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2ー005 ~ ほうしん

 翌朝、侍女に起こされ、洗顔をした。朝食のことを尋ねられたが食欲がないと断って、またベッドにもぐりこんだ。


 ウィラード兄様とストラーデ姉様が様子を見に来た。侍女から聞いたのだろう。


 眠りながら泣いていたようだ。起きた時顔を拭われた。私の元気がない様子など初めてのことだからだろうか、相当衝撃をうけたようだ。何か話をしたようだが生返事だったかもしれない。あとで謝ろう。


 本来なら今日は演習が終わった騎士たちを労う式があったはずだ。王族はもちろん臨席し、王または王妃が成績優秀者を表彰する段取りだったはずだ。私が寝ている間に式典は終了したそうだ。






 部屋の外が騒がしい。何だろうと思った瞬間、扉が激しく開き、騎士団長オルダインが入室した。侍女たちが(すが)っている。何かあったのだろうか?、とぼんやり考えていた。


 「歯を、食いしばりなさい」


 目の前の騎士団長がそんなことを言った。私がか?

 そう思った瞬間、騎士団長の平手が来た!、まずい!、耐えなければ!


 「何をなさるのです!」


 侍女頭の声がした。扉のところにいた。

 私はそれをベッドの横の床で見た。騎士団長の平手で吹っ飛んだようだ。

 咄嗟(とっさ)に武力を(まと)ったが、体は軽いので吹っ飛ばされてしまった。


 「姫様お怪我は!?」


 侍女が飛びついてきた。


 「姫様はそんなやわではありません。目が覚めましたか?、姫様」

 「はい、お手間を取らせました」

 「明朝、遠出を致しましょう。馬はこちらで用意いたします。姫様は必ず来るように。では」

 「いくら騎士団長といえど勝手が過ぎませんか!?、この事は報告させて頂きますからね!、ちょっと!、聞いておられるのですか!……まだ小さい姫様になんてk…」


 侍女頭が金切り声で、騎士団長がすたすたと歩み去っていくのについて行きながら叫んでいるのだろう、声が遠ざかっていく。たぶん早足だろうなと想像する。


 なんだか少しおかしくなった。


 「少しご機嫌が回復なさったようで、よかったです。それにしても本当に大丈夫ですか?」


 私の側にしゃがみ、半身(はんみ)に手を添えて侍女が言う。


 「はい。騎士団長も言っていたでしょう?、そんなにやわではありません」


 目で合図をし、無事だと見せるつもりで立ち上がる。


 「あんなに吹っ飛ばされていたのに、ですか…?」


 信じられない、とでも言うかのように目を丸くしている侍女。


 「咄嗟に武力を纏って防御しましたから。吹っ飛んだのは私が軽いからです」

 「……そうですか。ところで姫様?」

 「はい?」

 「何か食べますか?」

 「…そうですね、何か軽いもので。甘くないものが良いですね」

 「よかった」

 「?」

 「食欲も戻られたのですね」

 「そう言われてみれば、そうですね」


 ふふふ、くすくす、と笑い合った。






 侍女が軽食を厨房から持ってくるまでの間、なるほど、そういうことかと納得した。


 戦闘に(のぞ)んで気持ちが高ぶるとき、気持ちが身体の隅々まで行き渡るものだ。

 鍛錬によってある程度のレベルになると、その気持ちは武力となり身体強化ができるようになる。これができるようになって初めて達人級の入り口に立てると言われている。


 自分のような者は、身体的にはまだ大人ではないので、訓練に参加したりする時にはそれを補うために武力を身体の隅々まで通し纏わせることでその身体強化をしている。


 つまり騎士団長はその逆をやったのだ。


 やり方はなかなか強引だが、私が危険を目前にして反射的に、武力を纏って防御体勢をとることができると騎士団長は充分知っている。


 気持ちが消沈していても、武力を纏えば逆作用というか、条件反射のようなものだろう、身体を先にその状態に持っていくことで、消沈していた気持ちが戻ったわけだ。


 確かにさっきまでの消えてしまいそうだった状態ではなくなった。

 やるべき事もたくさんあろう。

 食欲もでてきた。


 「明日の遠出に備えて栄養を取らなくてはな。ところで今は何時だろう?」


 そう独り言を呟きながら立ち上がって窓のほうに歩いていった。






●○●○●○●






 翌朝。


 騎士団で『早朝』と言えば日の出直後のことだ。

 なので朝も薄暗いうちに準備をし、昨晩用意してもらった果物を朝食代わりに少し食べ、日の出に間に合うように城を出て騎士団本部に行った。


 到着すると、騎士団長であるオルダインや今回迷惑をかけた人たちが居る。


 彼はこちらに背を向けていたが、他の者がこちらを向いていたので言われたのだろう、振り向いた。


 「数時間は待つことになるかもしれないと話していたのですが、お見それ致しました。よく覚えてらっしゃいましたね」


 彼は歴戦の刻まれた皺や傷跡のある(かんばせ)を朝の光に照らされながら薄く微笑んだ。


 「騎士団で『早朝』と言えばこの時間だと教えてくれたのは其方ではないか」

 「王家の関わる式典で『早朝』と言えば朝食の1時間後ですから」

 「今回多大な迷惑をかけた私が、騎士団の時間感覚に合わせるのは当然ではないか」

 「よいお心がけです」


 彼が笑った。


 そこでふと、彼の後ろに並んでいる者のうち、ひとりに目が釘付けになった。


 「な!?、なぜそこに私が居る!?」


 そう、私が居た。いや、私はここに居る。いや何を言っているんだ?

 誰かが私に扮してそこに居た。


 「昨日の式典で姫様の代わりに立たせてみたのですが、お城の侍女たちが思いのほかやる気を見せたと言いますか、実力を発揮してしまいましてな。どうです?、実によく似ているでしょう?」


 やる気を見せすぎだろうが…。

 近寄って検分してみる。

 うーん、しかし本当によくできている。

 普段姿見で自分の姿を着替え等の時には見るが、それと寸分(たが)わず…、とは思いたくはないが、ほとんど変わらないとも言えるぐらい似ていた。


 「う…、姫様そんなに近づいて見つめないで下さい…」


 情けない表情と声でそう言う私のニセモノ。


 「むっ、何だその情けない声は!、仮にも私の姿形(すがたかたち)をしているのだ!、もっとしっかりせんか!」

 「ははははは、ほれ、言われてしまったな。儂の勝ちだ!」

 「くっ…、もう少し耐えんか馬鹿者め…」

 「昨日の式典では私が勝ったのに…」


 順に、騎士団長、隊長、中隊長だ、賭けていたらしい。昨日もか。不敬な、と思ったがそういう奴等だった。今更だ。


 「昨日もか?、どういう賭け内容だったのだ?」

 「昨日のは、式典で誰が見破るかを賭けました」

 「ほう、で、結果は?」

 「儂は、王妃様とウィラード王子は見破るだろうと」

 「私は、王妃様とウィラード王子、ストラーデ王女が見破るだろうと」

 「私は、誰も見破れないと賭けて、勝ちました」


 なんという賭けをするのか…、しかも父王が見破れるとは誰も思わなかったのか…。

 しかも結果は誰も見破れなかっただと…?


 「な・・・?、もしかして、頷くだけで喋らせなかったんだな?」

 「その通りです。よく分かりましたな」

 「さすがに喋れば全員にバレるだろう?」

 「声も我々からすれば似ている部分もあるんですよ」

 「そうなのか?、全然違うぞ?」

 「当人にはそう思えるものなのです。声というものは」

 「ふむ、そういうものか。しかし見破れないとは、我が家族ながら情けないというか微妙に悲しくなるな」

 「一昨日のことがありましたからな、昨日まだ元気がなくても皆様不思議には思わなかったのでしょう」

 「ああ…、そうだった。そのせいか…」

 「それが無ければ儂が勝ったと思いますな」

 「いいえ、私が勝っていましたね」


 張り合う隊長。既に勝ったので不敵な笑みの中隊長。

 そんなことで張り合わなくても…。


 「わかったわかった。それで今日はどういう賭けを?」

 「今回は姫様の第一声がどういう内容かを賭けたんですよ」

 「儂は、姫様が言った通り、『もっとしっかりせんか!』と叱ると賭けました」

 「私は、『本当によく似ているな』と」

 「私は、『侍女たちめ、やりすぎだ』と」

 「ふむ…、なるほど。なかなか甲乙つけ難い予想だと思う」


 隊長と中隊長の予想も、的外れというわけではない。実際そう思った。


 そんなに予想しやすい性格なんだろうかと少し凹んだ。だが人生経験が2倍以上なのだから仕方ない。


 賭けの対象になるのは今回が初めてというわけではなく、何度もあったことなので今更なのだ。

 最初のときに、このように『内容を訊かれたら、素直に話せば怒らない』と条件を出しておいたので、律儀にしたがってくれている限りは、黙認することにしている。


 「でしょう!?、だから賭けになるんですがね」

 「うむ。何れ劣らぬ予想で結果がどうなるか楽しみでした」

 「団長のだけはちょっと違うと思いましたけどね」

 「だがちゃんと勝ったぞ?」

 「それはこいつが喋ったからでしょう!」

 「全くですよ!もう少し黙ってれば…」

 「まぁまぁ、結果は出たんだろう?、それで、これはどういう趣向なんだ?、私のニセモノを作ってどうするんだ?」


 そう、そこが肝心の話だろう。この連中がただの酔狂だけでここまでのことはすまい。昨日は王家すら騙したようなものなんだから、それ相応の理由や計画というものがあるはずだ。それも王や王妃が納得するような理由が。


 「それは、出先でお話するとしましょう」


 と、騎士団長があごで示すと、後ろに控えていた馬を厩務員と今日担当の兵士たちが引いて近寄ってきた。


 「姫様は今日はこの馬に騎乗して頂きます」

 「わかった。ん?、てっきり私は一昨日の馬に乗るのだと思ったんだが…」

 「どうしてそう思われましたかな?」

 「精神的な負担になってはいけないだろうと、荒療治する意味でも同じ馬を使わせるのではないかと」

 「そうお考えの時点で既に荒療治は必要ありませんな」

 「そうか、ありがとう」

 「はい、どういたしまして。では騎乗!」


 昨日の一件と今朝の様子を見て、もう大丈夫だと判断したのだろう。

 全くこの騎士団長には頭があがらない。

 そりゃあ私は彼の孫よりも若いんだから、当然のこととは思う。


 さて久々の遠乗りだ。どこへ連れて行ってくれるのだろうか?




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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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