1ー029 ~ 連絡
ギルドの裏手にある訓練場についた。プラムさんはまだ居た。頑張るなぁ。
時間的なものなのか、他に誰も居なかった。
挨拶をして並んで魔力感知と魔力操作の訓練をする。
「タケル様、だいぶわかるようになってきたんですよ。ふふっ」
嬉しそうにプラムさんが言う。リンちゃんにたまに叱られてこってり絞られてたりするけれど、何気にプラムさんも筋がいいような気がする。
- そうなんですか?、んじゃ僕たちが来るのも分かりました?
「はい、まだはっきりと掴めたわけじゃないんですが、タケル様とリン様は魔力がすごく高いのでわかりやすいんです。なので訓練にはもってこいです」
- なるほど。その調子ならそのうちエッダさんの仕事が楽になりそうですね。
「がんばりますっ!」
拳を握ってそう言うプラムさん。何気に仕草が可愛いところあるよな、このひと。
訓練しながら、ふと気になったのでリンちゃんに訊いてみる。
- リンちゃん、光の精霊さん同士ってそうやって遠距離通話してるみたいだけど、魔道具でそういうのって無いのかな?
「はい、我々全員が使えるわけではありませんが…、魔道具ですか?、通話でないなら無いこともないですよ?」
- 通話じゃない、ってどういうの?
「えっと、タケルさまのご希望に添えるかどうかは分かりませんが、おそらく『鷹の爪』のサイモンさんと連絡がつけられるようにとお考えですよね?」
- うん。
「そこで、腕輪かペンダントの形になりますが、連絡したい場合に片方に魔力を篭めますともう片方にそれが伝わるというものがあるんです」
- へー、それでいいよ。あ、でもどこに居るのか分からなかったら呼ばれてるのがわかってもどうしようもないような…?
「若い精霊に持たせて、危険があったりしたときに保護者が駆けつけるためのものなんですよ。遠距離通話ができない子に持たせるんです。」
- なるほど、それで場所は?
「場所は、その腕輪かペンダントの魔力を辿るんですが、たいていそういう子はどちらに行くというのを伝えてから出ますので…、その周辺を探る程度ならなんとかなるんですよ」
- あー、そういうことかー、するとサイモンさんに持ってもらうには場所がわからないから不向き、ってことになるわけか。
「そうですね、サイモンさんだと魔力操作ができませんので、プラムさんに持ってもらうことになりますが、うーん、何れにしても、光っただけでは呼ばれているとわかるだけでどうしようもないですね」
- あ、でも一応は、呼ばれているということがわかれば、例えばサイモンさんたちの宿に行くとか、ある程度先に決めておけば、使えないこともないか。
道具は運用次第って言うしな。
「あ、そうですね。それなら問題なさそうです。取り寄せますか?」
- うん、お願いできるかな?
「わかりました」
もし、魔力で文字が表示できる素子があるとする、そんでそれを信号で送って、受け取った側にも同じ文字を表示させることができるなら、文字数の制限はあるにせよ、文字通信ができるんじゃないかな。
あるいは、魔力を篭めて『離れた場所にある物体が光る』っていうなら、光る素子を小さく、マトリクス状に配置してそれを表示板とする。送信側は、魔力を篭めるときにどことどこを光らせる、と魔力操作してやれば、相手の腕輪に文字が送れるってことにならないかな。
もうちょっと進めると、文字盤があって1文字ずつ押せばそのマトリクス状にした文字が光る?、いやこの際いっそのこと文字コードをつくる?、うーん、こういうのは専門の技術者が考えればいいことであって、俺が考えることじゃないよな。
そもそも光の精霊さんたちは全員がじゃないにせよ遠距離通話ができるんだから、そんなもの提案されたところで、作ってくれるかどうかわからないじゃないか。
だって必要ないんだからさ。
でも機会があったら話してみよう。今はいいや。
しかし魔力感知や魔力操作の訓練中って、多少腕とか手を動かすけれども、他から見てると地味だよな。
隣のプラムさんはもちろん真剣な表情で訓練しているし、時々魔力操作して俺が教えたように、軽く手を合わせるとか、そういうわかりやすい切っ掛けでピンを撃つとか、やってるんだけどさ、他の人からみると何やってるんだかさっぱりだろうね。
2人とも、立ったり座ったりはするけど、攻撃魔法を使うわけでもないし、剣を振ったりするわけでもなく、ただそこに居て、ときどき手を動かす程度だもん、さっきまでプラムさん独りきりだったわけだし、何やってるんだろうあのひと、って感じだったんじゃないかな。
なんとなくだけど。面白い。
あ、訓練を切り上げて帰るときに、服装は楽な服装でいいですよ、って言っておいた。
もちろん今晩の食事に招待したって話してからね。
●○●○●○●
「へー、これがキミの家かい?、結構大きいね」
大きくなっちゃったんですよ、最初は2人が入ったらもう一杯、みたいな粗末な小屋だったんですけど。
「外にテーブルがあって明かりの柱まで、いいなーこんな家」
僕もそんな設備があるなんて今日知ったんです。
「それで、何をご馳走してくれるんだ?」
僕にもわかりません、モモさんたちに任せちゃったんで。
- まぁ、とにかく席について待っててもらえますか?
と、家の外の大きなテーブルを手で示す。
テーブルには中央に花の飾りがあって、その上に白い丸い球が光っていた。
何これ?、浮いてんの?
周囲には庭の柵――こんなの知らない――があり、柵のところどころには柱がたっていて、その上に同じように白い丸い球、の下半分が光っていた。
上を照らさないように、ってやつかな。
柵の根元には花が植えられていて、明るい色の花々が咲いている。
何の花とか分からん。訊かれても答えようがない。
元の世界の花に似てるのがあるような気もするけど、同じかどうかわからないし。
『鷹の爪』の4人が席に着くと、リビングの扉――引き戸になってた。そんなのいつの間に――が開いてワゴンを押す4人がぞろぞろ出てきた。
ああ、例の浮いてるワゴンね。まぁいいか。もう。
「タケル様も席についてくださいな」
モモさんに言われちゃったよ。
- あっはい。でもその前に。
『鷹の爪』のみなさま、今宵はようこそ森の家にお越しくださいました。
料理などを用意してくださった方々を紹介しますね。
こちらがモモさん、この家の管理をしてくださっている4人の代表者です。
モモさんがお辞儀をする。
- こちらはベニさん。よく気がついて気配りのできる方です。
ベニさんが一瞬こちらを見て目を見開いたが、あわてて向き直ってお辞儀をする。
- こちらはアオさん。真面目でしっかりとした所のある方です。
アオさんがお辞儀をする。少し照れた表情?、気のせいかな。
- こちらがミドリさん。ほんわかした雰囲気をお持ちで癒される、そんな方です。
ミドリさんがお辞儀をした。
- 料理についてはすべてお任せしてしまったので、僕にも何が出るのかわかりません。
でも配膳したあとは向かい側に座ってもらうので、気軽に話しかけてみてくださいね。
では僕も席に着きます。
と言って、リンちゃんと一緒に短辺に用意されていた2つの席についた。
●○●○●○●
食後のお茶である。はー、美味しかった。マヨもちゃんと使われていた。
エッダさんとプラムさんがマヨにハマったようだ。
あと、サイモンさんがモモさんにハマりそうかもしれない。でも無理だろうなー、モモさん光の精霊なんだし。言ってないけどさ。
用意された料理の話や、ここで作っている燻製のこと、あと、マヨのこと。
そういったいろいろな話を思い思いに話したりしていた。
『鷹の爪』の4人は、精霊であるとか勇者であるとか、契約魔法に抵触しそうな話題はうまく避けていてくれたようだ。
モモさんたち4人には話しても大丈夫だってことを伝えていないのは、もしかしてすこし意地悪かなと思ったんだけど、何ていうか、タイミングを逃しちゃって、それでそのうちサイモンさんがモモさんを見る目とか、やけに話しかけるなとか、気付いてしまっては、もう言える状況じゃなくなってしまった、というのもあって…。
うん、なんか言い訳めいてきたけど、もうなるようにしかならないと思って流れに任せよう。
怒られたら謝ろう。うん、そうしよう。
とりよせてもらった連絡用の腕輪が届いていましたよ、ってリンちゃんに聞いたので、プラムさんに渡すことにした。
- プラムさん、これ、青いほうの腕輪に魔力を篭めると、両方の青い石が光るようになっていてですね、赤いほうの腕輪に同じようにすると、両方の赤い石が光るようになってるんです。それで、どちらか片方を着けていてもらえませんか?
「はい、え?、あの…、私にですか?」
あ、言葉足りなかった。
- 実はサイモンさんに、連絡手段をどうするかって話がありまして、何かいい方法がないかなと。そしたらこういう魔道具があるってリンから聞きまして。でも魔力を篭めなくてはならないので、サイモンさんにはできないんです。そこでプラムさんに着けていてもらえばいいんじゃないかと、連絡用のものなので、面倒かもしれませんが。
サイモンさんに目線を送ると、頷いていた。
「合図があればどこかに集合する、というようなことを予め決めておけばいい、ということだよね?、タケル君」
- はい。そういう運用でいいと思います。
「ということなのですまんがプラム、受け取ってもらえるかな?、僕には使えないから…」
「…わかりました。普段から着けていればいいんですね?」
- はい。お願いします。残ったほうは僕が着けますので。
実はこれ、あとで聞いたんだけど『保護者が必要な若い精霊さん用』なので、光の盾がだせたりする。
といってもそんなに大げさなものではなく、せいぜい腕輪の外側に直径50cmほどの小型の盾が出せる程度でしかないし、強度も小型か中型の魔物の攻撃を何度か防ぐ程度でしかない。
遠距離通話魔法の練習、魔法盾を出す練習、につかえるという腕輪なのだ。
ペンダントタイプも同様らしいが、今回は両方とも腕輪にしてもらった。
あとでそれを聞いて、こっそりプラムさんに話したら、すごく微妙な表情で苦笑いをしていたが、すぐに魔力操作や魔法盾の訓練ができるなら、と割り切ったようだ。
魔法盾が自力で出せるようになると、腕輪と相乗効果で強度もあがるので、後衛であるプラムさんにもプラスになるだろう。





