1ー031 ~ ふたたび
ダンジョン調査の場合、普通は大抵、人数とその運搬力によって、持って行くものの取捨選択が必要で、その判断は目的地の様子などで判断する。
常識的に考えればそうだと理解しているんだけど、実際は、必要なもの・場合によっては必要なもの・あると便利なもの、というように分類されるらしい。
頭ではわかっていても、短時間でこれとこれとこれ、みたいに買いながら説明されたら、どれも『必要なもの』って思っちゃうんだよね。
やっぱりサイモンさんに準備の指導してもらってよかったよ。あはは。
そんなこんなで、エッダさんがお風呂がどうのとか言い出したので結局また森の家で夕食と宿泊――居心地が良すぎるとか文句いいまくりなんだよね、誰とは言わないけどエッダさんが――することになったわけなんですが。
えっと…、最初は僕に冒険者のリーダーとしてのふるまいとか過去の冒険とかそういう話をしてくれてたんですよね?、サイモンさん。
それがいつの間にか、もうこっち向いてませんよね?、それもうモモさんオンリーですよね、話してる相手。
誰だよ、食後にお酒ちょっといいのあるんですよ、って光の精霊さんのお酒――最高級のものではないけど、そこそこいいお酒――があるんですよ、なんて提案しちゃったやつ!、俺だけど。
そうなんだよねー、モモさんから『燻製によく合うのが届いたんですよ、あとでどうですか?、うふ』なんて言われちゃったらさ、やっぱちょっと興味あるじゃん?、だからつい言っちゃったんだよね。
お酒で気分が軽くなったりするって、あるよねやっぱり。しょうがないよね。
「でも僕は遊撃だから、前衛をするにも後衛をするにも中途半端なんですよ、どの技能も専門職には、やはり敵いませんね」
「あら、そうなんですか?、でも私は遊撃って位置は臨機応変に対応して全体のバランスを保つ役割をするのだから、カッコイイと思いますよ?、私は好きですよ?」
「ほぁ………」
何が「ほぁ」だよ(笑)、口がカマボコの断面みたいになってんぞサイモンさん。
おそらく今の彼は、脳裏にモモさんの笑顔と『私は好きですよ』が何度もリフレイン&エコー状態だろう。
背景はきっとシャボン玉みたいに点々で○が描かれまくってるようなさ。
いや、花が咲き乱れてるかもしれない?
そんで、いいんですか?、モモさん。貴女わかっててやってるんじゃないんですか?
前にリンちゃんに聞いたような気がするけど、貴女250歳ぐらいでしたよね?、絶対サイモンさんの反応で愉しんでますよね?
なんかサイモンさんが哀れに思えてきた。『がんばれサイモンさん!』なんてとても思えない、完全に遊ばれてるよね。
モモさんって意外と…、あ、なんか一瞬こっち睨んだ気がする。ヤバい。見ていないフリしとこう。
えーっと他のひとたちはー…、ああいつも通りっぽい。
エッダさんはこないだと同じようにリビングのソファーでクラッドさんに相手してもらってるし。今回はお酒が少し入ってるから雰囲気がいい感じ。
アオさんとミドリさんは前と同じ。あのチェスみたいなやつ、そんなに面白いのかなぁ?、俺にはよくわからん。
リンちゃん?、ああ、いつの間にか椅子を寄せて、俺に寄り添ってるよ?、え?、少女に酒飲ませていいのかって?、何言ってんだよこの子俺よりずっと年上だよ?
●○●○●○●
翌朝、『ツギの街』に戻った。
またぞろぞろ出てきた俺たちに『キチン宿』の店主は何も言わなかった。
けどさ、普通は『お客さん、困りますね他のひとを勝手に泊めたりしちゃあ』って文句いうもんだと思うんだけど…、もしかして、夜は居なくなってるって知ってんのかな?
まぁ何も言われないならいいか。
ギルドに寄って窓口のとこで調査依頼書ってのにサインをした。
前回はこういうの全部サイモンさんに任せちゃったからなー、なんか新鮮っていうかなんというか。
ギルド長は居なかった。多忙なんだろうなーやっぱり。
ここでいいですよ、って見送りのサイモンさんたち3人に言って、頼んでた馬車にのった。
そんでガタコト揺られて『ツギのダンジョン』へ。
ダンジョン前にはまだダンジョン警戒を依頼された冒険者さんたち、あ、これ前回も居たひとたちだね。ローテーションしてるって話だったけど。たまたまか?、あ、ギルド長がでかいテントから前回サイモンさんと挨拶してたひとかな、と一緒に出てきた。ここに居たのね。
「勇者様、ダンジョン調査よろしくお願いします」
おおぅ?、ギルド長が余所行きの言葉と態度だ。
なんだろう、対外的なアレってやつか?、今までがあんなだったから背中がこそばゆいな、あ、ちょっと笑ってる。んじゃ普通でいいってことか。
「うちのメンバーを助けてくれて感謝するぜ勇者様。前回はろくな挨拶もせず失礼した。俺が『フレイムソード』の統括ってもんをやってる、ガーランドだ」
ギルド長に返事しようとしたら言われた。話しかけられるとは思ってなかったのでちょっとびっくりした。
- あっはい。タケルといいます。
「タ、ケ…?、タックでいいか?」
「(タケルだよ)」
「タッケル?」
「(タケルだって)」
「タッケ、ル?、どうも勇者様の名前はどれも言いづらくていけねぇや、許してくんな。とにかく感謝してるってことが言いてぇだけなんだ」
そういえば『勇者の宿』のグリンさんも言い辛いからタックって呼ぶとか言ってたっけ。なんか懐かしいな。日本名って言いにくいのかな、よくわからん。
訂正させようとしてるギルド長もなんか発音っていうかアクセントの位置というか微妙な感じだし。もうどうでもいいけどさ。慣れたし。
- 人助けですから。それに介助して連れてきてくれたのは『鷹の爪』、『レッドハウンド』、『月の狩人』のみなさんですから、お礼はそちらのほうに。
「ああ。もちろん。皆に感謝してるぜ、何かあったら今度はこっちから助けるつもりだ」
- そうですか、なるほど。んじゃ、行ってきますね。
「よろしく」
「気をつけてな!」
バッシ!、と二の腕んとこごっつい手で叩かれた、痛ぇよ!!
●○●○●○●
そういえば救助のお礼ってことで結構な金額が明細に書かれてたっけ。
助けられた人たちの救助費用とか炊き出しの食料とかを含めているんだろうな。
だからもし現地や外でギルドを介さずに謝礼金のやりとりをした場合にはこの項目がないんだそうな。
ギルドを介してやりとりをすることで、あとで払った・貰ってない、などのトラブルを防いでいる意味もあるんだそうな。
それとたぶん、お金あまり持ってないひとのためでもあるんだと思う。
そりゃあ確かに、生還できなきゃそのまま死ぬわけだから、そんとき法外どころか莫大な金額を言われたとしても救助される側とすれば承諾するしかないわけだし、『お前の命の値段だぞ』なんて言われたら断れないもんね。
冒険者の場合は、明日は我が身、みたいなものだし自分の評判に直結するから下手なことはできない。『あいつどこそこのチームの誰々を助けたときに吹っかけたらしいぜ?』なんて噂にでもなってしまったら、自分のときに同じことされ兼ねないし、普段から協力してもらったりすることもできなくなるだろうからね。
俺としては、今回はついでみたいなもんだったし、助けないわけにもいかない。何せ勇者様(笑)だし。だから必要経費だけで謝礼金は要らないつもりだったんだけど、他の手前そういうわけにもいかないからサイモンさんとギルドに丸投げしちゃったわけよ。
でもそれはそれで正しいやり方なんだってさ。
むしろ勝手に値段とか決めちゃだめとかなんとか。
そういうことになってるんだってさ。
さて、軽くリンちゃんにお願いして2層手前のところに作った小屋に飛んだ。
どうしてここに一旦来たかというと、ここに置いたままのハニワ兵を回収というかコアを回収なんだけど、しておこうかなって。
なんでかというと、許可を与えた人には無害だけど、それ以外には攻撃しにいっちゃうんだよね、このハニワ兵。
今後ここを利用したい人にも攻撃しちゃうので、魔物避けの結界だけでいいかーってね。
ある意味セーフティーゾーンみたいな感じで利用してもらえるといいなーって。
あ、でも結界あとどれぐらいもつのん?、訊いてみた。
「そうですねー、この感じだと今月中ぐらいは大丈夫かと」
- え?、そんなに持つの?
「はい、ここは漂う魔力が結界魔法に適しているというのもあるんですが、魔力が濃いんです、だから領域魔法が長持ちしやすい傾向にあります」
- んじゃ石板まだしばらく置いといてもいいかな?
「構いませんが、どうしてなんです?、今回の調査が終わればもういいのでは?」
- んー、なんかまだ様子を見ておきたいなーって、カンみたいなもんかな。ダメ?
「タケルさまがいいなら、問題ありません。石板はまた作れますし、送ってもらえますから」
- そう?、ありがとう。
「いいえ、お礼には及びません。タケルさまのためですから」
何かリンちゃんゴキゲンだね。まぁいいか、ゴキゲンなのはいいことだ。
ハニワ兵を、以前ビー玉――コアの詰まった袋ね――貰ったときに教わった魔法で停止させる。そんでコア埋めた場所をこれまた土魔法で開いて取り出し、全体を土魔法で土に戻す。
あ、土に戻さなくても良かったかな?、もいっこだけは壁際にくっつけておこう。なんとなく守護像みたいだし。
足元にお皿でも作っておいといたらお供えするひとが居るかもしれない。やんないけど。
む、なんかこう、物足りない感じがするな。
前に使ってたショートソードと盾を持たせてみよう。
おお、いい感じじゃないか。うんうん。
ひとり納得してたら後ろでリンちゃんとプラムさんが妙な表情で首をかしげていた。





