2ー028 ~ 前向き
来るときに使った船はまた作るよりも再利用したほうがいいということで、舳先っていうんだっけ?、のところに取っ手つけてポーチに突っ込んでおいた。
それで軽く走りながら戻ってるところなんだけど、オルダインさんたちにさっきのダンジョンボスを見せて報告したほうがいい、って話になったので、途中で昼食休憩を入れるけど、思わぬロングランになった。
ハイペースで走るとまた脱落者が出るし、脱落者が2人だとさすがに背負えないから、ゆっくりめで走ってる。
こうなると、走る以外の移動手段が欲しいよなぁ…。
馬…は魔物のことを考えると置いておけないし、光の精霊の里にあったゴーレム馬――何度も言うけど正しくはゴーレムじゃなく魔法人形とでも言うべきかもしれない。でも人形じゃなく馬形では言いにくいし、きっと伝わらないからゴーレム馬で――の馬車なら…、とか思ったけどそれもなんだかなぁ…。
だいたい馬車といってもゴムがない。代替品みたいなのはあるみたいだけど、タイヤみたいに空気を入れてっていうものがない。
そんなので俺たちが走るぐらいの速度を出したらきっと跳ねまくって乗ってられないと思う。
サスペンション?、ああ、そんなのもないと速度出せないよね。
ただ現地まで行って、帰ってくるだけなら転移なりなんなりの方法でいいんだけど、今回のように、往路復路で魔物を退治しなくちゃいけない場合には不向きなんだよね。
舗装されてる道路なんてないし、オフロード用の車が欲しいと切実に思った。
エンジンの原理は知ってるけど、作れったって作れるもんじゃないし、燃料だってないんだから、もし元の世界から持ってこれたとしてもどうしようもない。燃料も定期的にもってこなくちゃいけなくなるし。
そして元の世界との行き来なんてできないので、そんなこと考えてもしょうがない。
どっかのゲームみたいに、魔道エンジン、みたいなの無いかなぁ…
でもあれみたいに2脚歩行とか絶対酔うよな。6脚とか複雑すぎてわからんし。
うーん、どっかに魔道科学者みたいなの居ないかなー…。
あ、そか、自動人形があるんだからそれに乗るような乗り物を光の精霊さんの技術者のひとに伝えて作ってもらえば!
あ、そうだそれなら飛行機…、プロペラ機ならいけるんじゃないか?、風の魔法を組み込めば効率もよくなりそうだし!
よし、今夜でもリンちゃんに相談しよう。
俺、わくわくしてきたぞw
「タケルさま?、何かいいことありましたか?」
- ああ、リンちゃん、ちょっと今夜にでも相談があるんだ。
「相談、ですか?」
- うん、ちょっといいこと思いついたんで。
「そうですか。楽しみにしてますね」
ああ、なんか久々だなこういうやりとりでリンちゃんの笑顔。可愛い。
「ちょっと、聞きました?、メルさん」
「聞きましたよネリさん、何ですかその言い方」
「それは置いといて、あの2人、夜に何するんでしょうね?」
「何って、相談って言ってましたよ?、ネリさんも聞こえたのでは?」
「もう、メルさんノリ悪いですよ…、とにかく2人が夜にこそこそ何かをするってことですよ、気になりませんか?」
「気にならないと言ったらウソになりますが…、でもタケル様には私たちの動きが見えるんですよ?、魔力感知の訓練をしてるのですからその差がよくわかりますよね?」
「それもそっか…、盗み聞き作戦は無理かー」
「そんなことを考えてたんですか?、呆れました…」
「だって、気になるんだもんー」
「其方たち、ゆっくりとはいえ走りながらよくそれだけ話せるものだな。私はあまり余裕がないんだが…」
「サクラさんも一緒に魔力の訓練をすれば、これぐらい平気になりますよ」
「そうなのか?」
「一緒にやりましょうよ、ねぇメルさん」
「それは構いませんが…、そろそろ真面目に走らないとタケル様たちに置いて行かれますよ?」
「わ、結構離されてる」
●○●○●○●
新拠点に戻って、オルダインさんたちに報告をした。
金狼団のビルド団長はまだ元の拠点で整理作業をしているそうだ。
「うーむ…、こんな魔物は見たことも聞いたこともないですな」
どうやらオルダインさんも知らないようだ。
とりあえずスケッチを取って、皮を剥いで骨だけにしてティルラの王都へ運ぶ手配をするそうだ。
- 角が無いんですが、魔物なんですか?
「ダンジョンの最奥に居たのだから、魔物と言うしかないでしょうな」
「王都の記録にあるかどうか……、もしかしたらハルト殿がご存知かもしれません、連絡をとってみては?」
「なるほど、ではそちらにも連絡隊を派遣するようにしましょう」
あとはオルダインさんとサクラさんに任せて良さそうな雰囲気になってきたので、会釈して俺たち用に作った小屋のところに行った。
この分だと今日はここに宿泊かなー、って思って小屋の前まで来ると、小屋の前においてたテーブル――これはここの兵士さんたちの備品を借りてきてあったもので折りたたみ式のものだ――のところでネリさんがぐでーっとしていた。
メルさんは姿勢よく座って槍を地面から立てて持ちじっと見つめていた。
「あ、タケルさんおかえりなさーい」
ネリさんはテーブルに頬を乗せたまま言う。だれてるなぁ…あはは。
- はい、ただいま。メルさんは槍の魔力感知ですか。
「はい。タケル殿のようにこの槍の扱い方を感知できればと」
メルさんは槍から一瞬だけ目を話してこちらを見たが、すぐにまた真剣な表情で槍を見つめ始めた。
- 何か掴めそうですか?
「それがよくわからないのです。雑然としたものは感じるような気がするのですが…」
- あ、それが分かるのでしたらもう少しですよ。
「そうなのですか!?」
うぉっと、槍を上に向けて地面に立てて持ったままこっちに詰め寄ってきたら穂先がこっち向いて危ないってば!
そおっと穂先の根元のところに手のひらで触れて押し返すと、『あ、失礼しました』と小声で言ってまた座りなおしてたけど。
- はい。それっておそらく全部を、えーっと、例えば1冊の本を読むとしますね?
「はい」
- その本の全部のページの全部の文字を一度に読もうとするとどうなると思います?
「それは…、雑然として読めなく……、あ!、そういうことなんですか?」
- はい、そう思います。なので落ち着いて、ひとつひとつをゆっくりと、ページをめくるようにして読み解けばいいんです。全部を読もうとする必要はないんですよ、今読めそうなところから順番に読む。そんな感じでいいはずです。
「なるほど…」
- 今もその槍への魔力を切ったり、薄く纏わせたりできているじゃないですか。それを発展させて、魔力をどう纏わせるか、沿わせるか、這わせるか、どの部分にどうするか、いろいろ試してみると、ページがめくれるかもしれませんよ?
「はい!、頑張ってみます!」
いい笑顔だなー、メルさんて基本的に真面目で、プラムさんもそういうところがあったけど、ああ、だから気が合ってたのかもしれないね。
「ねータケルさん、あたしにも何かそういう武器があったほうがいいのかな?」
唐突になんなの、このひとは…。あ、やっと上体を起こした。頬にテーブルの木目がついてるよ。
- そう言われても、僕は持ってませんし…。
「だってさー、魔力の訓練するのに、そういうのがあったほうが上達しやすいんじゃないかなってー…」
- ああ、そういう意味ですか。大丈夫ですよ、勇者は魔力適性がありますし、上達がものすごく早いらしいですから。
ちなみにソースは俺な。
「でもメルさんに全然敵わないよ?」
- そりゃあメルさんのほうが先に訓練を始めましたし…、メルさんには水と風の属性に適性がありますから…。
「んじゃ私は何属性に適性があるのかな?」
- それを調べる方法がないんですよ。
「ええー?、無いんですかぁ…」
そんながっくりされても…。
正確には無いわけでは無いらしいんだけど、俺も見たことないし、使ったことないもんなー、だから今のところは無いって言っておいていいと思う。
- 水と風の両方があるかどうかは、メルさんが持ってる槍に魔力を纏わせてみればわかりますけど…。
「え!?、そなの?、やってみたい!」
がばっ、って音がしそうなぐらいに起きて立ち上がるネリさん。
メルさんが、仕方ないですね、と言いそうな表情で槍を差し出した。
「魔力を纏わせればいいのね?、よーし」
- あ、そんな気合いれなくても、少しで、ああっ!
急いで障壁を張ったよ。あっぶな。メルさんまで巻き込むところだった。
先端のカバーしてたら焦げちゃうとこだったよ。
いや、絶縁とかどうなんだろう?、よくわからん、まぁいいや。
「わっ!、電気出たよ!、出たよ!、適性あるのかな!?、あるのかな!?」
スゲー喜んでるところ悪いんだけどね。
- 残念ながら、槍に変化がないので、両方の属性をもってはいないってことがわかりましたね。
「ええぇぇ…、無いんですかぁ?、電気でたのにぃ?」
- それは魔力を篭めすぎたからですよ。
「タケル殿、障壁を張ってくださったのですね、ありがとうございます」
「え、そこまでしなくちゃいけなかった?、ごめんなさい」
謝りながら槍を返すネリさん。ちょっと引きつった表情で受け取るメルさん。
- 両方の属性がない、ってだけで、どちらかはあるかもしれませんし、どちらも無いかもしれませんね。
「結局わからないままかぁ…」
- そうですねー…。
「タケルさんにはあるんですよね?、いいなぁ…」
- 属性に適性があると、その属性の魔法が扱いやすいらしいですけど、適性がなければその属性の魔法が扱えない、ってわけじゃないらしいですし、あまり気にしても仕方ないですよ。
「ね、その槍みたいな装備があれば、自分の適性属性がわかるってことですよね?」
- うん、そうですけど…?
「ハルトさんの持ってる『フレイムソード』なら確実に火属性だってわかるんだから、他にもあるかもしれないし、今後そういうのと出会えたらわかるじゃん、よーし、頑張るぞー!」
前向きだなぁ、でも何を頑張るんだろう?、伝説の武器との出会いを頑張るのか?
あ、魔力の訓練を頑張るのか。そりゃそうか。





