5ー033 ~ テンちゃんのいた島
軽めの昼食後、川小屋の裏手にある河原へ行くとリンちゃんとテンちゃんも付いてきた。
リンちゃんは川魚の回収に来たらしい。
俺はまた模擬戦に誘われるのがイヤで逃げてきたんだけどね。
生け簀は前に俺が拡張して3つになってるままだけど、取水口のところ、その先にさらに石が積まれていて魚が入り込みやすいようになっていた。
- あれって誰が?
「え?、タケルさまがされたんじゃないんですか?」
- 石積みはしてなかったから、誰がしたのかなって。
「さあ…?、気付いたらこうなってましたよ?」
リンちゃんは小首を傾げてから、手網で魚を容器に移してはポケットに収納する。
いつ来ても結構な量の川魚が生け簀に貯まっているんだそうだ。
へー、と不思議に思って見ると、水路から生け簀に差し掛かるところに草で編んだ暖簾のような仕切りと、水路部分がやや影になるようにわさわさとした草の柵が設えられていた。
これで魚が入りやすくなっているんだろうか…?
- これも…?
「タケルさまがされたのではないんですか?」
- うん。
「じゃあ誰かがしたのでしょうね。時々ここから魚を持って行く者がいるようですから」
- へー…。
そう言えば前に川小屋を監視してた連中が生け簀から魚獲って焼いて食べてたっけ。
そのひとたちはもう居ないみたいだけど、それ以外にも居るんだろう。
「シオリさんから許可をもらってるみたいですよ」
- あ、そうなんだ。
だったらまぁリンちゃんが困らない程度なら持ってっていいと思う。
「お待たせしました。それでどちらへ?」
- え?、あー、どうしようかな。
ただ逃げてきただけ、とも言いづらい。
「なら、久しぶりに吾の隠れ家にでも行くのじゃ」
という事で、テンちゃんの家…?、に行く事になった。
『隠れ家』なんて洒落た言い方をしていたけど、ここの地下部分にはテンちゃんが隔離されていた場所に繋がる扉がある。アリシアさんから外出許可が出て無かったし、『ひかりのたま』という魔道具の試作品で外を眺めるぐらいしかする事が無かったらしく、ほとんど眠ってたようだけどね。
そこにはリンちゃんが入れないので、屋上の大樹のところでだらだら過ごしただけだ。 そのリンちゃんが一緒だから、ソファーやらテーブルやら飲み物やらお茶菓子やら、困る事がない。
テンちゃんは途中少しだけ地下の様子を見てくると言って降りて行ったけど、1時間と経たずに戻ってきて俺の隣に寄り添い、俺と同じようにだらだら無為に…じゃなくて優雅な時間を過ごした。
この場所、思い出したように風でざざーっと葉擦れの音がして、あとは遠くの波の音ぐらい、いい感じに日光も遮られていて実に過ごしやすい、いいところだからね。ぐでーっとソファーに凭れて目を閉じ、そんな音を聞いてたら自然に居眠りになる。
午前中のあの模擬戦は、不慣れな魔力操作と緊張もあって心身ともにかなり疲れたから、こういう風に休めるのは正直ありがたかった。
1時間半ぐらい眠ったようで、目を開けると左右からリンちゃんとテンちゃんが優しい笑みで俺の顔を覗き込んでいた。前にもこんなのあった気がする。
「もう起きたのか?、まだ眠っておっても良いのじゃぞ?」
「どうぞ」
もぞもぞと身体を起こした俺に、リンちゃんが果実水を入れて手渡してくれた。
居眠り前に置いてあったお茶は片付けられていたようで、テーブルに無かったからね。
- あ、ありがと。
「ふふ、気持ち良さそうに眠っておったのじゃ」
「お疲れだったのでしょう」
- ああうん、不慣れだからね。あまり慣れたくは無いやり方だけど。
寝起きだけどまだ身体が怠い。
回復魔法を使ってたはずだけど、やっぱり身体への負担は大きかったみたいだ。
鍛えなくちゃだめかなぁ、気は進まないんだけど。
「あの加工操作がですか?」
「模擬戦の方なのじゃ」
「え?、固定や阻害をしなかったのですか?」
- 禁止って言われちゃってね。剣を使ってちゃんとした模擬戦をしたんだ。
「そうですか…」
「其方は優しすぎるのじゃ。それはそうとサクラの時はどうやったのじゃ?」
- あれは…、まぁ同調していろいろ試してみたら、ああなっちゃったわけで…。
「やはりか…」
「それをされると我々精霊でも気を失い兼ねませんね」
「うむ、それに近い事なら吾にもできるが…」
「やめて下さいね?、それで大災害になったんですから」
リンちゃんはまだ生まれてない頃の話だと思うけど、ストッパー役でもあるからか、テンちゃんの情報が制限解除されてるんだろうね。
そう考えると過去にテンちゃんがやらかした事を、いっぱい知ってても不思議じゃないね。
「あ、あの時はその、向こうも悪いのじゃ…」
「その相手は消滅してますからね?」
「う…」
そりゃとんでもないな。
近いって、俺の方法だとそんな大災害になるとは思えないんだけど、詳しく聞くのが怖いので話を変えよう。
- あ、クリスさんの態度だけど、前にふたりとも困ってなかった?
クリスさんってテンちゃんとリンちゃんへの態度がものっそい丁寧なんだよね。
その時、ふたりはそれぞれ別のタイミングではあるけど同じようにむず痒いような表情を一瞬していたのが気になったので、話題を変えるのにちょうどいいし、尋ねてみた。
「別に困ってはおらぬのじゃ」
「ええ。困ってはいませんが…」
と言って顔を見合わせるふたり。
何か言いにくい事かな?
- だったらいいんだけどね。
「いえ、あそこまでとは言いませんが…」
と、ちらっと俺を見てからテンちゃんに同意を求めるリンちゃん。
「いや、ああいう扱いには悪い気はせぬが、タケル様はそのままで良いのじゃ」
それには姉らしい態度で否定したテンちゃん。
「あ、そうですね、お姉さま」
そしてふたりで頷き合い、俺を見てにこっと微笑んだ。
うん、可愛いけどさ、結局どういうことなのか俺にはよく分からなかった。
そのあとは、リンちゃんが『あ、そう言えば』と思い出したように話し始め、ベルクザン王国のおヒーさんの離宮に単身赴任させている黒鎧の近況を聞いた。
- え?、黒鎧5体?
ハニワ戦隊クロレンジャーかw
あ、顔は兜で隠れてるしハニワじゃなかったっけ。それにクロレンジャーってのもいまいちだから無しだな。
だいたい全員黒の戦隊モノなんて誰が見るんだよ。誰がリーダーか区別つかねーじゃん。
いやそんな事はどうでもいい。
「はい、何でも1体ではオーバーワーク状態になっていたようで、身体の傷みが徐々に目立つようになってきたから何とかして欲しいと――」
そんなに仕事させられてんの?
そりゃ確かにハニワ兵は便利だけど、いくら何でも便利に使いすぎじゃね?
とにかくだ、それでこっそり連絡を取ってきたんだとさ。ハニワ兵改めその黒鎧が。
このままではマズい、と…。うーん…。
こっそりというのは真夜中過ぎで、中継した母艦エスキュリオスから連絡を受けたリンちゃんは、転移魔法で現地に飛び、そこで黒鎧から事情を詳しく聴取――筆記によるものらしい。高性能だなぁ…――、リンちゃんが分けて持っているハニワ兵コアで追加の4体を作成、元のは修繕した、と。
修繕には例の、テンちゃん由来の優秀素材『灰色の砂』を使ったんだそうだ。
というか俺の魔力で作られてるのでそれを使うしか修繕方法が無いらしい。便利な素材だなぁ…。
- 言ってくれれば作り直しや魔力補給ぐらいしたのに…。
「タケルさまのお手を煩わせる程の事ではありませんから」
- そう…?
リンちゃんをじっと見ると目を逸らされた。
- リンちゃん?
「だって、タケルさまに言ったら現地に行くって言い出しそうで…」
なるほど。
まぁ手間を省いてくれたって事にしとこう。可愛かったので許す。
なお、魔力チャージは一応小型の専用チャージャーでできるそうだ。
これまでも離宮の倉庫を改造した基地にあるそのチャージャーで補給してたらしいからね。効率は微妙で相応に時間がかかるらしいけど。
基地って何だよ、って思ったけど、見かけは元の倉庫のままっぽいし、意味は通じたので聞き流した。
- ところで、エスキュリオスって里に帰ってたんじゃなかったの?
「あたしやモモさんが不在の時に、ミドリさんたちから連絡ができないのは不便だって、タケル様が仰ったんじゃないですか…」
そんな風には言って無かった気もするんだけど、言ったのかなぁ…?、まぁいいか。
- それでまた母艦呼んじゃったの?
「他にすぐ取れる手段はありませんし、タケルさまの事ですからどうせまた何かありそうな予感もありましたので」
どうせ、て…。
まぁ、気持ちはわからんでもない。
- そう…。黒鎧、4体も増やして大丈夫なの?
と、1体増やすだけで良かったんじゃないの?、という意味で尋ねると『遠方への派遣要請があったから』、だそうだ。
つまり離宮の警備を交代制にして負担を軽減し、派遣も1体と予備があったほうがいいので計5体、と。
- あー、そう言えばカエデさんが言ってたもう片方のほう?、ハルトさんが向かってるっていう。
何だっけ、洞窟がどうので厄介な魔物が出るとか言ってたっけね。
「はい、それで間違いないと思います。そちらに2体行くようですよ?」
- え?、2体行っちゃっていいの?、ハルトさんびっくりしないかな…。
「もちろん表向きは1体ですよ、あれを最高戦力だと思ってるんですから、そうぽんぽん増えては増長し兼ねません」
それをぽんぽん増やしたのはどこの誰だと言いたい。
- んじゃ1体だけ同行して?、もう1体は?
「エスキュリオスから飛行機械で運ぶみたいです」
こっそり付いて行くのかと思ったらとんでもなかった。
- いやそれ大丈夫なの?
バレたらえらい騒ぎになりそうだ。
「大丈夫です。派遣する黒鎧は新しく作ったものですから、隠蔽用魔道具を装備させてますので」
隠密か。
あ!、前にリンちゃんがミリィの時にテストしてたあの光学迷彩装置か!
ステルス装備とか、これで赤外線センサーでも装備してたらどこぞの戦闘宇宙人じゃん。何てものを着けるんだよ…。って、考えてみりゃハニワ兵って元々目で物を見てるわけじゃなかった。魔力で見てるんだった。赤外線とか関係ない。
- あれって魔力感知でわかるんじゃなかったっけ?
「あれを感知できるのは我々精霊を除けばタケルさまとネリさんとメルさんぐらいですよ?」
- ネリさんとメルさんも?
「お忘れですか?、ほら、この島のダンジョンにあった転移機械に調査隊が派遣されて来たときに、飛行機械の隠蔽を感じ取っていたじゃないですか」
- あー、そう言えば…。
「あの時より感知力も上がっているでしょうね」
- なるほど…。
ちなみにその調査隊はもうとっくに作業を終えて撤収済みだそうだ。
転移機械だけじゃなく生物関係の調査もしてたみたいだけどね。
それでダンジョン内は俺がやってたのとは少し方法は異なるらしいけど、きっちり崩して埋め、処理済みですとリンちゃんが得意げに言っていた。
話を戻すと、ハルトさんにはまだバレないって事だ。
他のひとたちにも感知できるひとは居ない、と。
ん?、現地に達人級のひとがいたらバレそうだけど、居ないのかな。
「そう心配する事も無いのじゃ。もしバレても大丈夫なのじゃ」
「はい、問題ありそうなら1体だけ回収すればいいだけですよ」
それもそうか。
- んじゃ飛行機械は現地上空に?
「はい、そうなります」
- 何か精霊さんの仕事増やしてるけど、いいの?
「黒鎧関係は我々由来のものでしたので…」
あー、そう言えばそうか。
後始末の一環、か。
何かそんなのばっかしだな。
●○●○●○●
夕食の時間前に川小屋に戻った。ちょうど準備を終えて集まるところだった。
サクラさんがひとりで準備したと聞いて、次からは手伝いますと言っておいた。
「配膳は手伝ってくれるのですが…」
と、サクラさんが見るのに釣られてネリさんたちを見たけど、みんなすっと目を逸らすんだよなぁ…。
というかそんな凝った料理なんてしてないはずなんだよ。
ほぼリンちゃんが用意してある、魔法レンジでチンすればいいだけのものがほとんどで、たまにフライパンで焼くとか、鍋に入れてちょっと煮るだけのものだ。
サクラさんもめったにコンロは使いませんって言ってた。
だったらネリさんなら手伝ってもおかしく無さそうなんだけどなぁ…。
と、食事中にちらっと見たら目が合った。
「タケルさんどこ行ってたんですかぁ?」
ああ、それを訊きたかったから目が合ったのか。
- ちょっとテンちゃんが、自分の部屋に用があったみたいでね。
これは予めテンちゃんと用意した言い訳のようなものだ。
「テン様の部屋って、あ、あの島のですか」
「うむ」
ネリさんだけじゃなく、皆がテンちゃんを見て、鷹揚に頷いたので手を止めていた食事を再開していた。
「あの島とは?」
「ああ、カズは知らないか。ここの海岸から西へ5kmほどのところに島があるんだ」
「そうなのですね」
「その島をどうするのか、って今日の会議で話が出たわ」
シオリさんが食べる手を置いて話に参加した。
「え?、予定の議題にありました?」
「ううん、周囲の警戒をいつまですればいいのかって、ほら、もう魔物が出てこなくなって結構経つでしょ?」
「なるほど、そうですね…」
と、揃ってこっちを見た。
- あ、もうダンジョンもありませんし、島にいるのは小型の魔物が数匹程度でしたよ。
今日行ってきたからね。
いつものように索敵魔法を使うぐらいはするさ。
「それはいいのだけど、その、島の開発をしてもいいのかしら…?」
「構わないのじゃ」
「という事ですので、結界の外なら問題ありませんよ」
テンちゃんの部屋に繋がる地下と、その上物である遺跡部分は結界によって外から隔離されている。
俺はまぁ同調してぬるっと抜けられるから問題無いんだけども、普通は結界を解除しないと出入りはできない、らしい。
「そうですか、ありがとうございます」
「しかし姉さん、」
「そうね、いくら結界があるからといって精霊様の遺跡の島を開発するというのは…」
- テンちゃん、あの結界って触れたら反撃されるとかじゃないよね?
「そのような攻撃的なものでは無いのじゃ。至って普通の結界のはずなのじゃ」
知ってたけど、一応確認というか、シオリさんたちに聞かせるつもりの質問だ。
- なら別に上陸して作業してもいいと思いますよ?
「でも、万が一遺跡に何かあったらと思うと…」
「問題無いのじゃ」
「大丈夫ですよ。我々精霊の意見として考えて下さって結構です」
「うむ。遺跡部分については朽ちるに任せよという事なのじゃ」
「お姉さま、それではわかりにくいですよ」
- あー、えっと、結界の外を開発した影響で、中の遺跡が崩れても気にしないって事ですよ。それに中で崩れても結界の外に影響は出ないんだよね?
「そんなにやわでは無いのじゃ」
「お姉さま、結界は、が抜けてますよ」
「うむ、仮にあの島が崩れようとも結界の内側は残るのじゃ」
シオリさんたちの微妙な表情…。
そりゃ開発するってったって島ごと崩そうとはしないだろう。
「喩えが悪いですよお姉さま…」
「む、ではどう言えば良いのじゃ」
- まぁまぁ、島に残ってる魔物はその程度ですし、普通に兵士さんたちでも処理できるでしょう。結界は強固なのでそうそう壊れるものでも無いですよ。
「あ、あのね、そうじゃないのよ」
「うんうん、あたしとサクラさんは中を見てきたから、遺跡があったって報告したけど、普通は中が見えないの」
あー…。
「そうなのよ、それでね、精霊様の結界が聳え立っているような島に何か建てたり、気軽に上陸すること自体が畏れ多いって思ってるのよ」
そういう意味か。
- でも魔物をほっとくと増えたり出て来たりしませんか?
「そう、それでね、残ってる魔物がいるのか、居たら対処した方がいいんじゃないか、でも上陸していいのか、って程度の話なのよ」
なるほど。
「あ、それでハムラーデル側で兵を出すのか、ティルラ側で出すのか、ロスタニアから出すのかって話だったんですね」
「ええ。勇者側でなんとかできませんか、とも言われたのだけど」
そうだったのか。
だったら今日寄ったときに一掃しておけば良かったな。
- 何でしたら明日にでもちょっと行ってさっと処理してきましょうか?
「そりゃタケルさんがやっちゃえば早いんだけど、そうじゃなくて、どこの手柄にするのか、いてっ」
「手柄じゃなくこの場合は担当と言うべきだな」
「そうなのよ、それで畏れ多いからどこも担当になりたくなくてね」
- それで勇者側でなんとかできませんか、って話なら、
「待って、タケルさんは今はホーラード所属なのよ」
あー、ここでそれが絡んでくるのか…。
- そういう話なんですか。
「そうなの。だから島に上陸して対処するとしたら私かサクラかネリか、カエデに頼むことになるの。私はロスタニアだからあの島の事については一歩引く立場なのだけども」
「あ、ずるい、いてっ」
「ずるくない。大亀が来ていた頃に魔物の対応をしていたのはティルラだったろう?」
「あれ?、メルさんもいたよ?」
「メル様はここには居ない事になっていたからな」
「あー…」
サクラさんとネリさんの話が落ち着いたのを薄く笑みを浮かべながら見て、シオリさんが続ける。
「それでね?、あの島の位置を考えるとね、精霊様の御柱、結界の事なのだけど、それって北側にあるでしょ?、上陸する側は南側で、ティルラだけで今まで対処してきたのだからハムラーデルも担当すべきじゃないかって意見があってね」
「あ、それであたしが同席してたんですね」
なるほど、それでカエデさんを連れて行ったのか。
「行く途中で説明したじゃないの」
「そうでしたっけ?、タケルさんたちが島の遺跡でテン様と出会ったって話は覚えてますけど…」
「その後よ?、大事なのは」
「すみません」
「もう、いいわ、とにかくね?、このバルカル合同開拓地でハムラーデルの担当地域が一番広いでしょ?、南西の樹海にも接してるし、文官たちはこれ以上担当を広げたくないのよ」
「あ、それで安請け合いしちゃダメって」
「そういう事。文官たちは武官や勇者が同席していると何故か強く出る傾向にあってね、だから今回サクラを同席させなかったのよ」
「そうだったんですね。でも姉さん、それなら私が出席してうちでやりますよって言えば良かったんじゃないですか?」
「それはそれでティルラの文官たちの立場が無いでしょ?」
「なるほど…」
あ、やっとわかってきたぞ。
シオリさんはとりあえず交渉の序段として、『開発してもいいか』と大きくして尋ねたわけだ。この段階では断られても上陸許可が出ればいいので、開発計画があったわけでも本当に開発したいと思っているわけでも無い。
ところが精霊さん側から開発許可があっさり出てしまった。
そうすると、開発計画も無いのに開発許可を取り付けたのかという事になってしまうし、もしリンちゃんなりテンちゃんから後で『開発はいつするのか?』と問われると返答に困る事になり兼ねない。
なので、精霊さんの結界柱があるような島を開発するのは畏れ多い、とか、何か影響が生じたら責任問題になるというような腰の引けた言い方になってたのか。
文官たちも、そんな島を担当したくないから、擦り付け合いみたいな事になっていて、それで自国の勇者が軽く引き受けてしまうと、島の担当になってしまうのが困る、と。
かと言って俺はホーラード所属で、俺がやってしまうのもそれはそれで困る、と。
ややこしいな!
というかめんどくさい話だなぁ、これ。
「それでね、今日明日じゃなくていいのだけど、ちょうどカエデも居ることだし、3国から勇者を出しましたって形にしたいのよ」
「どこの国でも無い、としておきたいんですね」
「そういう事なのよ」
「じゃあネリ、頼んだぞ」
「えー、めんどくさいてっ」
「ちゃんと理由があるんだ、ハムラーデルからはカエデが行くなら、私が行くわけにはいかんだろう」
「あー、釣り合いってやつぅ?」
「わかってるじゃないか」
「はぁい…」
なるほどなぁ…。
「それで、カズは大丈夫そう?」
「タケルさん、小型しか居ないんでしたね?、サルですか?」
- あっはい、たぶんそうかと。
「なら、カエデとネリがついてますし大丈夫でしょう」
「じゃあカズ、よろしくね」
「はい、微力を尽くします」
びしっと右手を胸に添えてシオリさんに応えるところはさすが体育会系だ。
「気合入れてるとこ悪いけど、いてっ、もー、サクラさぁん」
「何を言うつもりか知らんが、どうせ余計な事だろう?」
「ちぇー…」
うん、今のは俺にもわかった。
だって得意げに何か言いそうだったもんなぁ。
そうか、ネリさんのほうが先輩だから、カズさんも強く出れないのか。
そう言えば初めて会ったときって、ネリさんは先輩風を吹かそうみたいな言動だったっけ。
仮定の話にあまり意味は無いけど、もしリンちゃんと遭わずに魔法も使えないままネリさんと会ってたら…、やっぱやめとこう。悪い想像しか出てこないからね。
次話5-034は2023年05月12日(金)の予定です。
(都合により延期しました。)
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
今回も入浴シーン無し。
よく登場とは一体‥、
あ、入れる予定だったんです。ほんとです。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
午後ずっと一緒だったので機嫌がいい。
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンの姉。年の差がものっそい。
ちょっと様子を見に戻っただけ。
もちろん変わりなんて無かった。
ファーさん:
ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。
風の精霊。
有能でポンコツという稀有な素材。
風の精霊の里では高位の存在なんですよ、これでも。
尊敬の対象なんですよ、これでも。
しばらく出番がありませんが一応。
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
タケルの首飾りに分体が宿っている。
今回出番無し。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
今回名前だけの登場。
そんなんばっかしですね。
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号10番。シノハラ=カエデ。
勇者歴30年だが、気持ちが若い。
でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。
シオリに連れて行かれた理由が判明。
ちょっとおとぼけキャラなのは相変わらず。
ジローさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号3番。イノグチ=ジロウ。
ハムラーデル王国所属。
砂漠の塔に派遣されて長い。
2章でちらっと2度ほど名前があがり、
次に名前が出てくるのが4章030話でした。
ヤンキーらしいw
今回出番無し。
なかなか登場までいかないですね。
クリスさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号5番。クリス=スミノフ。
現存する勇者たちの中で、4番目に古参。
『嵐の剣』という物騒な剣の持ち主。
カエデたちには砕けた口調になります。
シオリのほうがやや先輩です。
実は剣の腕だけで言えばメルより強いのです。
剣の腕は勇者最強です。
タケルに負けるのは魔力が絡むからですね。
午後の鍛錬では指導する立場で面目躍如でした。
島の話はよく知らないので大人しく聞いていました。
ロミさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。
現存する勇者たちの中で、3番目に古参。
現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。
クリスとはこの世界に転移してきた時に少し話した程度だが、
互いに気にかける程度の仲間意識はある。
今回出番無し。
シオリさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号7番。クリバヤシ=シオリ。
現存する勇者たちの中で、2番目に古参。
『裁きの杖』という物騒な杖の使い手。
現在はロスタニア所属。
勇者姫シリーズと言えばこのひと。カエデは大ファン。
なのでカエデにはまだ少し苦手意識があります。
交渉の手段をミスってますね。
相手が相手なので仕方ないのですが。
サクラさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号1番。トオヤマ=サクラ。
ティルラ王国所属。
勇者としての先輩であるシオリに、
いろいろ教わったので、一種の師弟関係にある。
全力を出してもタケルにあしらわれたのがショックでした。
剣が直ってちゃんと刀らしいものになったのでご機嫌です。
午後の鍛錬ではクリスにあしらわれていたりします。
達人級との差は大きいのです。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号12番。ネリマ=ベッカー=ヘレン。
ティルラ王国所属。
サクラと同様。
魔力操作・魔力感知について、勇者の中では
タケルを除けば一番よくできる。
結界の足場を使った戦闘がメルに遠く及ばないのは、
メルが達人級の剣士であることと、
そもそも身体能力や身体強化はメルのほうが圧倒的に上だから。
このひとも相変わらずですね。
カズさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号6番。サワダ=ヨシカズ。
ロスタニア所属らしい。今の所。
体育会系(笑)。性格は真面目。
シオリやサクラの、タケルに対する態度をみると、
まだ少し迷いがあります。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。





