1ー040 ~ お肉寄贈
結局、作業の説明を求められて、クラムの実を見せてあれこれ説明をしたら、商品開発のテストがどうのこうのって話になって、全部やってもらえることになってしまった。
俺、中に入って打ち合わせしただけだよ?、だったら着替えたりすることなかったんじゃないのかな…?
まぁ、言ってもしょうがない。明日の朝にはできてるんだってさ。だから明日の午前中に燻製小屋――って名前なんだってさ、この燻製工場――の横の寮にある会議室に来てくれってさ。
寮だよ?、寮。
作業場のとこ、ちらっと見せてもらったけどさ、何十人っていう精霊さんたちが働いてたよ!、びっくりだよ、もう。覚悟はしてたけど、多いよ!
前にも言ったけどさ、ここってちゃんと領主代行ってのが居る、王直轄領なんだよ?、勝手に森の中に家建てて、工場まで作って寮まで建てて、大丈夫なのか?
結界があるからバレないんだろうけど、限度ってもんがあるんじゃないのか?
もう、バレませんようにバレませんように、って祈るとこなんだけど、これ、誰に祈ればいいんだよ?
●○●○●○●
森の家に戻ったけど、気疲れしたので少し早いが風呂に入ることにした。
そしたら風呂場が広くなってた。もう好きにして。ははは。
あーでもいい湯だな、森の香り?、みたいなのも漂ってるし。
『タケル様、湯船で眠ると危ないですよ?』
- ああ、そうですね。すみません。って、ウィノアさん!?
『はい』
- 一体どこに…、ってこの首飾りか。
『半分正解ですわ』
- 半分…?、うわ!、隣に居たんですか。びっくりさせないでくださいよ。
湯船にぐでーっと浸かってもたれてる隣に、半透明の肩から上が出てたよ。こんなんビビるわ!、知らなかったらオバケかと思うじゃないか。
ああ、さっきから首の後ろとか腰の後ろのとことか、枕を当てたみたいにソフトなのって、ウィノアさんの手かこれ。
『水の精霊ですもの。ふふっ』
- 支えてくれていたんですね。心地いいです。ありがとうございます。
『礼には及びませんわ。リン様の手の届かないところで、こうしてお仕えするって決めましたの』
- あまり過保護にはしないでくださいね?、程々がいいんですよ、こういうのは。
『そうですか?、考えておきますわ。ふふふ』
ああ、だから腕を抱きしめないで、む、おお、手のひらを揉んでくれてるのが気持ちいい、二の腕もなんかやわらかい感触が…、いやいや、ダメですってば。
- ダメですって。そろそろ上がりますよ。
『まぁ、つれないお方。もっと甘えて下さって結構ですのに』
あ、ちょっと膨れてる。頬んとこ。あざとい。
返事せずに苦笑いしながら風呂から上がった。
首飾り、ちゃんと身に着けっぱなしなんだからいいじゃないですか。言わないけどさ。
夕食のとき、リンちゃんが、
「むぅ、何かまたタケルさまから花の香りがします、水の精霊と何かしましたか?、したんですね?」
と、迫られた。
風呂で、なんて言えないので、首飾りのせいだよってごまかし通した。
なんだかなぁ…、先が思いやられる。
●○●○●○●
翌朝、朝食を食べてから、燻製小屋の寮にある会議室。
昨日のクラムの実を使った燻製の試食会だ。
試食会…、うん、そう聞こえた。
商品開発って言ってたもんなぁ…、そんな大げさなことするつもりじゃなかったんだけど。
で、結果から言うと、新商品になった。
幾つか分量を変えたりしたうちの1つが、とてもいい感じだったんだ。
「クラムの実を2通りの方法で燻製にするとこんなに奥深く馥郁たる香りがつくなんて…」
「まったりとしてそれでいてしつこくなく…」
「フルーティで華やかで高級志向な…」
「何と匂やかな…」
などと、大好評だったので、「あとはお任せします」って丸投げしといた。
え?、だって再現できたし、俺は満足したからもういいや、ってさ。
●○●○●○●
例の腕輪にサインを送ってから、ツギの街の冒険者ギルドに行くと、プラムさんが待っていた。
ちゃんと伝わったようで、よかったよかった。
「もうお体はいいんですか?、タケル様」
- はい、リンちゃんたちの看病のおかげで恙無く。
「ギルド長には先に今日来られることをお伝えしておきました。部屋でお待ちだそうです」
- ありがとうございます、では行きましょうか。
ギルド長の部屋に入るとすぐに、
「調査ご苦労、これが依頼完了手続きの書類と明細書だ、確認してくれ」
と言われ、内容をざっと見たが、相場なんてわからないのでプラムさんを見ると、頷いたのでささっとサインをして返した。
ギルド長はお金の入った皮袋を執務机にじゃらっと置いた。
「体調を崩したらしいが、その様子だともう大丈夫なようで何よりだ、それで、プラムから聞いたんだが3層のボスを倒して持ち帰ったんだって?」
- はい、僕は魔物の名前はよくわからないので、ギルドに任せてしまおうかと思ってます。
皮袋をリンちゃんに渡しながら返事をした。プラムさんにはリンちゃんから3分の1渡してもらうように言ってある。
「それは話が早いな。なら、倉庫へ行こう」
- はい。
倉庫につくと、先回りしたのか職員さんがちょうど扉のカギを開けているところだった。
中に入り、早速出しますか?、と訊くと頷いたので、職員さんの指示した場所にでろんと出した。
「これは…、角ニワトリか?」
「下半分は羽毛じゃなく鱗になってますね」
「首も前面は鱗ですね、これ。よくこんなの切れましたね」
「翼のところは戦闘痕か。これもきれいな切り口だな」
などと職員さんたちが話している。
「ブレスが2種類あったらしいな。大抵そんな魔物は伝説級のドラゴンぐらいなもんなんだが」
- あ、ブレスは1種類だと思います。もうひとつの霧のようなものはたぶん僕の勘違いで、おそらくはくしゃみだったのかもしれません。
「くしゃみだと!?」
- ふざけてるわけでも冗談で言ってるわけでもないんですよ。でも根拠があるわけじゃないので、ブレス袋っていうんでしたっけ?、その器官が1つしかないなら、その話を信じてください。
「なるほど、わかった。で、こいつは前例がない。査定するにもかなり時間がかかるぞ?」
- 今回の調査費用で充分です。なので前例がないならギルドに寄贈しますので、研究に回すなり素材をとって売るなり自由にしちゃってください。
「お、おい、あの鱗や羽毛ひとつとってみても結構なモノだぞあれは。欲がないのかわからんが、いいのか?、あとで言われても知らんぞ?」
- ダンジョンの変化によってギルドもいろいろと入用が多かったでしょう?、そういう意味でもお金になるならそれはそれでいいんじゃないでしょうか?
「そうか?、確かに出費も多かったが…、ならありがたく頂戴するさ、勇者様」
- それに2層や3層で、あ、また中型のトカゲがそこそこあるんですが、買い取ってもらえませんか?、ついでに何匹か寄贈しますよ?
「ん、ならその脇にでも並べてくれ、ついでに査定して支払うように言っとく。で、寄贈ってのは何だ?、どういうこった?」
- いえ、いろいろギルドの人たちには無理も言ってお世話になってますんで、そうだ、角イノシシと角ニワトリもそこそこあるんで、1体ずつ進呈しますよ、お肉美味しかったですし。僕の奢りってことで。
「む、あっははは、気前がいいな、ホントに勇者様は。なら同じように並べておいてくれ」
頷いて並べにいった。
並べ終わると、ボスのほうに居て職員のひとと話していたギルド長が『傾注!』と言ってから笑顔で、
「皆喜べ!、こちらの角イノシシと角ニワトリは、勇者様の奢りだそうだ!」
と叫び、職員さんたちの表情がぱぁっと明るくなって、皆が口々に礼を言ってきた。
雰囲気につられた俺も、笑いながら片手を軽くあげて返事しておいた。
倉庫を出ると、外にプラムさんが待っていた。
あれ?、そういえば一緒に入らなかったな。
「タケル様、調査費用を分配されたんですが、困ります」
- へ?、どうして?
「だって私は調査のためにご一緒することになった訳ではありませんし、元々そのつもりではなく魔法の修行が目的だったんですよ?」
- でもほら、地図の検分とか、野営時の食事の用意とか、あと、方針きめるときに意見言ってくれたりとか、してもらってるじゃないですか?、あれ結構助かってるんですよ?
「そんな!、意見を求められたりすれば答えますって!」
- だとしても、役に立ってもらって、こちらも助かったんですから、そこはきちんとしないと。
「でも…」
- うちのチームはこういうのは等分なんです、あきらめてください、ね?
「う…、わかりました、ありがとうございます」
あ、そういえばトカゲ捌くの教わろうとか思ってたんだった。ギルド裏の訓練場でやっちゃダメだろうなぁ…やっぱり。
この倉庫の隅っこでも借りようか?、うーん、でも今出てきたところだし、入り辛いよなぁ…。
まぁ、また機会作ってもらうとするか。
- プラムさんはこれからどうします?、僕はギルド裏で訓練するつもりですが。
「あ、ではご一緒させてもらえると助かります」
- じゃ、行きましょうか。
「はい」





