1ー001 ~ 初めての
「おお、勇者よ、しんでしまうとは情けない…」
- えっ?、何…?、誰…?、ですか?
「下に居た兵士だよ。領主代行のところまで連れてったろ?、グリンってんだ。おかえり、勇者さんよ」
- あ、その節はどうも。僕はナカヤマ=タケルです。
「な、なか?、よく聞き取れなかった。勇者さんでいいよな?」
- タケルと呼んでください。
「たけ…?、分かった、タックな。勇者タック。これでいいか?」
- あ、はいそれでいいです。
「では勇者タックよ、しんでしまうとは情けない…」
せめて表情をつけるとか、そういうのは…、いやダメか。あったらあったでムカつくだろう。
- それは何なんです?
「それ、とはこのセリフのことか?、これは勇者がこの部屋で復活をしたときに言わねばならないとされているセリフだ。伝統的なものだそうで、昔の儀式の名残りのようなものだと考えられている」
- はぁ、そうですか。
「まぁそんなことはどうでもいい。体はどうだ?、どこもおかしいところや痛いところはないか?」
言われてすぐ、ベッドから降りて立ち上がり、少し手足を動かしたりしてみたが、何ともなかった。
- ありません。大丈夫です。
「そうか、それは良かった。ではこれが支度金100ゴールドと支給品の袋だ。ま、頑張んな」
グリンさんはそう言ってベッド、と言うよりただの寝台だな、板のままだし、シーツも綿も藁もなかった、こんなところに寝かされていたのか、その上に皮袋と布袋を置き、ぽんぽんと軽く僕の肩を叩いてから、ふりむいて扉を開けた。
- あ、ちょっと待ってください。
「ん?、どうした?」
- 少し混乱しているんですが、僕は確か死んだような気がするんです。
「ああ、復活したんだからそうだな。だからさっきのセリフなんだが」
- 復活…、ですか。えっと、どうして復活したと分かったんです?
「そりゃな…、そうさな、この宿が『勇者の宿』って呼ばれてるのは知ってるな?」
- はい。
「それは、ここに勇者が復活する拠点になっているからなんだ。」
- はぁ。
「そんな目で見るなよ、俺だって詳しくは知らされてねぇんだ。なんでも特殊な魔法陣があるとかなんとかで、ああそうだ、ちょっとついて来な」
そう言うと手招きをして部屋を出る。もちろんついていく。
階下では、他の兵士さんたちがそれぞれ、
「復活ご苦労さま、勇者さん」
と、口々に言われた。
グリンさんが両手を肩のところまであげて皆を抑えるようなしぐさをすると静かになる。
「そこの壁の上にある番号と石が見えるか?」
- はい、1から12までありますね。
「そうだ。あれが上の部屋にそれぞれ対応している。お前さん、タックだったな、は2階の4号室、だからタックに何かあると4番の石に変化が起きる」
- はぁ
「具体的にはタックがどこかで死ぬと、んー、さっきは復活と言ったが、正確には死ぬ寸前の状態で部屋に転送される。らしい。そして4番の石が赤く光る。まずここまではいいな?」
- はい
「今回タックは別に外傷があったわけでも骨折したり内臓がなくなったりしたわけでも無いようなので、復活までの時間が早い。すると石の色が赤から橙、黄、緑、青、紫、白と変化する。これもいいか?」
- はい
「起きる直前になると、白く点滅して光る。これはこの宿を利用して眠った場合も同様で、起きる直前の数分間、点滅が続くんだ。だからタックが復活した、そろそろ起きる、というのが分かるようになっている、これで答えになってるか?」
- はい、丁寧な説明でわかりやすかったです。ありがとうございます。あ、んじゃあの、黄色や緑の番号は…
「もう分かったと思うが、復活中の勇者さんたちだな。中には酷ぇ状態でここに転送されてくる勇者さんも居るんだ。とくにあの11番なんかは…、詳しく聞きたいか?」
薄笑いを浮かべながら訊かないで欲しい。悪趣味だ。
11番というのは見ると黄色に光っていた。
- いいえ、だいたい想像つきます。
「その想像を10倍ぐらいにしたようなので丁度いいぐらいだぜ?、まぁ俺達はこれが仕事だからな。ここに詰めてるのも遊んでるわけじゃねぇってこった」
- それはもちろん。それで時間が早いってのは色変化の速さが違うというようなことでしょうか?
「ああ、理解が早くて助かる。そう。タックは今回赤から橙に変化するまでが1分ほどだった。こりゃまたきれいな死に方をしたもんだと、あ、いや失礼」
- いえ、大丈夫です。苦しかったけど、まぁ一瞬でしたし。
「そうか。あまり触れちゃいけねぇって事になってんだわ。酷い記憶ってなぁそういうもんだろうしな、勇者に限ったこっちゃねぇが、兵士なんてもんやってるとやっぱりそういうのもあるんだわ。精神的な傷ってやつだろうな。おっと、つい長々と話しちまった。タックはどうも話しやすいんでな、悪かったな、時間取らせちまって」
- いえいえ、こちらこそありがとうございます。いろいろ聞けて良かったです。また聞かせてください。
そう言って右手を差し出すと、少しだけ驚いたように手を見、そして少し照れたようにこちらを見て握手をしてくれた。
「ああ、また何でも訊いてくれや、答えられることなら答えるぜ」
そう言って笑いかけてくれた。