1ー035 ~ とりにく
早朝、早めにリンちゃんに起こしてもらって、剣の修練をする。
しばらくすると、プラムさんが起きてきた。
- おはようございます。
「おはようございます、タケル様。外と違って明るさがあまり変わらないので、慣れたつもりでもやっぱり妙な感じです」
- そうですね、でもリンちゃんの暗視魔法がきれたら結構薄暗いんじゃないでしょうか?
「あっ、そうでしたね、つい暗視魔法がかかっていることを忘れてしまって…、ふふっ」
- そんなの僕も同じですよ、ははは
「いえ、そうではなく、師匠もタケル様も、魔法に関しては私などよりもずっとずっと先を行かれていて、これまで私がやってきた事って何だったんだろう?、って、王立魔法学院の上位魔導師だなんて名乗っていたりして、ほんとお恥ずかしいという自嘲の笑いでして」
- 僕は理論なんてさっぱりですので、きちんと学問として修めていて、リンちゃんと魔法理論の話ができるプラムさんは、素直にすごいと思ってますよ?
「そ、そんな、私なんて、」
手のひらをこちらにむけて横に振るプラムさん。一見、ただの謙遜のように思えるが、ここしばらくの彼女を見ていた僕には、どうもそうではないように見えた。
なので彼女の謙遜ポーズに、僕は手を上げて止めた。
- いいえ、それでいて魔法感知もだいぶできるようになってきたから、もうある程度は魔法を感知して、その魔法の詠唱を構築することができますよね?、僕には詠唱のことが全くわからないので、感じ取った魔法はそのまま模倣して、できるようになってから、自分が使いやすいように変えていって、モノにする。そういうやり方しかできないんです。
「はい、ある程度でしかありませんが…、でもタケル様のされている事のほうがどれだけすごい事なのかわかっておられますか?」
- 確かにすごいことなのでしょう。でもね、僕はこれができても、他人に伝えることができないんですよ。それはなぜか、理論もきちんと理解していなければ、詠唱もできないからなんです。プラムさんは自分が理解した、詠唱まで組み立てることができた魔法については、他人に伝えられますよね?
「はい。確かにそうです。でもあんなに素早く構築したり膨大な魔力を扱ったりは…」
- 僕がいいたいのは、個人レベルですごいということは、それがどれだけ凄いものであっても、個人だけで終わってしまうことだということなんです。プラムさんは違う。習得したことは貴女だけでは終わらない。そこが、僕よりもすごいんだっていうことが言いたいんですよ。
「なるほど、なんだか押し切られたような気もしますが、でも仰ることはわかりました。確かに私は自分の技量が拙くても、これから他人に教え広めていくことができるんですね。将来性という意味ですか。なんだか肩に大きな荷物を背負わされたような気がいたします」
- 本来、精霊さんたちはヒト種に魔法の手ほどきをしたりすることはめったにないんだそうです。めったに、というか何百年に1度とか、その程度らしいんですよ。まぁ、リンちゃんからすれば、僕が教えてもいいかと提案したからだ、と言うかもしれませんが、僕が思うにそうではなくて、いくら僕が提案したところで、彼女が教えてもいいと思えないような相手であれば、首を縦に振らなかったと思うんですよ。だからそこは誇っていいと思いますよ?
「タケル様、ありがとうございます。なんだか失っていた自信が少し取り戻せたような気がします」
- うん。こないだからちょっと気になってたんですよ。プラムさんこつこつちゃんと修練しているし、頑張っているしちゃんと成果も出せている。なのにさっきだって『私なんか』なんて言ったりしてましたよね。
「はい、申し訳ありませんでした。気を遣ってくださったのですね、重ねてありがとうございます。もう大丈夫です」
そう言って微笑んだプラムさんは、片手で目尻を少し拭っていた。それはなんだかとても眩しくみえた。
●○●○●○●
今日は丘を下って川を越え、池を調査してから中央付近の急坂を下って、入り口から見て奥側の半分に到達する。そこらへんでもう一度アクティブソナーを撃って、安全そうなところで昼食を摂り、中央奥にある城郭のあたりまで行こうかと思っている。
で、今は川の細いところに土魔法でアーチ状の橋をかけ、わたったところだ。
- うーん、魚がいないけど、水はきれいだね、これは飲んでも大丈夫そうだ。
「そうですね、毒もありませんし、他に問題もないようです」
「飲める水がこんなにあると、後続の冒険者たちも助かりますね」
- ああ、そうですね。この様子だと池もきれいかな。
「池から流れてきた川ですもんね」
- うん。
そういえば水の中っていまいちうまく感知できないんだよね、俺の技量ではさ。練習不足なだけかもしんないけど。
微妙に屈折したり揺らいだりするんだよね。そこらへんがまだ不慣れなので、今回ついでに練習しようかな、とか思ってる。
川沿いに池まで来た。うん、やっぱり何も住んでないように思えるなーこれ。
- リンちゃん、プラムさん、感知で何か見つかった?
「見当たりませんね、水はきれいですが」
「水の中を感知するとこういう反応が返ってくるんですね…、これは慣れるまで時間がかかりそうです」
- やっぱり何も居ないか…、そう報告しよう。あとは飲める水だよってぐらいですね。
「そうですね。地図もありますし」
- んじゃちょっと離れたあたりで休憩にしようか。
「はい、お茶にしましょう」
「お茶請けは何ですか?」
- あ、甘いのあったら欲しいな。
「わかりました、果物をほぐして閉じ込めたゼリーがあるのでそれでいいですか?」
- おお、いいねー
「そ、そんな高級品を頂けるんですか!?」
- いいんじゃないかな?、高級品だそうだよ?、リンちゃん。
「高級品ですよ?」
- え、そうなの?
「はい。売ってるものならば、の話ですが」
- へー、誰が作ってくれたの?
「あ、モモさんですね。結構いろいろ作っておいてくれてるので、それを頂いてます」
- そういえばこないだの薄焼きクッキーもモモさんの手作りだっけ。あのひとそういうの趣味なのかな。
「はい、そうらしいです。あたしもいくつか教えてもらったお菓子があります」
- へー、そういうのは黙ってないでちゃんと言ってね。お礼だってしなくちゃだし、リンちゃんの手作りだったらちゃんと味わいたいし。
「は、はいっ!」
「ふふっ、タケルさんてそういうのお上手ですよね、世渡りっていうか」
「そういうこと言うひとにはお茶菓子はありませんっ」
「えっ!、別にタケル様を貶したわけでは…!」
- リンちゃん。
「はーい」
●○●○●○●
美味しいフルーツゼリーでした。うん、お礼ちゃんと言わないとだよね。
プラムさんも始終笑顔でした。もちろんリンちゃんも。
それはそれとして、急坂とは言ったけど、これほとんど崖だわ。ロープとかあるけどだるいなーって、そんで土魔法でどばーっとスロープつくって階段にしちゃえってことにした。
でもその前に…。
- 何あれ。鶏?、でかくないか?、中型犬?、いやもうちょっとでかいか。あれもやっぱり襲ってくるのかな。
「角がありますし魔物ですよ」
「角ニワトリですか」
- あ、あれ角ニワトリでいいんだ?、ってことは普通の鶏もあんなでっかいの?
「いえ、さすがにあれは大きすぎます」
「普通のはあれの2回りぐらい小さいと思います」
- そ、そっか。あれも食用になったりするんですよね?、やっぱり。
「はい。外の森にも居たりしますし、普通に食べれますよ」
ですよねー。
この3層、豚…、じゃない角イノシシに、角ニワトリ。あと森に生えてた食べれる野草や実にキノコ類。
ここって食材ダンジョン?
- 食料になるものや水が豊富、これ報告して笑われないかなぁ?
「むしろ喜ばれるのではないでしょうか?」
急坂もとい崖に沿ってつくった階段を下りていくと、やっぱりその近くにいた角ニワトリが2羽、襲ってきた。
角イノシシよりは遅いけど、羽ばたきながら走るからそこそこ早いなやっぱり。
まぁ、あっさり首を撥ねて倒しちゃうんだけど。
「今晩は鶏肉料理ですね」
- んじゃ森でハーブでも摘んでいきます?
「いいですね~」
何だろう?、このほのぼの感。





