1ー032 ~ 3層まえ
2層にある3層との境界は、前回と変わっていなければ入り口から行くよりも仮称神殿から行ったほうが近いというのもあって、神殿にリンちゃんに頼んで飛んだ。
神殿玄関かな?、そこの手前に立ってる太い柱のうちの端っこの1本の後ろだった。
あ、ここに設置したのね。
「タケルさま、ついでにガーゴイルの補充をしてきますね」
ほいほい。
いくつかガーゴイルコアの修理ができたらしい。さすがの光の精霊さんたちである。そんでここに寄るついでにそれを設置しとこうってことになったんだよ。
リンちゃんが作業している間、ちょっとヒドラの様子を見てきたけど、変わらなかった。こっちを見もしないんでやんの。
ふてぶてしいというかやる気がないというか、後者なんだろうけども。なんだかなぁ…。
「おまたせしました」
リンちゃんが戻ってきた。
- そいえば聞いてなかったけど、何体増えたの?
「5体です。コアの修理は8体分できたらしいんですが、石の身体の修復が手間取ってるって聞きました」
- あ、コアだけじゃなくまるごと修復してくれたんだ。無理しなくていいよ、ありがとう、って伝えておいて。
「わかりました」
そう言ってにっこり笑うリンちゃん。可愛い。
- リンちゃんも設置作業ありがとう。
「どういたしまして、タケルさまの思し召しですから」
思し召し、ってそんなおおげさな。だってヒドラが暴れるようなことになったらここのダンジョンの上がりで生活してる人たちが大変じゃん?
ま、それはそうと。
- んじゃ行こうか。
「あ、タケルさま?」
- はいはい?
「3層の入り口はこっちです」
あっはい、すみませんね。お約束ってやつなんで。
プラムさんには受けたようだ。よかった、くすっとでも笑ってもらえて。
●○●○●○●
例によってまっすぐ突っ込んできたヘビはさくっと頭を落として収納。
今回トカゲあまり来ないなー、奥の方だからヘビのほうが多いのかな。
あ、またこっちくるわ。しょうがないなー。
後ろではリンちゃんの説明でプラムさんが、俺がヘビ倒してる魔法の練習してる。
プラムさんは火魔法が得意、なんだけど属性の適性は、火と風――習得のしやすさから自己判断したそうな――。
でもだからといって土魔法や水魔法が使えないというわけじゃない。そのへんはしっかりと王立魔法学院?、だったっけ、で優秀だっただけのことはある。研究もやってたみたいだし。
だから氷で芯つくって周囲に風魔法を纏わせて、飛ばすってのは小規模なら真似できる。ただし魔力操作がまだ拙い――ってリンちゃんは言うんだけど、あれで王都の魔導師では上位なんだよ?――ので、構築は遅いし飛ばす速度も遅い。でも最初に比べるとかなり早くなったと思うよ。
俺だってリンちゃんに魔法を教わった最初は、石弾なんてひょろっとしか飛ばせなかったし、剣振って風の刃飛ばすロマン攻撃だって短い距離しか飛ばなかったもん。
あ、前にちょっと考えてたエフェクトだけどさ、リンちゃんに『風の刃を光らせて、相手にぶつかったときに光が弾けるようにするには光属性を入れてこうすればいいかな?』って相談したら、眉を顰めて小首をかしげながら、『その方法でたぶんできますけど、何のためにそんなことを?』って言われちゃったよ。
やっぱりね!、『いや、だってかっこいいじゃん?』って返してみたら、『せっかく相手から見えにくくて避けづらく、対処させにくい利点のある攻撃魔法ですのに、どうしてわざわざ光らせて利点を消してしまわれるんですか?、はっ!、もしかして何かものすごい利点が!?』なんていわれちゃってもうごめんなさい、って言っちゃったよ、ははは。
でもさ、リンちゃんみたいなのだと、風の刃だろうが魔力が篭ったものは目じゃなくて魔力感知でわかっちゃうから、見えにくい、ってのは関係なくなるんだよね。
そこで、目くらましに…、だめか。
以前話にでてきた、隠蔽処理を…、ああ、リンちゃんですらあんなに長く詠唱してた魔法だっけ、咄嗟にできるこっちゃないよなぁ、これも却下か…。
あんなの俺まだ全然やれる自信ないしなぁ、もっと修行しないと。
とか何とか考えながら、襲ってくるヘビやトカゲを機械的に倒して収納し、瓦礫をよけ、蛇行して進んでいるうちに3層との境界に通じる入り口が見えてきた。ややこしいな!
どういうことかというと、3層への入り口は、2層の端っこの壁面には穴があって、その穴の奥にゆるくカーブした通路が100mぐらい伸びてて、その先の四角い部屋、そこが終点なんだけど、その壁にあるんだよ。
「タケルさま、ここに隠し通路がありますよ?」
通路を進んでいくと途中でリンちゃんが元・光の戦士みたいなことを言い出した。あ、あれは違うか。それにリンちゃんは現・光の精霊さん。似てるけど違う。
- えっ!?……あ、ほんとだ、なんか魔力感知にうすーく反応あるね、中の様子とか全然わかんないな。でもこれどうやって開けるんだろう?
「うーん、あ!、いえ、今日は開かないと思います」
- ん?、そう?、んじゃいいか。3層の入り口んとこでお昼にしよっか。お腹すいたし。
なんかリンちゃんの反応がちょっと気になったけど、予定通り入り口の部屋んとこで昼食にしよう。トカゲとか居ないし。
●○●○●○●
昼食の用意をしながら、3層との境界のもやもやを見てみたんだけど、なんか向こう側ってこれ、何だろう?、薄暗いなあっち。
こっちは高さ3mぐらいの天井があって、通路もこの部屋も同じ石造り、遺跡っぽく石を積んでできたようなのじゃなく岩を掘ってくりぬいた洞窟の四角い部屋みたいな感じ。
リンちゃんの暗視魔法と光の球、それと竈の光で明るいんだけどね。
うーん、まぁ、行けばわかるだろうから、今はいいか、ってんであまり気にせず3人で食事して、魔法談義して、ちょっとだけ訓練して休憩してるところ。
「それにしてもこんなに緊張感のないダンジョン探索は初めてです。前回もそうでしたが、今回は特に。
ここって2層の最奥ですよね?、転移魔法も有るとは言え、今朝出て昼前にこんなところまで来れるなんて、普通はありえませんよ?」
- その普通をほとんど知らないんですよ…、魔法を覚えてなくて魔法の袋がなかった時は、浅いところばかり言ったり来たりしてすぐ出てましたので。普通はどうやって奥に行くんです?
「普通なら、途中に拠点を作って、そこを守る人を置き、何度も往復して物資を運ぶんです。そこからまた先も同様に、ですね。なので『フレイムソード』のようにある程度の人数が必要ですね。私達『鷹の爪』みたいなのだと他に探索チームを募ったりして、合同で行うものなんですよ。ギルドの掲示板を見ているとたまに募集があったりしますね。前回はギルドから打診されたんですが、魔法の袋の威力は驚異的でした」
まぁ道理だよな。何となくだけどそうやって進むんだろうってのは想像つく。
- なるほど、あれ、でも前の調査チームの人たちは拠点作ってなかったんじゃ?
「あの2層にあった瓦礫に囲まれた部分がその拠点でしょうね。おそらく『フレイムソード』が作ったんでしょう。でもダンジョンが変遷というか魔物の相が変わっていったので拠点を放棄して退却する途中、襲われて壊滅、分断してしまったんだろうと思われます」
- それで拠点のところまでひいた人と、途中で亡くなった人と、あとは1層で退却中に襲われた人と、無事逃げ帰ることができた人がいたってことですか。
「そうですね。ギルドで訓練してるときに少しそういう話を聞きました」
- ああ、だから『レッドハウンド』と『月の狩人』のひとたちは、その拠点に居たんですね。
「はい、そして帰りには1層がジャイアントリザードの巣のような状態になってしまって、戻れなくなって拠点に引き返したそうです」
- その過程であんなに怪我人がでちゃったってわけですか。
「リザードッグと跳ねトカゲだけでも数匹群れてれば脅威ですから。彼らはそれしか見てなかったらしく、ヒュージスネークが居るなんて知らなかったそうです」
- 2層の手前のほうだけならヘビ居ませんでしたもんね。
「そうですね。彼らが通ったのはそのあたりだったかと」
- なるほど、それでサイモンさんとギルド長にヘビのこと言ったらあんなに驚いていたんですね。
「あ、それはサイモンから聞きました。ところで3層、どうします?」
ああそっか、俺がリーダーなんだった。
ちゃんと方針を伝えておかなくちゃね。
- とりあえず、ちょっとリンと2人で入って近距離だけまず地図作ってみます。
ここはリンがさっき結界魔法を張ったので、プラムさんは一旦ここに待機してください。
一応そこの小屋には何日か泊まれる分の食料を置いてますので。
ああ、そんなにお待たせしません。小一時間ほどで戻ってこれると思います。
「はい、わかりました」
- 戻ったら改めて探索方針を決めましょう。リンちゃんもそれでいい?
「はい、タケルさま」
よし、そんじゃ前人未踏の3層!、いくか!





