2ー001 ~ 姫騎士
今更だが、タケルたちの居る国は、ホーラード王国という。
この国にはご存知のように『勇者の宿』というものがあり、うまく勇者が育っていけるように低レベルのダンジョンまでセットで存在していたりと、なかなか勇者フレンドリーな条件にある。
ところがそんなものが領地にある領主は、勇者を我が物にできるわけもなく、世界のことを思えば勇者の支援をしないわけにもいかず、かといって領地や自分のために勇者が何かしてくれるわけでもないので、儲かるはずも無い。
過去に勇者を利用して利益を得ようとした領主がいたが、そんなもの一瞬だけうまくいくがすぐばれて処刑されてしまった。
そんなことがあると誰もその領地を治めたくない。
すると王直轄領ってことになり、どうせあがりも少ないしやる気のある領主代行が送られてくることもない。ある種の左遷である。
『勇者を利用して処刑された』、『勇者の宿がある場所は左遷の領地』、こんな前例ができちゃったわけである。
この世界の勇者は死ぬと『勇者の宿』に復活転送される。
実際は死ぬ寸前になると転送・快復スリープモードに入る。つまりは死なない。いや、死ねないということだ。
しかし死ぬ寸前までは行くわけだし、怪我もすれば病気にもなる。酷い状態で転送されると快復スリープモードが長くなる。
快復スリープモードを経ると、勇者はちょっとばかし強くなる。
ゲームなどでお馴染みのステータスで例えるなら、肉体の強さや魔力の器が1あがるようなものだ。それが元と比べてどの程度の差なのか全くわからない。
しかしほんのちょっとではあるのだが、これが累積すると結構差がでる。
これについて実感しちゃった勇者がひとりいた。
どうやったかについては言及しないが、いろいろ試してみたらしい。
その勇者は、幸いにもそれを他人に話せばどうなるかを予想することができた。
具体的にどうなるかというと、まぁ、何度も殺されて強化しようとされるだろうと予想したわけだ。
世界のためなどという大義名分の前には、勇者の人権なんて考慮されるわけがないのだ。
そんな恐ろしいことをされるかもしれないと考えると、そんな成長要素は絶対に話すことはできない。
現在何人かの勇者はこのことを知っているが、勇者以外には絶対に話さないと固く誓っている。
だって勇者は普通のヒト種の者よりも成長が著しく速いので、普通に鍛えたほうが早く強くなるのだから。
やはり文字通り『死ぬ気で頑張れば』強くなるものである。
死ぬ気でやらなくても強くなるが。
勇者の数に限りがある以上、魔王軍と戦ってもらっていない時間は無駄のようなものだ。
なのに現場に出せるだけの強さになるまでは自由に育ってもらわなくてはならない。
過去には、強引に国がそれを管理しようとして、勇者を特訓・育成したことがあったが、そうすると勇者はその国に恩義も感じれば愛着も湧く。そして王族と必要以上に仲良くなっちゃう。そこに見目麗しい異性なんて居たりしたら、普通に惚れる。とくにその時は女性の勇者だったもんで王子様なんていう肩書きにはとことん弱かった。
それを他国、それも最前戦で魔王軍と戦ってたりする国々が見るとどう見えるか。
『勇者を取り込んで自国だけを優遇してもらおうとした国』こう見える。
当然、批難が殺到した。
対抗して自国の姫や王子を『勇者の宿』の村に送り込んだ国々もあった。勇者というパイの取り合いである。
幸いというか何というか勇者は12枠ある。当時はまだ6人しか居なかったが、切羽詰ってる魔王軍と接している国2つ、それ以外の国3つ、合計5国から送られてきた姫や王子には、数の上では足りた。
しかしそんなもの、人間である以上は性格が合う合わないはあるものだし、一人の姫に男性勇者が競合したりすることだってあるものだ。実際そうなった。
そうすると勇者同士の仲が険悪になったりする。これもそうなった。
あぶれた勇者だって萎える。ふて腐れてやる気なんて出なくなるものだ。
魔王軍に対して協同で事に当たってもらわなくてはならないのに、勇者同士の仲が悪いというのは実によろしくない。
国々にとっては、仲良くなって連れ帰るのが目的であって、弱体化させるつもりも勇者同士で争って欲しいわけでもない。
勇者たち同士、仲良く助け合って世界を守ってもらいたいのだから。
これらの事があって、勇者に関しては各国で協定ができた。
・勇者は自由にさせること。
・勇者個人の意志を尊重すること。
・勇者に特別な扱いをしないこと。但し『勇者の宿』では最低限の援助は行う。
・勇者同士の争いの種になるようなことをしないこと。
はっきり言って、ザルである。でもタテマエというのは大事なのだ。
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ホーラード王国の王は幸い子宝に恵まれ、王子が2人王女が3人いる。
後継ぎも安泰である。第一子であるウィラード王子も道理を良く弁え、突出した才能はないが、欠点も見当たらないという、現王と同様に堅実で良き治世をするだろうといわれている。
第二子はストラーデ王女といい、性格は穏やかで芸術を愛し、これまた隣国の王子と婚約しており仲もよい、良き妻になるだろうといわれている。
ところが第三子の姫が問題で、よくある話だが、騎士かぶれとでも言おうか、お転婆という言葉では全く足りないような姫だった。いわゆる姫騎士というやつである。
この姫の名を、メルリアーヴェルという。
だいたいそういう話の定番として、剣や乗馬、つまり騎士の才能がちゃんとあるものだ。
この姫もその例に漏れず、ばっちり才能があり、当人もやる気120%なものだからそりゃもうぐんぐんレベルが上がっていく。
(筆者注:何度も言いますがこの作品には数値的なレベルやパラメータなどは存在しません)
幼少の頃はそれでよかった。元気で才能溢れる子供に喜ばない親や周囲の大人は居ないのだから。
そして大抵の物語でもよくあるように、王が王子や王女のために剣の先生を誰に選ぶかというと…、近衛騎士団または第一騎士団の騎士団長というのもまた必然だったりする。
この国の近衛騎士団は、口さがない者からは儀典騎士団などと呼ばれる、貴族の子弟から成る戦闘実績のない騎士団で、構成人数も他の騎士団に比べると極端に少ない。近衛騎士団長は典礼・儀礼に関する役職であり、高位の貴族が就く職業だ。
というように、同じ騎士団と名がついていても完全に別物なのだ。
そうすると第一騎士団鷹鷲隊の騎士団長オルダインに白羽の矢がたったわけである。
そんでもってばっちり騎士の才能があり、やる気充分な子が、そんな、国で上から数えたらきっちり名前が挙がるような達人から教わると、めきめき強くなる。
この世界に麻は無いが、麻も真っ青になるぐらい成長した。
ところが10歳を過ぎると、一転して悩みの種となるものだ。
曰く「ドレスを着てお淑やかに」、「乗馬よりダンスの練習を」、「歴史や軍学だけではなく芸事や教養を」、まぁ定番というやつはこういうものであるのだから仕方がない。
そうしてそのうち騎士の訓練に混じったりする。なまじ才能がありすぎるものだから騎士たちもたまったもんじゃない。いつも迷惑を被ってるのは近衛隊よりも第一騎士団である『鷹鷲隊』だったりする。
ある騎士曰く、
「手加減?、無茶を言うな。そんなことをしたら瞬殺される。訓練とはいえ当たり所が悪ければ怪我もするし死ぬ可能性だってあるんだ」
また別の騎士曰く、
「俺より11歳の姫様のほうが強いんだ。こっちが手加減して欲しいくらいだよ…」
さらに別の騎士曰く、
「確かに力は無いが、技量と手数じゃもう全然敵わないよ。団長ぐらいじゃないか?、相手になるのは。自信なくすよ全く」
という次第。
「誰だよ一体あんなの育てたのは」
「オルダイン団長だよ、知らなかったのか?」
「達人級の英才教育かよ…、俺も団長に教わったら強くなるかな」
「才能が違うって…、お前身体強化できるのか?」
「全然ダメだな。姫さんが強いのってそのせいなのか?」
「お前もっと勉強しろよ…」
「無駄口を叩いてるヒマがあるなら訓練したほうがいいと思うぞ?」
「「中隊長!」」
「団長は今日は来られるそうだ。姫様も来られる。団長が2人いると思えば訓練もしがいがあるというものだろう?」
「団長が2人…」 「げー…」
というような会話があったとか無かったとか。
集団戦闘や軍事行動についてはメルリアーヴェルは団長には遠く及ばないが、個人技については団長と同レベルぐらいには強い。つまり達人級というわけだ。
全くおそろしい才能である。
ここから2章です。





