1ー027 ~ 空腹
「タケルさま、結界の修復ができました」
- おお、ご苦労さま。よしよし。
土魔法で土台の柱を立てて、その上に核となる石を配置して、あと神殿の上にある結界魔法全体の核になってる石に魔力を込めただけで何とかなったようだ。
でもあの神殿の上、どうやって登ったん?、リンちゃん。
「がんばりました。結界の仕組みがかなり古いもののようで、少し解析に時間がかかりましたが、概ね現在伝わっている仕組みとそう大差がなかったので、一部書き換えて起動しました」
- あ、乗っけて魔力込めただけじゃなかったのね。ごめん。大変だったね。よしよし。
「ということはアレはあのまま放置でいいのかな?」
- そうですね、ガーゴイルどうしましょうか?
「それも結界の核となっていた石にその機能がありました。近づくものに見境なく攻撃してしまう設計になっていたので書き換えておいたのですが…」
- 書き換えてもガーゴイルがもういない、と?
「はい、でもいくつかはガーゴイルの核が無事なものがあったので、作り直して神殿の上に配置しておきました」
- ほう、何体ぐらい?
「それがその…、5体だけ…」
- 仕方ないよ、リンちゃんが悪いわけじゃないし。俺がぶっ壊しすぎたせいだから。
だって襲ってくるんだからしょうがないだろう?、まさか再利用するなんて、戦闘中考えもしなかったしさ。
「核の残骸は回収できたので、時間を掛ければ、もしかすると直せて増やせるかもしれませんが…」
- またここに来る予定なんてないしなぁ…。あ、でも石板を神殿のすみっこにでも仕込んでおくほうがいいかな?
「はい、わかりました」
といってお茶を飲むこともせずにたたたっと神殿に走ってったよ。
リンちゃんマジ有能。一体どんな再教育したんだろうね、アリシアさんてば。恐るべし光の精霊。
「それにしてもあの子はすごいね。タケル君も相当規格外だけど。一体何者なんだい?」
んー、もう言ってもいいかな。契約魔術で縛ってるし。罰則は軽いけどさ。喋ったりしないだろう、この人たちなら。
- リンちゃんは精霊ですよ。訳あって僕に仕えてくれてるんです。
「な!?」
「せ、精霊!?」
「なんだって!?」
「はぁ…そんな高位の存在だったのですね師匠は…」
プラムさんだけ相変わらず反応のベクトルが違うけど。
- でもまぁ、見かけはああですし、普通に話してやってください。さすがに成り行きまでは言えません、ああ、契約がどうとかじゃなく、個人的なことすぎてちょっと…。
「精霊なんて、それこそ伝説で出てくるような存在だよ…?」
「でも納得しちゃうところもあるわ」
その伝説の存在と連続でしかも大量に出会ってる俺って何だろうね?
伝説のバーゲンセール大安売りですけど。
「まさかタケル君も精霊ってことは…?」
- 違いますよ、僕は人間ですって。勇者ってことになってますけど。
「ああそうか勇者か」
「勇者って一体…」
- まぁ、あまり僕もよくわかっていないので、気にしても仕方ないですよ。わからないことだらけですから。
「なるほど、勇者の資質というわけか」
「性格的に勇者向きとか?」
もう好き勝手言っててください、という気持ちで返事はせずにリンちゃんが駆けてくるほうを見た。
「タケルさま、終わりました」
そうかそうかよしよし。
- これからどうします?
「それなんだが、ここまで全く『レッドハウンド』の痕跡が見つからなかったのが気になっているんだ」
- そうですね、なんとなく見当はついていたりしますけど。
「え?、そうなのかい?」
- はい、ただし人間かどうかの判断がつかないので後回しにしていたんです。
「どういうこと?」
- 僕はまだ魔力感知が未熟なので、同じぐらいのサイズだと、弱い魔物なのか人間なのかの区別がつかないんです。明らかに手が多いとか、足が多いとか、人間のかたちをしていないならわかるんですが…。
「ふむ、それで?」
- お渡しした地図、2層の入り口から神殿に向かって左手の端のところに、瓦礫によってうまく囲まれた部分がありますよね。
「ん、ちょっと待って……、ああ、ここかい?」
- そうです。そこに10体ほど居るんです。でもあまり動きがない。
「死んでる、ってことはないんだね?」
- 魔力を感知できるってことは、少なくとも生きてはいます。
「そうか、なら考えるまでもない。そこに向かうってことでいいかな?」
- はい。
「皆もいいか?」
「いやそのまえにさ」
「ん?」
「おなかすかない?」
そういえば腹減ったな。
●○●○●○●
例の如く干し肉と野菜のシチューと、肉野菜炒めと固いパンで食事をし、食後にお茶をのみ、片付けてその集落?、の方へ出発した。
また同じようにヘビやトカゲを狩り、いや、同じようじゃなかった。頻度が減って集落に着くまで1度しかヘビは来なかった。トカゲはちらほら来たが。
「そろそろ見えるか?」
- そうですね、どうやら人間っぽいです。入り口の狭いところに2人いますね。
「一応警戒しながら近づこうか。クラッド。エッダは罠を警戒」
「あいよ」
「はぁい」
クラッドさんとエッダさんが並んで先頭に立ち、その後ろにサイモンさん、プラムさんと続き、俺とリンちゃんがついていく。
「何者か?」
誰何の声がした。でもあまり大声ではないし心なしか力がない。
「『鷹の爪』のサイモン他5名だ!、そちらは『レッドハウンド』、『月の狩人』で間違いないか!?」
「間違いない!、助けに来てくれたのか!、ありがたい!!」
お、元気がでたようで何よりだ。生き残っていたか。よかった。
2人が姿を見せた。武器を収めて手を振っている。
「来てくれ!、もし薬と食料があるなら分けてほしい!」
「もちろんだ、そのために来た」
「「ありがたい!」」
よかった。山賊というわけでもなさそうだし。
武器を収めてその狭い門?、のようなところから入っていく。クラッドさんは大楯を背中に収めず左手に持ったままだ。
「見たところあまり荷物もないようだが…?」
あっ、予め出しておけばよかった。まぁいいか。
- 怪我人はどちらです?
「ああ、こっちだ、かなり危険な状態なんだ」
- どう?
「大丈夫です、これぐらいならタケルさまでもなんとかなります」
- じゃ、重症のひとからリンちゃんお願い。
「はいタケルさま」
覆われていた布や包帯を解き、傷口をみるとどうやらトカゲにやられたんだろう、噛まれた傷や、骨折などがみえる。トカゲが毒もってなくてよかった。
リンちゃんにお願いした方の人たちは、食いちぎられて欠損がある人たちだ。
どうにかなるって、どうするのかな、もうちぎれた腕や足は使い物にならないだろうし。
それはあとで考えるとして、今は目の前の怪我を治して行こう。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
- いえいえ、亡くなった方は残念ですが、生き残っておられてよかったです。
「本当になんとお礼をすればいいのか…」
- 謝礼については後ほど。あ、サイモンさん、
と言って元怪我人のひとたちの前から離れた。
呼ばれたサイモンさんが少しこちらに向かってくる。小声で相談だ。
- で、どうでした?
「どうやらトカゲの肉で食いつないでいたらしい。水はそこに少しだけ湧水があるようだが、もうぎりぎりだったらしい」
- そうですね、この人数では。ところで12人居たようですが、確か10名だったはずでは?
「2名はその前の生き残りらしい。よく生き残っていたものだよ」
- なるほど。で、食事を出さないわけには行かないでしょうね。でも栄養状態からすると…、シチューですかね。
「それはそうなんだが、使ってるところを見せるわけには行かないのだろう?」
- そこはまぁ、なんとかします、土魔法なら家を建てたりするわけじゃないなら、見せても構いませんし。どうせ帰りにも石の弾丸飛ばすわけですから。で、みなさんの背嚢に非常用として分けてある分を使ってしまおうと思っているんですが、構いませんか?
「ああ、構わない。だがそのあとはどうするんだい?」
- 調査としてはここで一旦中断して、皆を引率して帰ったほうがいいかなって思っています。なので、ここに来るまで分断するような罠などもなかったわけですし、背嚢の中身が減って小さくなっている方が分かりやすくていいかなと。
「なるほど。それもそうか。ならその方針で行こうか」
- はい。一旦戻りましょう。どうやら2層が最下層じゃないようなので、調査するならギルド長とも相談したほうがいいでしょうし。
「そうだな。しかし2層でこれなら3層が思いやられるな」
そう。全2層という話だったが、2層の地図を作ってみるとどうやら3層があるようなのだ。
- うーん、それもそうですが、持ち帰る魔物の残骸とか、すごい量なんですけど。
「ああ、それはもう倉庫か何か広い場所を借りて、あとは応援を頼むしかないだろう」
- 量が量なので、おそらく騒ぎになると思いますよ?、どうやって持って帰ったんだ、って。なので古代遺跡ってことで転送のアーティファクトを見つけたのでそれを利用した、とでもごまかそうと思っています。実際石板がありますので。
「なるほど、そのへんはギルド長と相談してやってくれるかい?」
と、サイモンさんは苦笑いをしていた。
●○●○●○●
味が薄くて微妙なスープをたくさん、土魔法で作った土鍋のお化けみたいなやつで作り、器も土魔法でつくり、ついでにスプーンまで作った。
色が黄土色と茶色で微妙だが、役には立つので文句も出なかった。
味についても文句など出るはずも無く、俺とリンちゃんそして『鷹の爪』の4人は神殿前のところで食べたので、給仕や配膳に専念した。
「久々の…」とか、「こんな美味いスープは…」とか、「はぁ…、生き返る…」とか、作った身としてはとても嬉しくなるような呟きを、一部のひとたちは涙すら流して食べ、おかわりをし、かなり大量に作ったがきれいに無くなるほどだった。
でもこれ味薄いし具は少なめだし、風魔法で圧力釜みたいなことを試してみたらできたので、加減が適当だから干し肉すらとろとろのぐずぐずで、サービスで芋入れておいたんだけど、溶けて形が無くなっちゃったし、パンは固いパンだから、スープに浸けて食べるのはいいけど味が薄いせいでなんかほんと微妙なんだよね、これ。
そんな、申し訳ないと思うようなのを、ありがたいとか生き返るとか言われて涙まで流されちゃったらさぁ、申し訳なさがさらに倍増するんだよ。
だってさ、どうせなら味見しても美味しいようなものを作って、振舞ってあげたいじゃん?
それでも笑顔を絶やさずに給仕や配膳をするんだよ?、『鷹の爪』の人たちスゲーわ。マジ尊敬したわ。
知らなかったよ、炊き出しってのがこんなに奥が深いものだったなんて…。





