0ー004 ~ 序章の4
『東の森のダンジョン村』まで馬車がでてるって知ったのはだいぶ経ってからだった。
それまでは街を出て、てくてく歩いて森の拠点に行き、途中で襲ってきた角ウサギや角キツネが居たら、拠点で吊るしたり捌いたり燻製用の樽に吊るして燻したりしてから、できた燻製を皮袋にいれて、またてくてく歩いて村まで行ってたよ。
その村では兵士さんたちの詰所で、挨拶してから預けてある荷物を受け取って、それからダンジョンまで行き、入り口んとこの門をそこの門番の兵士さんに開けてもらって中に入るのだ。
荷物ってのは、ロープと金属製のランプと、皮袋に入った油とかだな。
それ以外の道具類はいつもの背負い袋に入れてある。
着替え?、ああ、穴を繕ったシャツとズボンな。あと防水布とタオルな。
だから結構荷物あるぜ?
ゲームみたいにすぐ敵にエンカウントするわけじゃないしな。
でも出る。緑色のギャーギャー言う身長120cmぐらいの小鬼が出る。
ゴブリン?、たぶんそれで合ってる。
でも小鬼って呼ばれてる。ゴブリンって言うと何言ってんだコイツみたいな顔をされるから小鬼って言うようにしてる。
こいつも角を持って帰れば買い取ってくれる。なんか薬かなんかになるらしい。
倒すとポロっと取れるし、角ウサギや角キツネと違って折らずに済むし、角が小さいので嵩張らなくていい。でも臭いんだあいつら。もう慣れたけどな。
ゲームとかだと倒したら死体がそのうち消えたり、ダンジョンに吸収されたりするけど、ここはそんなことがないので、死体が残る。そんでもって臭い。
邪魔にならない場所に集めておくしかない。
最初んときに掘る道具なんてもってきてなかったしな。
そんでしょうがないから端に寄せておいたら翌日見たとき骨だけになってたんで、そういうもんなんだろう。
いや、死体残ってたら更に臭いだろうなー、やだなーとか思ってたんで、びっくりしたけどさ。
しかし、何なんだろうな、不気味。考えないようにしてる。
外の森だとそんなことはないので、今はちゃんと掘って埋めてるんだぜ?、そういう点でもここは手間要らずだ。
だから小鬼が出てくるあたりからは、ちょっと膨らんだ小部屋みたいな場所や、通路脇のくぼみなんかには骨がごちゃっとある。
そんでもって小鬼はその骨を武器にしてる。大腿骨とかな。たまに頭蓋骨とか投げてきたり石投げてきたりする。
なので盾は必須。ええ、買いましたとも。
見つけたら盾を構えつつ荷物とランプを置いて、剣もってささっと近づいてザクっとやるだけの簡単なお仕事。
これで2匹ぐらいなら余裕。
3匹以上いたら盾もって耐えてれば近寄ってくるやつから倒す。
前にあいつらが投げてきた石がたまたまランプに当たって、油がもれて荷物に火がつきそうになって焦った。
そんで剣にランプひっかけてあいつらのほうに投げたんだっけな。
あちこち油がとびちったけど、落ち着いて考えればランプの油はそのままじゃ引火しないから、そんでランプ倒れても火は消えないし、荷物をよけるだけでよかったんだよな。
ま、なんとかなったけどさ。
でもそのあと、油きれて火が消えちゃってさ、真っ暗な中で油補給して火打石でつけるの大変だなーって思ってたら目が慣れてきて、なんだここ壁とか天井とかところどころ光ってる箇所あるやん、って知った。
そうじゃなきゃ小鬼どもだって何も見えねーわな。
それからはあまりランプに頼らずに進んだりしてる。
村の道具屋で、というか店が1軒しかないんだが、雑貨屋兼武器屋兼道具屋兼食料品店みたいな、まぁ雑貨屋だな、そこで羊皮紙?、みたいなのとペン?、みたいなの、いわゆる筆記用具をちょっと高かったが買って、そんでマッピングしてるが、ここはだいたい1本道で、分岐があっても小部屋があって行き止まり、みたいになってるようだ。
ダンジョンお決まりの階段なんてものはなく、穴があって縄梯子がかかってるところもあったが、そこも下は行き止まりだった。
詰所の兵士さんに尋ねたら、浅い場所は定期的に兵士さんたちが入ったりするらしい。
そんでもって簡単な地図もあった。なんと詰所の壁に貼ってあった。
言ってくれよ…。
●○●○●○●
ずっとダンジョン攻略してると気分が鬱屈してくるもんだ。
たまには街をぶらついて酒場みたいなとこへ行ってもいいだろう。
そういう余裕もでてきたしな。
「いらっしゃい、空いてる席にどうぞー」
いやいや、空いてる席ったって全部空いてんじゃん…。
まぁいいか、とりあえず目の前に座ろう。
「ご注文なんにしましょ?」
- じゃ、とりあえずビールで。
「は?、お客さん、冷やかしなら帰ってくれません?、この時間仕込みで忙しいんですよ。」
- えっと、何がおすすめです?
「そうねー、すぐできるものってったら焼き物とか炒め物かな。」
- じゃ、それぞれ1品ずつ見繕ってお願いしていいですか?
「あいよっ」
- あ、ちょっとまって!
「はいよ?」
- 何か飲み物あります?
「たとえば?」
- んー…、お酒…とか?
「あんたこんな朝っぱらから飲むのかい?、ろくなこっちゃないよ? やめときな。」
おばちゃんは言うなりさっさと奥に引っ込んでった。
…そうですか。でもここ酒場だよね?、昼前だけどさ。朝っぱらってほどでもないよなぁ…。
頼んだ料理、酒の肴のつもりだったんだけどなー…
酒が出ないなら頼むんじゃなかった。
あ、そうだ、燻製肉を入れてる平たい箱に入れて持って帰ればいいか。
そう思ってごそごそと背負い袋から弁当箱サイズの燻製肉箱を取り出し、中身を布に包んでまたしまい、とかやってたら料理がでてきた。
「はいよ、角ウサギ肉と野菜の串焼き、それと角ボア野菜炒めね。2つで8ゴールドね。」
- わ、結構量ありますね、はい、8ゴールド。
「あいよ、お客さん、持ち込みはできればやめてくれませんかね?」
おばちゃんはお金を受け取ってエプロンのポケットに入れると、俺が背負い袋からだしてた箱を見て渋い顔をした。
- あ、いえ、これは持ち込みで食べるんじゃなく、持ち帰ろうと…。
焦った俺は両手を振りつつ言い訳をした。
それをきいたおばちゃんは、断りもせず向かいの席に座り、態度を改めたが。
「ああ、弁当かい?、ならそう言ってくれればその箱に入れて出したのに。」
- そうだったんですか。すみません。
「その箱1つじゃ入りきらないよ?、まだあるのかい? その箱。」
- あります。えっと…、これです。中身出さないとだけど。
「中身?、こりゃ燻製かい?、へー、よくできてるじゃないか。」
- あっ、だからって食べないでくださいよ…。
勝手に開けるし止めるヒマなく口に運ぶし…、あまりの素早さにびっくりだ。
おばちゃんは味わうように食べながら、笑顔で右手をひらひらとこちらを扇ぐように動かした。
「角ウサギ串1本サービスしてやっから、へー、こりゃ美味いわ。あんたいい腕してんね。燻製職人たぁ恐れ入ったよ、どうだい?、まとまった数あるならウチに卸さないかい?」
- そんな量ないんで…、趣味で作ったんです。すみません。
「そうかい、なら気が向いたらでいいから持ち込んでくれたら買い取るよ。いい出来だからこれなら充分お客に出せるさね。」
- はぁ、ありがとうございます。
言うとおばちゃんは立ち上がってまた手をひらひらさせながら奥へ行く。
箱に料理をつめているとおばちゃんが戻ってきた。
「ほれ、2本サービスだよ。冷める前に1本ぐらい食べていきな。」
- あ、ありがとうございます。
お礼を言うとまた手をひらひらさせながら奥へと引っ込んで行った。
うん、確かにできたては美味いな、これ。このタレのレシピ訊いたら教えてくれないかな…、むりだろうけど。
また夜に来るか…。
しかし宿屋の下んとこでお酒買って部屋で飲んで寝てしまった。
だって持ち帰ったやつ食べないともったいないじゃないか!