0ー005 ~ 序章の終
少しずつ奥に行けるようになってきた。
兵士の詰所にある地図の範囲はもう超えている。
それでこの間、木製の水筒を買った。あ、いや元から皮製の水筒はあったんだよ。袋の中に。
でもそんなに量が入らないんだ、あれは。
で、例の雑貨屋で大きめの皮水筒を見たんだけど、ちょっと高いし、でかいと使い辛いっていうかね。
そんで他のはねーかなーって見てたら木製、っていうかたぶんこれヒョウタンみたいな植物の実の皮のやつ、元の世界でうどん屋とかのテーブルにあるやつあんだろ?、七味とか薬味が入ってるやつ。あれのでかいやつを思ってくれればいい。
そのちょうど腰にくくりつけるのにいいサイズのがあったんで買ったんだよ。安かったしな。
小鬼の対処にももう慣れたもんで、ある程度近くまで気付かれないように近づき、そこから盾を構えてササッと走り寄ってズバズバッと倒す。
そんで置いてた荷物を取りに戻って、また小鬼んとこに来て、そんときにはポロっと取れてる角を拾ってから死体を脇に寄せ、血、だよなたぶん。赤くないけど、の跡を床の粉、まぁ土だろうな、ダンジョンだけど、で適当に足とかでぱっぱとごまかしておくだけだ。
数えるのもバカらしいぐらいやってるからもう何とも思わなくなったね。
ゲームとかの登場人物もきっと、数え切れないぐらい魔物を倒していくうちに、こういう気分になったんだろうか、などとちょっと考えたけど、考えても仕方ないよな。
そしてだいたい、こうやって初心者マークを卒業したぐらいに、何かミスるんだよな、世の常だよ全く。
ああ、なんか左の腰んとこが冷やっこいな、って思ったら、水筒にヒビでも入ったのか水が漏れていた。皮水筒のほうが水の持ちが悪いので先に飲んでしまっていたが、まずいな。
いや、味のことじゃなく。
たぶんあれか、2回目の休憩をしたときに壁際んとこに座るのによさそうな岩があったんでそこに座ったときか?、小部屋にいた2匹と、巡回?、している訳じゃなさそうだけど、通路を移動するやつのことをそう呼んでる、その2匹とがタイミング悪く、連戦になっちゃって疲れたんだよ。
まぁ今さらだな。
それはそうと、どうする?、戻るか?
一応地図を確認してみる。
今日はだいぶ進んできたんだよな、途中2度ほど休憩したし。時間的にも折り返したほうがよさそうだ。
よし、やっぱ戻ろう。
水無しか…、もつかな…。
無いと思うと余計にノドって乾くんだな。水飲みてー。
そんで小鬼だよ。湧く瞬間って見たことないから知んねーけどさ、来るとき倒したやつがまた居たりするんだよな。
同じやつかどうかなんて見分けつかねーけどさ。
声?、わかるわけないだろ。
やっと2回目の休憩をした小部屋に戻ってきた。こいつだよ、この岩だよ、座って壁にもたれたらちょうど水筒んとこに当たる位置にでっぱりがあんでやんの。
こいつのせいで…!、げしっ!げしっ!
ああ、なんかイラついてるわ、こういう時こそ冷静に、冷静に。
唾液出せばいいんだ、ってさっき燻製肉を口にいれたのがいけなかったんだ。思えば冷静じゃなかったな。
唾液はでたけど、余計にノドが乾いた気がする。
そういえば服のボタンとか、つるつるしてるような石ころとか、口にいれておくといいとか昔どっかで読んだな。
何かないかなと、辺りを見回したが、そんな都合のいい石ころなんて落ちてないし、ちょっと衛生的にどうなんだって思うからなぁ…。
背嚢の中に何か…、だめか。
……いや、落ち着こうぜ。こういうのって探した時には見つからないもんなんだ。
ガムなんて贅沢は言わないから、ころころ口の中で転がせるようなものとか、何か読むとか、そういうのも次回からは用意することにする。
ん?、何か読むもの?、地図ぐらいしかないな。
まぁいいか、地図でも見るか。
ああ、こっちの分岐は入ったことなかったっけ、その先に水があるようだ。地下水路みたいなもんか?
細いし下りで段差が少しあったから、避けてたところだこれ。
水があれば燻製肉や固パンも食べれるし、湯が沸かせる場所があれば帰りの足も軽くなろうってもんだろう。
よし、行ってみるか。
腰ぐらいの高さの段差というか岩がごろごろしてるような、なんだろう、岩場の下り?、そんな感じで降りていくと、水の音が聞こえてきた。湿気もあるような気がする。
よし、俄然希望が湧いてきた。
狭いな、途中、腰を屈めないと通れない高さの所があった。
小鬼も見かけないし、骨なども落ちてない。
しかしよくこんなところまで地図になってたもんだな、ありがたや。
●○●○●○●
水はあった。地図の通りだった。水路というかトンネルみたいなのを流れてる川と池だった。
池のほうの岸には岩がごろごろしていたが、川のほうは向かい側は壁になってて、こちら側は土と砂利っぽい感じだ。
トンネルのほうは川面から天井まで1mちょいか?、暗くて先が見えないが。
しばらく様子を見ていたが、流れる水の音ぐらいしかしないし、どうやら休憩できそうだと、ランプを灯して鍋をかけられるように拾い集めた石を組んだ。
水は見ると透き通っていたし、味見したが別に問題なさそうだった。むしろ美味い水だった。
とりあえず手鍋で掬って、休憩用に持ってきていた木炭と木切れにランプの予備油を少したらし、ランプから火を移して鍋をかけた。
暗いトンネルのほうを何となく注意しながら、皮水筒に水汲んでたら、池の中、川のトンネルじゃないほうから、何か細長いロープみたいなのがシュバッと来て、やべっ!、と思った瞬間引きこまれた。
見る余裕なんてねー、とにかく腰のナイフを抜いて膝の下あたりに巻きついてるやつを切る……、と思ってもできるわけがなく、そのままガボガボ…。
ああ、もうだめだ…
………
……