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2ー015 ~ 鷹鷲隊と合流

 「み、水の奇跡を体験……、この身は…、この身の…なんと光栄なことか…」


 うん。そろそろ慣れようね、メルさん…。

 この2ヶ月間、ちょくちょくウィノアさんを見てたよね?、貴女。

 いつもの俺とのやりとりをあれだけ見てて、まだこういうスタンスが崩れないってのはホント凄いと思う。


 国教、という訳じゃないみたいだけど、でもホーラード王国の王族や貴族はだいたい精霊を崇めて日々の感謝を聖句に篭める、イアルタン教――正式にはもっと長い名前なのだそうだが――というのの信徒だそうだ。もちろんプラムさんも。


 そんでちょくちょく『ツギの街』にも戻って用事があったりして、メルさんやプラムさんが一緒に戻ることもあり、あと、サイモンさんも5日ぐらいに1回ぐらいの頻度でやってくる。サイモンさんは森の家の場所知ってるし、結界を通る許可があるので転移魔法じゃなく陸路で来るんだけどね。


 そしたら先月、ふと見たらウィノアさんの泉――名前がないのでそう呼んでる。俺だけね。メルさんとプラムさんは聖なる泉とか聖泉とか言ってた気がする――のとこに、ちっちゃな祭壇ができてた。そんで毎朝2人が拝んでんの。

 昨日まで知らなかったんだけど、なんか時々ありがたい言葉を授けたりしてたらしい。


 道理で2人の訓練にやたら気合が入ってたわけだよ…。


 俺?、俺は別に…。リンちゃんたち光の精霊さんのご機嫌とるのにいろいろやってたぐらいで。はぁ…、思い出させないでくれよ…、リンちゃんモモさんはまだしも、ミドリさんはちくちくイヤミ混ぜてくるし、アオさんはずっと無表情だし、あ、アオさんはだいたい無表情だけど、振幅が狭いだけでちゃんと表情あるんだぜ?、俺ぐらいのレベルになるとそれがわかるってことだよキミ。

 ごめん、見栄張りました。前に言ったよな?、ベニさんみたいにすぐ怒る女性が苦手だって。

 それの副作用っつーかさ、うん、だから敏感なんだよ、そういうのに。


 そんでベニさんは言わなくてもわかるよな。そう。ツンしかないやつ。それそれ。


 でもさ、信徒相手に『ウィノアさんだけじゃなくここには他にも精霊さんがいるので同じようにしませんか?』なんて俺が言うのもなんだし、言いたくない。言えるわけがない。

 それにあんな崇め奉るみたいな態度を、家ん中でしょっちゅうやられちゃたまらん。


 なのでリンちゃんたちも自分からそんなことは言わない。でも不満。そんな感じだから俺がご機嫌とらなくちゃいけない、のかな…?、俺しか居ないし、俺にとばっちりが来るんだからしょうがないよな?、だよな?、やっぱり。


 そういえばその泉のとこにお供えしてるところを1度だけ見たんだけど、その礼拝?、が終わったあと、泉から半透明の手が出てお供え持ってったんだよね。

 どんなホラーだよw


 訓練のときにそれとなくメルさんに尋ねたら、


 「た、タケル殿!、本当に!?、本当ですか!?、普通は一定時間置かれたものを神殿や(ほこら)を管理する者が精霊様からの下げ渡しということで頂いているのです!、タケル殿が仰るように水の精霊様がお持ちになったというのであれば、私どもの供物が水の精霊様のお手元に届いたということですのでとても光栄なことなのです!」


 って涙目で輝く笑顔して俺の手を両手で握って言うんだよ。宗教パワーってすごいね。俺、顔が引きつらないようにするのに必死だったよ…。


 だからウィノアさんがちょーしに乗りまくりで、リンちゃんが側に居ないときに呼びもしないのに出てきては、ちょっかいかけてきていろいろ困った。


 それはそうと、持ってった供物って、どうしてるのかね?


 ウィノアさんが物を食べるのって見たこと無いんだけど。

 いやそれをウィノアさんに訊くのは、またなんかめんどくさそうな事になりそうな気がして訊けないんだよ。






 で、話戻るけど、とにかく水の奇跡とやらで無事、ティルラ王国の国境近くにある湖のほとりに到着したってわけ。


 あ、プラムさんは『ツギの街』に戻ったよ。サイモンさんたちのとこで訓練の成果を試すんだそうな。

 最初のことを思えばめちゃくちゃ上達したよ。熱心だったしなぁ…。

 腕輪から魔法盾も出せるようになってたし。


 魔法構築もかなり早くなった。無詠唱でできることも増えたみたい。

 こっそり水属性に適性が生えたんだってさ。これはウィノアさんが言ってたことだからプラムさんが知ってるかどうか知らないけどね。

 たぶんウィノアさんの加護じゃないかなとか思ったりするけど、本当のところはわからない。


 言っとくけど『生えた』ってのはウィノアさんの言葉だよ?、俺じゃないよ?






●○●○●○●






 「勇者様、我々にご助力下さるとの事、誠にありがたく存じます」


- あっはい。ナカヤマ=タケルです。タケルと呼んでください。


 そして無事『鷹鷲隊(おうしゅうたい)』と合流。見るからに歴戦の勇士としか思えないごつい爺さん、騎士団長オルダインさんたちに紹介された。

 『勇者の宿』んとこに居た勇者隊の兵士さんたちとは迫力も装備もえらい違いだった。紹介されてる間、内心ビクビクしてたよ俺。


 先触れに数騎がティルラ王国の国境防衛隊のところに走ったそうで、こちらは今日はこのまま夜を明かして明朝行軍再開、同日夕刻に防衛隊の本営に合流するんだそうな。


 そんでまぁ、話の流れで模擬戦やらされてあっさり負けてがっかりされたりしたけど、メルさんが、

 「タケル殿の本領は剣技ではなく魔法ですから」

 と、余計なことを…、いや、とりなしてくれたので、いくつか魔法を見せるハメになって、絶句されたりもした。

 面目躍如ってやつだろうけど、『やりすぎですタケル殿…』ってメルさんにジト目で言われてしまった。


 そんで上等な天幕を使わせてくれようとしたんだけど、そこって中を布で仕切ってるだけでメルさんと同じ天幕だから、必死で辞退した。

 『宿は同室だったし森の家でも同じ家で生活していたのに…』なんてぼそっと言われたけどさ、オルダインさんたち一部のひとにそれ、聞こえてたんじゃないかな、ピクっとしてたよ?


 そういう人目があるとこではちゃんとしようよ、王女様…。


 そんでいつものようにさくっと土魔法でリンちゃんが小屋建てて、風呂まで用意したもんだからまた近くの兵士さんたちが目をひん剥いて驚いてた。


 なんかもうついでだ、ってんで俺もちょっと奮発して、でかい風呂つくって兵士さんたちに『どうぞ?』って言ったもんだから大騒ぎになった。感謝されたけども。


 風呂から出てきた兵士さんたちが俺んとこに来て、ありがとうありがとう、って言うもんだから、つい調子にのって、そういえば角イノシシとか結局ポーチの中にほったらかしだったなーって、このさいだから振舞ってもいいかー、消費しないといつまでもポーチで死蔵だし、ってことで、これもどうぞーってオルダインさんとこでどっさり出したらもうそりゃすごい食いつきだった。


 熟成?、いやそんなの俺わかんないし。ポーチの中は時間止まってるらしいから。

 厳密には止まってるんじゃないらしいけどね。止まってるって思ってていいんだってさ。説明きいたけどよくわからなかった。要するに名前を言ってはいけない加速部屋の逆ってことなんだろうけどさ。ややこしいので止まってるって思ってる。


 とにかくそんなで、さすがに宴会みたいにはならなかったけども、みなさんたっぷり肉食べて風呂でさっぱりして英気を養うっていうんだっけ?、それができて士気も上々、ってオルダインさんたちにめちゃくちゃ感謝された。


 それから眠るまでの時間、なんかヒマだったんで、訓練がてらピンガーぽんぽん撃って広範囲魔力感知やってたら、兵士のひとが来て、団長がお呼びです、って言われてでかい天幕に行った。


 「タケル殿、明日は日の出とともに出立します。現在位置がここで、ティルラ王国防衛隊はこの位置に本営があり、魔王軍との交戦はこのあたりで国境からややこちらに踏み込んだ形となっております」


 うん、知ってる。さっき広範囲に感知したから。固まってるのが人間側で、そうじゃないのが魔王軍。


- ふむふむ。魔王軍は、どうやら軍のような連携はしないようですね?


 「お分かりなのですか?、それを今からご説明しようかと思っていたのですが…」


 説明をしてくれている隊長さんは少し驚いたように言った。

 あ、これはちゃんと説明しないと軍事のプロみたいに思われてしまったら困るかも。


- あ、いえ、精霊様の加護というやつでして、広範囲にある程度のことがわかるんです。


 「ここから、この前線までが、ですか?」


- はっきりとではなく、何となくです。それはともかく、その説明をお願いします。


 「は、はい。お察しのように魔王軍と我々は呼んでおりますが、このように散発的、いえ波状的に魔物が攻めてくるのです」


- もしかしてそれは休み無く、ですか?


 「はい。と言っても決まった時刻にやってくるわけではありませんし、兵士たちが連続でずっと戦っているわけでもありません。ですので前線では交代で休みをとるしかない状況です」


 それじゃろくに休めないだろうなぁ…。ああ、だから押されてしまうと少し引いて立て直す、それでじわじわ国境が押されているわけかな?

 ん?、そういえばメルさんが他の勇者がどうのって言ってたっけ。


- 他の勇者についてはどうですか?


 「一度、この本営のあたりまで押されたのを、こちらの――と別の地図を片手で持って指で示し――ハムラーデル王国のほうをご担当なさっている勇者ハルト様がご助力くださったようで、国境付近まで押し戻すことができたのです」


- ほう、そうだったんですか。


 お、他の勇者の名前、初めて聞いたぞ。勇者のリストとか無いのかな。


 「しかし一時的にご助力くださっただけでしたので、またこうして徐々に押されている状況です」


 前で戦っている間に、その後ろで防塁や防壁などを築いていって、引いたときにはまたそこが防衛ラインになる、というようなやり方をしているようだ。

 そうやって何とか持たせるのが精一杯、ということらしい。


- ということはその勇者ハルトさんはもう?


 「はい、前線を国境付近まで押し上げられまして、すぐにハムラーデル国境のほうに戻られたようです」


 とんぼ返りかー…、大変だなぁ…、俺も他人事(ひとごと)じゃない気もするけど。


- そんなじゃ勇者さんも大変ですね…。


 あ、ついぽろっと口からでちゃった。あー皆妙な顔してるわ。あはは…


- あー、僕も勇者でした。ははは…。それで、地図で見るところこのティルラ王国が魔王軍と接してる部分が多くて一番大変そうに見えるんですが、担当の勇者って居ないんですか?


 「いえ、居たんですよ、お二人。現在は『勇者の宿』に居られるようです」


 ってことは、死に戻った、ってことか…。

 しかし2人でこの長い国境線を担当するってのも相当厳しいぞ?


- あの、国境線ってだいぶ距離ありますよね、防衛隊ってここだけってことはないと思うんですが…。


 「はい、もう1箇所あります。こちら側のほうが状況がよくないということでまずこちらを立て直そうということなのです」


- ということは…


 「はい、こちらの状況が一旦落ち着き次第、もうひとつのほうに向かって頂くことになるかと。我々はそのあたりは現地での状況次第です」


- なるほど。


 「私はタケル殿についていくぞ」


 え?、メルさん?、ああ、オルダインさんに言ったのか。


 「姫様ならそう仰ると思っておりましたが、構いませんかな?、タケル殿」


 え?、予想済みだったの?、俺はてっきりメルさんはオルダインさんたちと行動するんだとばかり思ってたよ。


- 僕は別に構いませんよ。メルさんお強いですし。


 「ふふふ、そうだぞ?、2ヶ月前の私とは違うのだ。この槍もだいぶ使えるようになったからな」


 あ、ちょっと自慢げだ。

 まぁ気持ちは分かるよ。メルさん頑張ったもんなぁ…、今までのビリビリする程度はもちろん、穂先から50cmぐらいの周囲に電撃を発生ってところまでが無詠唱でできるようになってた。詠唱ありだと雷撃を飛ばすのは10m、撃ったあとの消耗がつらいが身体強化が解けるほどでもない、というところだ。

 もともと槍の扱いは、剣ほどじゃないけどそこらの兵士なんて寄せ付けないほどの腕だったんだし、それでそこまでできるなら、普通に無双できるんじゃないのかな?


 本人は、俺が最初に試した遠距離雷撃ができるようになる、って頑張ってるけどね。



20210403:サブタイトルのルビを削除。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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