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5ー011 ~ ホーラードの王族と

 言われたように翌日の午後に、軽く昼食を摂ってからメルさんのところに行った。


 もちろんリンちゃんに転移魔法で連れてってもらったんだけど、予想通りテンちゃんも一緒の3名でだ。


 「何じゃその目は、早く(われ)の袋を貸すのじゃ」


 俺の右肘を掴んで離さないテンちゃんが、それをじっと見るリンちゃんに催促をしてたよ。

 はぁと小さく息を吐いて、無言でエプロンのポケットから例のでかい袋を取り出し、いそいそとテンちゃんを包んでからの転移だったけど。


 で、到着したメルさんの寝室。


 何かの香油だろうか、ふわっといい香りがする。

 それとお茶の香りがちょっとしているのは、テーブルとワゴンに用意されていたお茶のものだろう。ここで待ってたんだろうね、メルさんたちが。


 そのメルさんたちは、メルさんとその両側に男性と女性が例の宗教的姿勢で(ひざまづ)いていて、その後ろには数人の同じ服装の女官さんたちだろう、それが同じ姿勢で並んでいた。


- あ、えっと、立って下さい。こんにちわ、お邪魔します。


 こっちがお世話になる立場なのに、いきなりそんな姿勢で頭を下げられていたら恐縮するじゃないか。しかもあっちは王族だよ…。


 「ふふ、お久しぶりです、そう仰ると思ってました」


 笑顔で言いながら立ち上がるメルさん。

 思ってたならやめて欲しかった。


 「元気そうで何よりなのじゃ」


 梱包を解かれたテンちゃんが俺の右肘に軽く手を添えて言う。


 「お姉さま、今回は私たちはタケルさまのオマケですからね?」

 「む、わかったのじゃ」


 左側で同じように並んだリンちゃんが言い、テンちゃんが答えた。まぁいつものやりとりだね。


 それにしてもオマケてw

 そこは付き人とか言うもんじゃないのかな…。

 メルさんも苦笑いしてるし。


 そのメルさんの服装だけど、お姫様らしいというか、見慣れない姿なので何だか妙な感じだ。

 いやまぁ見慣れた姿ってのが革の胸当てとか安物のチュニックとズボン(普段着)だし、そんなのをこの王城で着ているわけがないんだからこっちが普通なんだろうけども。


 そしてメルさんの両側で、優雅に立ち上がった男性と女性は、髪と目の色がメルさんとほぼ同じで、男性のほうはお兄さんかな?、女性のほうはお姉さん?、と、あまりじろじろ見るのは失礼なので魔力感知で見た感じではあるけど、一応メルさんにわかるように視線を動かして紹介を促した。


 「タケル様、非公式ですので簡単にご紹介致します。こちらが私の母、ルティオネラです」

 「初めまして、勇者タケル様。メルがかなりお世話になったそうで、感謝申し上げます」


- あっはい、恐縮です。


 お姉さんかと思ったらお母さんだった。つまりこの国の王妃様じゃないか。

 めっちゃ若い、そして綺麗だ。スタイルいいし、成人済みのお子さんたちが居るひとには見えない。服装も肌の露出が少なくて上品だ。すごいな。


 「ふふ、そしてこちらは兄、ウィラードです」

 「初めまして、勇者タケル様。お噂は予予(かねがね)耳にしております。この度は我が国にご所属頂けた事、心より喜びと感謝を申し上げます」


- ありがとうございます。


 って答えたけどいいのかな、これで。こういう堅苦しい挨拶ってどう返事すりゃいいのかいまいちわからん。


 そのウィラードさんは年の離れたお兄さんという感じで、まぁ王子様ってやつだ。

 見るからに上品でかっこいい服装だ。もうちょっと華美にすれば少女漫画に出てそうな雰囲気。


 何せいままで王城に来た事って、ああ、ロミさん()がそうだけど、あそこは王城っていう雰囲気が無かったというか、最初に降り立って中に入ったときはローマ時代の神殿とか石造りの美術館か何かみたいな印象だったけどね。言っちゃ何だけど、形がお城っぽくないからね、あそこは見た目がさ。


 って、ここもまだ外から見てないのでそこは何とも言えないか。

 それにこの部屋って、メルさんの寝室だからか、窓はあるけど分厚いカーテンで遮られてるし、天蓋付きのでっかいベッドと、ちょっとした祭壇と、テーブルと椅子ぐらいしか調度品が無い。ってことも無いのか、布飾りのようなのが壁に施されているようだ。


 あ、祭壇のところに飾り付けられた小さなウィノア像と、エフェクト多めのウィノアさんの絵がかけられてる。すごいな、ウィノアさんってすぐわかる。絵なんてさっぱりな俺が見てもよく描けてるって思える。プロの作品か?


 「ではお待ちしている者たちが()りますので、付いてきて頂けますか?」


 と言うメルさんに頷いて、ぞろぞろと付いて行く。


 リンちゃんたちの事を尋ねられなかったのは、メルさんから(あらかじ)め聞いていたんだろう。






 広い廊下を少し歩き、階段をひとつ降りてまた少し歩く。

 ここは感知によるとお城の一番奥、重要区画っぽい。まぁ王族の居住区みたいなもんだろうね。

 その区画と、雰囲気の異なる他の人たちが多い区画の境目に近いところにある広い部屋に通された。もちろん扉の前でメルさんたちの入室応答はあったよ。


 大きなソファーがあり、意匠の凝ったテーブルや椅子、調度品が並ぶ上品なサロンのような部屋だった。


 そのソファーの前に、たぶん王様だろう男性と、お姫様がふたり、小学生ぐらいの王子様がひとり、さらに壁際にはずらっと役人とか兵士っぽい人たちが並んでいて、全員跪いていた。

 正直勘弁して欲しい。


 もしかしたら俺に対してじゃなく、テン()ちゃん()リン()ちゃん()にだろうとは思うけど、今回はオマケって言ってたぐらいなんだから、別に跪いていなくても気分を害したりはしないと思う。


- あの、皆さん立ってください。


 こういう雰囲気、ほんと困る。


 「タケル様、そちらが父です、左側が姉で、右側が妹と、弟です」


 うん、さすがメルさん。俺が困ってるのを察して簡単に紹介してくれた。

 そのおかげか、ふっと表情を緩めて父のひとが立ち上がるのに少し遅れ、お子さんたちも立ち上がった。


- 初めまして、タケルです。皆さんよろしくお願いします。


 俺がそう言って軽くお辞儀をすると、柔らかく微笑んでいる王様が応えた。


 「ソーレスと言います。こちらはストラーデ」


 半歩進んで小さくスカートを摘まんでにこっと笑顔で頭の位置を下げ、また元の位置に下がった。

 なぜか腕まくりをしている王女様。よく見るとエプロンっぽい前掛けのようにも見えるドレスのデザインだ。


 「こちらがリステティール」


 その子も同様にした。ちょっと装飾品が多めだろうか。きらきらしてる。

 3人の王女様のなかで、一番王女様っぽい感じ。いいか悪いかは別にして。


 「そちらがアイネリーノ」

 「あ、アイネリーノと申します。勇者さま」


 うわー可愛い。ちょっと恥ずかしそうなしぐさと声変わりしていない自信の無さそうな声がまた可愛い。保護欲をかき立てられるね。

 半歩の半分だけ出て、半歩戻って隣のリステティール王女に半分隠れてしまったのもポイント高いな。普段からこんなだときっと女官さんたちのほとんどは彼に心を奪われている事だろう。と、思う。


 「ではそちらにお掛け下さい。テン様とリン様もどうかお楽に」


 メルさんがそう言って案内というか手で示したところに従って座ると、いつものように両側にはテンちゃんとリンちゃんが座った。


 それを見てか、おそらく定位置というものがあるんだろう、王様と兄王子が一人用のソファーに座り、王妃様と妹王女が弟王子を挟んで座り、姉王女とメルさんが左手側のソファーに並んで座った。


 微かに残っている床の絨毯の跡からすると、今日のために俺たちの分のソファーが追加されたようで、普段とはテーブルとソファーの配置が少し違うんだろう。


 「早速で申し訳ありませんが、任命式は7日後に行う事に致しました。タケル様はそれで構いませんでしょうか?」


 お茶が運ばれてくる前に、兄王子、ウィラードさんが事務的に問いかけた。


- あっはい、大丈夫です。


 7日後か…、微妙なところだな。今は別に予定は無いけど、王都観光をするのには長いし、それまでどうしようか?、2・3日ぶらついて森の家に戻ってまた来るという手もあるかな…。

 などと考えていると、メルさんの方から提案された。


 「タケル様はあまり式典などに興味は無いとの事ですし、私と一緒に王都観光や、騎士団の訓練をしましょう」

 「メル、明後日から水の精霊様のお芝居が国立演劇場で始まるわよ?」


 水の精霊様のお芝居?、ウィノアさんの話だろうか。


 「え?、もうですか?」

 「そう、貴女が巫女になりかけたお話ね、ふふっ」


 あ、もしかして祭壇を譲渡しろとか教会に言われたあのウィノア像騒ぎの…。


 「つい先日脚本ができたと言っていたのでは?」

 「できた所から準備するものよ?、関係者の間ではなかなかに評判いいの。タケル様は演劇にはご興味ありませんこと?」


- え?、あ、いえ、特には…。


 急に振らないで欲しい。


 「それは残念です。事実を元にした創作で、王宮や教会のお話なのですよ。それに加えて水の精霊様が顕現されたお話ですので、それはもう本物には遠く及びませんが舞台にも工夫を凝らしまして、幻想的な仕上がりにはなったのです。自信作なのですよ?」


 ぐいぐい来るお姫様だな…。前のめりの姿勢で。


- こないだの、ウィノア像騒ぎの話ですよね…?


 「はい…」

 「あら、タケル様はご存じでしたの?」


- ええ、まぁ。


 また聞きだけどね、リンちゃんから聞いたよ。

 エフェクト過多だったらしいね。


 「それなら(なお)のこと、ご覧頂きたいですわ」


- んー…


 「スティ、そのくらいにしなさい」

 「はい、お兄様」


 はー、見かねたのか助けが入った。ありがとうお兄様。


 だってさ、俺が作ったウィノア像で起きた騒ぎだよ?、申し訳ない気持ちが先に立っちゃって楽しめないよ…。

 しかもウィノアさんがやらかしたわけで、騒ぎになってメルさんが困ってんのに精霊さんたちは放ったらかすつもりだったんだから、俺がそれ聞いて知ったときどれだけ申し訳ない気持ちになったか…。

 それで後始末の指示をしたら、エフェクト過多でこれまたえらい騒ぎになってたらしくて、もうね、申し訳ないやら呆れるやらでさー、そりゃ俺の指示が間違ってたんだろうとは思うけど、他の方法を思いつかなかったんだし、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど、何とも言えない気分なわけなんだよ。


 そんなのを元にした演劇?、作るほうもどうかとは思うけど、俺は見たく無いね。


 「それでは任命式についてのご説明を――」


 と、メルさんが改めて説明を始めた。


 と言っても式自体はそんなややこしいものではなく、謁見の間で王様が宣言して、服と宝剣を俺に下賜するってだけの内容のようだ。


 服は肩掛けのようなもの。特にいつも着用していなくちゃいけないわけでは無いらしい。

 宝剣も短剣サイズで、身分証のようなものになるんだと。

 特に魔法の剣というわけじゃなく、その柄の部分にホーラード王国の身分証のような魔法印がついているだけ。装飾も華美なものではなく、宝石が散りばめられているものでもない、結構あっさりしたものだった。

 実物を見せてもらったからね。


 で、それを見せてくれた役人さんがまた箱に大切にしまい、それでほとんどの役人さんと兵士さんたちがぞろぞろと部屋を出て行った。


 そしてお茶が淹れ直して配られ、女官さんたちも退室した。


 「スティが少々行き過ぎたが、タケル様、ご両名にご挨拶申し上げたいのです」


- はい。


 「改めまして精霊様方、」


 と言って椅子からするりと降り、宗教的姿勢で跪く王様。それに合わせて他全員が同じ姿勢をとった。メルさん以外ね。メルさんは聞いていなかったんだろう、ちょっと困ってるようだ。


 「ソーレス=ベルデウルム=アル=ホーラードと申します。娘、メルリアーヴェルには大変良くして頂いたとの事、心より感謝申し上げます」

 「席に着きなさい。私も姉も、貴方たちが崇める対象ではありません」

 「うむ、(われ)らはタケル様のオマケなのじゃ、何かを成しに来たわけでも、其方らに施しをしに来たわけでも無いのじゃ」

 「お姉さま…」


 そりゃリンちゃんだって呆れ顔になるよ…。


 「その、不躾なお願いではありますが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 言われたように席に戻って尋ねる王様に、リンちゃんが俺にちらっと視線を送る。

 俺としては頷くしか無いんだが。


 「光の精霊の長、アリシア=ルミノ#&%$が娘、リーノムルクシア=ルミノ#&%$です。タケル様にお仕えしています。お姉様」

 「うむ。同じくテーネブリシア=ルミノ#&%$じゃ。タケル様の伴侶なのじゃ」

 「お姉様!」

 「何じゃ、ダメなのか?、ちょっと言ってみたかったのじゃ」

 「伴侶なんて認められません!」

 「ならどう言えば良いというのじゃ」

 「私と同じようにお仕えしていますでいいじゃないですか!」

 「わかったのじゃ、それでいいのじゃ」


- あ、ちょっとちょっとふたりとも。


 止める間もなかったよ…。

 ほら皆さん呆気に取られてるじゃないか。


 「はい」

 「ん?」


- そのへんにしようね?


 「はい」

 「うむ」


 というかテンちゃんルミノなんとかって名乗ってたけどそれはいいのね…。


 「光の精霊様って前に見た水の精霊様みたいにもっとすごいのかと思ってたわ…」

 「テティ!」

 「あ…」

 「い、妹が失礼を致しました」

 「どうかご容赦を」

 「大変失礼致しました」


 急いで謝るメルさんたち。


 「それくらい、気にしないのじゃ」

 「それほど興味があるのでしたら、メルさんからいろいろとお話を聞くと良いでしょう」

 「え?」


 ほっと安心した表情も束の間、リンちゃんが意外な事を言うもんだから皆さん驚いたようだ。俺も驚いた。ちょっとだけ。


- リンちゃん、いいの?


 「タケルさまがいいと仰るなら、ですよ?」


- まぁメルさんのご家族だし、身内で話す程度ならいいと思うけど、あ、もしかして…


 「はい、ほぼタケルさまのご活躍に繋がる話ですね」


 そんなにっこり笑みを浮かべて言わないで欲しい。


 「ふむ、それもそうなのじゃ。メルよ、タケル様が困らぬ程度であれば話して聞かせても良いのじゃ」

 「はい、ありがとうございます、テン様」

 「うむ」


 困らぬ程度、って言ってくれてるし、それならまぁいいかな…。


 「何でしたら書籍を取り寄せましょうか?」

 「書籍があるのですか!?」


- リンちゃん?


 「当然あります。はい?」


- ラスヤータ大陸の話の本のこと?


 アンデッズとか出てくるけどそんなのこの人たちに読ませちゃっていいのかな…。


 「それもありますけど、それはもうメルさんは持ってますよ」


- え?


 さっとメルさんを見ると慌てたように言う。


 「あ、タケル様はご存じでは無かったのですか?」


- いあメルさんは魔物侵略地域の時にずっと一緒だったし、僕があっちに飛ばされて居なかった間の事は話したわけだし、だったら知られても別にいいけど…。


 「良かったです、内緒だったのかと…」


 ちょっと目を伏せて胸元に手を添えるメルさん。

 服装が服装なだけに、そうしてると本当にお姫様みたいだ。本当にお姫様なんだけど。


- それでリンちゃん?、それもありますけどって?


 「ハムラーデル国境での事も、アリースオムでの事も、もう書籍化されてますから」


- え?、そうなの?


 「はい、あ、ハムラーデル国境編にはメルさんも登場してますね」

 「そうなのですか!?、是非とも読ませて頂ければ幸いですリン様」


 いやちょっと、って止められないじゃないか。そんな笑顔の期待をされたらさ…。


 って、ふたりともこっち見てるし。


- あー、うん、どうぞ。


 と言うしか無いね。

 妙な脚色が入って無ければいいな…、もう手遅れだろうけど。


 「メルさん、改めて言うまでもありませんが」

 「はい、門外不出、ですね」

 「はい」


 ふたりしてにっこり。

 王様も王妃様も兄王子も姉王女もにっこり微笑んで見守ってる。

 妹王女と弟王子はぽかーんとちいさく口を開けている。


 テンちゃんは普通に澄まし顔でお茶に手を伸ばし、俺もそれを見てお茶に手を伸ばした。


 なんだかなぁ…。






●○●○●○●






 その後は王様だけは所用があると言って退席したが、他の皆さんはそのまま残っていろいろ話をした。というかほぼ質問攻め状態だった。


 姉王女さんはメルさんを通じて、テンちゃんとリンちゃんの絵を描いてもいいかと尋ね、意外と乗り気なテンちゃんに合わせてか、リンちゃんも承諾したので、順番に描いてもらっていた。


 俺とリンちゃんが、『メルさん』と呼ぶのに合わせるように、他の皆さんもそう呼ばされる事になってしまったが、いくら何でも王妃様の事を『ルティさん』と呼ぶのは恐縮した。

 でもそう呼ばないと拗ねるんだよ…。


 「ねぇアイン、私だけ仲間外れなのって良くないと思わない?」

 「は、はい、そうです。仲間はずれはよくないとおもいます」

 「じゃあアインからもお願いしてくれるかしら?」

 「はい母上!」


 そして俺の前まで来て、来たはいいけど『あ、あの…、ゆうしゃさま、あの…』ってもうね、何故か頬を染めて、頑張ろうとするんだよ。言えなくて。


 これだもん。可愛すぎか。


 こんなのもう、『わかりました!、わかりましたから!、もういいですアイン王子、頑張らなくていいですから』って言うしかないじゃないか。


 王子様が人見知りしすぎだろ。とは思ったけど、身内にはちゃんと話すんだよね。

 人見知りだけど、頑張ろうとするってのがまたポイント高いわけなんだけども。


 そうそう、アインさんと呼ぶと変な顔をされたので、『アイン王子』に落ち着いた。

 他はさん付けでいいらしい。公式の場では、様付けのほうがいいだろうとの事だ。


 そのアイン王子は、ウィルさんとメルさんの事を大変尊敬しているようで、メルさんが戻ってから時々剣の稽古を見てもらっているんだそうだ。

 メルさんが言うには、『タケル様より筋がいい』らしい。そうですか。俺なんかを引き合いに出すなっての。


 で、剣がダメな勇者様は何が得意なのですかとテティさんに言われ、そこでメルさんが『タケル様は私の魔法の師匠です』なんて言って、手のひらの上で小さなビー玉サイズの土球の周りに水球を2つくるくると回したもんだから、俺もやらなくちゃならなくなった。


 しょうがないので軽く控えめに、軌道が交わらないような楕円軌道で、20個のいろいろな形の水球(球じゃないね)をくるくる回したらアイン王子だけがすごく喜んでくれた。

 他?、皆さん驚くやら呆れるやらで固まってたよ。


 ひよこの形と金魚の形をしたのや星形のがお気に召したようだったので、ポーチからガラスのコップを取り出してちょいと溶かし、糸で吊るせるような輪っかを付けたのを作ってあげたら目をきらきらさせて喜んでくれた。


 テティさんがそれを羨ましそうに見ているのに気づいて、もうひとつずつ作ろうかなと思ったら、アイン王子が星形のを手元に残し、それ以外を全部『テティねえさま、どうぞ』と手渡したんだよ。

 何てよくできた王子なんだと感心したね。


 テティさんは感激してアイン王子を抱きしめてたよ。うん、気持ちはよくわかる。






 あとは、水の精霊様(ウィノアさん)が顕現したときの派手なエフェクトが皆さん印象的だったようで、それの話がちらっと出た。


 まぁ言いだしたのはテティさんなんだけどね。


 スティさんはちょうどテンちゃんの絵をデッサンしてるところだったし、ルティさんはあまりその話に乗らずに抑えるように誘導しようとしたみたい。


 俺はたまたまウィルさんがアリースオムの様子について尋ねたところだったので、それに返事をしてたから、そのテティさんが水の精霊様(ウィノアさん)を大絶賛してた相手ってのはリンちゃんだったわけ。


 テンちゃんだったなら、相変わらずののじゃ調でも、適当にかわしたんだろうと思うけど…。


 「お姉さまならその水の精霊を軽く消し飛ばせますよ」


 なんて返したもんで、テティさんだけじゃなくルティさんもアイン王子も表情が引きつってしまった。

 慌てて俺とウィルさんが話に混ざって有耶無耶にしたけど、リンちゃんもそういうとこは大人げないんだよなぁ…。


 ウィノアさんと言えば俺の首飾りに分体が居るわけなんだけど、会話に参加したり、出て来たりが無くて本当に良かったと思う。






 ある程度話をして、こちらの人となりがわかったからだろう、デッサンも段落したタイミングで、ウィルさんとルティさんが目線で合図をしたと思ったら挨拶され、お開きとなった。


 泊まるところを用意してくれていたようで、町の宿屋に泊まる計画は無くなってしまった。

 案内してくれた女官さんや護衛の兵士さんに随伴したメルさんが、こっそり『あの、転移石板は置かないほうがいいと思います』と言ったので、森の家に帰る計画も無くなった。まぁ別にそれはそれで構わないんだけどね。


 でも国賓用らしい。便利さという点では精霊さんのところには数段劣るけれど、豪華さという点ではややこちらの方が勝つ感じがする。おかげで汚してしまわないように、置いてある飾りなどを動かして壊したりしないようにと、やたら気を遣った。


 しょうがないだろ、俺は小市民なんだって、気持ちがさ。






次話5-012は2022年05月06日(金)の予定です。


20240421:テティとスティを間違えて記述していた部分を訂正。

 (今頃気付くとは‥orz)


●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   今回も入浴シーン無し。


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   気を遣ってますねぇ…。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   リーノムルクシア=ルミノ#&%$。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   タケルのお世話をするという点においてですが、

   ウィノアへの対抗心があるのです。


 テンちゃん:

   闇の精霊。

   テーネブリシア=ヌールム#&%$。

   後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。

   リンの姉。年の差がものっそい。

   ヌル様と言われる事もある。

   基本的に、タケルの横に寄り添っていれば穏やかなんです。

   光の精霊と名乗るのは、デフォです。


 ファーさん:

   ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。

   風の精霊。

   有能でポンコツという稀有な素材。

   風の精霊の里では高位の存在なんですよ、これでも。

   尊敬の対象なんですよ、これでも。

   つまりタケルに縁のない芸事に堪能という…。

   生かされない不遇な配置という事に。

   今回出番無し。


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   タケルの首飾りに分体が宿っている。

   今回は名前のみの登場。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。


 モモさん:

   光の精霊。

   『森の家』を管理する4人のひとり。

   食品部門全体の統括をしている。

   今回出番無し。そろそろ戻った頃。


 ハルトさん:

   12人の勇者のひとり。現在最古参。

   勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。

   ハムラーデル王国所属。

   およそ100年前にこの世界に転移してきた。

   『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。

   今回出番無し。


 カエデさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号10番。シノハラ=カエデ。

   勇者歴30年だが、気持ちが若い。

   でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。

   今回出番無し。


 ジローさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号3番。イノグチ=ジロウ。

   ハムラーデル王国所属。

   砂漠の塔に派遣されて長い。

   2章でちらっと2度ほど名前があがり、

   次に名前が出てくるのが4章030話でした。

   今回出番無し。


 クリスさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号5番。クリス=スミノフ。

   現存する勇者たちの中で、4番目に古参。

   現在快復ターン中。

   今回出番無し。


 シオリさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号7番。クリバヤシ=シオリ。

   現存する勇者たちの中で、2番目に古参。

   『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』という物騒な杖の使い手。

   現在はロスタニア所属。

   勇者姫シリーズと言えばこのひと。カエデは大ファン。

   今回名前のみの登場。


 サクラさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号1番。トオヤマ=サクラ。

   ティルラ王国所属。

   勇者としての先輩であるシオリに、

   いろいろ教わったので、一種の師弟関係にある。

   勇者としての任務の延長で、

   元魔物侵略地域、現バルカル合同開拓地に居ます。

   今回名前のみの登場。


 ホーラード王国:

   勇者の宿がある、1章からの舞台。

   名称が出たのは2章から。

   2章の冒頭に説明がある。


 メル:

   ホーラード王国第二王女。

   2章から登場した。


 ホーラード王家の面々:

   王と王妃、それと末弟の名前は今回初登場。

   王妃、姉、妹、弟の発言も初登場。

   それぞれの存在は2章で示唆されていた。はず。

   姉と妹には婚約者が存在する。

   以下、メルから見た関係と少し紹介を。


 ソーレス:

   メルの父。ホーラード王。温厚な性格。

   平凡だが穏当で良い治世をすると評判は上々。


 ルティオネラ:

   メルの母。ホーラード王妃。

   5人の母で、それも既に成人済みの子が2人いるとは思えない程、

   やや細身。国内の美容関係のトップに君臨する。

   だがそれは当人ではなく、配下に付いているものたちのせい。

   持ち上げられるのもお役目と割り切っており、性格はさっぱり系。

   愛称はルティ。


 ウィラード:

   メルの兄。ホーラード王太子。既に立太子の儀は終えている。

   民の信頼篤く、これも良い治世をするだろうと期待されている。

   婚約者候補が多いが、まだ決まっていないのが欠点。

   愛称はウィル。


 ストラーデ:

   メルの姉。第一王女。隣国ティルラに婚約者が居る。

   相手はティルラ王国王太子ハルパス。将来的にはティルラ王妃となる。

   演劇や歴史に戯曲、フィクションなどに幼少の頃より興味があり、

   いまやホーラード国内のみならずティルラなどの隣国の、

   芸能関係に幅広く影響を齎す存在。

   絵姿が最も多く売れているのは、その均整の取れたスタイルのため。

   愛称はスティ。


 リステティール:

   メルの妹。第三王女。1年違い。

   婚約者が居るとは当人の弁。実際は婚約者候補だが、

   周囲もそのうち確定するだろうと温かく見守っている状況。

   宝飾品や工芸品に興味を持ち、そのため高価なものを蒐集するのが

   父王と兄たちの悩みの種。

   メルに対抗心がある。

   ストラーデと同様にスタイルがよく、年の割に大きめの胸が自慢。

   愛称はテティ。


 アイネリーノ:

   メルの弟。第二王子。4つ違い。

   母親似で女の子かと思われるくらい線の細い、愛らしい顔つきで、

   城内の女官たちの人気を一身に集めている。

   当人は草花が好きな極めて大人しい性格。

   わがまま傾向があるリステティールからは溺愛されていて、

   よく一緒にいる。というか付きまとわれている。

   メルリアーヴェルについては崇拝の対象であり、英雄視もしており、

   近寄るのも話しかけるのも畏れ多いなんて思っていたりする。

   メルからするとそれが懐かれていない、

   嫌われているのではないかと心配になる原因でもある。

   愛称はアイン。



 ※ 作者補足

   この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、

   あとがきの欄に記入しています。

   本文の文字数にはカウントされていません。

   あと、作者のコメント的な紹介があったり、

   手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には

   無関係だったりすることもあります。

   ご注意ください。


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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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