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2ー003 ~ 嫌われる

 「やはりダメか…」


 普通に向かい合わせに立っていたのに、メルリアーヴェルが『サンダースピア』を手にしたとたん、乗っていた騎士に逆らって離れて行った軍馬を見ながら、言うともなしに呟いてしまった彼女。


 槍を持ってきた騎士とともに、少し距離をあけて見守っていた数人のところへと戻った彼女に、申し訳なさそうに厩舎長が小さく頭を下げた。


 少しは期待してみたものの、結果は予想されたものだった。

 黙ったまま表情に影を落とし、少し肩を落としたメルリアーヴェル。


 「あれでも結構芯の強い、良い軍馬なんですがね…」


 何とも言い辛そうに、嫌がって距離をとった軍馬のほうを見ながら厩舎長が言った。


 「ああ、わかっている。厩舎長の選んだ馬なんだ、そこは疑っていない」


 メルリアーヴェルのその言葉で、ほっと安堵した表情をした厩舎長。


 「逆に考えればその槍を持った姫様には、相手の軍馬もまともに動けず騎士が働けないということではないですかな?」


 慰めるようにそう言ったのは忙しい中、時間を作って立ち会ってくれたオルダイン団長だ。


 「私が近くにいたら味方もそうなるではないか」

 「それはまぁ、そうですな、はっはっは」


 不満そうにオルダインを見上げるメルリアーヴェル。

 それを軽く笑い飛ばす彼に、呆れたように注意した。


 「笑い事ではないんだぞ?、騎士団長」

 「馬がああではどうしようもないですな。姫様は身体強化ができるのですから、その槍を使う以上は馬に頼らず走るほうが良さそうですよ」

 「むぅ…、うすうすそういう結果になるだろうと思っては居たが、改めて其方の口から言われると(こた)えるな…」


 覚悟していたことでもあるので怒るよりもがっくりと肩を落とした姫。


 「それにしても、その槍、余程動物に嫌われる何かがあるんでしょうなぁ…」

 「いや、それがそうでもない」

 「と言いますと?」

 「試しに他の騎士にこの槍を持たせてみたが、嫌がる軍馬は1頭も居なかった」

 「ではその槍が原因ではない、と?」

 「私がこの槍を持って居ないなら普通に乗せてくれる。だから私が原因というわけでもなさそうなのだ」

 「つまり、姫様がその槍を持った場合にのみ、動物はあれほど嫌がるようになる、ということですかな」

 「そういうことだ」






 種明かしをすると実に簡単なことだったりする。


 メルリアーヴェルは無意識に、持った武器に魔力を篭めることができるとは先に言及したが、普段もそれほど強くは篭めてはいないものの、そう、魔力をうすーく纏わせるぐらいは、やっちゃってしまっている。


 これも才能といえば才能であり、幼少のときふとできてしまってからずっと、いわば魔力量の鍛錬をやり続けてきたようなものなので、そこらの魔導師が裸足で逃げ出すぐらいの膨大な魔力量に育ってしまっていたのもその原因の一端である。


 そして、だ。『サンダースピア』はそれに応えるわけである。具体的に言うと帯電するわけだ。

 すると、もうお分かりの様に、メルリアーヴェルが『サンダースピア』を持った場合、弱い電磁波を発しているわけなのである。


 大抵の動物は、こうした電磁波を感じるととても嫌がる。とくにこの世界には電磁波なんて得体の知れない見えない何か、なのだから効果は抜群である。

 それはもう急いで逃げるぐらいに。


 訓練された軍馬ですら、彼女が『サンダースピア』を装備すると、乗せるのを嫌がる。近づくと離れる。


 そしてメルリアーヴェルとしては大どころか超のつくお気に入り武器である『サンダースピア』を手放すなら騎乗しないことを選ぶ。


 騎士たちにしてみれば、騎乗戦闘訓練でメルリアーヴェルが仕方なくビリビリしない槍を使うので少し助かっている。


 ランスは突撃重装騎兵というカテゴリーなので、メルリアーヴェルはそれとは関係がない。そりゃそうだ。いくら何でも王女をそんな兵科に組み入れたりしない。というか騎士団も全力で断るし王だって王妃だって兄王子や姉王女だって許可しない。


 なので騎乗して移動するときは仕方なく、『サンダースピア』を持たずに他の兵士に運ばせることになった。『サンダースピア』を持つときは馬を降りて離れてから、というきまりまでができたのだ。

 なぜか?、馬が逃げるからだ。軍馬も落ち着きがなくなるし。


 そう。軍馬ですらそんななのだ。一度試しに訓練で、騎乗兵あいてにメルリアーヴェルが騎乗せずに『サンダースピア』を持ってみたが、模擬戦どころか訓練にすらならなかった。


 戦闘モードのメルリアーヴェルの持つ『サンダースピア』からは強い電磁波がでていて、そりゃあもう馬が嫌がる嫌がる。当然騎乗兵なんだから軍馬なのだが、それですら怯えてとことん逃げる。騎乗している騎士がコントロールなどできないほどに。


 全く呆れた兵器である。


 しかしその、話にならなかった模擬戦を終えると、メルリアーヴェルはゴキゲンだった。


 「私が先頭に立てば、相手の騎兵は総崩れになるだろうからな、ははははは」との言だった。もう開き直り以外の何者でもない、ゴキゲンというよりは空元気の(たぐい)だろう。


 ついでに言うと魔物も嫌がる。襲ってくるのは余程強い魔物だろう。だがそんなのは試す機会がなかったために、『いい魔物避けだ』とこれまた開き直ったのだった。

 何せ狩りに出かけてわかった事なのだから。当然、収穫ゼロだ。


 ちなみに騎乗戦闘を諦めたメルリアーヴェルだが、身体強化をやっちゃうので、馬なんぞ置いてきぼりにできる。騎士団長もそんなレベルである。

 そんでもって弓矢なんぞせいぜい飛んでいる虫が体に当たった程度なものである。

 こんなのと戦う相手が可愛そうになるぐらいだ。


 でもこの世界の達人級の連中なんて大概こんなものだ。数が少ないのが一般兵にとって助かっているところだろうか。


 ただし、いくら人間をやめてるレベルであっても疲れはする。

 一騎当千とはよく言ったもので、だいたい千人ぐらい倒したところで力尽きる。

 それでも相手が哀れなのは変わらないが、まぁそういうものだ。






●○●○●○●






 メルリアーヴェルもそろそろ13歳になろうというところだが、一応心の片隅には乙女的な部分もある。


 具体的には愛だの恋だのというものだ。そりゃそうだろう、この時期はいわゆる思春期というもので、多感な年頃などと言われたりするのだから。


 いくらこんな魔物がいたり魔法がどうの騎士がどうのな厳しい世界で、姫騎士だのなんだのと民から言われたりするような娘であっても、そういう部分ぐらいはある。


 ところがこんな化けm…失礼、じんg…またまた失礼、超人レベルの娘と婚約しようなんていう剛の者など居ようはずもない。


 当人もその程度のことはわかるし、こんなのでも貰ってくれるのならという殊勝な気持ちも全く無いわけではないが、それでも一国の王女なのだ。プライドというものだってある。


 だからこの年で婚約者が居ないというのは少々堪えるが、でも仕方の無いことだと思っている。まだ若いのだから今は考えないようにしようとは思っているが、1つ下の妹、リステティールには婚約者がいるという事実が、もうなんとも微妙に(さいな)んでいる。


 メルリアーヴェルはこの手の話には定番である『私より弱い者など願い下げだ』等とは冗談でも言った事など無いが、周囲はその定番な噂を信じてしまっている。


 当然そんな噂は王や王妃も耳にしている。噂が本当だったら怖いのでいちいち確かめたりはしないが、嫁の貰い手あるいは婿の当てが皆無なのも確かなので、何れにせよ悩みの種なのである。






 戦闘力でつりあうのは騎士団長ぐらいなもんだ。それすら『サンダースピア』のせいで騎士団長もビリビリ、いや、タジタジだ。


 騎士団長は達人級だとは何度も話にでてきたが、それはもちろん訓練や鍛錬によってそこまで登りつめた傑物である。それだけ長く生きて鍛えてきたというわけだ。


 それはメルリアーヴェルからするとお爺ちゃんと言っていい年齢で、当然嫁も居れば子供も居る。子供たちももうとっくに成人しており孫たちまでいる。孫のうち何人かは騎士団にもいる。つまり彼女からすると年上だ。


 なので騎士団長に姫様をなんて思う人は居ない。メルリアーヴェルとしても騎士団長は尊敬しているが結婚相手としてはとても見れない。国の重鎮であり人格者でもある騎士団長に対して失礼にも程がある。見るはずもない。






 各国も後継者や王女王子たちの婚姻については、普通に頭を悩ませているものだ。


 そして姿絵やどういう人物か、などという情報が各国に行き渡るが、姿絵や肖像画などというものは、そっくりそのまま描かれるなんてことは、元が余程美しいとかハンサムだとかいうような素材でもない限り、ないと言える。


 すると、成人の1年前に社交デビューするまでは、実際に目で見る機会、会う機会などそうそうないので、いくら良くできた姿絵であっても、眉唾だと思われてしまうのも道理なのだ。


 そこに、どういう人物かなどというような説明が加わるわけだが…、他の姫はともかく、メルリアーヴェルの場合は、騎士かぶれで大人の騎士たちに混じって剣の訓練をしたりする。かなりの腕の持ち主。などと書かれてしまっているので、姿絵なんて全く信じてもらえない。


 だから婚約の話なんて全くない。


 王や王妃たちも、そのへんはもう諦めの境地で、14になって社交に出せば、あの見栄えなのだから何とかなるかもしれない、と、楽観的なのか悲観的なのかよくわからない。






●○●○●○●






 ある騎士たちの会話。


 「なんかビリビリがだんだん強くなってないか?」

 「そうか?、気のせいだろ?、前からこんなもんだったぞ?」

 「そうかなぁ…、でもみんながそう思うなら同じかもしれないな」


 人間、慣れというものがあることを忘れている騎士たちだった。


 実はばっちり強くなっていっている。そのうちヤバいことになるかもしれない。


 メルリアーヴェルは言う。


 「大丈夫だ。問題ない。ちゃんと加減しているんだから」


 もしタケルがこれを聞けばこう言うだろう。


 『それ大丈夫じゃないやつですよね!?』





20180908:冒頭部分をわかりやすく変更。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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