4ー093 ~ 開発計画・ファーの謹慎
「はい?、ちょっと待って?」
ロミさんが居たのはちょっと豪華な馬車の近く。
兵士さんたち…、じゃなくて衛兵さんたち?、あ、戦士たちだっけ、装備が違うからお城の衛兵さんたちとは違う戦士団に所属しているんだろうね、それと女官さんたち数人ずつの集団に囲まれて歩いているところだった。
そんなところに気持ちが焦ってた俺は、無遠慮にロミさんの前にすとんと着地をして小さく絞ってあった飛行結界を解除し、すぐに『灰色の砂』の代わりに現地の再建の話をしてしまった。
ロミさんはそんな俺に手のひらを向けて遮ってから、周囲にもう片方の手で何かの合図をしながらそう言ったわけ。それで警戒が解けたので、俺も少し落ち着きを取り戻した。
我ながら焦りすぎてたってここで気づいたんだ。
「順を追って話してくれるかしら?、できれば中で」
- あっはい、すみません。気が焦ってたみたいです。
「そう、緊急事態なのね、悪い方なの?」
俺が焦ってたと言ったからか、翳りを少しだけ混ぜた表情で言うロミさん。
少しだけというところはさすがだと思った。
- いえ、むしろいい方かと。でも緊急なのは確かです。
「じゃあ中で聞くわ。貴方たちはここで待ちなさい」
「はい、陛下」
ざざっとロミさんが示す方向、まぁすぐ目の前の馬車なんだけど、そっちの方に居た人たちが道を空け、既に開かれている後部扉と踏み台が見えた。
そのロミさんは何故か俺の肘を掴んでぐいと引っ張り、引っ張られた俺がくるっと180度回ると、そのまま力を抜いてその肘に手を添えて持った。
え?、ああ…。
- あっはい。
と声に出してしまったが、軽くつかんでいる肘をきゅっと握られたので、黙ってエスコートしろって事なんだろう。
既に開かれていた馬車の後部扉へ、踏み台に気を付けながらロミさんと並んで入ると、席を引いて待つ女官さんたちが中に居た。
布で奥が仕切られているので、狭く感じるが、外から見えていたこの箱馬車は結構大きい。布の奥はソファーや高そうな箱が設置されているので、まぁロミさんの個室のようなものなのだろう。
そのこちら側は、質のいい素材で作られたテーブルに布が掛けられていて、さらに細かい模様の織物が敷かれていて、茶器や花が活けられた器があった。周囲の壁や窓には豪華な布飾りなどがあしらわれていて、外の木窓が開いているため薄布を通して柔らかな光が室内を彩っていた。
香が炊かれているわけではないのに、ほんのりと良い香りが漂っているのは、足元に香炉が置かれているからだろう。これは前に勇者の宿の向かいの店で見た事がある魔道具と同じ物だ。火を使わずに香り成分を漂わせて、ついでに少し外の音を減らすものとロミさんが言っていたっけ。
ロミさんは俺の肘から手を離し、優雅な動きで片方の椅子の横に立ち、手で俺に向かいへ座るように促した。
それに頷き、着座するとすぐにお茶が運ばれてきた。
こういう所がすごいよなぁ、アリースオム。
「それで?、『タビビトゴロシ』はどうなったの?」
女官さんたちが退室し、扉をそっと閉めてからロミさんがお茶の香りに満足そうに微笑んでひと口飲み、茶器をそっとテーブルに置いてから言った。
- 根絶に成功しました。『ウゼー』も『タビビトゴロシ』も、もうあそこにはありません。
「まぁ!、こんなに早く!?、本当なの!?」
姿勢正しく座っていたのに、テーブルに両手をつき、ずいっと身を乗り出して来てちょっとビビった。相当にあれは悩みの種だったんだろう。
- はい。
「あ、そう、それで、タケルさんが焦る程の事って何があったのかしら?」
俺が手のひらを向けて背中を反らしたので我に返ったのか、取り繕うように座り直し、テーブルに両肘をついた。表情もごまかすかのような笑顔でだ。頬が少し赤い。
- それがですね、ちょっとテンちゃんが張り切りまして――
と、見てきた限りの現状を説明し始めると、その途中で聞き返された。
「え…?、見渡す限り灰色の大地…?」
- はい。
「それは確かに沈めてもいいとは言ったのだけれど…」
まぁそりゃ困惑するだろうね。
さらに、街の様子について話したときも。
「街が…?」
- はい、来る時見てきましたけど、ほぼ崩れてました。おそらく雨が降ったらさらに崩れて更地になります。
「え…?、街道も…?」
- はい、壁は崩れてました。街道は形だけは残っていますが、たぶん踏むと崩れますね。
コァム側のとこがそうだったからね。
「……でも『タビビトゴロシ』が根絶できたのなら…」
右手の人差し指を顎のやや右に添えて斜め上を見て呟いているので、俺は冷めかけたお茶をひと口飲んだ。冷めても美味しいなぁこれ。
リンちゃんが言っていたのも伝えた。
「あの、精霊様が復興にご助力下さるというのは…?」
- 灰色の砂を回収して、その代わりにある程度の道や建物、農地などにしてくれるそうです。回収はもう初めてもらってます。
「え?、もう着手されてるの?」
- はい、灰色の砂は鮮度が重要なんだそうです。
鮮度って言っていいのか?、よくわからんが。
「…ごめんなさい、少し整理させて」
珍しく腕組みをしてぶつぶついいながら考え始めた。
ロミさんのそういう姿って初めて見たな。それほど混乱する状況って事だろう。わかる。たぶん。
「やっぱりちょっと見てみない事には何とも…、リン様にもどれ程の期間がかかるのかお尋ねしないと、街道が使えないのも問題だわ…」
漏れ聞こえてくる呟きはそういう風に聞こえた。
それでやっぱりというか結局ロミさんを連れてリンちゃんのところに行く事になった。そうなるだろうなーと思ってたんだ。
馬車から出るとき、ついでに避難していたうち数人を連れていっていいかと言われたので、頷くとしばらくしてその人たちが呼ばれ早足でやって来た。
あの城砦に居たというか、俺が案内された会議室だろう場所の上座に居た、見覚えのあるひとたちだった。
「改めまして陛下におかれましてはこの度のご尽力に我々一同、」
ロミさんの前に連れて来られた彼らは血の気の引いた顔でどさっと片膝を着いて右手を左胸に添え、首を垂れた。
「ああいいわ、立ちなさい、そんな事をしてる暇は無いの」
彼らの挨拶を遮って片手を横に振りながら言うロミさん。
「は、はい…」
困惑した表情で立ち上がる4名。うち1名は街道の警備責任者だった。
急いで呼ばれたので何かお叱りを受けるんだろうと思ってたのかも知れないね。
「今からこちらのタケルさんに現地の視察に連れて行ってもらうの。貴方たちはそれに同行するのよ。何があっても取り乱さない事。重要なのはあの『タビビトゴロシ』の野がどうなったかを見る事よ。いいかしら?」
立ち上がった彼らのほうがロミさんよりも背が高いので、見上げる形になるからだろうけど、ロミさんは胸を張って堂々とした態度で、彼らのほうは姿勢を正しつつもなんだか恐縮しているせいか小さく見えた。
「はい、承知致しました」
「じゃ、タケルさん、お願いするわ」
そう言って俺の腕を引いて彼らに背を向け、俺も反対側に向けさせられて肘に手を添えられた。
どうも素直に従ってしまうというか、これ、そういう技なんだろうか…?
メイドさんとか女官さんたちが着替えを手伝ってくれるときのような感じと言えば伝わるだろうか。自然にこっちも動いちゃうんだよ。メイド技か?
- あっはい…
そうして彼らも一緒に飛行結界に包んで浮き上がると、声を押し殺した悲鳴のような音がした。
飛行結界の透明な床に膝から崩れ落ちた音と共に。
おかげで1秒ほどバランスが狂って揺れてしまった。不覚…。
でも浮上中で良かったよ…。
「ふふ…」
ロミさんがその様子をちらっと振り向いて小さく笑っていた。
だって床に這いつくばってその透明な床を手でぺたぺたさわさわと触れてるんだよね。片手は口元を抑えて。そりゃ滑稽だから笑うのもわかる。
取り乱すなって言われたのを律義に守ってるんだし、そんな姿を見て笑う気にはなれないね。騒がれないのは俺も助かるしさ。
そして城砦のあった街、の場所上空に差し掛かるあたりで速度を落としてゆっくりと通過した。
「これがバータラム城砦…?、…のあったところなのね…」
灰色の景色が見えてくると、ロミさんと後ろの4名の雰囲気が静かなものとなり、悲壮な気持ちが伝わってくるような、そんな感じで斜め下を見ているのがわかった。
そしてほぼ崩れている灰色の廃墟が見えてくると、ロミさんがそう言ったんだ。
- はい。お話したように、これも雨が降る程度で残っている部分も崩れて更地になるそうです。
「そんなに脆いの?」
- そう聞いています。先に進んでいいですか?
「…ええ、お願いするわ」
少し名残惜しそうな、そんな印象を受けた。
後ろの4名は静かに泣いているようだった。
きっと思い入れがあるんだろうね。申し訳ないと、少しだけ思った。
リンちゃんたちと別れたところまで飛んで行く間に見えるもの…。
それは『タビビトゴロシ』の野、緑豊かに見えていたものが、色彩を失い灰色の地となり果ててしまったもの。中心地に行くに従って元の形すらなくなり色の無い砂漠と化したものだ。
そして中心地から離れると、ところどころに形だけがかろうじて残っているような灰色の造形物がちらほら見えるような、どう見ても『死』を形そして景色にしたものが広がっていた。
「…言葉も無いわね…、ううん、あれだけ私たちを悩ませていたものが無くなったのなら、これは良い事のはず…」
ロミさんですら、こうなんだ。
こんな景色、普通に考えたら恐ろしくて、荒涼どころかただただ死の世界としか目に映らない。
だからロミさんは、自分自身に言い聞かせるように、そして後ろのひとたちにも言い聞かせるように、そんな風に言ったんだろうと思う。
そしてそのリンちゃんたちと別れた場所に来てみると、リンちゃんは居なかった。
いあまぁ居ないってのは飛んでる途中で気づいたんだけどね。
ぽつんと地面に膝を抱えて座ってるテンちゃんが居ただけだったんだ。
テンちゃんは俺が近づいてくるのが分かってたんだろう、顔を上げてじっとこっちを見ていたけど、寂しかったのか薄く微笑んではいた。
俺たちが着陸するのに合わせて、テンちゃんも立ち上がった。
「何じゃ、其方だけではないのか…」
つまらなそうに言わないで欲しい。
「テン様、この度はご助力を賜り誠に光栄至極でございます」
ロミさんがその場に両膝をつき、両手を交差して胸に添える宗教的な儀礼をしたのに驚きながらも急いで追従した後ろの4名。
「ああ、善い、善いのじゃ。吾も少々やりすぎてしもうたのじゃ」
それを見て片手を振ったテンちゃん。
「おかげ様であれらが根絶できたのですから」
顔をあげて答えるロミさん。
「うむ。それは保証するのじゃ。しかしタケル様よ、良いのか?、この者たちに見せる事になろうぞ?」
- え?、何が?
「あれからリンはすぐに母艦へ飛んで行ってしもうたのじゃ。お、もう来たのじゃ」
と言われてテンちゃんが見たほうへ視線を動かすと、うわ…、20機ほどの編隊が姿を現して横一列に並んでた。あ、また増えた。
索敵魔法をちょっと使うと、なんと45機もいた。
それが隠蔽もせずに三角形や楕円形、それらの銀色の機体を輝かせながら高さを合わせつつ降りて来て、地上から10m程のところで静止、綺麗に並んで行くのが見えた。
「え…」
ロミさんが絶句するのもわかる。
その後ろの4名は、今度は両手で口を押えている。
何があっても取り乱すなって言われてたっけね。律義だね、このひとたち。
たぶん内心では狂いそうなのを堪えてるんだろう。
そりゃこんな光景を見たらなぁ…
そして隊列が揃ったのか、作業が始まった。
それはまるでSF映画のようだった。
噴霧器の逆というか掃除機のように灰色の砂が吸い上げられて行き、灰色の地面がごっそりと削り取られて、残ったのは灰色の斑な地面だ。
俺は索敵魔法を併用してその様子を確認しているから見えるけど、肉眼では北側の海岸線や南側の丘陵地の端までは見えない。
その端のあたりには、別の飛行機械が結界柱を植えて行っていた。
『瘴気の森』の時に俺とリンちゃんが手作業で建てたあれだ。瘴気がないとああやって飛行機械からできるんだな…。
そんなSFスペクタクルなローラー作業をぼーっと見ていると、リンちゃんが転移してきた。
「あ、タケルさま、作業は問題無く、あれ?、ロミさんを連れて来ちゃったんですか?」
- あ、うん、ご苦労様。リンちゃんから説明してもらった方がいいかなって…。
「え?、んじゃ許可はまだもらってないんですか?、もう作業が始まってますよ?」
「あ、リン様、許可など気にせずどうぞお続け下さい」
「そうですか?、あ、ロミさん、この地の今後ですが、幾つか提案がありまして――」
と、リンちゃんがエプロンのポケットから書類を取り出して説明をし始めた。
俺は少し離れてテンちゃんの隣に移動したんだけど、『我々の一般的なものとしては…』とか、『農地を多めに』とか、『宅地はこちらの丘陵地へ』とか、なんだかもう不動産セールストークにしか聞こえないような会話になっていた。
ファンタジーさんは、もうちょっと仕事をすべきだと思う。
●○●○●○●
全員で立ったまま居るのも何だしと思い、ロミさんとリンちゃんの横と、ついて来た4人の分と、俺とテンちゃんの分、それぞれにさくっとテーブルを椅子を作って座ってもらった。
ついでにポーチから水差しとコップを置いたら、4人のほうは緊張して喉が渇いていたのか、争うようにして水差しからコップに注ぎ、ごくごく飲んでいた。
まぁコップが小さいのもあるけど4人で2杯ずつ飲んだら水差しが空になるので、しょうがないなーと、こっちのテーブルに出した水差しを持って行ったら、何か言いたそうな目で見られたが無言で会釈された。4人全員から。
取り乱すなとは言われてたけど、声を出すなって意味じゃないはずなんだ。
何か言ってくれてもいいとは思うけど、言われたら言われたであれこれ説明しなくちゃいけなくなりそうだし、それはそれで面倒な気もしたので俺も黙って頷くだけにした。
それでテンちゃんの向かいに座ろうとしたら、テンちゃんが隣に座れと合図をしたので、そっちに座った。
椅子は同じ形のをテンちゃんが作ったんだろう。俺は作った覚えがないからね。
「タケル様よ、」
ちょいちょいとテーブルに置いた右手の袖を引かれた。
- はい。
「あの風の者、其方はどう思っておるのじゃ?」
ファーさんの事か…。
- どう、とは?
「其方は関わりを持った者を気に掛ける傾向があろう?、それは吾もあの時は妖精蜜だけを受け取れとは言うたが、あれしきの失敗で其方やヴェスターの顔に泥を塗ったとまで言うつもりは無いのじゃ。それに、失敗と言うなら余程…、その…、私のほうが被害が大きいのじゃ…」
なるほど。
テンちゃんとしては、大事にしたくないってわけね。ファーさんという前例を作ってしまうと、自分のほうもリンちゃんに頭が上がらないどころじゃなくなるから。
- 僕のほうは別に泥を塗られたなんて思ってませんよ。ロミさんは上に立つ立場として女官さんを謹慎させてますけど、何もそれを真似る事は無いと思ってます。
「しかしリンに任せたのならリンの下につけたとも言えるのじゃ。吾からはちと言い難いのじゃ。其方から上手く取りなさなければ、このままではあの者は返却という事になるのじゃ」
うーん、精霊さん同士の話でもあるしなぁ…。
邪魔とまでは言わないけど、俺もそこまでファーさんに思い入れがあるわけでも無いので、冷たいようだけど、返却になっても構わないという部分が無いわけじゃ無い。
可哀そうだと思う気持ちもあるにはあるけどね。
でも珍しいな、テンちゃんが何で…?
そこんとこ一応尋ねてみるか。
- テンちゃんはファーさんが返却処分になると何かまずい事でもあるの?
「う…、其方時々鋭いのじゃ…」
あるのか。
「そのような目で見るで無いのじゃ。…其方、覚えておるか?、例の品評会の事を」
- ああうん、言ってましたね。ファーさんの地元で開催するとか。
「地元…、まぁそう言えぬ事も無いのじゃ。そこに何とか吾も行きたいと思うておるのじゃ…」
ああそっか。最高級品の試食がしたいわけね。妖精蜜の。大好物だもんね。テンちゃん。
- 品評会に?
「うむ、そうするとヴェスターの責を問う形で参加をねじ込むよりは、娘はちゃんとやっておるぞと、預かっておる伝手で友好的に持って行ったほうが受け入れられやすいと思うのじゃ」
- なるほど?
「其方もあちらで恐縮されるよりは、友好的に受け入れられたほうが良いであろ?」
ん?、俺も?
- いや待って、僕も参加する事になってるの?
「ん?、其方は行きとう無いのか?」
そんな精霊さんだらけのところに行きたくは無いなぁ…。光の精霊さんの里にお邪魔した事はあったし、アンデッズの初回公演の時にもだけど、その2回で懲りたというか、精霊さんたちだらけのところに行くと、やたら挨拶されたり下に置かない態度だったりで、こっちが恐縮しちゃうんだよ。
- 別に行きたくは無いかな…。
「何…じゃと…」
そんなショックを受けるような事なのか…?
「何の話なんですか?、タケルさま、お姉さま」
リンちゃんが、ロミさんとの話が終わったのか、向かいの席に着いて言った。
ロミさんのほうは椅子を持って4人の方に行ったようだ。あっちで今後の話をするんだろう。
椅子、木でできてるわけじゃなく土魔法製で石みたいなもんだから結構重いはずなんだけど、持てるのか。身体強化できたんだな、ロミさん。いや頑張れば身体強化しなくても持てると思うけど。
- あ、例の品評会の話。僕は別に行きたくないよって言ったとこ。
「え?、タケルさま行かないんですか?」
- え?、だって招待されてないでしょ?
「そんなの、タケルさまはデフォルトで参加が決まってますよ?」
- そうなの?、聞いてないよ?
デフォルトてw
「だってタケルさま、考えてみて下さいよ。アリシア様と私、そしてアクアも参加が決まっているんですよ?、それとドゥーン様とアーレナ様もなんです。ほら、タケルさまは全員と何らかの関わりがありますよね?、加えて主催のヴェントス様からファーを預かっている身ですよ?、どうして席が無いなんて思えるんです?」
- いやそう言われても…。
「ファーを返却せず謹慎させるだけに留めているのは、このタイミングでファーを返してしまうとヴェントス様も気まずいでしょうし、私たちだって気まずくなりますからなんですよ?、タケルさまが不参加だと尚更ファーは何をしたんだとヴェントス様が気にされますよ?」
「何!?、其方ファーを返却するつもりでおったのでは無かったのか…?」
「お姉さま、説明したじゃないですか。ボケたんですか?」
「ボケて無いのじゃ、あの者を謹慎させタケル様と距離を置かせると言っておったではないか」
「謹慎中にタケルさまと接触してしまうと謹慎の意味が無いじゃないですか」
「返却予定だからではないのか…」
「違いますよ、そんな事ひと言も言ってません。やっぱりボケたのでは…?」
「ぼ、ボケて無いのじゃ、私はてっきりそうだと…」
「ファーには返却を匂わせた謹慎を言いつけていますとは言いましたよ、それで勘違いをしたんじゃないですか?」
「紛らわしいのじゃ」
ああ、それでファーさんの態度があんなだったのか…。
「それくらいしないとファーは反省しませんからね。お姉さまも察して下さいよ、それぐらい」
「う…」
「それでタケルさま、不参加なのですか?、そうすると予定が変わってしまうのですが…」
- 予定って、いつあるの?、その品評会。
「年明けの式典から10日あとですから、こちらの日付でちょうど20日後ですね」
- え?、あ、そういえば年明けってまだだったの?
「あー、人種の暦は知りませんが、我々の暦では新年1月は春なんですよ」
そうだったのか…。
「タケルさまは新年の式典には参加されないでしょうから、予定には入れていませんが、品評会にも不参加となりますと、お姉さまを連れて行く口実が無くなります」
「そ、それは困るのじゃ、タケル様よ、頼むのじゃ、何とか参加して欲しいのじゃ…」
涙目で縋り付かれた。
- あ、えっと、僕が行かないとなんでテンちゃんは参加できないの?
だって唯一の闇の精霊だよ?、それも光の精霊の長であるアリシアさんと並ぶほどの超古参。古の大精霊のはずなんだよ、こんなでも。
「お姉さまはその…、過去にやらかしたいろいろな事がありますから…」
と、リンちゃんが視線を動かすのに合わせて、俺の右腕に縋り着いているテンちゃんを見た。
「…う……」
- まぁ、何をしたとかは聞かないけど、僕と一緒じゃないとダメって事ね?
「はい。そうお母様から言われてますので…」
- じゃあしょうがないね。それにもう参加って決まってたんでしょ?
「はい。でもその、タケルさまがどうしても行きたく無いと仰るなら無理にとは…」
- そこまでは思ってないから。
「そうですか、良かった…」
ほらね、ここで断るとリンちゃんも大変そうだし、テンちゃんが可哀そうだ。
だからしょうがない。
気は向かないけどね…。
- それで、ロミさんへの説明は済んだんだよね、どうなるの?、ここ。
「あ、詳しくはロミさんにお渡しした書類に記しておいたのですが――」
と、俺のポーチにしまってあった地図をリンちゃんがエプロンのポケットから取り出して広げ、説明を始めた。
次話4-094は2022年01月07日(金)の予定です。
20220112:抜け訂正。 リンのところ ⇒ リンちゃんのところ
20250506:何か変だったので修正。
(修正前) と、見てきた限りの現状を説明した。(改行+空行)説明の途中で時々聞き返された。
(修正後) と、見てきた限りの現状を説明し始めると、その途中で聞き返された。
20250506:もひとつ。+「善い」にルビを追加。
(修正前)両膝をついて両手を交差して
(修正後)両膝をつき、両手を交差して
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
日常と言いながらここんとこありませんね…。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
デフォルトで参加だそうな。
リンはもうちょっとマネジメント業務として
報連相をきちんとすべきだと思う。
でもタケルもひとの事は言えないからお互い様かも。
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
仕事はできるんですよ。
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンの姉。年の差がものっそい。
大仕事をしたはずが、ちょっとやりすぎてしまって
でもそれがかなりメリットのある事だったと知らされて、
昔の事といい今といい、とても複雑な心境なのです。
そして勘違いしてた。
ファーさん:
ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。
風の精霊。
有能でポンコツという稀有な素材。
風の精霊の里では高位の存在なんですよ、これでも。
1500年も踊ってたんですからねー
タケルの認識はそこ止まりですけども。
返却は無いらしい。良かったね。
本人はまだ知らないみたいですが。
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
今回は名前のみの登場。
珍しくタケルが首飾りをしていないので、居ませんね。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
今回は登場せず。
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号10番。シノハラ=カエデ。
勇者歴30年だが、気持ちが若い。
でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。
お使い継続中でまた移動。
今回は出番無し。
ロミさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。
現存する勇者たちの中で、3番目に古参。
現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。
降ってわいた開発計画に、恐縮しながらも、
内心ではほくほく気分だったりします。
コウさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。
現存する勇者たちの中で、5番目に古参。
コウがこの世界に来た時には既に勇者たちは各国に散っていた。
アリースオム皇国所属。
今回は出番無し。
カズさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号6番。サワダ=ヨシカズ。
ロスタニア所属らしい。今の所。
体育会系(笑)。性格は真面目。
川小屋に到着したので登場人物に復帰。
今回は出番無し。
シオリさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号7番。クリバヤシ=シオリ。
現存する勇者たちの中で、2番目に古参。
『裁きの杖』という物騒な杖の使い手。
現在はロスタニア所属。
勇者姫シリーズと言えばこのひと。カエデは大ファン。
今回は出番無し。
サクラさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号1番。トオヤマ=サクラ。
ティルラ王国所属。
勇者としての先輩であるシオリに、
いろいろ教わったので、一種の師弟関係にある。
勇者としての任務の延長で、
元魔物侵略地域、現バルカル合同開拓地に居ます。
今回は出番無し。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号12番。ネリマ=ベッカー=ヘレン。
ティルラ王国所属。
サクラと同様。
今回は出番無し。
アリースオム皇国:
カルスト地形、石灰岩、そして温泉。
白と灰の地なんて言われてますね。
資源的にはどうなんですかね?
でも結構進んでる国らしい。
勇者ロミが治めている国。
母艦エスキュリオス:
4章056話で登場した。
ベルクザン王国内の竜神教神殿地下にあった、氷漬けの恐竜を、
その装置ごと回収するために近くに来た母艦。
4章065話で、『倉庫ごと回収』というのも、
この母艦が近くに居たままだったから。
統括責任者はベートリオ。
仕事は増えましたし絶賛大作業ローラー作戦が始まり、
大規模な都市建設といっても大した事ではないみたいですが、
優良素材が入手できたので、艦内はお祭り騒ぎです。
ウゼー:
ロミは魔物と言ったが、実は魔物では無く、ただの害獣。
この地では絶滅しました。
タビビトゴロシ:
大迷惑植物。
この地では絶滅しました。
ドゥーンさん:
大地の精霊。
詳しくは3章を。
アーレナさん:
大地の精霊。
詳しくは3章を。
ヴェントスさん:
風の精霊。
ヴェスター=ヴェントス。
ヴェントスファミリーの長。
ファーの親のようなもの。
品評会:
今回はヴェントスの地で開催される、100年に1度の、
風の精霊たちのお祭り。
ゲストに大物精霊たちが参加するのは何百年かぶりらしい。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。