- そうだね、んじゃ早速試してみようか。それで、俺は何すればいい?
「はい、こちらが推奨完成予想図で、こちらがコアです。足は必ず8本でお願いしますとの事でした」
渡された羊皮紙には、横から上から正面からの三面投影図っていうんだっけ?、忘れたけどなんかそんなやつと、斜め上から見たようなスケッチ、これ、乗ってるの俺とリンちゃんか?、デフォルメしたマンガチック――表現が古いか?――な人物が乗ってる絵が描かれていた。
こういうとこ、芸が細かいよなー光の精霊さんて。
ところで俺が描いたっていうか焼き付けたやつもあっちに伝わってるようだし、この絵もたぶん向こうで描いたやつだよな、どうやって伝えてるんだろうね?、謎だわ。
まさかと思うけど光通信なのかな、ハハハまさかね。
- へー?、あ、ちゃんと屋根もドアもあるんだこれ。んー、屋根やドアは無くてもいい?、シートベルトはないから手すりをちゃんとつけろ?、座席はクッションつきの座席を送る?
「タケルさんそれ何ですか?」
「何ですかこれ!?」
「蜘蛛のようですが……奇妙な…」
- まぁ見ててくださいよ。
「あ、これ乗り物ですか、ほらここ、タケルさんとリン様が」
「ほう、言われてみれば確かに…」
三者三様ってやつだね。
ネリさんは俺と時代が近いから分かるのかもしれない。
サクラさんはどうなんだろうか…。
「座席でしょうか、すると私たちもこれに乗るのですか?」
メルさんは乗り物って言われて思考を切り替えたっぽい。順応性高いな。
「あ、座席は送ってもらってますので、設計図通りに作っていただければ取り付けられます」
- あ、そう。脚部のサイズと稼動範囲を考えて最低この距離を保て?、脚部のサイズまで指定があるな、結構細かいね。
「試作品1号ですから…、人形のように許容範囲が多くとられていないのです」
- ふぅん、そういうもんか。8人乗り、バランスのテストはクリアしたけど、こちらでもやってほしい?、ああ、偏って乗れとかそういう意味かな。よし、わかった。
そうして図面を睨みつつ、土魔法で8脚オープン戦車(笑)を作ってみた。どうよ、一発で結構よさげな感じじゃないか、ハハハ。
「タケルさま、シートのサイズがそれでは合いません」
- へ?、あ、先にシートを見せてもらうんだった。ごめんごめん、横に出してくれてたのにね。作り直すわ。
確かにシートの間隔が短かったわ、これじゃシートの上に体育座りだよハハハハ。はぁ…。
……
よし、これでいいんじゃないかな?
- こんな感じ?
「ばっちりですタケルさま、シートの足を差し込む穴の位置まで完璧です!」
- ふふん、まぁざっとこんなもんよ。
あ、いつの間にかこの拠点で働いている人たちや、近くの天幕に居た兵士さんたちが取り巻いてた。
今更散れとは言えないので放置する。
- コアはここにいれて埋めろってことか。
運転席?、まだ台があるだけで何もないけど、その横んとこに穴開けろって指定があったんであけておいたんだが、コアを入れる穴らしい。
もらった羊皮紙の裏面に説明書きがあったわ。
2枚にしてくれてもいいんだよ?、リンちゃん。
コアを入れて土魔法で埋め、魔力をその上から流す。
すると運転台にスティックが2本生えてきた。2本?、ハンドルじゃなく?
あ、足元にもペダルが2つ生えてた。
えーっと何々?、スティックは左右の脚を操作する?、ペダルはアクセルとブレーキ?、アクセルを踏まずにスティックで前後の操作もできる…、なるほど?、わからん。
- リンちゃんは操作できる?
「たぶん、できると思います」
- んじゃ任せた。
「えっ?、タケルさま運転しないんですか?、だってこれタケルさまが考えた…」
俺が考えたわけじゃないんだけどねー、元の世界には似たようなもんあったし、創作物にもでてきてたしさ。
- リンちゃんがやってるのを見て覚えるよ。まずは乗ってみて動かしてみようか、リンちゃんお願い。
「タケルさまがそう仰るのでしたら…」
リンちゃんはしかたないなーって言うような表情で乗り込んだ。
あ、ドアがないから乗り辛そうだ。
そういえばリンちゃんってスカートがめくれたりしないな。こういう時にも中が見えたりしないしさ。フシギナチカラってやつか?、まぁ、見えないなら心配いらないか。
とにかくこれあとで変更しないと。ドアのヒンジってどういう構造だっけ?、蝶番ぐらいならわかるんだけども…、ドアノブ引いたら中で爪がひっぱられて、えっと、棒みたいなのを掴んでるのが開いて、あーもうめんどくさいから、柵とかのカシャンって金属の帯を嵌めるやつで……、じゃダメかやっぱり。揺れるしなぁ……走行中にドア開いたらあぶないし…、仕方ない、ちゃんと考えるか。
ふむ、さすが光の精霊さんの技術者たちだわ。すげー、動きが虫だわ、気持ち悪いな。慣れるしかないんだけど、乗ってる部分はほとんど揺れずに尖った脚がめちゃくちゃスムーズに、器用に動いて結構早いぞこれ。
馬車なんてメじゃない速度がでてる。
試作品だよな?、マジか。
サクラさんは口を押さえて目を見開いていたけど、気分悪いんじゃないよね?
ネリさんは『マジで?、マジで?、すごいすごい!』って大興奮してたんだけど何かツボったんだろうか?
メルさんはぼーっとしてた。驚くのに慣れてきたのかな?、いい傾向だようんうん。
ギャラリーの人たちはざわざわ言ってた。まぁ気持ちはわからんでもない。ってかさっきより人が増えてないか?、ヒマなのか?、ああ、俺たちが魔物倒しまくってるしダンジョン潰してるから湧く数も減って、もう襲来してくる頻度がかなり少ないもんな。ヒマだよなそりゃ。
リンちゃんが戻ってきた。
「これはなかなか乗り心地がいいです、速度も結構出ますが、操縦者の魔力を吸い上げるので、練習が必要かもしれません」
と言って降りてきた。
今日はこれで我慢するとしても、やっぱドア必要だよなぁ…、そのへんも相談しよう。
そんじゃまぁ、川のとこの小屋まで行って、その時間みてハムラーデル側の東から2つ目のダンジョンへ行きますか。
5人で乗って、走ってもらった。あ、うん。そう、リンちゃんが操縦してる。運転?、まぁどっちでもいいか。
で、思った。
これ前に風防が必要だわ。





