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2ー007 ~ 頼みごと

 冒険者ギルドに行き、オルダイン団長が用意してくれた身分証を見せて旅人メルとして登録した。


 登録ついでに、ツギの街にくるまでに狩った角キツネや角ウサギの皮を買い取ってもらったが、角はともかく皮については剥ぎ取りが下手なので買い叩かれてしまった。


 余りの買い取り金額の安さに一瞬凹んだが、しばらくは冒険者としてやっていかねばならないのだ、できるようにならなくてはならない、と落ち込むヒマなんてないんだと思い直した。


 勇者の噂を集める……ことをわざわざせずともそこらで聞けたが、『キチン宿』にとまっているという。


 行けば最低ランクの宿ではないか。勇者がそんなのでいいのだろうか?、と思い、自分がここに宿泊するのか?、いや野営の事を考えれば屋根があるだけ…、しかし宿だぞ?、どうしようか、と悩んでいるところに、タケルたちがやってきた。






●○●○●○●






 タケルやリンにとってみれば、このメルリアーヴェル王女という人物は、目立つなどという言葉では言い切れないほどの人物に見えていた。

 タケルにとっては特に、今までヒト種でそんな()()なのは出会ったことがないのだから当然だろう。


 身体全体に薄く魔力を(まと)っていて、革カバーの上に全体的に布で覆っていても、槍にまで魔力を纏わせているわけだから、ものすごく目立つ。そりゃあもうめちゃくちゃ目立つ。


 魔力感知的な感覚が充分ある2人なのだ、視覚的に言うと光源が人の形をして槍をもって立っているような感じであり、聴覚でいうとそこに大音量を放つスピーカーセットが人の形を以下略である。


 森の家から『キチン宿』に転移した瞬間、街にそんなのが居ると感じたタケルは、ちらっとリンを見、気付いたリンが首を横に振り、『あれはヒト種ですよ』と言ったため、敵でなければという前提条件がつくが、俄然(がぜん)興味がわいてきたのだ。


 ギルドでの話は適当に相槌を打ち、受取証にサインをしてできる限り急いでギルドを出たら、なんとその人物は『キチン宿』の前に居たというわけだ。


 それで、面白そうな武器をもって魔力を纏い立っている、つまり魔力感知的には臨戦態勢なのだが、街に来た時と変化がない。

 宿の近くまではちょっと緊張ぎみに歩いて行ったが、見えるところまできてみるとどうも臨戦態勢というわけではなく自然体だということが分かった。


 それで気負うこともなく、自然にタケルは話しかけてみたのだった。


 聞けば、メルと名乗ったこの少女――リンよりほんの少し高いぐらいの背丈なのでそう考えたのも無理はないが、ただの少女ではないとタケルは思っている――、勇者を探して王都から旅をしてきたという。彼女も勇者の噂をあちこちで自然に集めたので、別に隠しているわけではないし、タケルの態度にも警戒や悪意などは感じられず、自然だったために素直に返事をしたようだ。






●○●○●○●






 人が、誰かを探して旅してきた、というのはよくある話であり、その相手が勇者だというのは、特にこの町では勇者が滞在しているなら普通にあることなので、街の人たちも口が軽い。何せここは『勇者の宿』周辺を卒業した勇者が必ず来る、『ツギの街』なのだから。


 そして、大抵そういった人には、さっさと話してどこかへ行ってもらうか、知らないと関わりを持たずに去るかの(いず)れかだ。

 冒険者をやっている人以外の、普通に暮らしている人にとって、勇者を探している人の事情なんぞに巻き込まれたくはないものだからだ。


 そんな街の人たちのことなんて知らない2人+1人は、周囲の人たちが戦々恐々、遠巻きにして近寄らないようにしながら様子を覗っていることなど全く気がついた様子もなく、普通に会話を続けていた。


 どうしてそうなるのかというと、勇者を探してきた人物が、目の前にいるのが勇者だと知ったとき、あるいは当人が名乗ったとき、たいていは、

 ・弟子にしてほしい

 ・頼みがある

 ・手合わせをして欲しい

 この何れかなのだ。


 そして断られると暴れたりする。酷いのになるといきなり斬りかかったりする。

 腕自慢対勇者の戦闘がそんな近くで勃発しかねないのだ、そりゃ遠巻きにもするだろう。






 どうやら今回のは穏便な相手のようだと、周囲が安堵しはじめた頃、ようやく3人は目の前の『キチン宿』に入って行った。


 宿の主人はカウンターから頭部の上半分だけを出して様子を見ていたが、3人が自分のほうに動き始めたのを見て、急いで表情を取り繕って立ち上がった。


 タケルはその様子に一瞬、怪訝そうな顔をしたが、気にすることもなく主人に挨拶をして部屋のカギを受け取ると、そのまま階段を上がり、2人がそれについて行った。


 通常なら文句のひとつも言われるところだが、宿の主人からしてみればもう今更なのだ。

 タケルたちは知らないが、この主人、安宿だがそれなりにちゃんとやっている。


 最初のうちは、タケル1人だったし、普通の一般的な駆け出しの冒険者という行動だった。


 ところが2人部屋に移ってからがおかしくなった。


 タケルたちは宿で食事を頼むこともお湯の手配を頼むことも一切せず、宿の裏手で洗濯などをしたりもせず、便所を使うこともなく、部屋に入ったらほとんど物音も立てないのだ。

 主人からすると不思議どころか不気味とさえ思えたのも仕方ないだろう。


 自分の宿で問題を起こされるのは彼にとっては大変困るので、不信とまでは言わないが不思議な宿泊客には注意を払っていたのだった。






●○●○●○●






 ある夜、近所でボヤ騒ぎがあり、風向きからすると、延焼なんてことになれば逃げなくてはならない場所だったので、一応宿泊客にも連絡をしようと、その時宿泊していた、つまりカギを渡していた部屋全てに話をしに行ったのだ。


 カギを渡してあるのだから部屋にいるはずなのに、タケルたち2人は部屋にいなかった。

 ノックをしたが返事が無い。なので開けますよと断ってからマスターキーで開けたら部屋はもぬけの殻だったのだ。


 カギもったままどっかいっちゃったか?、困るなぁそういうことされちゃあ、と思ったが、ボヤ騒ぎの最中なのでそれどころではない。居ないならそれでいい、とその時はそれでよかった。


 幸いボヤは延焼することなく消しとめられたが、翌朝、なんとタケルたちが階段を下りてきてカギを渡したのだ。普通に宿泊したような雰囲気で。


 昨晩居なかったよな?、と思ったが、あまり詮索するのもどうかと、どう訊けばいいのかわからないまま固まっていると、タケルたちはさっさと出て行ったため、訊くタイミングを逃してしまったのだ。


 その後はダンジョンに行ったのでしばらく戻らず、訊く機会のないまま日が過ぎ、そして問題の日。


 なんとあの2人部屋に、6人で入り込んだのだ。もちろん入れなくはない。無理をすれば眠れなくはないだろうが、そういうのは困る。だから見に行った。


 もぬけの殻だった。


 一体彼等はどこに消えたのだろう?、主人はそう思った。

 そして翌日は普通に6人が部屋から出てくるのだ。


 わけがわからない。


 そして彼等はしょっちゅう誰かを連れてきては、そのまま消えるのだ。

 翌朝は何でもないかのように、ちゃんと出てくる。

 時々出てこないまま、つまり消えたままのこともあるが。


 もう好きにしてくれ、っていうような気分になった。


 なので、今日も「またか…」と思うだけで階段を上がっていく連中を見送った。


 それでいいのだ。あれは勇者だともう知っている。


 誰しも、そんなものに深く関わって巻き込まれたくなんてないのだ。






●○●○●○●






 「しかし驚きました。こんなにすぐに勇者様に遭えるなんて思ってませんでしたので」


 部屋に入ってすぐ、メルと名乗った彼女は嬉しそうに言った。


 むちゃくちゃ目立つしなぁ…、勇者に会いに来たって言ってたけど、俺に会いに来たわけじゃないよな。

 一応勇者って書いてある札、見せたらすげー驚かれたし、ほいほい部屋についてくるし、入ったらまた言ってるし、余程旅程が辛かったのかな?


- そうですね、僕も驚きましたよ。こんなに目立つ娘さんが凄そうな槍をもって宿の前で誰かを待ってるのをみて、声をかけたら勇者に会いに来た、って言うものですから。


 「私、そんなに目立ちますか?、この槍でしょうか?、一応布で隠しているつもりなのですが…」


 あ、ついぽろっと言ってしまった。

 まぁいいか、近くに人は居ないし誰も聞き耳立ててないし。


- あ、実はですね。メルさんのように魔力を纏っている人や物がわかるんです。そういう意味で目立つ、と。


 メルは一瞬、『魔力?』と呟き、(いぶかし)しげな表情をしたが、それはすぐに消えて尋ねてきた。


 「それは勇者様の能力なのですか?」


- そういうわけではないんですが、そう思って頂いて構いません。


 「今は言えない、ということでしょうか?」


 俺の言葉に少し壁を感じたのだろうか、彼女は緊張したような表情で不安そうにそう言った。

 でも仕方が無い。信用を得なければならないのは頼みごとをする側である彼女なんだから。そういう意図を篭めて本題に切り込んだ。


- それはメルさんが、僕にどのような理由で会いに来たかによります。






 彼女が姿勢を正して話し始めたのは、それほど難しい話ではなかった。


 曰く、彼女の恩人がティルラ王国の国境に派遣される。

 そこでは魔王軍の侵攻を防衛している。

 その戦いの旗色が悪くなってきており、援軍として派遣されるのだが、予定されていた時期が早まったため、派遣する人数が揃わなかった。

 他の勇者様も時々援軍に駆けつけてくれることもあるが、担当区域を長くあけるわけには行かないので、ずっと居てくれるわけではない。

 なのでできるだけ早く、自分も駆けつけたいが、自分ひとり行ったところで自信はないし戦力になれるかどうかもわからない。

 だからまだ担当区域のないタケルに助けてほしい。


 要点をかいつまんで言うとこういうことだった。






 メルさんは部屋を出ていないと思っていたリンちゃんが、いつの間にお茶を淹れてくれたのかが分からなかったようで一瞬驚いていたが、話の途中だったのもあり、礼を言ってカップを受け取って飲みながら話し続けていた。


 俺もお茶を飲みながら聞いていたんだが…。


 今の所、予定もないしそろそろ次の目的地も決めなくちゃいけなかったので、そういう意味ではいいんだけどなぁ…。


 今すぐ、みたいなのはちょっとなぁ、どうすっかな…?




2章、やっと主人公登場です。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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