1ー041 ~ お叱り
昨日、プラムさんとあれこれ話をしながら魔力感知の訓練をしていたとき、ふと、微妙に感じ取れる魔力の質に差異があるんじゃないかと気がついた。
でもその時は、いつもと時間が違うからかな、とか、気のせいかな、って思ってプラムさんには話してないんだが…。
午後に森の家に帰って、試しに同じように魔力感知の訓練をしてみると、やはり差異がある。
同じように夕食後、やってみると差異がある。
そこで、もしかしたらこの世界に漂う魔力の質って、同じ場所でも一定というわけじゃなく、変化してるんじゃないか?、って思うようになった。
自分で『時間が違うからかな?』なんて答えみたいなヒントを思いついたことを思い出し、しばらく予定があるわけでもないので、森の家に居て、適当に時間を決めて魔力の質をさぐるように魔力感知の訓練をしてみたんだ。
そうすると、時間以外にも魔力の質が変化する要素があるんだということにも気付いた。
そんなこんなで訓練生活3日目の昼すぎ、かなり確信をもって、というかもう昼か夜かぐらいはわかるようになったところで、前々から気になっていた『どうしてリンちゃんはダンジョンでも昼と夜が分かるのか』という疑問の答えがこれなんだな、ってちょっと嬉しくなって、リンちゃんをチラチラ見てたら、リンちゃんに気付かれた。
「どうしました?、タケルさま」
口元にうっすら笑顔で少し上目遣い。それで微妙に小首を傾げている。可愛い。
- いや、どうしてリンちゃんはダンジョンでも昼夜が正確に判断できたのかなって。それでね、あっ、
「それはですね、あっ」
- どうぞ?
「いえすみません、どうぞ」
同時に「あっ」って。あはは。
- そう?、こうして魔力感知の訓練をしててさ、何となくだけど、時間によって周囲を漂う魔力の質には変化があるんじゃないか?、って思うようになったんで、ここんとこ注意して訓練してたんだけどね。
リンちゃんはもしかしてこれで時間を正確に判断してるんじゃないか?、って気付いたんだよ。
「さすがですタケルさま。もうそんなレベルにまで進んじゃったんですか?、そうです、我々精霊は、周囲の魔力にとても敏感なのです。そして周囲に漂う魔力は時間によって質が変化しています。
この質というのは一口に言っていますが、実は幾つかの要素がありまして、大まかには時間・温度・湿度・明るさ、があります。
それらの情報を元に、我々精霊はいろいろな判断をしているんですよ」
- そうだったのか…。んじゃこないだ救助したときの帰りにリンちゃんが「外が雨じゃなくて良かったですね、これで雨だったらみなさん大変でした」ってまだダンジョンの中なのに言ってたのって…、
「あっ、それは…、モモさんに今日帰れるから晩御飯をお願いって連絡したときに天気のこと教えてもらったので…」
あ、赤くなって脇腹のとこで手を振ってる。小さくぴょんぴょん。可愛い。
- あ、そなの。なんかごめん。
「いえ、いいんです。幾らなんでもダンジョンの入り口近くじゃないと外の天気なんてわかりませんよ、あはは」
- そっか。んじゃ家の中なら…?
「それは窓もありますし外の音も聞こえますから…」
- 人間でも分かる人は分かる、と。
「はい。でもタケルさま、これって若い精霊でも気付けないぐらいのことなんですよ?、魔力感知を覚えてまだ1年も経ってないのに気付いたのはすごい事なんです」
- それって精霊だとどれぐらいの年になってわかるもんなの?
「そうですね、だいたい早い者だと50歳ぐらいでしょうか?、普通は100歳でもそこまで細かくわからない者も結構いるんです」
- それって人間でいうと見かけ5歳ぐらい…?
うわーなんかちょっと凹むかも。
「あっ、違うんです。精霊の見かけが育つ早さはその精霊によってかなり違ってるんですよ。
例えばあたしは90歳で人間でいうと見かけが9歳ぐらいですが、モモさんは263歳ですし、ベニさんは22歳、アオさんが65歳でミドリさんは88歳ですよ?
ね?、見かけと実年齢がばらばらでしょう?」
おお?、ほんとにばらばらだ。
そしてベニさんは俺と同い年だった。見かけ15歳ぐらいなのに。
リンちゃんのことを考えると全く違う。同じ種族とは思えないぐらいだ。
- 何でそんなに差があるの?
「それはよく分かっていないんです。人それぞれ個性があり顔かたちなどが違うように、見かけの成長速度も違う、と言われています」
- そういうもんか。
「はい。人間でもある程度の範囲で差があったりしますよね?、それの大きいものだと思ってください。説明なんてつかないので」
- そもそも精霊って何なんだってことだもんなー、勇者だってそうだし、言ってみりゃ人間とは何だ?、なんていう哲学的な話に発展しちゃいそうだもんな。
「ふふっ、そうですね。そういうのはあたしたちがここで考えることではないですね」
- そうそう。そういうのが好きな人たちに任せればいいさ。
「とにかく、タケルさまの魔力感知に関する成長は我々精霊をも凌駕する、すごいものだっていうことです」
- え!?、そこに戻ってくるの?
「はい!」
ま、リンちゃんが喜んでるんだからいいか。
●○●○●○●
長年の謎、というほど大げさじゃないけど、疑問がひとつ解けると気分も上々ってやつで、魔法の訓練ついでに剣から斬撃飛ばすやつの訓練もしよう、と思って、腰に手をやったらポーチは部屋に置きっぱなしだったと気付いた。
部屋のベッドサイドのテーブルの上に、ポーチにぐるぐる巻かれたベルトが置いてあった。そっか、今朝付け忘れたのか。
と、ふとリンちゃんのベッドの上に、いつものピンクのリュックが置きっぱなしになっていた。
ははは、リンちゃんも置きっぱなしかー、って思ってふと、リュックの左横に見慣れない飾り?、がついているのに目をひかれた。
見ると、身長10cmちょいの人形だった。2頭身半ぐらい。髪は黒で、濃いめの灰色の服、茶色のベルト、こげ茶色のポーチ、黒いブーツ。
え?、もしかしてこれ、俺?
まぁいいけどさ、可愛くできてるし。その分あまり似てない気もするけど。
でも黙ってることないじゃん?、俺もひとのことは言えないか。
「あっ!、タケルさまそれは…!」
- ああ、いいよいいよ、可愛くできてるじゃないか。これ俺だよな?、あまり似てないけどよくできてるからいいよ別に。
「え!?、似てませんか…?」
あ、しまった、しょんぼりさせちゃった。まずい。
- あ、ほら、こう、角度によるかな?、なんせデフォルメされてる2頭身半だし!、俺こんなに可愛くないから、ははは
「(タケルさまは可愛いですよ…)」
- え!?、何て?
「いいです!、鞄とりにきただけなんですから!」
- あっ、リンちゃん…?
行ってしまった。
あー、失敗したなー、でもなー、俺の形?、した人形について、どう言えばいいってんだよ。難易度高いよ…。
そしてベニさんに叱られた。
「あのお人形、リン様が頑張って自作されて気に入ってずっと付けておられたんですよ!?、誰が見てもよく似てるって評判なのに、今頃気付いて、それで似てないだのなんだの言ったんですって!?、バカですかタケル様!」
仰るとおりです、はい。言い返すなんてできるわけがない。この手のお怒りモードの女性には弱いんだよ。昔から。
でもね、ちょっと言い訳させてもらえませんかね…?
気付くのが遅すぎるって?
いいか?、まずその人形ってリンちゃんの小ぶりなリュックの、後ろから見て左横についてるんだよ?
それってさ、俺からみると全く逆側なんだってば。
それとさ、普段リンちゃんって俺のどっち側にいると思う?、ね?、左側の半歩後ろだろ?、ほら、ほらぁ。
リンちゃんの後姿って俺からするとレアなんだよ?、めったに見ない。
何かの作業中だとリンちゃんはリュックをどこかにおいてるかしまいこんでるでしょ、だから見えない。
俺から離れて俺に背中を向けるってことがレア。
近くにいるときは必ず俺の方を向いているから後ろは見えないんだぜ?
な?、な?、これじゃ気付けってのが難易度高すぎると思わないか?
もちろんこんなことを言い返せるはずもなく、ごめんなさい、って言ったら、
「私に謝ってどうするんですか!」
な?、苦手なんだってば。
次話から2章です。
1日1本ペースになります。





