2ー014 ~ 伝説の武器
「おまたせしました。なんとかできそうです」
返事のかわりに俺が頷くと、プラムさんは小声で詠唱をし始めた。槍に魔力が流れ、纏わり、それによって槍が準備を始めたのが魔力感知でわかった。
でも適性がないからか、長さは変化しなかった。
うん、やっぱり詠唱って俺には無理だわ。ところどころ聞こえてくるけどあんなセリフを集中しながら真剣に、なんてホント勘弁して、って感じ。
「撃ちます!、穿て!!ライトニングブラスト!!」
プラムさんが叫ぶと同時に土壁に向かって青白いスパークが飛んだ。バーン!!って結構でかい音がした。前回もそうだったけど、今回もやっぱり変な匂いがした。
何ていうの?、空気が焦げる匂いとでもいうか、電気の火花っていつもこんな匂いがするよね。
ちらっと土壁を見ると、当たった部分はどんぶり鉢ぐらいえぐれていて、その周囲から下側に向けて70cm幅で逆涙型とでもいうか、たぶん地面に電撃が抜けたんだろうか?、そんな形に焦げていた。
それはいいけど、そんな名前なの?、あの魔法!
メルさんは目を見開き、口に手を当てている。驚きを隠せないようだ。
俺は予想していたのでさっとプラムさんに近寄ると、ふらつくプラムさんを支えた。
「あ、ありがとうございます。やはり辛いですね、身体の力がごっそり吸われました。もう一度撃てと言われると正直できる気がしません…、ふぅ…、タケル様がどれほど先に居られるのか改めて実感しました…」
「そ、其方、先の詠唱は一体…、それに1回でそのように消耗するのか…?」
- あ、これは僕が少し意地悪だったかもしれません。この槍で雷魔法を行使する場合、いくつか方法あるようでして、そのうちのひとつをお伝えしたんですが、今のように雷撃を飛ばすほうがわかりやすいかな、って思っただけなんですよ。
「他にはどのようなことが?」
- メルさんもご存知の、先端に触れたものに電撃を与えるものが一番魔力消費が少ないと思います。
次にそれの発展系として、触れなくとも先端の近くに雷撃を発生させるもの、そしてさっきのように雷撃を先端方向に放つもの、まだこの先もあるようなのですが、聞きたいですか?
「参考までに是非お願いします」
- えーっと、それの発展系で先端方向に扇形に、それも広範囲に雷撃を放つもの、その先は…、天候操作じゃないかと思います。
広範囲雷撃なんて一体どれだけの影響が術者周辺に起こるか想像したくないなぁ…。
天候操作も然り。ちょっと考えたくないぐらいの馬鹿げた魔力が必要だと思う。
「「天候操作ですと(って)!?」」
- はい、でも詳しいことまではよくわかりません、おそらく膨大な魔力消費でしょうね、僕でもそこまでできるかどうか…。
「天候操作なんて伝説か御伽噺の領域ですよ?、タケル様」
- その伝説の武器なんですよ?、この槍は。
「「……」」
あらま、2人とも黙り込んでしまった。言うんじゃなかったかな?、まぁもう言ってしまったし。
- あくまで僕の推測ですから。証明しろと言われても自信がないですね。なので考えてもしかたないですよ?
「そ、そうだな、いや、そうですね」
- とにかくプラムさんにやってもらったのは、『サンダースピア』を魔法発動補助具として、つまり通常の武器としては想定されていない魔道具か『魔法の杖』として使えるかどうかを試してもらったわけなんですよ。
メルさんはそれを聞いて、ぱぁっと明るい表情をしたかと思うと、
「なるほど!、ではプラムを宝物庫につれていけば!」
と言ったが、俺はメルさんに片手をあげた。
- まぁまぁメルさん。メルさんは現在、替え玉を立てて王都を発ち、いないことになっていますが、それはどうなさるんですか?
メルさんはそれを聞いてはっとした表情をした。
「そうだった…、今は戻れない…」
俺はひとつ軽く頷いた。
- 最後に、これらのことを、一体誰に説明して、信じてもらい、目録を書き換え、宝物庫の武器を調査させてもらえるのでしょうか?
「うーん…」
メルさんが考え込んだようなので、少し様子をみよう。
おそらく、先ほどのように『サンダースピア』を発動補助具としてだけ使うことなら、適性の有無に関わらず、魔導師を名乗れる人たちや魔法学院のひとたちのうち、何人かは雷魔法を発動することができるひとが居るかもしれないと思う。
ただし、プラムさんですら1度発動させるだけであれだけ消耗し、時間も結構かかった上で、土壁を少し削って焦げ目がつく程度だったのだ。もしかしたら何度かやれば慣れてくるし、詠唱も洗練していくので威力も速度も上がるかもしれない。
魔力適性があればそれもかなり楽になるかもしれないけどね。
だから補助具としてでも実用レベルで使えるひとというと、たぶん居ないと思える。
俺ならばもう雷魔法の魔力操作は覚えたので、『サンダースピア』が無くても使える。
もちろんこれは補助具として見た場合だけを言っているわけだ。
『サンダースピア』としての運用ではない。
俺としてはこれが一番肝心なことだと思っているんだ。
雷撃を纏い、槍を上手に振るう。そして時には雷撃を放出して牽制したり倒したりする。
これが『サンダースピア』としての正しい運用ではないだろうか?
しかし両方を備えていなくても、例えば俺なら槍術を訓練して扱えるようになればいいし、メルさんなら魔力操作を訓練して扱えるようになればいい。
ただ適性があると槍に認められるためには、魔力量や属性適性が最低限あればいいが、それすらハードルが高いと思う。『サンダースピア』だけがそうなのかもしれないが。
槍を受け取り、プラムさんを軽く支えながら庭のテーブルのところに座らせると、先端のカバーをつけて元通り布を巻き、テーブルに立てかけておいて、俺も座る。
リンちゃんがお茶を淹れてくれていた。
もちろんメルさんにも手でどうぞ、って示して座ってもらったよ。
お茶でも飲みながらゆっくり考えてもらえばいいさ。
●○●○●○●
メル自身も、タケルが先日少し使ったあの場面は脳裏に鮮烈に焼きついている。
それに今しがたプラムが発動した雷撃も。
それらを見てしまった。知ってしまった今、これまでのように、この槍を扱えるのは自分だけだ、などと胸を張って言うことなどできやしない。槍としてだけならともかく、武器の威力を発揮できていない以上、まともに扱えるなどとは口が裂けても言えなくなってしまった。
『適性者であることと武器をまともに扱えるということが全く違うのは、あれだけ槍や剣を使いこなせるメルさんならお分かりでしょう?』
そう言われると言い返せない。実際にこう言われたわけではないが、これまでの訓練や今日のことでそう言われたも同然だろう。タケルはこのことを私に実感させてくれたのだろうか。
確かに納得できる。つい浮かれて浅はかな提案をしてしまったと、メルは恥じた。
達人級とはいってもそれは武器の扱いだけの話だ、魔法の武器の能力を如何なく発揮しているわけではない。
こと、この『サンダースピア』に関してなら、槍が扱え、魔法能力を十全に発揮できて初めて、『サンダースピア』がまともに扱えたと言えるだろう。
今の自分では槍が扱えるだけだ。
それに、仮にタケルやプラムに宝物庫の武器を調査してもらえたとする。
それで適性がわかり、能力の使い方がわかる、というだけで、使える者が居ないなら、それは現状と何が違うのだろう?
しかし魔王軍との戦いに有利となれる装備があるなら、例えば勇者たちに貸して使ってもらうというのはどうだろうか?
ここまで考えてみて、そういえば勇者のうち確実に1人は伝説の武器を手にしていたんだと思い出した。『フレイムソード』というのを使っている勇者が有名だ。
他の勇者がどんな武器を持っているかは聞いた気もするが覚えていない。しかし『フレイムソード』の勇者は物語にもなっているし、吟遊詩人が歌う定番の曲にもあるので覚えている。
(そうか…、勇者と同列に思うわけではないが、もしかしたら必要な者の手に渡るようになっているのかもしれない…)
特に信心深いというわけでもなかったが、先日、水の精霊様のお声を聞けたのもあって、そういうような気がした。どうもそれ以来、タケルが近くに居るとき、水の精霊様を近くに感じることがあるような気がしてとても幸せな気分がすることがある。
なので日々の感謝を毎朝、庭にある小さな泉の前で跪いて頭を垂れてお祈りをするのが日課になってしまった。
(何にせよ今はとにかく王都に戻れない以上、ティルラ国境に赴くのが先だ。それまでになんとかこの『サンダースピア』を少しでも使いこなせるようにならなくては…。)
そう思うことにしたメルだった。
20180630:以下の注釈を削除しました。
(※ 『ツギの街』で活動しているチーム『フレイムソード』はそれに肖ってつけられたもの)
2-16 でタケルが気付く箇所だけで充分かなと…。





