2ー008 ~ 王女
考えていても仕方が無い、とにかくこのメルという娘さんのことを何も知らないわけだしな。
もうなんかいろいろ面倒になってきたんで、俺が勇者ってことも知ってるようだし、何があっても勇者パワーです、でごまかせそうな気がする。
だから森の家に連れていってしまえ、ってことにした。
プラムさんあっちに置いたままなんだよね、すぐ戻るよ、って出てきちゃったし。
ここんところ訓練もだんだんと内容が濃くなってもいたので、あまり他人に見せ辛いようなものもあったし、それでしばらくは森の家に泊まってもらって訓練をしていたんだよ。
今日ギルドに来たのは、この日になら一部のヒュージスネークについて査定の結果がでると聞いていたので来ただけで、ついでに王都でのオークションの予定に関して進捗があったとか、オークションの参加費用だとかギルド側の解体費用だとか細々したお金のやりとりを精算できる分だけ精算したってわけだ。
- とりあえず、場所を変えましょうか。人を待たせているので、そちらに移動したいんですよ、構いませんか?
「あ、はい。お忙しいところお時間を取らせてしまいました」
といって立ち上がり、扉に向かおうとしたメルさんを引き止める。
- あ、メルさんもご一緒に。リンちゃん。
「はい、タケルさま。メルさん、こちらを首に掛けていただけますか?」
「え?、はい?、これは…?」
- 危険なものではありません。もう少し近寄ってください。さ、早く。
「は、はい」
リンちゃんもう詠唱始めちゃってたし。あっぶなー
「え!?、え!?、これは一体!?、私はどうなったのですか!?」
- 転移魔法です。僕の家で待ってもらってた人がいるので。
「て、転移魔法!?、そのようなもの、伝説の領域…」
- メルさんの用件はお伺いしましたが、僕はまだメルさんのことをよく知りません。メルさんも僕が勇者ということしかご存知ありませんよね?、なので少し強引ですが、我が家で食事でもしながらお互いを少しでも知ることができれば、と思ったんです。もしダメだというなら先ほどの宿にお送りします。どうですか?
「なるほど、それは私としても願っても無いことです。わかりました。お供します」
- そうですか、ではうちの者たちを紹介しましょう。
そう言って玄関のほうに歩き始めると、庭の隅のほうで魔法の訓練をしていたプラムさんが近づいてきた。
「おかえりなさい。そちらの方は?、え!?、もしかしてメルリアーヴェル王女様!?」
「え!?、なぜそれを!?」
- 王女様?
いきな跪いたプラムさんにびっくりだよ。
「はい、王立魔法学院に居た頃、式典などでは必ずお見かけしておりましたので」
「其方、名は?」
「プリミェール=カーライルと申します。こちらではプラムと名乗っております」
「カーライルだと!?、其方オルダインの孫か」
「はい、現騎士団長オルダイン=カーライルは祖父でございます」
「そうか、オルダインが苦笑いしておったぞ?、『孫にひとり魔導師がいたが冒険者なんぞになりおったわ、ディランのアホめがしっかりせぬから』とな」
「そうですか。ご存知でございましょうが、ディランは父でございます。よくある親子での意見の相違というものでお恥ずかしい限りでございます」
何このいきなりの流れ。プラムさん貴族だったんですか。まぁ何となくそうじゃないかな、とは思ってたけどさ。騎士団長の孫とかスゲーな。豪傑爺さんか?、いや雰囲気で。
まぁ2人とも楽しそうに喋ってるからいいか。そんで俺はどうしたらいい?
「よい。しかし其方のせいで私が王女だと勇者様にバレてしまったではないか」
「あっ、申し訳ありません!、ついうっかり!」
「構わぬ。この勇者様には隠し事はできそうにないとつい先ほども思っていたところなのだ。思いの外早く露呈してしまったが仕方ない。
タケル様、決して其方を騙そうという気はありません。国としてではなく個人的にご助力頂ければと思い、王都より馳せ参じたのです。全てお話致します。
何卒聞いては下さいますまいか」
うわーこっち来ちゃったよ、王女様頭下げてるし、家に入ってからにしませんかね?、ふたりともさぁ…。
- あ、メル…王女様?、それとプラムさんも、とにかく家の中で話しませんか?
「そうであった、私としたことがいきなりバレてしまったので少々焦っていたようだ、勇者様申し訳ありません。プリミェールも立つが良い。では勇者様、ご案内頂けますか?」
うぉぉ、固いよ…、でも王女様とかどうしたらいいのさ。俺宮廷儀礼とかさっぱりだよ!?、まぁとにかく無礼じゃなければいいかな?、ダメ?、でもやりようがないんだよ。
- あっはい。それではこちらへ。ご、ご案内いたします。
「勇者様、先ほどまでのように普通にして下さって構いませんよ」
- いや僕、じゃなくて私は王族なんて初めてで…。
メル王女様はくすっと笑い、
「私は確かに王女ではありますが、今は国を離れて勇者様に助けを願うただの娘。そう固くなられることはありません」
少し固さのとれた言い方で、宥めるように言った。
そんなこと言われたってなぁ、よし、わかった。割り切った。開き直る!
- わかりました。ではめ、メルさんも同じようにしてくださいませんか?、どうもこう『勇者様』と王女様から呼ばれるのはなんとも慣れなくて…。
「あい分かった、では勇者殿またはタケル殿、でよいか?」
- はい、ではそれで。
●○●○●○●
リビングでモモさんたちを紹介し、俺とプラムさんとメルさんの3人でソファーのほうに座っていろいろ話をした。まぁ雑談と、メルさんが王都から『ツギの街』に来るまでの話とかだ。
旅人に扮して旅をしたのは彼女も初めての経験だったようで、商隊の野営に混ぜてもらったときの話や、腕が立つんじゃないかと思われた護衛に手合わせを願われ、あまりにしつこいので仕方なく軽く揉んでやったら、金を弾むから護衛についてくれないかとその商隊の商人たちに詰め寄られた話。
それで走って逃げたら、その商隊を狙う盗賊が先の道のところで木を切り倒して馬車を止めるようにして待ち伏せをしていて、そのときは軽く走っていただけだったが、商隊の斥候と勘違いされ、襲い掛かってきたので仕方なく全部倒してしまった話。
そんなことをしていたら商隊に追いつかれてしまい、謝礼を断るのに難儀した話。
それらをメルさんは楽しそうに、嬉しそうに語ってくれた。
王都からツギの街までは、馬に乗ってぱっぱかとことこ旅するなら1日60kmぐらいとして8日ほどだろうか。およそ500kmぐらいの道のりらしい。
乗合馬車などを利用するとそれのおよそ倍、16日ほどかかる。
徒歩だとさらに倍、30日ぐらいだろうか。もっとかかるかな?
しかしこれらは途中で魔物などに邪魔されなかった場合のものであり、ただの指標のようなものだ。
実際は途中は全て平地というわけでも通りやすい街道というわけでもないし、天候にだって影響を受けるので、はっきりと何日で必ず到着するというものでもない。
馬だって個体差もあれば、人にだってある。荷物の多い少ないもある。
いくら王都も『ツギの街』も同じ王直轄領だとは言っても、『ツギの街』は元は貴族が治めていたひとつの領土の領都であったわけで、それなりに距離があるのだ。
そんなところを徒歩のくせに身体強化を駆使して10日で突っ走ったらしい。
ちゃんと休憩や食事に睡眠だってとってたみたいだけどさ…。
やっぱり世の中常識ってもんがあると思う。
メルさんは常識ハズレの身体能力と戦闘力がある、と思っておこう。
ふとリンちゃんが視界の隅で小首をかしげているのが見えた。
●○●○●○●
夕食が終わってしばらくは腹ごなしの訓練時間だ。
お風呂の順番待ちってのもあるけどね。
そこで俺とプラムさんがやってる魔力感知と魔力操作の訓練に、メルさんも参加することになった。
最初は『私は魔法は全然できませんから』と、1度は断っていたが、俺たちがそれぞれ、『メルさんのやってる身体強化は魔法ですよ?』とか、『武器に纏わせてるのは魔力ですよ』とか、『メル様、ここでは王都の常識は通用しません』と言われて、……改めて思い出してみたらプラムさんは違うこと言ってるよな?、まぁいいけど。
とにかくそれで説得されて、訓練を一緒にやることになったわけだ。
訓練中、いくつかちょっとあった。何がってまぁ…。
まず1つ目。
メルさんが年齢の割には身長が低いことを気にしてるんだと知った。
そこでリンちゃんが爆弾発言。
「そんなにほぼずっと身体強化をしていたら伸びる身長も伸びませんよ」
だよ。
そりゃもうその言葉を聞いた瞬間のメルさんの表情ったら、可愛そうになったぐらいだったよ。目も口もあけ頬は引きつっていて、衝撃すぎて固まっている、そんな感じ。
「り、りり、リン殿!?、今何と!?」
幼少の頃からいつの間にかできたという身体強化、ずっとやってるんだよね、メルさん。
同時に、持った武器防具にも自然に魔力を纏わせている。
ずっと身体に染み付いたクセみたいになっちゃってるんだよな、たぶん。
「身体を強化するということは、それだけ強靭になるように補強しているわけですから、身体の成長もその分遅くなります。ヒト種の場合であれば、成長期は個人差もありますが女性の場合ならだいたい15歳ぐらいまでだったと聞いていますので、メルさんの場合は身体強化のやりすぎが原因でしょうね」
「な……なんということだ…orz」
まさにorzの姿勢で四つん這いになりがっくりしているメルさん。あまりにもストレートすぎて直撃だったんだろう。
- リンちゃん、もうちょっと言い方ってものが…。
「いや、むしろ分かりやすくてありがたい。リン殿、感謝します」
「はい。この場合は遠まわしに言うことに意味はありませんよ、タケルさま」
そういうもんなの?、でも結構衝撃的だと思うんだけど、勁いなメルさん。
王女スキルか?
「しかし成長していないというほどでは無いように思いますね。ということはおそらく身体強化をしていない時間に成長していたのではないですか?」
「身体強化をしていない時……?」
「たとえば、睡眠中ですとか」
「!?、そうかもしれん。しかしこれは無意識にやっているようなものなのだ、どうすればいいのでしょう?」
ズザザザという感じで四つん這いのままリンちゃんのところまで行ってすがるような視線でリンちゃんに相談するメルさん。
あ、リンちゃんが精霊さんだってことは夕食前にリビングで、プラムさんがポロっとリンちゃんのことを『師匠』って呼んじゃって、それで話してしまった。
「ならそれを意識して切り替えられるように、魔力感知と魔力操作の訓練をすればいいのです」
「はい!、精進いたします!」
眠ってるときは魔力を纏ってないんだったら、ON/OFFができないってわけじゃない。
だから方針として、ちゃんと意識してON/OFFができるようになりましょう、というのが当面の目標になったんだ。
それで訓練に身が入るなら、まぁいいんじゃね?、ってことで。





