1ー033 ~ いのしし
もやもやを超えると、薄暗い林だった。
まっすぐ伸びている木が少なくて、それがあのもやもやを通してみると余計に揺らめいて見えたせいで、何が見えているのかわからなくなってたのか。納得した。
2層と同様に天井は高いようだ。木々の葉の隙間からしか天井は見えないが、魔力感知によると天井に関しては2層とそう変わったところはない。適当にあちこちが光っていたりする。
ここが薄暗いのは影になってるからかな。雰囲気が不気味なのは天井の光る部分が変化して一定していないせいで、木漏れ日が一定方向じゃないから、かなぁ?
それにそもそも2層もそこまで明るかったわけじゃないしなぁ…。
ま、考えてもわからん。とりあえずアクティブソナー撃つか。
ふーむ、近くに魔物は居ないようだ。
林と廃墟…の残骸かこれ。
ちょっと集中して全域みてみるか。
地形は隆起があるなぁ、2層はだいたい同じ地面の高さだったけど。
山林に、ところどころ廃墟の残骸、崩れた廃墟、壊れた廃墟、半分残ってる廃墟、ややこしいな。もう全部廃墟でいいか。
だって割合で言うと9割廃墟とか壁がちょろっと残ってるだけであとは瓦礫だぜ?
それに俺、べつに廃墟マニアでも廃墟探索が好きとかでもなかったからさ、まともに形が残ってる廃墟なんて、何が潜んでるかわからないから嫌なんだよ。
むしろ崩れて見通しがいいほうが楽。
何か動画サイトとかに、廃墟にわざわざ夜に入り込んだりしてる動画とかあるじゃん?、ああいうの嫌なんだよ、なんかむずむずするっていうかさ。薄暗いしさー、もっと光を!、じゃねーけど、もっと明かりもってこいよってね。あとなんで夜やんの?、昼にやれば?、って思うんだよ。
ホラー映画とかもそうで、なんで部屋の電気つけないの?、あれ。そりゃまぁホラーなんだから薄暗くするもんなんだけどさ。『何か居る…!?』じゃねーよそんなヒマあんならさっさと部屋の電気つけろよ、自分ちだろ!、とか思うわけでムズムズっていうかイライラするんだよ。
人それぞれ好き好きだってことも一応わかってるけどね!、んで何の話だったかってーと、もう面倒だから廃墟、残骸、ってことにしようって話ね。
基準?、何となくだよ何となく。2層にあった、神殿(仮)とか、仮称神殿とかそんなのだよ。フィーリングだよ。
あれ?、お、なんか居るぞ、300mぐらい先の廃墟んとこ。なんだこれ?、豚か?、猪か、牙あるな。
- リンちゃん、こっちの方向300mぐらい先の廃墟のちょい右、猪かな?、2頭いるような。
「そうですね、あたしにも猪に見えます。でも角ついてますのでやっぱり魔物ですよ」
- あ、やっぱり?、そんで猪にしてはでかくない?
角キツネや角ウサギ、あと角サルとか角クマってのを知ってるからね。だいたい元の世界のとあまりサイズ変わらないから、角イノシシでも同じぐらいじゃないのかなって思ったわけよ。
ところが何だかちょっと、ちょっとか?、結構でかいぞあれ。
「そうですか?、魔物じゃない猪もあれぐらいのなら普通に居ますよ?」
- あ、そうなの。ならあれは角イノシシってことでいいのかな。
「はい。そのようです。あれは目はあまり見えてなくて、でも鼻がいいのでご注意を」
- そうね。鼻いいだろうね。よし、全域だいたいわかった。かなり広いなここ。ちょっと歪だけど一番奥まで10kmぐらいあるぞ?、横幅は長くても5kmぐらいか、めちゃくちゃ広いぞ?、調査できるかなぁ…。
「た、タケルさま、そんな広範囲なのにもう魔力探知を終えたんですか!?」
- へ?、うん。最初のピンガーを限界まで加速して撃ち出したら返ってくるのも早いんだよね、そんでもって波長?、っつーのかな魔力の波長を長めに――周波数を低く――とってさ。
つまり最初に覚えたのが音波のソナーで、こないだまでやってたのが超音波探査で、今日やったのが電波レーダーって感じかな。
あくまで例えね。魔法だからね、こっちのは。
「道理で先ほどのトリガーがなんだかいつもと違う感じだったわけですよ…。
ふぅ、タケルさまの成長が早いのはわかっていたつもりなんですが、何なんですか一体…。
我々光の精霊だってこんなに障害物の多い場所から、ここの全体を感知するなんてできないんですよ?、現にあたしですら手前側半分しかわからなくて、そこまで正確に見えていないというのに…、さすが私のタケルさまですよ全く…」
- ちょっとリンちゃん?
今の話のどこにそんな感動して抱きついてキラッキラの目で見つめてくる要素があったんだろうか?、あと、今さりげなく『私の』って聞こえたんだけど。
まぁいいか。
- とにかくプラムさんのとこに戻ろうか?
「はい」
あ、肩を持って引き剥がしたからちょっと膨れてる。可愛い。
●○●○●○●
戻ってプラムさんに説明しつつ、イメージを羊皮紙にどんどん焼き付けていく。
実際目に見える地図にすると、印象変わるなー、そうすることではっきりわかることもあるし。
何ていえばいいのかな、感知した時って、その物がある・わかる、っていう『感じ』そのものでしかないんだよ。気配、ってやつの詳細版みたいなもんで。
イメージって言ってたけど、具体的には、映像化する前の段階なんだよ。うーん、表現しづらいんだけど、情報の集まりみたいなもんで。例えるなら、そうだな、テレビ信号とテレビ映像の差みたいなもん。お、なんか我ながらいい例えがでたんじゃね?、これ。
だからこうして地図に焼き付けると、目で見てわかるもんになるから、印象がまた変わってくるし、こういう映像、あ、これはもう画像って言ったほうがいいんだろうけど、そうしたらはっきり猪のでっかいやつだってわかるし、廃墟の崩れている程度もわかりやすいんだよ。
まぁそんな感じで、焼き付けては目で確認して、みんなで見て、地図にしてわかりにくい部分を指摘されたら補足として書き足していく作業をしてる。
「タケル様、よくこれだけの枚数分の魔力感知を…、というのにはもう驚くのはやめましたが、いくらなんでもこれだけ枚数に分かれていては全体的なものがわかりにくくありませんか?」
- あ、それもそうですね、んじゃ先に全体的なものを1枚に焼き付けましょうか。
「お願いします」
ほいほい、やりますよー、俺もそういう全体図があったほうがいいなってちょっと思ってたんだよね。
んー……、こんな感じか?
- あー、歪な形だとは思ってたけど、こういう形してたのか、3層。
「わかりやすいですね。なるほど、この細い線は何なんです?、さっきまでの地図にはありませんでしたけど」
- あ、それ等高線。
「とうこうせん?、何でしょうか?」
- 同じ高さの位置を結んだ線のことだよ。だから地図でいうと、ここと…ここは高さが同じだけど、ここは高い。そんでここが丘のように高くなっているんだってことが分かる。そしてこの部分は等高線の幅が狭いので急斜面、こっちはくっついちゃっているので崖、ここは幅が広いのでゆるやかな斜面、ここみたいに線がないのは平地、ってことがわかる。
「す…、素晴らしいです!、そう見るとこれはとてもわかりやすい地図ですよ!?、すごいですタケル様!、こういう方法があったとは…!、王立魔法学院にもこのような地図はありませんでした!」
え?、無いの?、先輩勇者たち何やってんのさ。ん?、もしかしたら他に表現方法が既にあったのかもしれないな。
- でも地図に高さを表す方法が無かったわけじゃないのでは?
「はい、ありますが、地形を小さくしたような模型にする感じでしょうか。でもそれほど正確ではなくて、見た感じをそのままでこぼこにするような、俯瞰図ですね」
- なるほど、でもそれで事足りてたんですよね?
「そうですね、そもそも正確な地図というのは国の機密ですから、一般的には目にすることはありませんし、高低差まではっきり記してしまうと、その、」
- 軍事上よろしくない、ってことですか。わかります。
「はい、ですからあまりこういう方面は王立とは言え魔法学院でも進んでいないのが現状でして…、もしかすると騎士学校の地図はいいものがあるのかもしれませんが…」
- いや、そのへんはどうでもいいよ、まぁ、とにかくここの3層は隆起があって高低差があるので、こういう表現にしたんだけど、プラムさんがそんなに驚くってことは、ギルドにこのまま提出しちゃうとマズくないかな?
「あ…、そうかもしれません。この線、等高線でしたか、これの無いものは描けますか?」
- うん、んじゃ等高線のない地図にして、それを提出しよう。これは…、今回は使うけど、内緒だね、ははは。
「はい、内緒にします。ふふっ」
そこに、全体地図をじっと見ていたリンちゃんが、
「タケル様、これって、何でしょう?」





