4ー092 ~ 色褪せた土地
ロミさんは前日から、『瘴気の森』を上空から見てきたあのあと、この城に戻ってきてすぐにタラム地方へと出立した。何でも避難の確認やら避難場所での慰問やら今後の差配やら段取りやらいろいろあるらしい。
飛んで行く時と戻ってきたときに上から見えたんだけど、城内から外にかけて多くの騎馬や馬車、荷物を満載にした荷車がひしめいているのが見えて、一体何があるんだろうって思ったらそれだった。
準備で忙しそうにしている以外の待ってるだけのひとたちがちらほらと、俺たちが離陸の時にゆっくり浮き上がったり、戻ってきて着陸するときにゆっくり降りて来るのを指差してひそひそと何か言っているのが見えていたけど、そういうのは仕方ないね。ロミさんも何も言わなかったし。
現地では外側にテンちゃん式の結界を張って、下から見えないようにというか認識されないようにはしていたけど、離着陸時にそれだと急に消えたように見えてしまうので、見えるようにしておいてとロミさんから言われたせいでもある。
それで昨晩はロミさんが居ない夕食だった。
と言っても特に何かが変わるわけでもなく、女官長さんたちが準備をしてくれて食べ、しばらくして風呂に入って寝る。それだけだ。
いや、それだけじゃなかった。
リンちゃんが風呂以外の時間ずっと俺にべったりくっついていたのと…。
もうひとつ、久しぶりにファーさんも夕食の席に着いたってこと。
そのファーさんに、『あ、謹慎は解けたんですね』と言おうとしたら両側から袖を引かれて遮られたんで、全然話せてない。
ファーさんはその瞬間だけ笑顔になって、俺を見たけど、まるで線の切れた電球のようにすぅっと虚ろな笑顔になり、ゆっくりと正面に向き直ってた。
俺の知らないところで、精霊さん間で何の話をしているのかは知らないけど、ちょっと怖い。
そんな雰囲気もあって、向かい側にロミさんが居ないのに、こちら側の辺に4人が並んで食べるのは何だか少し妙な感じだったけど、リンちゃんが俺にあれこれ世話を焼いたり話しかけたりが、最初の頃はそうだったなーって思い出させる食事だった。
だってファーさんは姿勢良く無言で食べるだけだったし、テンちゃんはリンちゃんのそういう様子をちらっと見ては余裕の笑みを浮かべるだけで何も言わないしさ、俺もそこらへんの藪をつつきたく無いので、リンちゃんご苦労さまの意味を込めて終始相手をした。
でもやっぱりどこかぎこちない食事ってのは、何か嫌だよなぁ…。
そして今朝、リンちゃんが起こしてくれて、着替えた俺の寝間着をどこかに持って行った後、珍しくウィノアさんから『もし今日実行されるのでしたら首飾りは置いて行って下さいませ』と言われたので、部屋に置いてきた。
食事の支度を終えて待機している女官さんには、『今日は僕の部屋には入らないほうがいいかも知れません』と、言っておいた。『承知致しました』とお辞儀をされた。
あとで聞いたんだけど、女官さんたちが俺たち各自の部屋に入る事は無かったんだってさ。ロミさんから厳重に言われてたんだそうだ。
という事は、ベッドが整えられてたのは女官さんたちじゃなく、リンちゃんがしてくれてたのか…。
それで、何でそんな注意をしたかって、ほら、何か嫌な予感がしたんだよ。
ウィノアさんが関わるとだいたい大事になるからね。ちゃんと先手を打っておかないとさ、帰ってきたら女官さんたちが大騒ぎになってたら困るでしょ?
「ん?、首飾りを置いてきたのか?」
食事の時、テンちゃんがそれに気付いたみたい。
- あっはい、ウィノアさんから言われたんですよ。
「ほう?」
にやりと意味ありげな笑みを浮かべるテンちゃん。
「タケルさまが身に着けているのにですか?」
俺を挟んで左側から不思議そうな表情で俺とテンちゃんを交互に見て尋ねるリンちゃん。
「前の時消滅しかかっておったのじゃ」
「あの国境で鳥の魔物を処理していた時には何とも無かったじゃありませんか」
そう言えばそうだ。
あの時と変わらないはず。いや、範囲が桁違いだから出力もそれなりに多いとは思うけど。
「う…」
あ、失言だったっぽい…。
「前とはいつですか?、お姉さま」
俺の左腕を支えにして、ずいっとテンちゃんに顔を寄せて再度尋ねた。
「あ、いや、それは…」
「いつですか?」
しょうがない、助け船を出すか。
- あー、前にリンちゃんのペンダントが壊れた時の…。
「ああ、あの時ですか。なら仕方ないですね」
「あれはその…、悪かったのじゃ…」
「はい。それについてはもういいです。それでタケルさま?」
リンちゃんが、テンちゃんへ顔を寄せていたのを戻さずに首を捻って俺を見上げた。
- はい。
「まさか私も置いて行くなんて事は仰いませんよね?」
うわーこれ断れない笑みだ。
- あっはい、言いません。
「ふふっ、良かったです…」
そう言って姿勢を戻して…、あの、左腕を掴んでいる手も放してくれませんかね…。
右側はリンちゃんから隠れるようにしているかのような縮こまり方をして俺の右腕に縋り着いてるのが居るわけで…。
- えっと、そろそろ食べない…?
と言うのが精一杯だった。
当然のようにファーさんは留守番というか部屋に引っ込まされていた。主にリンちゃんの目線だけで。
行ってきますとか何か俺がファーさんに言おうとすると、リンちゃんかテンちゃんのどっちかが俺の袖か腕を引っ張るんだもんなぁ…。
まぁ今日のところは諦めよう。
とにかく扉の近くに立っている女官さんには『行ってきます』と言ってお城を出た。
今回はテンちゃん式の結界ではなく、テンちゃんの魔力に同調した、テンちゃん本式の飛行結界だ。
「ふふ、久しぶりなのじゃ、心地よいのじゃ」
「お姉さま」
「少しくらい良いではないか…」
「ええ、わかりますけど…」
ん?、同調魔力だと心地いいのかな?
そう言えば『初めての共同作業ですね』と言ってた時のリンちゃんは、幸せそうな表情だったっけ…。
その前のテンちゃんの時は…、んー、後ろから支えろとかやたらくっついてたな、ぐらいしかわからないな。
まぁ、気持ち悪いとか言われるよりはいいか。
余計な事を考えたり思い出したりしているうちに、現地、高地コァム地方とタラム地方を結ぶ街道、その関所だろう、高地コァム側には崖の調査などもあるそうで、そういう設備があるんだけど、そこの上空に差し掛かっていた。
前回見たときには門は開いていたっけなぁ、その関所あたりに人だかりが少し見える。そこで通行止めにしてるんだろうね。知らなかったひとたちが足止めを食らってしまったみたいだ。
そこから先、街道には誰も居なかった。川を越えてからもそう。
10kmほど行くとある、街道警備本部のあるパーキングエリアみたいなところにも、まるで集団蒸発でもしたかのように、人気のない寂しい雰囲気となっているのが見えた。
一応、残っているひとが居ないか索敵魔法をちょいちょい使って確認しながら移動してるからね、だからはっきりとわかる。
さらに街道沿いにそのまま飛び、城砦のある街の上空からも同様にして確認しておいた。
だって万が一、ひとが残ってたりしたら大変だからね。
それで見つけたのは、野良猫とネズミと野鳥だけで、ひとは残っていなかった。
ネズミってのは危機を察して逃げるって聞いてたけど、そうじゃないんだなー…。
「何か見つけられたんですか?、タケルさま」
- 野良猫とネズミと鳥がいるなーってね。
「そうですか、過去の例からすると小動物や虫、植物類はスカスカの砂のように崩れたそうですが…」
え、そうなるの?
ハムラーデル国境のときに被害を受けた木々は、枯れただけで崩れたとは聞いてないんだけど…
「…うぅ…」
…って!
- テンちゃん?、大丈夫?
「だ、大丈夫なのじゃ…、少し昔を思い出してしもうただけなのじゃ…」
- そう?、だったらいいんだけど…。
「そうやってタケルさまに甘えているだけですよ」
「むぅ…」
「それでお姉さま、小動物や昆虫も範囲に入るのでしょう?」
「うむ」
「どうなるんです?」
「どの程度範囲に入るかによるのじゃ。この街だと形は残るかも知れぬのじゃ」
「雨が降って崩れたというのは?」
「灰が固まったようなものなのじゃ、水を含めば崩れよう」
「そういう事だったんですね。そういうわけです、タケルさま」
え?、何がそういうわけなのかがわからないよ?、リンちゃん…。
- えーっと、問題無いってこと?
「はい」
「うむ、人種が残っておらぬようなら、開始予定地点まで行くのじゃ」
- はい。
一応言っておくと、街の上空で索敵魔法を使った時に、5km先の村だろう、集落周辺に天幕やら新しく作られただろう小屋やらがあり、多くのひとが居た。
ロミさんらしき反応もあったので、たぶんそこが避難所なんだろう。
土地の魔力からすると、休耕地や牧草地のようだから、短期間で森を切り開いたわけではなさそうだった。俺が心配するような事じゃないけどね。
●○●○●○●
「はい、今から、はい、お願いします」
リンちゃんがどこかに、まぁ空のどこかに退避している母艦エスキュリオスだろう、それか母艦を中継にして里に連絡とかそんなだろう。詮索はしないよ、だってそのへん詳しく知るとさ、やれ挨拶がどうの式典にご出席くださいとか、各方面からの要求をリンちゃんが抑えきれなくなるんだそうだ。こわ…。
「タケルさま、お姉さま、お待たせしました。始めて下さい」
「うむ、では前のように吾を支えるのじゃ」
- え?、国境の時は普通に、
「あの夜の時のように、なのじゃ」
あー、夜ってあの夜か…(※)
「あの夜…?」
「あ…」
「何ですかその『しまった』みたいな顔は…、はぁ…、今はいいです。する事をして下さい」
「と、とにかく腰を支えるのじゃ」
- あっはい。
そうして予定地点100m上空、飛行結界の中、俺の前に立って軽く凭れているテンちゃんの腰を両側から軽く支えた。テンちゃんは『うむ』と小さく頷いてお臍のあたりで両手を向い合せて構え、目を閉じて早口で詠唱を始めた。
テンちゃんの詠唱って初めてじゃないか?
小声で歌っているような、でももの凄い早口だから俺には聞き取れないんだけど、でも魔力の複雑な流れは何となく理解ができた。そんな詠唱が静かに終わり、テンちゃんがあの夜にしたように、両手を、まるで踊りの一部であるかのように優雅に広げた。
飛行結界の真下から、あの時は分厚い雲の下、それも夜だったのもあって視覚的には全く見えなかったが、魔力感知で見えていたあの真っ黒なカーテンのように広がる波が、音も無く静かに広がっていくのが見えた。
何と美しく、そして背筋が凍るほどに厳しい魔法なんだろう…。
それは、正しく無慈悲であり平等。光すら無にする死の魔法だ。
光の反射が無いので視覚的には蠢く闇が広がって行くように見えるが、テンちゃんに同調して飛行結界を操っている俺にはわかる。テンちゃんが指揮者のように指を動かし魔力を操り、闇のカーテンで優しく大地を覆って行くのがわかる。
その黒いカーテンの内側、闇の中は重力すらも減少しているようで、地面はめくれ上がり粉々になって舞っている。
俺は飛行結界が動かないように支えながら観察を続けた。
しかし舞っているその動きは決して激しく無く、ただそこに在るのみ。新たに浮かび上がったモノに押されても、ばらばらに溶けたようになっても、ただそこに居続ける。まるで運動エネルギーすらも闇に溶けて吸われてしまったかのような、死の空間が生まれ…いや、空間そのものすら死んでしまったかのような錯覚に陥りそうだ。
そうして観察をしている時間は思ったよりも短かったのか、テンちゃんの両手はまだ広がり切っていなかった。
やがて俺たちが浮いている真下に、スポットライトのように光が差し込み、それがどんどんと闇のカーテンを追いかけて行った。
視覚的に見えるようになっていく部分は、あれほど青々としていて白い花に黄色い実が見えていた美しい野原から一転し、灰色にきらきらと光を反射する色彩の消えた砂の地となった。
下にいた『ウゼー』という大きな動物も、『タビビトゴロシ』という草も、全て消滅していた。
俺はもう言葉も無く、テンちゃんが魔法を終えるのを待っていた…。
のだが…。
「あ…」
「お姉さま…?、これは『やりすぎ』というものでは?」
「た、タケル様ぁ…、ど、どうしよう…」
え?、えー?
どうしようって言われても…、もう遅いでしょこれw
さっきまでの凛とした神仏像のような佇まいはどこへやら、軽く支えていた俺の両手に構わず180度くるっと回れ右をして俺の腰に両手を添え、情けない表情で胸元から俺を見上げるテンちゃんに、とりあえず状況を尋ねた。
というか、実はもうテンちゃんの魔法を感知するついでもあって、だいたいの状況は感知でわかってしまっているんだよ…、わかっちゃってるんだけどね…。
- えっと、もしかして、壁は?
「…く、崩れたのじゃ…」
- 街は…?
「…く、崩れたのじゃ…」
- えっと、街道は?
「…形だけは…」
だめじゃんw
- あらま…。
と言うしか無いじゃないか。
「あの、タケルさま、あちらを…」
リンちゃんまで眉尻を下げて複雑な表情をしていた。
で、そちらを見ると…
- うわー、崖が綺麗になってるね…。
そう。まるでコンクリートで計算して作られたダムを下流側から見ているかのように、美しい円周曲線できれいに、まるでアイスクリームをぐいっと掬った跡のように、崖が広く抉り取られていた。
そしてその下は崩れた灰色の土砂が川の流れを堰き止めてしまっていて、溢れた水がこちら側の灰色の大地に染み込んで行って黒い色の染みのようにひろがりつつあった。
目線を左に、つまり街道の九十九折れの方へと向けてみたが、橋も無ければ道も無くなっている。
- あー、さすがにあれはまずいから、土木工事しておかないと…。
「わ、悪かったのじゃ…」
- いあいあ、テンちゃんはこの地に蔓延っていた厄介な動植物を掃除してくれたんだから、これは必要経費だよ。
とりあえずそう言って目の前にある頭を撫でておいた。
リンちゃんがそれを隣で不満とも笑顔とも取れない、複雑な表情で見ていた。
●○●○●○●
高地コァム、と言うだけあって、その地に住むひとたちは海抜で言うと1400mのあたりの広い台地に街があり、集落がいくつもある。
タラム地方との境界にある川はその高地から流れてきていて、この崖は台地の裾野のようなもの。海沿いのあたりは100mほどの崖が海岸線に聳え立っているが、当然海蝕があるので、海辺には小さな浜やごろごろ岩のある磯のようになっている。
裾野という緩やかな傾斜になっているわけで、橋のあったあたりは海抜120mぐらい。でも川床からみると100mぐらいの差なんだ。
昔、タラム側と同じ高さになるまで、まずある程度、斜め下に切通しを作って下って行き、崖を削って固めてというような工事を昔していたってわけ。
さぞ大量の土砂が出たんだろうと思う。途中で何度か崩れたりもしたみたいだし。
それの拠点の名残が、コァム側の関所のあったところだそうな。
で、だよ。
その関所は川まで凡そ2kmと少しある。
その2kmで、直線では無いんだけど、80mを下って橋を架けてあったわけなんだ。
九十九折れってのはその2kmの蛇行の事ね。下って来るに従って両側は広く崖を切り開いて固めていたんだ。
まぁ馬車とかが通れる道を作るんだから、それぐらいしないと上り下りができなかったって事なんだろうけど、いくら魔道具があるからってすごい工事だったんだろうね、やっぱり。
で、そいつも800mくらいが崩れて灰色の砂になっちゃってるんだよ。
川のあたりはさっきも言ったけど埋まって溢れて流れが広がってしまってる。
- 一応聞くんだけど、この灰色の土砂って土魔法の材料になるのかな…?
「はい、なります。何にも染まっていない無垢なものですから、寧ろいい素材かと」
- え?、そうなの?
「はい。昔の記録でもこの砂は大量に回収され、有意義に使われたとあります」
「何!?、そうだったのか!?」
「え?、お姉さま知らなかったんですか?」
「うむ。あの後は…うぅ、あまり思い出したくは無いのじゃが…」
「ああ、方々から後ろ指を指されたり、畏れられたりしたんでしたね」
「…う…」
- リンちゃん、その辺で。
「はい、タケルさま。なのでもし人種のほうで利用し辛いのでしたら、こちらで引き取り、代わりに他所から持ってくるか、土壌改良をして大規模な農地や宅地を作ってもお釣りが来ますよ?」
ふんすと鼻息を荒くして目を輝かせてそんな事を言うリンちゃんにびっくりだよ。
- えっと、この灰色の砂?、これそんなに価値があるの?
「あります。何せ優良素材ですから。タケルさまはあそこの道を修復されるのでしょう?、試しに少し造られてみてはいかがですか?、これらがいかに優秀な素材であるかがわかるでしょう」
- あ、うん。じゃあやってみるよ…。
と、無事だった高台というか街道のところに着陸して、俺だけでひょいっと飛んで崩れたところへ行き、浮いたままで範囲設定やらをイメージして前にあった道を、リンちゃんから借りている杖と作っておいた地図を取り出し、それを見ながら同じような形状に造り上げた。
うぉ、マジだった。スゲーやりやすい。
石や砂を土魔法で取り込む際には、そのまままるごと包んでしまうか、含めて加工してしまうかでかなりの魔力消費に差が出る。包んでしまうだけでもいいんだけど、強度が必要な場合には、鉄が無くて鉄筋を入れられないから、含めて一体化させた方が良いんだ。
そうする場合には、元の石や砂に魔力を染みわたらせなくてはならない。
以前、地中に食い込む結界障壁を作るのに、その部分には瘴気や自然の魔力があると邪魔だから押しのけなくてはならないって話をしたと思うけど、それと同じなわけ。
この灰色の砂、『死の灰』なんて言っちゃったらテンちゃんが悲しむと思うので灰色の砂って言うけど、こいつはさっきリンちゃんが『無垢』とか『優良素材』って言ったように、魔力を通すとすっと入る。抵抗なんて無いんだ。だからやりやすいってわけ。
なるほど、だからあんなに目を輝かせて鼻息荒くなっちゃうわけだよ…。
とか何とか言ってる間に、街道や橋の崩れてる部分まで元のよりもしっかりしたいい道ができてしまった。
あ、でもこれ、タラム側の街道全部やり直すのは大変だな…。
そこらへんをちょっとリンちゃんと相談しよう。
「見てましたけど、あんなところまで造る必要は無いと思いますよ?、タケルさま」
呆れられた。
テンちゃんは複雑なのか、呆れてるのかしょげてるのかよく分からない表情で俺を見ている。
- いやー優良素材って言ってたけど実感したよ。すごいねあれ。
「そうでしょう?、でも回収するなら早めにしないと、どんどん自然の魔力を吸収していくんです」
- あ、そこで相談なんだけどさ、今からロミさんのところに行って説明するんで、街道や土地改良?、あと、まぁ一部の建設やら何やら、リンちゃんのほうで何とかできない?
「え?、それって、回収しちゃっていいってことですか?」
- あ、うん、ロミさんに一度話してからになるけど、たぶん首を横には振らないと思うし、回収作業が早い方がいいって言うなら、もう着手しちゃっていいんじゃないかな、こっちの崖の方からずいーっと。
「そうですか!、タケルさまがそう仰るのでしたら是非もありません!、では早速」
言うが早いか右手を電話のジェスチャーにして早口で連絡をし始めた。
あ、これ急がないと、ロミさんに伝えなくちゃ。
- あ、テンちゃんはどうする?、一緒に来る?
と、尋ねると、ちらっとリンちゃんを見てから、『もう少ししてからにするのじゃ…』と言った。
ああ、やりすぎちゃったってところもあるから、ロミさんに会いたくないんだろうね。
利点もあるから大丈夫だとは思うんだけども。
- じゃあちょっとロミさんに話してくるね。
と、ふたりに目線を送ると、テンちゃんはこくりと、リンちゃんは早口で喋りながらうんうんと頷いた。
次話4-093は2021年12月31日(金)の予定です。
(作者注釈)
※ あの夜か…
4章024話を参照
2kmで80mの高さを下る場合、直線ですと勾配は2.291度。
これでも緩やかな坂なのですが、荷馬車などにとっては、
長く続く坂道は厳しいのだそうです。
それにより、蛇行して平らなところを作る事で、
休憩ができるように設計していたわけですね。
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
今回も入浴シーン無し。そろそろあってもいいんだけど…
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
精霊さんたちと人の間の仲介役?
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
また仕事が増えてませんか?
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンの姉。年の差がものっそい。
大仕事をしたはずが、ちょっとやりすぎてしまって
でもそれがかなりメリットのある事だったと知らされて、
昔の事といい今といい、とても複雑な心境なのです。
ファーさん:
ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。
風の精霊。
有能でポンコツという稀有な素材。
風の精霊の里では高位の存在なんですよ、これでも。
1500年も踊ってたんですからねー
タケルの認識はそこ止まりですけども。
返却の危機、継続中のようですね。
パンと水だけというのは解除されたっぽいけども…。
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
今回も声がちょろっと。
まぁ大人しいだけでずっとタケルの首盛りに分体が居ますからね。
そして自分から置いて行ってというぐらいに、
テンの魔法がトラウマになってしまってます。
厳密には前に消滅した分体と今の首飾りに居る分体は別なんですが、
別だけど同じなんです。ややこしい。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
今回は登場せず。
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号10番。シノハラ=カエデ。
勇者歴30年だが、気持ちが若い。
でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。
お使い継続中でまた移動。
今回は出番無し。
ロミさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。
現存する勇者たちの中で、3番目に古参。
現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。
タケルを働かせるためにせっせと根回しや書類発行やらで
仕事が大量に増えています。
ちゃんと現地に来るところはいい皇帝なんでしょうね。
今のところ、陸路では帰れなくなってますが。
コウさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。
現存する勇者たちの中で、5番目に古参。
コウがこの世界に来た時には既に勇者たちは各国に散っていた。
アリースオム皇国所属。
今回は出番無し。
カズさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号6番。サワダ=ヨシカズ。
ロスタニア所属らしい。今の所。
体育会系(笑)。性格は真面目。
川小屋に到着したので登場人物に復帰。
今回は出番無し。
シオリさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号7番。クリバヤシ=シオリ。
現存する勇者たちの中で、2番目に古参。
『裁きの杖』という物騒な杖の使い手。
現在はロスタニア所属。
勇者姫シリーズと言えばこのひと。カエデは大ファン。
今回は出番無し。
サクラさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号1番。トオヤマ=サクラ。
ティルラ王国所属。
勇者としての先輩であるシオリに、
いろいろ教わったので、一種の師弟関係にある。
勇者としての任務の延長で、
元魔物侵略地域、現バルカル合同開拓地に居ます。
今回は出番無し。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号12番。ネリマ=ベッカー=ヘレン。
ティルラ王国所属。
サクラと同様。
今回は出番無し。
アリースオム皇国:
カルスト地形、石灰岩、そして温泉。
白と灰の地なんて言われてますね。
資源的にはどうなんですかね?
でも結構進んでる国らしい。
勇者ロミが治めている国。
母艦エスキュリオス:
4章056話で登場した。
ベルクザン王国内の竜神教神殿地下にあった、氷漬けの恐竜を、
その装置ごと回収するために近くに来た母艦。
4章065話で、『倉庫ごと回収』というのも、
この母艦が近くに居たままだったから。
統括責任者はベートリオ。
仕事に終わりが見えた矢先、
また増えたようですよ。
ウゼー:
ロミは魔物と言ったが、実は魔物では無く、ただの害獣。
詳細は前話参照。
この地では絶滅しました。
タビビトゴロシ:
大迷惑植物。
詳細は前話参照。
この地では絶滅しました。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。