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4ー094 ~ 開発と別れ・アンデッズのお使い

 リンちゃんの説明を聞いてると、何だかまるで元の世界の都市計画でも聞いているかのような気分になった。


- そんなに開発しちゃって大丈夫なの?


 「これでもロミさんから控えめにと言われたので、かなり抑えたんですよ?」


 抑えてこれか…。


 どういう事かと言うと、まず崖の向こう、コァム側のほうも含まれていて、崩れやすい崖の部分はあの関所のあったぐらいの位置から段階的に高さが合わせられ、崩れて来ないようになるのがひとつ。


 と言うかその範囲は既にテンちゃんの魔法による影響で、元から脆かったのがさらに脆くなっているんだそうで、手を付けざるを得ないらしい。


 「川の水利を考えて支流を農地に張り巡らせますし、護岸やポンプ場などの施設が作られますので」


 という事らしい。

 どうせ現状では川が既に堰き止められてしまって水が溢れてるし、結構深いところまで灰色の砂なんだそうだ。


 現在ローラー作戦みたいにしているのは表層部分を吸い上げながら固めて行ってるんだってさ。

 そういう魔法によってその砂に影響って無いのかなと思って尋ねたら、ある程度は仕方ないんだそうだ。


 「どうせ放っておいても周囲の魔力にじわじわと染まって行きますから」


 そういうもんなんだってさ。

 それでも素材として優秀なのは変わらないんだと。


 で、ごっそりここの土地が減った分は、現在他所で回収中の土砂を持って来て加工するそうだ。その加工にも、ここにまだ大量に残っている灰色の砂が使われるみたい。


 「お姉さまが少々やりすぎたおかげで、エスキュリオスの者たちが張り切ってますよ」


 と、笑顔で言われた。

 意味がよく分からなかったんで聞き返したけど、この灰色の砂は優秀な素材という事で結構いいお値段になるらしい。それで臨時収入がたっぷり見込めるので張り切っているんだってさ。


 「里に戻る前にいい手土産が増えたとお礼を言ってましたよ?、お姉さま」

 「そうか…」


 テンちゃんはまだ複雑な気分なんだろう、素っ気ない返事をしてぼーっと灰色の野の方を見ていた。

 肉眼ではもうローラー作戦の編隊は見えないんだけどね。まぁ別に何を見ているというものでも無いんだろう。


 手土産が増えたと言っているのは、たぶん『瘴気の森』の件で回収した過去の遺物というか残骸などの事だろう。あれも一応、お手柄になるらしい。






 他にも、元の位置に街道が2本できるらしく、それらの街道からから縦横に伸びる道が整備されるとか、丘陵地が住宅街や商店街になるとか、商店区画は街道沿いにとか、灯台や堤防が造られるとか、聞けば聞くほどとんでもない話だった。


 元々『タビビトゴロシ』のせいで、海の方も全く手つかずの自然というか、その『タビビトゴロシ』が海に毒素を撒き散らしていたようなもんなので、ろくに生物が居ないんだと。居たとしてもそんな毒に耐性があるか分解できる能力のある種類しか棲息していないし、それらは食用には向かない。

 それに、テンちゃんの魔法でそれらの生物も全滅してるらしい。


 海岸線を引き直すほどの大規模な開発計画になっているのも、範囲内の海底にできた、できてしまった灰色の砂を、大量に回収するついでもあるんだそうな。


 なんとか城砦のところも、元の形に近い城塞都市が造られるらしい。

 と言っても、前のような分厚い壁は無いしどこかと戦うわけでもないので、屋上からこのあたりを一望できる建物と、元あった町並みの再建、それと今後のための住居やいろいろな施設ができるらしい。


 ロミさんが地図や書類を並べて説明をしているテーブルから、すすり泣く声が聞こえたと思ったら、ついて来た4名全員が、感涙に咽び泣いている声だった。

 ロミさんは説明を中断して、困ったような仕方ないなというような表情で、彼らが落ち着くのを待っているようだった。


 リンちゃんが言うには、説明に使ったその地図は俺が作ったものを元にして開発計画用に新たに作成されたもので、言ってみりゃこの地域の未来予定図なんだそうだ。


 元の街道や城砦などを参考にできたのも、俺が地図を作成しておいたからだとお礼を言われたけど、そんなのリンちゃんが勝手に使うのはもう今更だし、俺はとりあえず行った先々では自分の為に作るようにしているからね。悪い気はしないけどさ。


 「…はい、え?、あ、そうですね、わかりました」


 リンちゃんが通信を受けたようだ。

 通信がリンちゃんに来たときのトリガーっていうか、着信通知みたいなやつ、リンちゃんのすぐ近くだと俺にもわかる。内容まではわからないけどね。

 しかしすごい技術だよなぁ…、どうなってんだろうね。


 「タケルさま、そろそろこのあたりの開発に着手したいそうです」


- あ、なら移動しないとね。ここ突っ切って行って大丈夫なの?


 「……低空は彼らが作業していますので、飛び越えて行って下さい」


 何その間…。


- あっはい。


 何だか冷たく言われた気がした。

 ロミさんの方にも言わないとね。


- ロミさん、ここらへんの開発に着手するそうなので、移動しませんか。


 「あ、そうなのね、わかったわ」


 俺が立ち上がり、ロミさんたちのテーブルに少し近づいて声をかけると、テンちゃんも隣についてきていた。リンちゃんはささっとテーブルの上を片付けている。


 ロミさんはその様子をちらっと見て、返事をしてすぐにテーブルの書類や地図を纏め、大事そうに抱えて持ってから、俺に問い掛けた。


 「…どうすれば?」


- あ、こっちに集まって並んで下さい。


 手でこのへんにと指示をすると、席を立って袖で目元を拭い、しかし機敏に整列するところはロミさんの配下…、だよね?、それらしいなと思った。


 そんな事を思っている間に俺の腰には後ろからリンちゃんがしがみつき、右側にはテンちゃんが立ち、ロミさんがそっと左側に立った。

 ロミさんたちのテーブルに乗ってた水差しやコップも、直前にリンちゃんが回収してくれていた。まぁ元々リンちゃんのだからね。


 何も乗っていないテーブルや椅子をさっと崩してから、飛行結界に包んで飛び立った。






●○●○●○●






 避難所に到着すると、昼食の準備やら荷物運びやらをしている人たちも手を止めてこちらを指差したり驚いて立ち竦んだりしているのが見えた。

 そりゃまぁ、見えたら驚くだろうね。しょうがない。


 着陸し、飛行結界を解除すると、集まって来ようとした人たちをロミさんが片手でさっと制止し、俺から2歩下がって片膝を着いた。

 魔力を使って威圧をしたのが感知でわかったけど、そう言えば会議室でもこういう使い方をしてたっけね。


 周囲の人たちはそれを受けて、それとロミさんが片膝を着いたのを見てだろうか、同じようにその場に(ひざまづ)いた。


 リンちゃんとテンちゃんのふたりはそれに合わせるかのように、俺の腕に手を添えて両側に、ロミさんを見下ろすように立った。つまりは俺の向きを合わせたという事だ。


 「タケル様、テン様、リン様、この度はこの地に多大な恩恵を賜り、アリースオム皇帝として心よりの感謝を申し上げます」


 俺が口を開く前に、まずテンちゃんが返答した。


 「よいのじゃ。ロミよ、其方はタケル様と友誼(ゆうぎ)を結んでおる故、力を貸したまでなのじゃ」


 俺の隣で大きな胸を張り、目線だけ見下ろすようにして薄く笑みを浮かべて言っている。その声にはほんの少しだけだが、魔力が乗っているのがわかった。


 「今日より3日と半日の間、昼夜を問わず音や光が見えましょう。不安がらず近寄らず、耐えて待つのですよ」


 次にリンちゃんも、同じように威厳のある雰囲気で、目線だけ見下ろしながら優しく言った。こういう時の精霊さんのスタイルみたいなもんなんだろうか。


 「はい、そのように致します」


 と、頭を下げたままのロミさんが言うと、テンちゃんがさっと俺たちの周囲に障壁を張った。


 え?、これだと俺たちが消えたように見えるんじゃないか?

 ほら、こっちを見ていた人たちが目を見開いてる。


 「まぁ少し待つのじゃ」

 「これも演出と言うものですよ、タケルさま」


- そうなの?


 そうらしい。


 とか何とか小声で話しているうちに、ロミさんとあの4名が、それぞれの側近というか身近な人たちにさっきリンちゃんが言ってた、開発工事の間はあっちに近寄らない事、みたいな話をしている。上が開いてるから、近くの声なら聞こえるんだよ。






 用意された木箱の上に立ったロミさんが、集まった人たちに今後の説明をかいつまんでしているのを横目で見て、ロミさんの個室があった馬車の方へ移動し、大勢の人から見えないあたりでテンちゃんが障壁を解除した。


 「そろそろお昼ですけど、どうします?、タケルさま」


 ああ、そう言えばここに飛んでくるときにあちこちで調理してるのが見えてたっけ。


- どうしますってリンちゃん、さっきあっちでロミさんと開発計画の話をしてたのを上に伝えなくていいの?


 「それならもうとっくに連絡済みですよ」


 いつの間に…。

 あ、俺たちのテーブルに来る前かな。


- リンちゃんはここでの用事ってあるの?


 「ありません。あとは彼らに任せてしまって大丈夫です」


 そうですか。


- じゃあ、ロミさんに帰るって言ってからかな。


 「お城の部屋にですか?」


- うん。だってファーさんを拾って帰らないとさ…。


 「え?、『森の家』に帰るんですか?」


 ぱぁっと笑顔になった。


- もうここでする事も無いだろうし、居座ってるとまた何か用事を言い付けられそうだからね。


 「ふふっ、じゃあ早速あちらに連絡しておきますね」


 そう言うとくるっと後ろを向いて右手を例の電話のジェスチャーにして早口で連絡をし始めた。


 「其方がいつまでこの地に居るのかと思うておったが…、ん?、何をしておるのじゃ?」


- え?、これ?


 俺がポーチからタオルを取り出して、水魔法で湿らせて絞っているのを見て、テンちゃんは話しかけたのを途中で止めた。


 「うむ」


- いや、目がしぱしぱするっていうかね、何だか乾燥してるよね、このへん。


 それでおしぼりを作って顔を拭こうとしてるわけ。


 「それは其方、今日は首飾りをしておらぬからなのじゃ」


 へ…?

 あ、そういえばウィノアさんの首飾りを置いて来てたんだった。

 いつも着けっぱなしだから忘れてたよ。それも回収して帰らないと。


- あの首飾りにそんな効果が…?


 「そうではないのじゃ。あれは周囲の水分、空気中の水分を吸収したり放出したりと、呼吸ではないがそうやってバランスを保っておるのじゃ。故に其方が身に着けておる間、其方の首の周囲の湿度は一定に保たれておったはずなのじゃ」


- あー、そういう副次的な効果って意味ですか…。


 「うむ」


 あれ?、前にラスヤータ大陸に居た時って、なんかちっさくなってたような…。


 「ん?、どうしたのじゃ」


- あ、いえ、ラスヤータ大陸の時、小さくなってたなって…。


 「魔砂漠周辺ではそれができぬのじゃから、それは小さくもなろうなのじゃ」


- あ、そっか。


 「タケルさま、あちらに連絡を、って、何ですかそれ」


- ああ、顔を拭こうと思って。


 「おしぼりですか。普通に洗って拭けば良かったのでは…?」


 あ、リンちゃんが呆れてる…。

 やっぱおっさん臭いかな、あまり見栄えのいいものでもないかも知れないね。


- 言われてみればそうだよね。


 「そうですよ。どうせタオルで拭くんですし、水魔法で水を生み出すのですから、普通に洗えばいいんですよ…」


 仰る通りで。

 でも手軽なんだよなぁ、おしぼりって。


 「はい、こちらの桶でどうぞ」


 俺が名残惜しそうに手のおしぼりを見たのがバレているようで、ささっと台を作ってその上にエプロンから出した木桶を乗せ、水をちゃぷんと入れてくれた。

 手のおしぼりはさっと取られてしまった。素早い。


- あっはい、ありがとう。


 せっかく用意してくれたんだからと、袖をまくって顔を洗い、リンちゃんが手渡してくれた別のタオルで拭った。うん、さっぱりした。


 「それで、何でまた急におしぼりを?」


 そこからか…。






 説明をして、桶と台を片付けようかというところでロミさんがぞろぞろとお供を連れてやってきた。


 「もしかして、待っていてくれたのかしら?」


- はい、帰りますってひと言挨拶をしてから帰りたかったんです。


 「そうなの…。ありがとう。アリースオムが抱えていた問題を2つも解決してくれて、とても感謝しているわ」


 ロミさんは1秒にも満たない間をあけてからいい笑顔になり、先ほどとは違って右手をそっと左胸に添えて小さく頭を下げた。


- こちらこそ、いろいろお世話になりました。


 俺も同じようにして会釈を返すように頭を下げた。

 リンちゃんは桶と台を片付けてから俺の左後ろに立ち、それに合わせるようにテンちゃんも右後ろに立った。


 「タケルさんが動きやすいように、当然の事をしたまでよ。それよりもタケルさんには返しきれない借りができてしまったわ、何か困った事が…無さそうだけど、そうね、勇者関係で困ったらいつでも頼ってきて頂戴?」


 ああ、確かに。


- はい、その時はよろしくお願いします、ロミ先輩。


 「ふふっ、そう言えば最初はそう呼ばれたんだったわね」


 口元に手を添えて楽しそうに笑った。


- では、帰ります。お城のほうに何か言伝がありますか?


 「あら?、ホーラードに帰るのではなくて?」


- ファーさんを置いて来てるんですよ。


 「ああ、そうだったわね。なら4日後には戻れると伝えてもらえると助かるわ」


- はい。では。


 「元気でね」


- ロミさんも。


 と答えてからさっとテンちゃん式の飛行結界を張り、すぅっと浮かび上がった。地上に影響のない高度まで達してからお城へ向かって加速を開始した。


 「ふふ、この地の景色も見納めなのじゃ」

 「まだお城から帰るときも見れますよ、あ、そうですね、お姉さまがやらかした灰色の大地はこれで見納めですね」

 「う…」


 上昇中、そんなやりとりが俺の右側と後ろにあったが、上昇加速が入り始めるとリンちゃんの方は俺の腰に回している腕をきゅっと締めて目を閉じて黙ったようだった。


 「…見納めと言うて、見ておらぬではないか…」

 「聞こえてますよ、お姉さま」


 どうでもいいけど、背中にくっついたまま喋らないで欲しい。くすぐったいじゃないか…。






●○●○●○●






 「いやー、ここは素晴らしい場所だなー」

 「そうだなー、精霊様の母艦も天国かと思うくらいに良かったが、外に出られなかったからな」

 「ここは陽光が降り注ぐし、街は気持ちのいい魔力で満ち溢れてるし、こっちが本当の天国じゃね?」

 「どっちも俺たちにとっては天国だよ」

 「違いねぇ、あっはっは」

 「「あっはっは」」


 などと明るい調子で顎をカタカタ言わせて笑いながら歩く3体のスケルトン。


 ここは光の精霊の里、第二演劇場近くの路地だ。このあたりはあまり高さのある建物も多くはなく、あってもせいぜい2階建て程度だ。陽光が降り注ぐという表現もあったように道幅も狭くはなく、天気もいい。散歩するのに適していると言える。


 彼ら3体はただ散歩をしているのではなく、消耗品の補充と次の演目用に多くの布類を受け取るため、荷車の前後を歩いているのだ。押しているのではなく、一緒に歩いているというのが正しい表現だろう。


 なぜなら、この荷車には取っ手が前後についてはいるが、後ろに紐を編んだ1mほどのロープが結び付けられており、その先には荷車を操作するための操作端末(コントローラー)がついていて、後ろを歩く1体がそれを持ち、教わった操作をしているからだ。


 現在は荷車には積荷が無い状態だ。普通に考えれば、だったら乗って操作すればいいんじゃないかと思う者もいる事だろう。


 ではなぜ彼らはそうしないのか。


 それでは出発時の様子を振り返ってみよう。






 「済みません、急用ができてしまいまして、一緒に行けなくなってしまいました」

 「えっ、それじゃ俺たちだけで荷物を受け取ってくるんですかい?」

 「そうなります。先方には連絡をしておきましたので大丈夫です、あ、そこの荷車を使ってください」


 と、十数歩の距離においてある荷車のところまで一緒に歩く1人と3体。


 「…これって勝手に動くやつですよね?、使ったことありませんぜ?」

 「この操作端末(コントローラー)で操作をしてください、操作のやりかたは難しくありません、この小さな突起を前に倒せば進みます。手を離せば荷車は止まり、突起は中央に戻ります。左右に曲がるにはその突起を曲がりたい方向に少し押せば曲がります」


 つまりは小さなジョイスティックのようなものだろうか。


 「はあ、思ったより簡単ですね、これならやれそうです」


 説明した光の精霊()から操作端末(コントローラー)を受け取った1体が言う。


 「そうですか、場所はこの地図に記してありますのでお願いします、ああ、もう行かなくては」


 返事も待たずに駆けて行く演劇スタッフ。口というかアゴの骨を半開きにしてその背を見送るスケルトンたち。


 一応言っておくが裸ではなく半袖シャツとズボンという装備だ。シャツの前側にはそれぞれ『3』・『4』・『6』と人種(ひとしゅ)の標準語で大きく書かれていて、背中には現在の演目『勇者との出会い』と第二演劇場のシンボルマーク・開演日時などの情報が後光が差すかのような人物のシルエットをバックに印刷されているが、こちらは精霊語なので着ている骨たちには読めない。


 「…どうするよ?」

 「どうするったって、予定通り行くしかねぇよ」

 「だな、それで操作は、…大丈夫そうだな」


 大きく開けられた搬入口のほうへと荷車を操作して歩き出したもう1体を見て言った。機械の駆動音と車輪が平らな床に立てる音がかすかに聞こえ、コツコツという足音がこの空間に響いていた。


 「じゃ、行くか」

 「そうだな」


 と、2体も続く。


 演劇場裏門を出て、通りに出たところで『4』の番号をつけた者が言った。


 「なぁ、それ、ちょっと乗ってみてもいいかな?」

 「いいけど、やめておいたほうがいいと思うよ?」


 操作端末(コントローラー)を手にしている『6』の者が答える。


 「いいじゃねぇか、乗っちゃだめとは言われなかったろ?」


 そう言いつつ動いている荷車に乗り込もうと柵に手を掛けたところで、地図を手に荷車の前を歩いていた『3』の者が振り向いて言った。


 「やめとけって、お前が乗ったら俺たち白骨死体を運んでる死体にしか見えなくなっちまうだろ」


 勢いをつけて今まさに飛び乗ろうとしていた『4』の者は、それを聞いて一瞬止まる。


 「う…、ぎゃっはは、それもそうだ、やめとこう」

 「だろ?、あっははは」


 そうして手を離して腹部に手をやり、大笑いをした。


 「俺たちはこうして明るく笑ってたほうがいいって演技指導のひとも言ってたね」


 一緒になって顎をカタカタ言わせて笑っていた、『6』が後ろからそう言った。


 「「そうだな」」


 顔を見合わせて同意した2体。

 それにしても『3』はほぼ真後ろに頭を向けているのだが、それはいいのだろうか?


 「じゃ、歌でも歌うか!」


 続いて『4』が言う。


 「歌えるのか?」

 「今やってる演目で歌ってるじゃねぇか」


 初演の時から少しずつ追加され、今では彼らが歌って踊るパートがあるらしい。


 「そうか、それも宣伝になるな、じゃ、歌いながらいくか!」

 「「おお」」


 そんな事をやってるもんだから、とても目立つ。歌声が聞こえて何事かとそちらを見て、何だ演劇の宣伝かと視線を戻しかけては目を見開いて2度見する精霊(ひと)たちが続出したらしい。






 さらに道中、歌が一周した合間の会話。


 「こうして堂々と外を歩けるようになったのは嬉しいよね…」


 少しだけ斜めに空を見上げて『6』が言う。


 「どうした?、しみじみと」


 その声に荷車の横を歩いている『4』が問いかけた。


 「俺さ、ちょっと前にお使いで外に出たんだよね、そしたら小さい光の矢が飛んできてさ、びっくりしてそっちを見たら少年が3人、こっちを睨んでたんだ。目が合うと『アンデッドが昼間からうろちょろするな!』って言われてさ、悲しかったよ」


 操作端末(コントローラー)を持って操作をしているので両手はそのままだが、首だけをがっくりと項垂れた。


 「そりゃあ悲しいけどしょうがないな、アンデッドなのは本当だしよ」


 先頭を歩く『3』は後ろに首を向けて聞いていたが、慰めなのか諦めなのかよく分からない声色で言い、首を前方に向けた。


 「だいたい目が合ったって俺たちに目なんてねぇよ?、あっはっは」


 荷車の隣から『6』の横に移動した『4』が言って笑った。


 「それもそうだ、あっはっは」


 前方の『3』も前を向いたまま、いや、空を見上げるようにして笑った。


 「あはは、そうだけど、そんな気がしたんだってば」

 「それでお前は大丈夫だったのか?」


 顔を上げた『6』の肩に手を置いて『4』が言う。


 「あ、うん、シャツに穴が開いただけ。ここんとこ、ほら」


 両手は離せないからか、操作端末(コントローラー)を持つ両手を少し上げ、今度は項垂れたのではなく、穴の位置を見るかのように首を曲げて腹部を示した。


 なるほど、見ると繕ったあとがある。


 「当たったんじゃねぇのか?」

 「当たったけどちょっと元気が出ただけ。悲しかったほうが大きかったけど」

 「ああ、光属性だもんな」

 「うん」

 「それでどうした?、逃げて帰ってきたのか?」

 「そう思ったんだけど、すぐに大人のひとが走ってきて少年たちの頭に拳骨落としてさ、こっちにすっげー謝ってきて、逃げる暇なんて無かったよ」

 「そっかー、理解あるひとがいたんだなー」

 「あっ、楽屋にお前を訪ねてきた4人って、それか?」

 「あ、うん、そうそう、あの後の公演を見に来てくれたみたいで、改めて謝ってくれてからサインねだられちゃったよ、ははっ」

 「サインかー、何て書いたんだよ?」

 「『聖なるアンデッズ、骨6』って」

 「「はははは」」


 ひと(しき)り笑いあったあと、また歌い始めた3体。


 荷物を用意して待っていた布問屋では、話が通っていた出荷担当の者以外が、骨3体だけが歌いながらやってきたのに驚いたという。






次話4-095は2022年01月14日(金)の予定です。


20220112:助詞抜け訂正。

 (訂正前) 街道2本できるらしく、その街道から

 (訂正後) 街道が2本できるらしく、それらの街道から



●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   日常と言いながらここんとこありませんね…。


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   やっとホーラードに帰ります。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   リーノムルクシア=ルミノ#&%$。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   帰ると聞いて嬉しそうです。


 テンちゃん:

   闇の精霊。

   テーネブリシア=ヌールム#&%$。

   後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。

   リンの姉。年の差がものっそい。

   まだ『森の家』に慣れていませんが、

   タケルの傍が自分の居場所だと思っています。


 ファーさん:

   ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。

   風の精霊。

   有能でポンコツという稀有な素材。

   風の精霊の里では高位の存在なんですよ、これでも。

   1500年も踊ってたんですからねー

   タケルの認識はそこ止まりですけども。

   返却は無いらしい。良かったね。

   本人はまだ知らないみたいですが。

   今回は名前のみの登場。


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   今回も引き続き名前のみの登場。

   珍しくタケルが首飾りをしていないので、居ませんね。

   首飾りのちょっとした副作用が明らかに。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。


 ハルトさん:

   12人の勇者のひとり。現在最古参。

   勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。

   ハムラーデル王国所属。

   およそ100年前にこの世界に転移してきた。

   『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。

   今回は登場せず。


 カエデさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号10番。シノハラ=カエデ。

   勇者歴30年だが、気持ちが若い。

   でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。

   お使い継続中でまた移動。

   今回は出番無し。


 ロミさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。

   現存する勇者たちの中で、3番目に古参。

   現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。

   これでしばらくは出番が無いはず。


 コウさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。

   現存する勇者たちの中で、5番目に古参。

   コウがこの世界に来た時には既に勇者たちは各国に散っていた。

   アリースオム皇国所属。

   今回は出番無し。

   こちらもしばらく出番無しになりそう。


 カズさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号6番。サワダ=ヨシカズ。

   ロスタニア所属らしい。今の所。

   体育会系(笑)。性格は真面目。

   川小屋に到着したので登場人物に復帰。

   今回は出番無し。


 シオリさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号7番。クリバヤシ=シオリ。

   現存する勇者たちの中で、2番目に古参。

   『裁きの杖(ジャッジメントケーン)』という物騒な杖の使い手。

   現在はロスタニア所属。

   勇者姫シリーズと言えばこのひと。カエデは大ファン。

   今回は出番無し。


 サクラさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号1番。トオヤマ=サクラ。

   ティルラ王国所属。

   勇者としての先輩であるシオリに、

   いろいろ教わったので、一種の師弟関係にある。

   勇者としての任務の延長で、

   元魔物侵略地域、現バルカル合同開拓地に居ます。

   今回は出番無し。


 ネリさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号12番。ネリマ=ベッカー=ヘレン。

   ティルラ王国所属。

   サクラと同様。

   今回は出番無し。


 アリースオム皇国:

   カルスト地形、石灰岩、そして温泉。

   白と灰の地なんて言われてますね。

   資源的にはどうなんですかね?

   でも結構進んでる国らしい。

   勇者ロミが治めている国。

   そろそろ4章も終わりかな?


 母艦エスキュリオス:

   4章056話で登場した。

   ベルクザン王国内の竜神教神殿地下にあった、氷漬けの恐竜を、

   その装置ごと回収するために近くに来た母艦。

   4章065話で、『倉庫ごと回収』というのも、

   この母艦が近くに居たままだったから。

   統括責任者はベートリオ。

   仕事は増えましたし絶賛大作業ローラー作戦が始まり、

   大規模な都市建設といっても大した事ではないみたいですが、

   優良素材が入手できたので、艦内はお祭り騒ぎです。

   あとは彼らにお任せですね。


 タビビトゴロシ:

   大迷惑植物。

   この地では絶滅しました。


 アンデッズ:

   3章で登場した、前向きな性格のアンデッドたち。

   この4章では『聖なるアンデッズ劇団』として公演を行った。

   詳しくはそちらを。



 ※ 作者補足

   この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、

   あとがきの欄に記入しています。

   本文の文字数にはカウントされていません。

   あと、作者のコメント的な紹介があったり、

   手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には

   無関係だったりすることもあります。

   ご注意ください。


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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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