1ー036 ~ 鶏ブレス
翌日の午前に、城郭らしきところに着いた。
堀があるわけでも石垣があるわけでもないが、ところどころ崩れた城壁らしきものや、内側に見える壁などから、城跡じゃないかという話で、外側の壁は城壁と呼ぶことにしたのだ。
- でも今回はガーゴイルや結界がないよね。ボスらしきでっかいのは城跡の向こう側の広いところに居るけど、これも全然動いていないのがなぁ…。
「ヒドラみたいにやる気がないのでしょうか?」
「でも封印されているわけではないですし…」
- 蹲ってるから、10mぐらいのサイズだってぐらいしかわかんないな。
「見えるところまで近寄ればわかるのでは?」
- そうなんだけど、城郭と城壁の間の広いところに蹲ってて、城壁側に近いところだから、こっちから移動すると、ほら、ヘビみたいに直接見えていなくても見つかっちゃう場合があるし、回り込むにしても左右どっちにも城郭があるんだよね。
「ということはこちらが確認するときにはもう相手から見つかっているかもしれないということですか」
- 難しいところだよね。こういう時、熟練の斥候とかだと、身を隠すとか見つかりにくくする技能を使って偵察に出るのかもしれないけど、そういうのもってないしなぁ…。
「でも相手がどういう感覚でこちらを見つけるかがわからないのでは、対処のしようがありませんよ?」
- それもそうか。よし、今現在相手が動いていないってことは、この距離なら見つからないということでもあるんだから、これぐらいの距離を維持する感じでちょっとぐるっと回り込んで見てくるよ。
「え!?、タケルさまお一人でですか?」
- うん。他に魔物も見当たらないしさ。地図で言うと、ほら、ここからなら、壁が崩れてるから見えるんじゃないかな。偵察だよ?、何もひとりで戦って倒してくるって言ってるんじゃないんだよ?
羊皮紙に焼き付けた詳細地図にも描かれているんだけど、丸まってるから何だかよくわからない塊にしかみえないんだよね、これ。
「ダメです!、あたしは!、リンはタケルさまといつも一緒なんです!」
地図の位置を視覚的によく確認している俺に、どこか不安になったのだろうか?、ひしっと腰に抱きついてそんなことを言うリンちゃん。可愛い。
けどプラムさんの魔力感知はまだ範囲がそう広くないんだよ。
- でもね、後ろで警戒してくれるひとが居るから、退却っていう手段がとれるんだよ?、何のために後ろを任せるか、なんて、僕よりリンちゃんのほうが理解ってるだろ?
暗にプラムさんのことを言っているんだってリンちゃんにはわかるはずだ。だって師匠なんだから。
彼女の感知範囲と間隔だと、まだ角イノシシや角ニワトリのほうが広いんだよ。
あいつら視覚でこっちの位置を知るわけじゃないから範囲が円じゃない。
あっちが先に発見して突進してくると、後手を引いちゃうんだよ。
分かるだろ?、リンちゃん。
プラムさんがあいつらを倒せるような魔法を撃つには、まだそこそこ長い詠唱が必要で、後手を引いてしまっては対処が間に合わないってことを。
言葉にせず、それを目線で訴えた俺。リンちゃんには伝わったのか、
「そんな言い方はズルいです、タケルさま…」
だって、言葉にしたらせっかく自信をとりもどしたプラムさんがまた落ち込むだろ?、聞こえるところではいえないんだよ。わかってくれるよね?、今朝取り戻せて気合が入ったのにここでそれを挫くわけには行かないんだよ…。
- だから、僕が安心して退却できるように、ここを守っていて欲しいんだ。大丈夫、ヤバいならどんな手を使ってでも急いで戻ってくるから。任せていい?、リンちゃん。
「わかりました。でも絶対に、絶対に!、無理はしないでくださいね?、約束ですよ!?、タケルさま」
- ああ、わかってるって。
そう言って俺はリンちゃんの頭を撫でる。うん、手触りいいよなぁこの子の髪。
リンちゃん、君は忘れてるかもしれないけど、勇者は死んでも復活するんだよ?
だから消えて居なくなったりはしないんだ。
そういう思いを篭めて撫でていたら、リンちゃんも落ち着いたようだ。
それはいいけどプラムさん、なんで顔赤いの?
●○●○●○●
左手側の林との境から回り込んで来た。ここからボスまではだいたい450m、城郭の入り口付近からボスまでとほぼ同じぐらいの距離だ。
こちら側のほうが他の魔物が居なかったんだよね、右手側だと角ニワトリに見つかりそうなところを通ることになるし、それによって角イノシシも反応しかねない。場合によってはボスまで連鎖しかねないんだから、選択の余地はなかった。
ボスは――あのでかいのはもうボスでいいだろう――どうやらまだ気付かないようだ。
城郭の壁のところまで、そおっと近寄ってみたが、こちらに気付いた様子も反応もない。ふむ。城郭はだいたい600mの正方形に近い形だったから、300mなら気付かれないってことか。
でも目視するには300mはさすがに離れすぎててよく見えないし、城壁のところまで近寄って確認するしかないか。
これは望遠鏡や双眼鏡がないか探してみるとか、作ってみるとか、または擬似的に光属性の魔法で望遠魔法とかそういうのを考えてみるとか、考えてみる必要があるなぁ…。
先輩勇者に期待か?、でも望遠鏡ぐらいなら元の世界でも16世紀か17世紀ぐらいだったと思うし、ありそうな気もする。
そうそう、城郭ってのはこの、城跡じゃないかなって遺跡の一番外側の壁や壁の残骸について言ってるんで、元の建造物――があったと仮定しての話だけど――がどうだったかがわからないので、便宜上そう呼んでいるだけなんだよね。
だから、外側を城郭、内側にいくつか壁はあるけど、ボスが居るのは、城郭と城壁の間、ってそう呼称してるだけだ。
ギルドにも一応そう言って報告するけどさ、あとで調査したギルドがどういう判断をして名前をつけるかわからないから、今だけの呼称だ。
魔力感知でボスの動きに注意しながら、城郭の壁が壊れているところを通り、直接見える位置じゃないようにして城壁に近づいていく。
なんとか城壁に到着、まだボスの動きは無い。
ここから城壁沿いに、角のところまで行って、そおっと目視すればいいだけだ。
落ち着け、ゆっくりと。
ボスまで直線で200mちょいだ。城壁の幅はだいたい400m。だからそこの角からは200mほどだ。せめてそれぐらいからは見てみたい。
角までもう少しというところで壁が崩れる罠が発動した!、まずい、瓦礫がこっちに!
弾かれた瓦礫を避けそこなって右足首に当たってしまった。
ボスが動き出した!、まだ見えていないのに、今の音で気付かれたか!
いそいで城郭の壁のところまで下がって…、ぐっ!、瓦礫が!、うおっ、もう崩れた城壁のところまで!、思ったより速い!
そこで立ち止まり、翼を広げた!、威嚇か!?、違う、息を吸う動作だ!
ブレスだったらまずい!
移動!、そうだ風魔法で無理やり自分を吹っ飛ばせ!
緑っぽい灰色のブレスが来る!
回避が間に合った。
ちょっと勢いつけすぎたのか、瓦礫に当たった箇所を、さらにその足で着地したせいで、足を捻ったらしい。
回復魔法を!、ってそんなヒマない!、ボスが突っ込んできた!
魔力を練るヒマがないのでまた風魔法で吹っ飛ばして移動。これならすぐ出せる。
吹っ飛びつつ石弾をばらまいたが、羽毛と鱗に弾かれる。
意外と堅いなチクショウ。
のんきに思ってる場合じゃない。
何とかいつもの氷刃を風で覆ってすっ飛ばす魔法を使いたいが、ほんの一瞬の隙が欲しい。
石弾の大きめのやつをばらまきながら牽制して距離をとるか?
風魔法で吹っ飛びながら、壁の残骸に身を隠して回復魔法を少し使えれば足が使えるんだが…。
近くのL字型に残っている壁のところになんとか身を隠し、回復魔法を少し使えた。
まだちょっと痛いが走れるようになった。
魔力感知でボスがまた突っ込んできたのがわかった、急いで離れる。
あいつ目だけじゃないな、一体何でこっちの位置がわかるんだ?
ボスがL字壁に突っ込んで崩す。瓦礫に頭部が埋まっている。
今のうちにすこし距離をとって、よし魔力を練って、うっ、止まって振り返ったときに痛みが!
ボスがこちらを向いた。予備動作なしでブレス!、なんだと!?
ぎりぎり避けたが少しかかってしまった。
霧のようなブレスだった、なんだあれ!?、ブシャァッっつったぞ!?
風魔法も併用して吹っ飛んだせいでこちら側にきた霧がかかったのか。
そのままの勢いで別の壁のほうに移動して身を隠す。
ボスは3連続であの霧ブレスを吐いているようだ。
しかし巨大な角ニワトリなのかあれ。鱗もあるようだし、巨大角ニワトリトカゲとでもいうか。
ん?、あの手のやつって元の世界の創作物だとコカトリスとかそんなんじゃないか?
石化とかもってないだろうな、もってたらやばいぞ?
とにかく毒だったらまずいのでペンダントを発動して毒消去しておく。
うぉ、これ結構魔力食うな。
なんかごっそり力ぬけたぞ?、そんなに強い毒だったのか!?
しかしあの予備動作のない霧のブレスは厄介だな。3連続で吐けるのか。
お?、こちらを見失っているようだ。キョロキョロしてケンケン鳴いてるな。音感知か?
今のうちに足を治そう。
よし、これで痛みに邪魔されずに魔法が練れるぞ。
しかしこれぐらいの痛みで集中が途切れて魔法が撃てなくなるとは、要訓練だな。
あとは一瞬のスキを突ければ撃てるな。いけそうだ。
む、あれはキョロキョロしてるのか?、ふらついてるみたいな頭の振り方だけど。
さっきの壁に突進したときに頭打ったのか?
いや、それならそのあとの3連続霧ブレスが説明つかないな。
石弾、こう上手くカーブして撃てないかな、風魔法を使えばさっきの移動みたいに魔力を使って、うん、できそうだ。やってみよう。
よし、横から攻撃したようにできたぞ!、今なら氷の刃を…、え!?
「タケルさま!」
リンちゃん!、今はまずい!
射線が!、リンちゃんにあたるかもしれない!、っく、石弾をカーブさせて当てながら移動!
よし、この場所からなら!、今なら!
いけっ!
くそっ、こっちに気付かれた!、振り向きながら羽を広げたせいで氷の刃が逸らされてしまった!
でもその羽はこれで使い物にならなくなったはず。
バランス狂っただろう、でもまだ走れるのか!
移動して突進をやりすごせば!
む、突進じゃないのか?、ケンケン鳴いてるな。何だ?、何の準備だあれ?
いや、チャンスだ、もう一度!、いけっ!、よっしゃぁぁ!!
ふぅ…。首をぶった切った。
石ころを拾って投げつけてみる。首を落としたんだからさすがにもう死んだろう。
尻尾は普通に鶏の尾のようだ、ちょっと長いけど、元の世界にはそういう種類も確か居たはず。尾がヘビじゃないなら、コカトリスだっけかじゃないはず。だと思う。
そんなことを思いながらポーチに死体を収納した。
周囲を見渡したが、ブレスが当たった地面や壁が石化したようには見えないし、石化はないようだ。少し安堵した。
「タケルさまー!」
- リンちゃん、ボスを挟んでちょうど反対側から出てきたんで驚いたよ。
「ご無事で安心しました」
- 危うく氷の刃撃つところだったよ。
「そうでしたか、申し訳ありません」
- いやいいよ、心配して来ようとしてくれたんだろ?
しかしすごい高さだったけどあんなに跳べるのねリンちゃん。
神殿の上にあるって言ってた、結界とガーゴイルの制御核んとこまですぐ移動できるわけだよ。
「はい…、タケルさま、何だかお疲れのご様子ですが大丈夫ですか?」
- 霧みたいなブレスがかすっちゃってね、毒だとまずいから、毒消去のペンダントを発動したんだけど、これが結構魔力を馬鹿みたいに食ってさ、これ消耗激しいね。
「えっ?、そんなはずは…、あっ、もしかして我々用だからタケルさまが使うと効率が悪いのかもしれません、ああっ、それ魔法が発動しっぱなしです!」
- えっ!?、うわっ、ほんとだ、これどうやって止めれば!?
シャツの首元のところから引っ張り出すと、確かに作動中だった、麻痺解除のほうまで連動しててそれも発動中だった、道理で魔力めちゃくちゃ食うわけだよ…。
「えーっと、すこしお待ちを……、止まりました。これは改良しないとまずいですね。た、タケルさまっ!?」
- あ、ごめん、大丈夫。ちょっとふらっとしただけ。
「一体どれだけ消耗したんですか…、とにかくそれをポーチに。プラムさんのところまで戻りましょう」
- ああ、そうだね。
城郭の入り口の脇でプラムさんは心配そうに待っていた。
座りやすそうな瓦礫に腰掛けて、少し休んだら城郭の周囲を調査しようと話をした。
一応ボスとの戦闘をかいつまんでプラムさんに説明しておいた。
呆れていたけど、無事でよかったと言ってくれた。
戦闘中にできるようになった、風魔法で自分や物を飛ばす方法についても少し話をした。
ただ真っ直ぐに飛ばすのではなく、支えながら違う方向から力を加えて曲げる方法だ。
ただし戦闘中は地面すれすれで、足のこともあって必死だったからやれたようなものだし、まだ不安定だから自分を飛ばすのは止めたほうがいいねと言ったら、そんな器用なことできません、って笑われた。
そこで実演してみようと、見やすいように少し大きめの石弾を飛ばして曲げようとしてみたんだが、なんだかうまく魔力が練れていなくて、石弾自体がつくれなかった。
魔力の使いすぎで消耗したんだろう、ということで、調査を中断して戻ったほうがいいのでは?、という意見も出た。
山荘の近くに作った小屋なら安全だからそこにリンちゃんの転移で飛んで休むことにした。
プラムさんはリンちゃんに教わりながら魔力操作の訓練をするそうだ。
俺は小屋のベッドで横になった。
食事の用意ができたと言われ、食べようとしたが、何だか食欲がない。
顔色がよくないと言われ、そんなに消耗したのか、と思ったが、なんかこれはそれだけじゃないような気がする。
身体が異様にだるい。まだ魔力が上手く練れない。
俺が魔法を使えないと調査に支障があるが、3層の魔物は分かったし、地図も3割ほどあり全体地図もある、ボスらしきものも倒したし。
だからここで切り上げても大丈夫だろうという話になった。
2人の話では、魔力を消耗しすぎた場合、体調がなかなか復調しなかったりすることがあるそうで、安静にして休んだほうがいいらしい。
なので、『キチン宿』経由で森の家に戻って休もうということにした。
美味しそうなシチューだったが、2口ほどとろみのあるスープを口にしただけだった。残念だ。





