2ー010 ~ 訓練
あーリンちゃんの淹れてくれるお茶は美味いなー。
メルさんも最初は落ち着きがなかったが、お茶をちょっとずつ飲んで、だいぶ落ち着いてきたように見えた。
ちらちらと、返すって言って差し出したのに受け取ってくれなかった『サンダースピア』のほうを見ていた目も、何となくの雰囲気だけど、普通に見れるようになったように見えた。
王女様ってだけあって所作はどことなく上品だし、ああやって縮こまってカップもってちびちびお茶飲んでるところは、可愛らしい女の子なんだけどなー…。
ああうん、上から目線っぽいけど、正直なところ下品とか見苦しくない、ってことぐらいしかわかんないよ。上品ってのはなんかほら、洗練されたような印象を受ける動きだなーってぐらいでさ、前も言ったけど、宮廷作法なんて知らないし。
あと、リンちゃんとそう変わらないんだよ、メルさんの身体って。だからなんか小学生相手みたいな気もするんだけど、王女スキルなのか態度とかちょっと威圧感あるし、んでも俺がその肩書きに遠慮とか畏怖とか感じてるせいかもしんないから、威圧感ってのもどうだかわからないけどね。
それにほら、俺こっち来てから人間よりも精霊さんのほうが多いんだよね、エンカウント率がさ、ハハハ。だから小さくても見掛けが小学生でも侮ってはいけないという実感がね。
それでも元の世界のクセみたいなのがあるから、ちっちゃい子は可愛がって保護しないとみたいな気持ちがまだちょっとあったりして、いろいろ複雑なんだよ。もちろんノータッチで。
お、そろそろメルさんが話しかけてくるような雰囲気。
「あの、タケル殿。いろいろとお伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
- はい、どうぞ?
「まず、先ほどのタケル殿は『サンダースピア』をあんなにも使いこなされておりました。私はあの槍と出会ったとき、どういう理由か『これだ!』と思ってしまったのです。他にも武器はいくつもあったというのに、それしか目に入りませんでした。これについてはどう思われますか?」
- そうですね、あの槍には適性というものがあるようです。具体的には水属性と風属性の魔力適性ですね。
おそらくメルさんにはその適性があるから、そう感じたのではないでしょうか?
「魔力適性、ですか。ではタケル殿にもそれがあるのですね?」
- はい。おそらく。ですが槍を使いこなすということと、雷撃をあのように使うということとは全く別物だと思います。
「えっ?、それはどういうことでしょう?」
- 僕はあくまで雷魔法の補助具として『サンダースピア』を使って見せただけで、槍を使いこなしたわけではないんですよ。
槍なんて僕は素人もいいところで、まだ剣のほうが基本的な型を知っているだけましというお恥ずかしいレベルでしかありません。
分かりやすく言うと、槍自体を扱うのは武術であり、雷魔法を扱うのは魔力操作です。別物なんですよ。
「なるほど…、すると適性がある私は、今後魔力操作を訓練すればあのような威力が出せるようになるということでしょうか?」
ここでいつの間にか隣の席に座っているリンちゃんを見る。伝わったらしい。
「そうですね、幼少の頃から身体強化などによって魔力が鍛えられているメルさんなら、先ほどタケルさまが見せたぐらいのことは『サンダースピア』を使えばできるようになるでしょう」
- だ、そうですよ?
驚きの連続で、さっきは恐ろしい武器だとか言って怯えていたけど、そもそも武器というものは恐ろしいものなんだよね。使う人次第、ってやつでさ。
メルさんは相当の腕の持ち主なんだから、落ち着いてみればわかっていたはず。
「私が…、あんなことができるようになる…?」
- そのために魔力感知や魔力操作の訓練をするんですよ。馬に乗れるようになったり、魔法が扱えたりと、いいこと尽くめじゃないですか?
「は、はい!、がんばります!」
- あ、そうだ、プラムさーん!
プラムさんはまだ隅っこで訓練してたが、呼びかけると中断してこちらにやってきた。
「はい、何でしょう?」
- プラムさん水魔法か風魔法の初歩の魔法が使えますよね、メルさんに詠唱を教えてあげてもらえませんか?
「はい、それは構いませんが、それぐらいならタケル様でもできるのでは?」
- それがですね、前にも言ったと思いますが、僕は詠唱というのがさっぱりでして、ひとに教えるってのができないんですよ。
「あ、すみません、そうでした。ではメル様…」
それで簡単な水魔法の詠唱を教えてもらったメルさんは、すぐに初歩の水魔法が使えた。やっぱりね。
「何と、こんな簡単なものだったとは…、今まで忌避していた魔法というものがこんなに…、タケル殿、感謝します」
できたメルさんも自分で驚いてるし。
- あれだけ身体強化を持続させられるんですから、それぐらいできなければおかしいんですよ。じゃ、その魔力の流れを覚えたら、無詠唱でやりましょうか。
「え!?、む、無詠唱!?、それはいくらなんでも…!」
- 魔力の流れを感じることが魔力感知で、詠唱で補佐して魔法を行使することは魔力操作です。その補佐に頼らず全て自分で魔力操作を行うことが無詠唱なんです。まずはそこからですよ、大丈夫、すぐできるようになりますよ、メルさんなら。
リンちゃんもプラムさんも頷いてる。な?、太鼓判ってやつだよな。
メルさんは1時間と経たないうちに無詠唱で初歩の水魔法と風魔法が使えるようになった。戸惑ってる風ではあったけど、すごく嬉しそうだ。
ついでに俺も魔力感知でみて、真似ることで使えるようになった。
え?、だって今までリンちゃんがやってたのぐらいしか覚えてなかったんだからさ、こんな初歩の魔法なんて覚える機会がなかったんだよ。
「今まで、兄上たちが初歩の魔法が使えると嬉しそうに言っていたのを見て、私は武力で対抗できるからと、同じことで張り合うのを避けていたが…、なんだかバカみたいだ、ははは…」
兄弟姉妹と言うのはそういうものなのかもしれないね。
俺は一人っ子だったんでそういうのは実感したことはないけど、でも兄弟姉妹の居る同級生の話や、その同級生で何かが突出していたりするやつに対して、同じように思うこともあったし、だからわからなくはない。
逆に、優れた弟妹が居ると、上としては微妙な気持ちになるらしい。これもわかる。年が近ければムカつくだろうし、年が離れてれば大人の振る舞いみたいなのが天秤に乗るからそれはそれで複雑な気持ちになったりするんだろうなー。
メルさんとこは5人兄弟で彼女は真ん中らしいけど、真ん中は真ん中で苦労がありそうだ。
「私は3人目だが、上の2人とは少し年が離れていてな、兄上や姉上は兄姉というよりは、第二の父、第二の母のような尊敬すべき存在のように感じたものだ」
「何となく分かります。カーライル家では祖父の意向で子供たちは全て同じ場所で育てられましたので、上から下まで十数年離れておりましたから」
メルさんとプラムさんがちょうどそういう話を、訓練しながら時々言っていた。なるほど、そういうのだとまた違うんだろうね。
「ああ、オルダインならやりかねないだろうな。鷹鷲隊にも2人ほど居たと思うが、仲が良いのか悪いのか、いつも張り合っていたように見えた」
「ネルソンとハルトスですか?、あの2人は同い年で小さい頃からそんなでしたよ?」
「そうだったのか。ん?、するとその世話役をやっていた薄茶色の髪でくせっ毛の女性騎士もか?」
「トリーチェですか?、彼女は私と同い年で、下の子たちの面倒をよく見る子なんですが…」
「ああ、そんな名だったな。どうした?」
「魔法学校の頃までは仲が良かったんですよ…、でも私が魔法学院に上がり、彼女は途中から騎士学校に通うようになってからどうも避けられてまして…」
「ああ、騎士たちの中には魔導師に妙な対抗心のようなものを持っているものが少なくないからな、仕方あるまい」
「そうですね…、あ、メル様今のところの操作はそうではなく、こちらを通して先に変化させたほうが効率が良いようですよ?」
「む?、そうか?、しかし水魔法のときの説明ではこの方法だと先ほど言われたではないか?」
「はい、魔法学院でもそうするのが正しいということになっています」
「では、」
「はい、魔法学院では魔法の属性に関係なく、画一的に同じ基底練法、と呼んでいますが、それでやっていたんです。でもリン様やタケル様は、属性によって魔力の練り方や操作にも異なるやりかたをされていまして、そのほうが効率がいいのです」
「なるほど、わかった、やってみる」
話は聞こえてきていた。魔法学校や魔法学院では、おそらく、やりやすい方法を採ってたんじゃないかなと思う。
やりやすい方法が即ち効率が良いとは限らないからね。
俺の場合はリンちゃん、つまり精霊さんが長年培ってきたノウハウを真似て盗んだようなもんだから、理論とか基礎とかそんなのすっとばしちゃってるわけで、プラムさんのように段階を経るような教え方や、はっきりと『効率が良い』というのはわからない。
何となく効率がいい気がするからこうやってる、になっちゃって、そんなので教わったらさっぱりわからないだろうなと。
やってるのを見て、たぶんここが引っかかってるからこう操作すれば?、とは言えても、それが引っかかっている理由とか、当人がやり辛いのはなぜかとか、そんなのはわからない。
いやー、プラムさんが居てくれてよかったなー、俺だとあんなに上手くできないわ。
しかしプラムさんもかなり魔力感知が鋭くなったよなぁ、訓練の成果が出てるよね。
なんせ俺より訓練やってるもんなー、ときどきリンちゃんやモモさんに質問してたりするしさ。スゲー真面目。
俺も見習わないとなー
201806202158 判り辛い言い回しを訂正しました。
20210705:迷ったけどやっぱり訂正。 ずくめ ⇒ 尽くめ





