1ー024 ~ 新鮮
せっかくリンちゃんがテーブルを拵えてくれたので、『鷹の爪』の皆さんもどうですか、とお茶にすることにした。ついでに軽食も、ということでパンにマヨ塗ってハムと豆チーズを挟んだものを出す。
用意したタライで手やナイフを洗ってからこちらに来た『鷹の爪』の皆さんが目を丸くしていたが、スルーして、どうぞ、と座ってもらった。
あれ?、リンちゃん?、どうして6人居るのに椅子が5脚しかないのかな?
ああ、メイドっぽく後ろに控えて立ってるつも…、ああ、俺の膝の上ですか、そうですか。まぁいいや。
- 食べながらでいいので聞いてください。そちらの通路の先およそ300mの部屋と隣接する5つの小部屋にいるトカゲたちには動きはありません。通路にも巡回するトカゲはいません。それで最初に提案したように、もうさくっと倒してしまおうかなと思っていますが、どうでしょうか?
「そうだね、いいんじゃないかな」
- それで倒した後の事なんですが、14匹分を剥ぎ取りするのは大変すぎだと思うんですよ。
「角だけ拾って、あとは放置しようということ?」
- いいえ、そうではなく、もう面倒なのでまるごと収納してしまおうかなと。
「そんなに入るんですか?」
- はい。たぶん大丈夫かなと。もし入り切らないなら、もうその時点で残りは捨ててしまってもいいんじゃないかなと思うんです。
「もったいなくないですか?、結構高く買い取ってもらえますよ?、あの皮」
- それは入りきらなくなってからで。入るなら、ギルドに帰ってから剥ぎ取り作業を手伝ってもらえば早く済みますから。
「なるほど」
- それに、そもそも調査ということでダンジョンに潜ったわけですから、剥ぎ取り作業で時間がとられるのは本意ではないんじゃないかと思いまして。
「それも一理あるね。わかった。そのようにしよう」
どうやらプラムさんの説得?、がうまくいったようで、態度はまだ微妙さが抜けきっていないが、言葉は元に戻してもらえたようだ。
よかった。
「ところでこれ、すごく美味いんだが」
「そうそう、こんなの食べたことないよ!」
- ああそれは作り置きのものです。気に入ったのでしたらまだありますので明日にでも。
「ぜひお願い。ってそうじゃなくて!」
「僕たちが用意していた食料も使って欲しいんだが…」
- あっ、そうですね、せっかく用意してもらったんですし。では夜にでも使いましょうか。
「そうしてくれると助かる」
「だな、使ってしまわないと傷むからな」
「袋の中のものは変化しません。ですから傷むことはありません」
「「え?」」
- 今食べたパン、これ先週のものなんですよ。作りたてそのままだったでしょう?、そういうことなんですよ。
「そうだったのか…」
「あたしたちの準備って一体…」
- ムダじゃありませんよ?、食料だけならこうしてだせますが、他の品々のことはわかりませんから、僕だってまだ素人みたいなもんなんですよ。
「そ、そうか、そう言ってくれると助かる」
- ではそろそろ行きましょうか。
それでタライやら剥ぎ取ったものやらを片付け、テーブルと椅子はリンちゃんが土魔法で消す。
その様子をちらっと見て、なんだかため息をついていたが、もう慣れてもらうしかないので、見てみぬふりをしておいた。
●○●○●○●
で、特に何を言う事があるわけもなく、石の弾丸が頭部を貫通して倒れたトカゲが14匹、多少大きさに違いがあるとはいえ、角が取れるまで待って、あとはポーチに入れてしまうだけだ。
「ねぇ!、ちょっとこれみて!」
と、小部屋のほうを調べていたエッダさんが叫んでる。
「どうした!」
「これ、卵じゃない?」
「ふむ…、ひとつ割ってみるか」
サイモンさんがひとつ割ってみると、どうみても卵だった。
黄色じゃないけど黄身がプルンと盛り上がっていて、白身もべちょーっとはしていない。まるで産みたてのようだ。
でも鶏卵じゃないから新鮮なのかどうか判断つかないが。
「ダンジョンの魔物に卵だと?、どういうこった」
「これ、どうしよう?」
- 持って帰りましょう。袋の中なら孵化することはありませんし。
「そうしてもらえるか?」
- はい。いいですよ。これも調査の一環ですから。
「ところでトカゲの卵って食べれるの?」
エッダさん…、さすがにそれはみんな絶句するって。
●○●○●○●
「だから冗談だってば!」
「あのなぁ、言っていい冗談と悪い冗談があるだろうが」
「だってぇ、重い雰囲気がやだったんだもん」
「だもんー、じゃねぇよ」
ぺちっ、と頭を叩かれて膨れるエッダさん。え?、何?、あの二人そういう仲なんですか?、まぁどうでもいいか。
魔物じゃなく、普通に爬虫類の卵は食べれるものもあるようなんだけどね、市場に売られてることもあるらしいし。
でも魔物で、しかも子を作ることがないはずのダンジョンの魔物で、その卵だよ?、気持ち悪くて安全かどうかわからないし、食べようとは普通思わないって。冗談でも。
「ふむ、この先は小部屋が2つあってその先の部屋で行き止まりか」
地図を見ていたサイモンさんが呟く。
- ここは分岐になってますので、先に進んでしまうか、片方の行き止まりの部屋まで進んで戻ってくるか、ってところでしょうね
「時間的には先に進みたいが、それだと2層に入ってしばらくしたら夜になるな」
「中途半端ね」
「全部の行き止まりの部屋を調べると、2層の手前で夜、ってことか?」
「そうなるね」
「どっちにせよ中途半端かー」
「タケル君はどうしたらいいと思う?」
一応リンちゃんに目で確認をする。頷いているということは、話してもいいということか。
- 片方の通路と2層への通路を土魔法の壁で一旦塞ぎます。
この場に結界を張り、そこに囲いを作って転移魔法の石板を置きます。
それで残る行き止まりまでの道を行き、奥までいって、転移魔法で戻ります。
壁を作って塞ぎ、残りの行き止まりへの通路を直して、同様に奥まで行って、転移でもどります。
同じようにして、2層へ繋がる道へ進みます。2層の手前でちょうど夜になると思われます。
どうでしょう?
「いろいろ言いたいことはあるが、それでいこう。皆もいいか?」
「おう」 「「はい」」
- 言いたいことがあるなら、遠慮せずにどうぞ?
「もう今更だし…」
「なぁ?」
「うん」
「だよな」
「ふふっ」
プラムさんだけ変な反応してたけどいいか。





