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1ー023 ~ 連携

 先頭のエッダさんが片手を上げた。雰囲気が緊張へとシフトした。

 そろそろと音を立てないようにしてクラッドさんが盾を構えて前に出る。

 エッダさんが弓の弦を張る。サイモンさんはおもむろに――ゆっくりと音を立てないように――剣を抜いた。

 それぞれの位置に自然と動き、フォーメーションが完成したと同時に合図することもなく4人が進みだした。


 魔力を感知しているのでわかる、前方のカーブの向こう側、小部屋から出てくる魔物が2匹。二足歩行もするトカゲのでっかいやつだ。元の世界でいうリザードマンとは少し違う。角あるしな。でもまぁ分かりやすいからリザードマンでいいかもしれない。あとで魔物の名前を訊いてみよう。


 ギルドで聞いていたこの『ツギのダンジョン』で1層、つまりここだが、一番多く生息する魔物は、角のある中型犬ぐらいのサイズのトカゲだと聞いていた。

 それが人間大の、しかも二足歩行『も』するトカゲが居た。

 それもダンジョン入り口からそう距離がないようなところに、だ。


 やはり何かダンジョンに大きな変化が発生しているような気がする。






 エッダさんは地図の情報に加えて、かすかな音や気配を感じ取っているのだろう。

 合図のためか、クラッドさんの背中に片手をあてている。


 まだ距離にして150mほどある。ゆるいカーブなので見えるようになるまではまだ距離があるが、見えたら先制攻撃、というような距離ではないだろう。


 俺とリンちゃんはさっきエッダさんが片手を上げた位置から動いていない。後方の安全確保をするためだ。


 最初のうちは手出し無用、と言われていたしな。


 プラムさんが立ち止まる。どうやらその位置で魔法の判断をするようだ。






 カーブの内側の壁に沿って隠れるような形で待つ3人、少し後方に位置して腰ほどの高さの岩に身を(かが)めているプラムさん。


 向こうの動きが少し変わった。『ギャ、ギャ』と小さく声がした。

 何か感じ取ったのだろう、匂いとか、赤外線とか。


 急に2匹が1列になり、四足で走ってきた。もうすぐ姿が見える。


 見える寸前、クラッドさんが大楯を地面に突き立てた。

 四つん這いだったトカゲが立ち上がり、大顎を開いて上から襲い掛かった、うぉ、でかい、2m越えてるんじゃないか?


 エッダさんの弓が鳴った、トカゲAの口の中に矢が飛び込んだ。『ガー!』って言ってる。

 トカゲAが横に倒れた、でもまだ生きてる。トカゲAの尻尾が大楯に当たった、すごい音だ。でも耐えてる。


 トカゲBが向かって右側から回り込んでくる。

 サイモンさんがそれに対処するため油断なく剣を構えている。


 エッダさんの弓が再度鳴った。トカゲBはわずかに避けた。矢は鱗に弾かれた。

 サイモンさんがその隙を狙ってトカゲBに剣を突き出した。首のあたりに刺さった。


 トカゲA・Bの動きが鈍る。あ、プラムさんの魔法か。なるほど。


 サイモンさんが何度も突く。トカゲBが倒れた。たぶん致命傷だろう。

 トカゲAの上に倒れたようだ。『グェ!』とか聞こえた。


 いいタイミングでクラッドさんがトカゲAの頭部に大楯を振り下ろした。


 戦闘終了だろう。会敵してからほんの20秒ぐらいだ。一瞬と言ってもいいぐらい。


 「どう思う?」

 「こいつらって2層でもめったに出ないやつじゃなかったっけ?」

 「ここまだ1層入ってすぐだよ?」

 「思ったよりまずいな」

 「こりゃあまず生き残ってないだろうな…」


 歩いて近寄るとそういう会話が聞こえた。

 生き残ってない、ってのは何日も前にこのダンジョンに入って、帰ってきていない冒険者チームのことだろう。そう聞いている。


 最初に帰ってこなかったのは1チームだったそうだが、それはまぁよくある不幸だそうだ。なので大して気にはされなかった。


 だがここで活動している大手のチームが十数名で入り、翌日数人だけがぼろぼろで戻ってきて情報を持ち帰ったため、異変が発生しているとわかったんだそうだ。


 そして2チーム合同で10名が調査に向かった。これが3日前のことだ。


 さらに現在、俺たちが調査に入ったわけだ。


- どんな感じです?、何匹ぐらいまでいけそうですか?


 「タケル君…、いや、キミの実力は昨日知ったがね、慢心は危険だよ?」


- あ、いえ、そうではなく、どちらかというと皆さんの力を温存したいなと思ったんです。慢心とかではありません。


 「ふむ、続けて?」


- この先、そうですね半時間ほど普通に進んだ先ですが、地図に写し取った範囲のさらに奥なんですが、ここの倍ぐらいの大きさの部屋と短い通路に小部屋がそれぞれ隣接しているんです。


 「ほう?」


- そこがこいつらトカゲの拠点のようになってまして、小部屋は5つ、それぞれ中に2匹、中央部屋に4匹います。


 「つまり14匹もいるってのか!?」

 「ちょっとそれは…!」

 「2人とも落ち着け。タケル君はそこをどう越える?」


- 石の弾丸でさくっと倒そうかなと。


 「「な…」」

 「それで余ったのを僕たちに任せようという質問かい?」


- そこに到達するまでに小部屋が6つ、そこにはそれぞれ2匹か3匹いたり、うろついたりしていますので、まずそれらを僕とリンに対処させてもらえませんか?、その上でその部屋の攻略方法を考えましょう。どうですか?


 「ふむ、わかった、皆もそれでいいか?」

 「ああ」 「うん」 「はい」


- あ、それと、申し訳ないのですが、僕たちトカゲの素材とか解体とかよくわからないんで、お任せしちゃってもいいですか?、あ、もちろん収穫したものは要りません、荷物はもちますが。


 「いやそれはさすがに悪いだろう、荷物を持ってもらっている以上は、獲得したものはすべて均等割りするのが普通なんだが…」

 「今回2チーム合同っていう形になるし、ギルドからの依頼でもあるからね、チーム割をする場合もあるんだよ」


- ではそのあたりも含めて、あとで話し合いませんか?、今晩の野営時にでも。


 「うん、そうだね。わかった」






●○●○●○●






 「なぁ、お前らあの石の弾丸、見えたか?」

 「全く見えなかった」

 「音がしたと思ったらトカゲが死んでたね」

 「ものすごい魔力でした…、それを一瞬で構築されてましたよ…、自信なくしそう…」

 「さっき、リンちゃんは何もしてなかったよな?」

 「うん、立ってみてただけ」

 「勇者ってなぁこんなに規格外なのか?」

 「「「さぁ…?」」」


 何やら見られているようだけど、今ちょっと忙しいんだよね。1層全部のマッピング中なんだ、これが。

 羊皮紙たっぷりギルドからせしめて…いや、頂いてきたんだよね。このために。

 ギルドにあった地図、見せてもらったし、たぶんエッダさんかサイモンさんが持ってると思うけど、書き込みは多いし縮尺はばらばらだし、雑な所と詳細なところがごっちゃになってて、ひじょーに見辛いんだよ。


 東の森のダンジョンの、兵士さんの詰所にあった地図はもうちょっとちゃんとしてたけどなぁ…。


- よし、1層の地図、これで全部です。どうぞ。


 「あ、うん、ありがとう。うーん、ざっと見ただけでもギルドの地図と相当変わってるな」


- そんなに違います?


 地図の癖みたいなのあるからなぁ、多少手抜きしてる部分もあるし。


 「ほら、例えばさっき言っていた小部屋が周囲にある部屋とか、こっちはギルドの地図だが、無いだろう?、これはもうギルドの地図は役に立たないと見ていいだろう」


 あ、そっちの意味でしたか。それなら安心かな。


- なるほど、そうですね。それで、剥ぎ取り終わりました?、どれとどれが荷物ですか?


 「あ、ごめんもうちょっと。皮がもう少しかかる。待ってもらえるかな?」


- はい。あ、終わったもの収納しますよ?


 「それはこっちに、防水布とロープ出してくれるかい?」


- あっはい。(どさどさ) どうぞ。


 「うん、ありがとう」


 何だかプラムさん以外がちょっとよそよそしい感じ。何だろう?、どうしたのかな。






●○●○●○●






 そして小部屋6つ目が今終わったとこ。


- すみません、剥ぎ取りばかりやらせるみたいになっちゃって…。


 「い、いや、いいんだよ、楽させてもらってるし。ははは…」

 「ま、魔力は大丈夫なのか?」


- はい、全然平気です。まだまだガンガン倒せますよ。


 「そ、そうか、ならいいんだ。ははは…」


- 剥ぎ取り、大変じゃないですか?、何なら教えてもらえるならお手伝いしても…。


 「いや、いいんだよ!、倒してくれたのはタケル君様なんだから」

 「そ、そうよ、あたしたちだってこれぐらいしなくちゃ、ね?」

 「お?、ああ、それにきれいに倒しているから、皮なんかいい値段になるぞーこれ!、なぁ?」

 「うん」 「そ、そうだな」


- 何か申し訳ないっていうか…。


 「大丈夫!、タケルく…様はそちらで休んで、休んでください」


- そうですか?、んじゃお言葉に甘えて少し休憩してますね?


 「「「どうぞどうぞ!」」」


 プラムさんだけは黙々と剥ぎ取り作業をしているが、どうも他3人の態度がおかしい。

 『タケル君様』って何だよ…、呼び方まで変わってきちゃったんだけどどうしたもんかな。


 「タケルさま、お茶の用意ができました」


- あ、うん、ありがとうリンちゃん。あ、そうだでっかい桶ある?、んとタライみたいなサイズの。それと手桶。あと石鹸。


 「ありますが、何をなさるんです?」


 と言いながらタライと手桶と石鹸を出すリンちゃん。


- ありがとう。んじゃこれサイモンさんたちんとこ持ってって水いれておいとくわ。


 必要だよね、やっぱり。さっきまで手ぬぐいで拭ったりしてたの見てたけど、手とかナイフとかぐちょぐちょだったし。


 「それぐらいでしたらあたしがやりますよ?」


- そう?、んじゃお願いしていいかな。


 「わかりました!」


 あ、リンちゃんヒマだったのね。何となく嬉しそう。


 それはそうと、皆との仲がギクシャクしちゃったのは何だろうね?

 このままだとやっぱりよくないよね。


 プラムさんは態度変わってないから、ちょっと呼んで相談してみようか。






 というわけで呼んできてもらった。


- 作業途中なのにすみません。あ、お茶どうぞ。


 「ありがとうございます。で、何でしょうかタケル様」


- どうしてかだんだんとサイモンさんたち3人の態度がギクシャクしてきてるので、どうしたのかな、って。どうにもこういうことは鈍感なので、もしかして何かしでかしてしまったのかなって心配になったんです。何か思い当たることはありませんか?、何でもいいのでお願いします。


 「んー…、ああ、もしかして…、」


- もしかして?


 「自分を一瞬で粉砕できる魔力を持った人が隣にいるという事実に今更気付いて、タケル様を怖れているのではないかと…」


- へ?


 「誰しも、自分より圧倒的に強い存在に対して、それまでは多少腕のある年下の、経験の浅い、あ、申し訳ありません」


- いえ、事実ですから。それで?


 「はい、年下の冒険者に対するような態度だったわけですから、あの3人もこんなケースは経験がないので、どうしていいのかわからなくなって、ああなってしまったんじゃないかなと思います」


- ふむ…、それもそっか、分からなくはないかな。なるほど、もしそうだとして、僕はどうすればいいんでしょう?


 「タケル様はそのままでいいと思います。私から彼等に言い聞かせてみましょう」


- あ、そうですね、間にプラムさんが入ってくれたほうがいいですよね、同じチームですし。


 「はい」


- んじゃお言葉に甘えますが、よろしくお願いします。なんかこのままギクシャクしてたらまずいかもしれないですし。2層とかまだあるわけですから。


 「そうですね、タケル様の心配もごもっともです。お任せください」


 よし、これでなんか安心できそう。






20180521 文言修正。

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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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