2ー022 ~ 同じ道筋
囚われていた女性4人を解放し、奥に積まれていた木箱から、ネリさんの剣と装備を回収した俺たちは、食料庫と言われていた倉庫から出た。
出ようとしたんだが…。
「お嬢ちゃん、ちょっと調子に乗りすぎじゃないですか?」
「さて?、何のことやら」
「そこを通してもらえませんかね?」
「嫌だと言ったら?」
「痛い目をみることになりますよ?」
なんか入り口の外で時代劇みたいな展開になっていた。
ま、メルさん強いし、しばらく見てようかな。
スライ団長も来てるようだしさ。
「タケルさん、これほっといて大丈夫なんですか?」
- 大丈夫ですよ、メルさん強いですし。彼女に匹敵するようなのはここの騎士団には居ませんね。
メルさんが溜息ひとつ。
「そこで倒れてる連中と同じセリフだが、もう少し捻りは無いものなのか?、それともバカなのか?」
挑発していらっしゃる、ははは。
「おい、やれ」
「いいんですかい?、結構よさそうな鎧をひん剥いちまっても…」
「ああ、お前はそういう趣味だったな、構わん」
「うぇっへっへ、さぁお嬢ちゃん、あーそびーましょー」
短剣使いか。なんでナイフ舐めるんだろうね?、何の意味が…?
あ、メルさん欠伸のフリしてる。
「このガキ、舐めやがって…!、ごぁぁぁ」
そっこーで蹴られて吹っ飛んでるよ、あの短剣使い。
あ、他の連中も吹っ飛びまくってる。人ってあんなに飛ぶんだなー…。
「さて、あとはお前だけだが、もう片方の頬も腫れたほうがバランスがいいんじゃないか?、え?」
メルさん…、悪役みたいなセリフを…、貴女王女様ですよね?
となりでネリさんも笑ってるし。
そういえばスライ団長の片頬を殴ったのネリさんだっけ。
「お、お前こんなことをしてただで済むと思うなよ!?」
「ほう?、さっきの私の動きをみて、逃げられると思っているのか?、おめでたいやつだな」
「っく…、言わせておけば…っ」
「そろそろ言いたいことも尽きたようだな」
「ぐぉぉ…」
「やっと静かになったか。タケル殿、見てないで助けてくれてもよかったんですよ?」
- いやぁ、何やら楽しそうでしたので。邪魔しちゃ悪いかなって。
「こんなか弱い私が集団に襲われているというのに、そのようなことでは勇者の名が泣きますよ?」
- あっはい。次からはちゃんと助けます。あはは…
「ふふふっ」
- それで、こいつらどうしましょうね?、ネリさん。
「えっ?、そうですね…、最低なやつだとは思っていましたが、ここまで最低だとは思いませんでした。でもティルラ王国で犯罪なのかどうかわからないんですよね…」
ああ、合法というか賄賂などもあったりして、攫ってきた女性たちも救ったということにすればいい、というようなよくあるアレですか。
「ホーラード王国ではちゃんと犯罪ですよ?、女性を攫って監禁するなど普通に死罪です。ティルラ王国の法も確か同じだったはず」
- ああ、そういうことではないんですよ、メルさん。気分を害されるかもしれませんが、たとえば魔物に襲われていたところを救い出した、傷などが治るまで保護していたが、恐怖によって危険な状態になっていたから暴れたりしないように監禁した。というでっちあげの言い訳をしたとします。それとさらに賄賂で衛兵や裁判官を買収したりすると、無罪となったりしないか、というような意味です。
「それは…」
- はい。ホーラード王国ではそうだと言ってるのではありません。あくまで可能性の問題です。
「はい…」
- それと、奴隷商人というのは合法なのですか?
「ホーラードにはありません。違法です」
- ではティルラ王国は?
「私が学んだときにはまだティルラには奴隷制が残っていたと思います。現在もそうなのかどうかは知りません…、申し訳ありません」
- いえ、メルさんが謝ることはありません、ありがとうございます。やっぱり第一防衛拠点の金狼団に任せたほうがいいような気がしますね、これは。
「そうですね…、そろそろ昼食時ですが、予定では鷹鷲隊の一部がこちらにやってくるはず。彼等に連絡係をやってもらうのはどうでしょう?」
- あ、そういう手筈になってたんですか。んじゃ彼等には手間をかけますが、それでいきましょうか。とりあえずこいつらは縛っておきますか…、あ、地下に手枷がいっぱいありましたね、それを使いましょう。
こうして20名ほど後ろ手にして手枷で拘束し、ロープでつないでおいた。
本営の隣にいつものように小屋を建て、まだ虚ろな目をしてた女性たちを部屋に寝かせ、俺たちは食事を摂ることにした。
食事が終わった頃、ちょうどやってきた鷹鷲隊10名に、顛末を説明し、1人がまた第一防衛拠点まで報告と人員や荷車の調達に戻っていった。
まぁ、あとは任せて大丈夫だろう。
俺たちはやることがあるしな。
「それで、タケルさんたちはどうしてこちらへ?」
あ、そこから話すのね。
●○●○●○●
結局、2つのダンジョンを処理するのと、途中の収束地や魔物の処理をする時間を考えると、そろそろ出たほうがいいので、ネリさんに話をしながらということで、彼女も加えて4人で移動を開始した。
到着したときにスライ団長に渡した地図と同じものをまた焼いて、ネリさんに見せたら絶句されたが、俺たちはそういうものだと慣れてもらうしかない。
途中の魔物もスパスパ倒してたらやっぱり唖然としてた。メルさんは自分も通った道だと思ったのか、苦笑いをしていた。
やっぱり『あたしも魔法が使えたらなぁ…』って呟いていたので、勇者にはたいてい魔法の素質があるようですよ、って言ったらスゲー期待していた。
でも今はやることがあるので、帰ってからね。
ダンジョンでは、暗視魔法をかけてくれたリンちゃんに興味をもち、駆け抜けるようにダンジョンを走破するのに付いてくるのに必死だったようだけど、魔力ポイントを削ったり、埋めながら戻るときにメルさんからあれこれレクチャーされていた。
気付いたら仲良くなってるんだよね、こういうのって。
途中の大型亀も、やけにメルさんが大人しく、倒させてくれとは言われなかったのでこっちで処理した。
そんなこんなで予定通り第二防衛拠点側も無事に処理が終わりましたよ、と、本営を占領していた鷹鷲隊のひとたちに報告し、小屋に戻って食事をつくり、交代でお風呂に入ってのんびりしているところだ。
もちろん4人の女性たちにも食事、というかシチューのスープだけなんだけどね、出してみたらちゃんと残さず食べて(飲んで)くれていたので、胸を撫で下ろした。
メルさんやネリさんも手伝ってくれていて、やはり同じように安堵したようだ。
犯罪に加担していたと思われる星輝団のほかの兵士たちに聞き取り調査をすべき、という意見も本営にいた鷹鷲隊のひとたちから出たようだが、今それをすると、第二防衛拠点の前線が回らなくなってしまう。
なので、明日やってくる第一防衛拠点の金狼団のひとたちを交えて、善後策を話し合うんだそうだ。
●○●○●○●
「お風呂なんて久しぶりでした。やっぱりいいですねーお風呂のある生活って。日本での生活が懐かしいですよ」
- あはは、お気に召したなら重畳です。
「タケルさんはどこで魔法をこれほど使えるようになったんですか?、あ、これ訊いていいのかな?」
- 構いませんよ、僕は、精霊さんに教えてもらったんです。
「またまたぁ、タケルさんて冗談がお上手なんですね、精霊なんて伝説の存在ですよ?、言いたくないならそう仰ってくださいよ…」
- いえ、本当なんですよ、ね?、メルさん。
「はい。タケル殿はウソを言ってません」
「え!?、実在するんですか?、精霊って」
- はい、そこのリンちゃんが光の精霊さんですよ。
「えええっ!?、いやいや、いくらなんでもそれは…」
- ホントですってば。
なかなか信じてもらえなかったが、半信半疑といったところに落ち着いた。
リンちゃんは信じてもらえなくてもどうでもいいような感じ。無表情だった。
朝にできなかった日課の訓練を小屋の横でやっていたら、ネリさんも参加することになり、メルさんがもっているプラムさんのテキストを見ながら2人で魔力感知や魔力操作の訓練をしはじめたようだ。
そうやって人に教えながらだと上達するよね。
ネリさんはやっぱり、身体強化や装備強化が魔力なんだと知らなかった。メルさんの最初と同じように、武力だと思っていたようだった。
メルさんは『同じ道を辿っていますね』と笑っていたが、ネリさんはなんだか釈然としていないようだった。
何となくだけど、そのうちネリさんも他人に教える時が来るんじゃないかな…。
訓練中にもついでに西にむけてアクティブな方のレーダー魔法使ってみたけど、小型と中型が数体いたぐらいで、大型は来ていなかった。
収束地はどうやら潰したダンジョンになるようだ。
ん?、ということは何かあるのかな、あの場所に。
そういえば『東の森のダンジョン』。あそこ水の拠点のすぐ近くだったっけ。
- ウィノアさん、小声でお願いします。
もしかして、ダンジョンの位置って水脈に関係ありますか?
自分の胸元に話しかけるってのもなんだか妙だけど、そういうつもりで、独り言のように小さく問いかけると、すぐに返事があった。胸元から。
『(小声で)さすがは私のタケル様です、もうお気づきになったのですか?、全てではありませんが、ダンジョンが発生しやすい位置と水脈には関係があるとされています。でもそれは水脈のせいではなく、魔力の流れと淀み、これが原因でしょう』
ああ、何となくだけど雰囲気みたいなのはわかる。流れが無ければ淀まない。流れがあるから淀みが発生する。ってやつだ。
流れがないならただ拡散し均一化するだけなんだ。流れがあるとどうしても他の条件によって淀みが発生してしまう。
魔力の流れがあると、そこに魔力の淀みが発生するのは必然で、そこに闇の魔力が関与することでダンジョンが発生することがある、ということか。
例えば風の魔力による流れでできた淀みがあるとする。そこに闇の魔力が関与しても、性質上魔力は大気に拡散しやすいし、余程、密度などの条件が整わないとダンジョンが発生しにくいのではないだろうか。
地脈というものもあるが、水や風に比べて動きが遅いため風とは逆だが、これもダンジョンは発生しにくいと思われる。
それらに対して水脈による魔力の流れは、淀む場所や密度などの条件がダンジョン発生に適しているのだろう、闇の魔力も定着しやすいのかもしれない。
- ああ、水脈や水の魔力はダンジョン発生に関しては直接の原因ではないけど、淀み発生の十分条件であって、ダンジョンが発生する条件のひとつでしかない。たまたま他の条件が整いやすいから事例が多くあるということですね。
水なんて大抵そこらにあるもんだ。善でも悪でもない。
何らかの影響によって人間にとって良い水だったり、悪い水だったりするだけだ。
『ああ…、やはりタケル様は最高のお方です…、それだけでそこまでご理解頂けるのですね…』
やっぱりか。何だか含みのある言い方に感じたんだよね。
- 話さなくてもわかります。昔何かあったんですね。ウィノアさんのせいじゃないのに。
『…しくしく』
いやいや、すごいわざとらしいんだけど。しくしく、って言ってるし。
そもそも精霊さんたちって人間たちのことどうでもいいと思ってる気がするんだよね、今までの印象からして。
でも敬われるのは悪い気はしない、悪く思われるのは気分が良くない、ってだけで本当のところは人間たちにどう思われようがどうでもいい。そんな感じのはず。
あ、胸元に涙、垂らすのやめてください。
- とにかくわかりました。ところでウィノアさん、あと2点お伺いしたいのですが、まず1点、昨日今日とダンジョンを潰してきましたが、あの方法であっていますか?
『はい、タケル様がされたように、闇の魔力が集まっている箇所を散らして埋めてしまえばダンジョンを浄化できます。あとは闇の魔力がそこに収束しないようにすればダンジョンは復活しません』
そうか、魔物が収束地でやっていること、ダンジョン内部で集まっていたりするのは淀みに闇の魔力を足して自分たちの領土を広げているようなものか。
そしてダンジョンが成長したり、仲間が増えたりする。そういうことだったのか。
するとあの角は、動物に寄生して広がる植物の種のようなものなのかもしれない。
やはり魔物は討伐して角は回収する必要があるってことか。
- なるほど、ではもう1点、ウィノアさんと出会ったあの地下水脈の拠点、それと転移してもらったときの経路にあった地下の拠点、そこの水はとても清浄でした。もしダンジョンに近い水脈からダンジョンに水を引いた場合、ダンジョンを浄化できますか?
『…んー…、それはとても難しい問題です。東の森のダンジョンのように水道を引く程度でしたら何とかできますが、ダンジョン全体となると…』
- 圧力の問題ですか…、あ、もちろん人間の考える『浄化』と、ウィノアさんの仰る『浄化』の意味が違うことは理解しています。
そう。おそらく精霊さんたちにとっての『浄化』の概念で、人間の考える『浄化』の意味に近いのは光の精霊さんじゃないかな。ウィノアさんは広く散らして無力化するという意味で『浄化』と言っている気がする。
他の精霊さんたちはまだ話したことはないけどたぶん火は光に近く、風や土は水に近い気がする。
『ああぁ…、はい、その通りです。一時的にダンジョンを水で満たし、闇の魔力を散らすことができても、それはその一瞬でしかありません。またすぐに元に戻るでしょう』
- ではやはりああするしかないんですね。そして魔物が来ないようにする、と。
『はい。タケル様のお考えで間違っていません』
- ありがとうございます、ウィノアさん。
『どういたしまして、タケル様、いつでもお呼びくださいねっ』
だから胸元をこそばさないで下さいって。
首筋じゃないところがまた微妙に狙ってるんだよなぁ、絶対わかってやってるよな。これ。
とにかくあれだ。勇者としてやることは、人間の手に余るようなダンジョンを潰す、魔物は減らす。この2点だってことだ。
あとはちょっと考えてるんだけど、ネリさんを足がかりに先輩勇者たちにこれらのことを理解してもらおうってこと。
ついでに、どうやら武力と勘違いしていて魔力に関しての知識が少ないというのを何とかしたいかな。
とはいえ、俺だって日が浅いし感覚的にしかわかってない。理論?、ナニソレ状態なんだよな…、でも理論なんて俺全然自信ないし、科学じゃ説明つかないんだから理解できるとも思えない。
あ、いや、科学ですら理解できないことだらけなんだけどさ。





