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1ー028 ~ 報告

 「本当によくやってくれた。12名も救い出すなんて、期待以上の成果だよ!」


 ダンジョンを出たところには、1層の途中でエッダさんが先行してギルドに伝えてくれたせいか、わざわざギルド長がやってきており、馬車や荷車も含めて人でごった返していた。


 「はい、ですが調査は2層で中断したので、3層には行っておりません」

 「生存者たちを連れ帰ってくれたんだから、それはまた後日でいい。とにかくご苦労だった」

 「ありがとうございます。ところでその…」

 「ん?」


 サイモンさんがギルド長に小声で耳打ちをした。

 たぶん持ち帰った魔物などの話だろう。


 「そ、そうか、戻ったらすぐに倉庫を手配する。ギルド長室で話そう」

 「わかりました」


 2人ともこちらの方をチラチラみるんだもんなぁ…。






 それはそうと、帰りは大変だった。

 片足なくなっちゃったひととかまだ満足に歩けないひととか居たしさ。2層から1層まで、ヘビは来なくて助かったが、トカゲがうっとうしい。


 1層のようなでかいのは居なかったが、犬サイズで結構素早いんだよあれ。それが散発的に数匹ずつ襲ってくる。


 多少は戦えるが万全な調子というわけじゃなくて武器も結構傷んでいるのが4名居て、残りの8名のうち、介助がないと歩けないような人たちが6名いる。


 つまり、介助するひととされるひとの数が同じなわけだ。ってことで護衛として動けるのは『鷹の爪』の4名と俺とリンちゃんの合計6名だけなんだ。


 さらに『鷹の爪』の人たちは、辛そうにしているひとや、介助してるけど共倒れになりそうな人たちを、励ましたり補助したり、クラッドさんなんか負ぶっていたりしてたんだぜ?、気付かなくて、急いで手伝おうとしたけど、手をこちらに向けて、『大丈夫だ、こっちは問題ない。警戒を続けてくれ』だってさ、クラッド(さんカッケー)だよ、惚れるわ。


 エッダさんやサイモンさんだって、地図を片手に前後左右を走り回ってたしさー…。


 まだ魔力感知してるおかげで、来る方向やタイミングがわかるからよかったけど、そういうのがなくて、斥候を立てつつ6名で12名の走れない人たちを護衛するんだったらかなり厳しいなんてもんじゃないと思う。


 当然、普通に歩くよりもペースは遅くなるし、休憩の頻度も多くとらなくてはならず、こっそりポーチからいろいろ出して食事を振舞ったりした。


 もちろん、そんなにすぐ普通のものが食べられるようになるわけもないので、12名のうち8名は例の薄味スープだ。シチューよりも具が少ないやつ。


 しょうがないじゃん!、衰弱が激しすぎて、回復魔法だってばっちり治せるところまで使えなかったんだから!

 いやマジで、もう死ぬまで秒読みみたいな人が6名いたんだよ。そのうち重症で血が少なくなってた人なんかはもうほんとヤバかった。リンちゃんも難しい表情をしながら額に汗かいて集中してたよ。

 俺でもできるって言ってたけど、あれは自信ないわ。


 そういうわけで、傷口とかが開いたりって心配は要らないけれど、肝心の体力が戻ってくれないと、これ以上の回復魔法がかけられないんだよ。


 幸い、その最低限の回復魔法のおかげで、食欲はでているようだ。それはそれでいいことなんだけど、まともな具や硬いものは内臓が受け付けない。

 まだそこまで体力がないんだよ。でも気持ちだけは回復魔法と、あとは生きて帰れる、っていう気力で、なんとかなってるってところ。


 元々ある程度の冒険者だしな。じゃなきゃ生き残ってないよな。


 とにかく少しでも食べて、休んで、体の地力をつけてくれないとどうしようもない。それぐらいぎりぎりだったんだ。


 ま、そんなこんなで、帰りはなんと1層で3泊した。


 風呂にも入れてやりたかったんだが、とてもじゃないけどそんな余裕もないし、松葉杖を土魔法で作ったんだけど、それを使うほど体力がない人のほうが多くて、それにクッションがないからね、結局使えずに土に戻しちゃったよ。


 できたのは、平らなところに寝かせるのに、土魔法で均してその上に毛布を敷いて、ってぐらいでさ。毛布だって多めに出しちゃったけど、疑問に思っても言わないでくれてたよ。ありがとう。


 どこにこんなに毛布が?、って言われたら、1層に作った小屋の方を指差して、そこの拠点に置いていたんです、ってごまかそうって考えてたけどね。






●○●○●○●






 元怪我人や衰弱してるひとたちは馬車で、俺たちは荷車に乗せてもらい、ツギの街に帰還した。

 ギルド長の部屋の応接セット、というほどいいものでもないが、打ち合わせ用のテーブルに着き、地図を渡して報告をする。


 サイモンさんが。


 ちなみにクラッドさんは装備の手入れに武器屋や防具屋へ、エッダさんは毛布だのロープだのなんだのの補充、プラムさんはリンちゃんに教えを乞うてギルド裏の演習場にしているスペースで魔法の訓練をしている。

 え?、リンちゃんは俺の横に座って出されたお茶を、両手で包み込むようにカップをもってちびちび飲んでるよ。可愛い。


 「1層はジャイアントリザードの巣になっていました。『フレイムソード』が帰還したときにはリザードッグと跳びトカゲだと聞いていたので驚きました」

 「そんな事になっていたのか…」

 「はい、逆に、2層にリザードッグと跳びトカゲが結構いますね」

 「ふむ…」

 「そしてその2種をエサにするヒュージスネークが居ました」

 「エサだと?、ダンジョンの魔物が?」

 「はい、1層の巣には卵が。タケル君」

 「なんだと!?…」


- はい。こちらです。


 と、テーブルの上に布を出して卵を上に置いた。


 「ふーむ…、繁殖するというのか?」

 「いえ、周囲には孵化(ふか)した形跡はありませんでした。ひとつ割ってみたんですが、普通に中身も卵でした」

 「こいつは(かえ)りそうか?」

 「わかりません」

 「それもそうか、それでそのヒュージスネークはどの程度だ?」

 「小さいものでも15m級、大きいものは30m級でした」

 「た、倒したのか?」

 「はい。タケル君が」

 「おいおい、そんなの相手によく無事でいたな。え?、タケル君が?、お前たちは?」

 「特に何も。見てました」


 苦笑いするサイモンさん。ちらっとこっちを見るギルド長。


 「そんなものどうやって…、いや、まぁいい」

 「死体を持ち帰っていますので、倉庫の手配が終わり次第お見せできるでしょう」

 「なんだって?」

 「ですから持ち帰っています」

 「何を?、皮とか牙か?」

 「いえ、死体をです」

 「30mのやつをか?」

 「倒したヘビやトカゲ全てです」

 「……冗」

 「冗談ではありません。勇者タケル様がもつ魔法の袋に入っています」

 「………。」


 溜息をつきながら腕を組んで瞑目するギルド長。

 チラっとこっちをみてまた苦笑いをし、お茶を少し飲んで喉を湿らせ、カップを置いてまた話すサイモンさん。


 「2層には神殿のようなものが、その地図の、はい、えー…こちらですね、ここは結界で内側が封印されていまして、外側はガーゴイルが48体で守られており、中にはヒドラが居ました」

 「ガーゴイル48体にヒドラだと!?、どれも強敵じゃないか!」

 「結界を守るのがガーゴイルで、ヒドラは結界があるため出て来れません」

 「それで…、まさか…、倒したのか?」

 「はい、ガーゴイルは倒しました。ヒドラについては、えー、結果的には倒さず放置してきました」

 「中に入って確認したのに、か?、襲われなかったのか?」

 「はい。やる気が全く感じられないヒドラでした。やせ細っており、かなり衰弱しているように見えました」

 「ヒドラが、か?」

 「はい。少しこちらを1つの頭だけが見て、また目を閉じてじっとしていました」

 「それで倒さず放置してきたのか」

 「神殿の結界を張りなおしまして、比較的無事だったガーゴイル5体を再配置して守りに置いておきました」

 「タケル様が、か?」

 「いえ、それはそちらの、リン様がです」

 「………?」


 『はぁっ?』と言いたげな表情でリンちゃんを見るギルド長。リンちゃんはどこ吹く風で、お茶をまだちびちび飲んでいた。長持ちするね、え?、それ中身違うよね?、勝手に淹れた?、あ、いつものポットが置いてあるわ。いつの間に!?


 俺の分もくれない?、あ、ありがとう。






 そうそう。生き残ってた2人は、ツギの街での最大手(さいおおて)チーム『フレイムソード』ってチームのひとなんだってさ。


 名称についてはいいじゃないか。こういう世界なんだしさ。

 だって魔法使うひとなんて、もろだよ?、もろ。元の世界で言ったら黒歴史決定のような詠唱をして、『ウィンドカッター!』とか叫ぶんだぜ?、そんなこと真面目にやってるんだから、今更だよ今更。


 俺、詠唱だけは絶対人前でやらないって決めたんだ。フラグじゃないぜ?


 あ、そうそう、チームってのは○○団、みたいなもんで、パーティってのはその時に行動を共にするときに言うんだってさ。


 『鷹の爪』みたいに4名しか居ないチームは、だいたいその4名でパーティを組んで行動していることがほとんどなので、『鷹の爪』パーティと言っても、『鷹の爪』チームって言ってもどっちでもいいことになる。


 でも『フレイムソード』などのように人数が数十名所属しているような場合は、『フレイムソード』のパーティ、っていうとその日その時にあちこちに存在するから紛らわしい。


 だから、チーム『フレイムソード』の誰々のパーティ、って言うことになるが、所属を言う場合には、どれもチーム『フレイムソード』のひと、というわけだ。


 まぁ慣用的なものらしいので、厳密にこう呼ばなくてはならない、というものでもないらしいんだけどね。






●○●○●○●






 「ギルド長の気持ちもわかるだけにね、結構気疲れしたよ」


- それはまぁ、なんだかすみません。


 「ははは、倉庫はすぐ手配ができるそうだよ。ほら、来た」


 ギルド長の部屋を出て、受付カウンター近くにある長椅子に座って少し待っていたら、職員のひとが近づいてきた。


 「倉庫の用意ができましたので連れてくるように、と」


 頷いて3人でついていく。

 ギルドを出て、すぐ隣の後ろだった。思ったより大きい倉庫だ。まぁでも、入りきらないだろうなぁ…。


 倉庫の扉は少しだけ開いていて、そこから中に入ると、ギルド長ほか数名の職員さんがいた。


 「まずはその、ヒュージスネークを出してもらえないか?」


- はい。


 倉庫の奥まで行き、ポーチに手を突っ込んで尻尾の先からずろんと出していく。

 中の奥行きが30mぐらいだから、尻尾んとこちょっと折り返せば行けそう。

 出すと、まだ血や体液が染み出てきた。

 頭部もその横にでろんと出して置く。


 職員さんたちがぞろぞろついてきていた。検分しているようだ。


 「これはどうやって切断したんだ?」


- 魔法で。


 詳しく言ってもしょうがないからね。


 「凄まじいな、勇者ってのは…、それでこれ、どうするんだ?、うちで買い取ればいいのか?」


 サイモンさんに投げよう。サイモンさんのほうをじっと見る。

 あ、小さくため息をついた。任せてよさそうだ。


 「解体の手数料がどれぐらいか、皮の価値がどれぐらいか、まずは見積もってもらえますか?」

 「そうだな、これだけのモノだ。調べれば皮だけじゃない部分にも価値はありそうだ。たしか肉も食えるんだそうだぞ?」

 「そのあたりも含めて」

 「ああ、わかった。見積もりが出たら連絡しよう」

 「それと、これ1匹じゃないんですが、どうしましょう?」

 「他には何があるんだったか?、ジャイアントリザードか?、あれは皮だけか」

 「10体ほどは皮を剥ぎ取ったものがあります、あとは20体ほど剥ぎ取り前の状態のものがありますね」

 「10体の皮ならそちらにおいてくれていい。20体のジャイアントリザードか、置けそうだな、並べてくれていいぞ」

 「ヒュージスネークがこれだけではないんですよ」

 「なんだと!?、何匹あるんだ?」

 「何匹だっけ?」


- えーっと、あと7匹ですね。


 数詞が「体」なのか「匹」なのか、はたまた「本」なのかよくわからん。たぶんこの世界ではそこらへん適当なのかもしれない。俺にはそれぞれ分けて聞こえているんだけどね。フシギナチカラで翻訳されてるんだろうか?、文字は読めるし書けるんだけどなー、なんでだろうなー。


 「そんなにあるのか…、と、とりあえずジャイアントリザードを並べてくれ、他は一旦片付いてからにしよう、そうじゃないと場所も人手も足りんわ」

 「わかりました」


- はい。


 せっせと取り出して並べていく。それはいいんだけどさ、剥ぎ取ってロープでまとめて防水布でくるんだ皮、持った感触がすごい、ごめんあまり触りたくない、言いたくない。そんな感触。たぶん皮のアレが畳んで染み出て布んとこにアレして……うぉ、ぞぞぞっと来たぞ!


 しかし壮観だな、匂いはもうなれたけど。ああ、これから酷くなるのか。早く出よう。


 「では連絡をお待ちしています」

 「ああ、できるだけ急ぐが、これだけの量だ、少しかかるかもしれん」

 「わかってます。でも明日には出ます?」

 「うーん、皮のサイズがな、きれいに倒しすぎだ、王都のほうに問い合わせなくちゃならんかもしれん」

 「だとするとだいぶ待たされることになりませんか?」

 「何ともいえんなぁ」

 「では、倉庫が空いたら連絡をください。そうすれば荷物も減らせるので」

 「ん、そうか。わかった、剥ぎ取りが終わったら連絡しよう」

 「よろしくお願いします」


 俺もお辞儀をして倉庫をでた。






 「タケル君、お金にするのは少し待たなくちゃいけないかもしれないよ」


- ああ、相場がどうとかいうアレですか?


 「よくわかったね。そういうこともあるんだ。一度に大量に、しかもあんなサイズの皮がでるなんてめったにないからね。だから相場が崩れないように小出しにする分、換金が遅くなったりすることがあるんだよ」


- はい。


 「少し目減りしてもいいならギルドで買い取ってしまうこともあるんだけど、傷のほとんど無いあれだけの皮だ、オークションに出してもらうという手もある、しかしその場合にはお金を手にするのに半年から場合によっては1年近く待たされることもある」


- まぁそのへんは、ギルド長とサイモンさんにお任せしますよ。特に生活に困っているわけじゃありませんし。


 「そうか。まぁ悪いようにはしないさ。それで今日はあとどうする?」


- プラムさんのところに行って、少し魔法と剣の訓練をします。終わったら風呂にでも入ってのんびりしますよ。


 「そうか、あ、そうだ、キミへの連絡はどうすればいいかな?」


- そうですね、『キチン宿』ってところに宿をとってるんですが…。


 「『キチン宿』か、質素倹約だね。キミならもっといいところに泊まってもいいんじゃないかい?」


- あー、えっと、そうですね、んじゃ今晩食事に招待しますよ。『鷹の爪』のみなさんでどうぞ。


 「え!?、『キチン宿』にかい?、それは何の冗談だい?」


- 今は言えません、楽しみにしていてください。んじゃ訓練してきますね!


 誰がきいてるかわからないので、あまり言えないんだよね。

 急いで離れた。


 そしていちいち言わなくてもリンちゃんは森の家に連絡をしてる。

 よくできたいい子だぜ全く。




20180814:何と!、題名を1-29のに間違えていたという恐るべきミスに、今まで気付きませんでした…orz

     ご指摘くださったえいち☆かりぱー様、ありがとうございます。

20180815:ついでにルビ位置の修正と、衍字(余分な文字)が1箇所あったのでそこを削除しました。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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