4ー091 ~ タビビトゴロシの野
さらに話を聞いてみると、昔はさっきも言っていた、油をかけて火をつけて焼いてから耕す、いわゆる焼畑農業だったらしい。
「現在は陛下から魔道具が貸与されておりまして、そういうやり方はしなくなりましたが…」
その魔道具というのは元の世界でも見かける事がある、雑草も細かく切って鋤き込む方法だそうだ。トラクターなどに取り付けて引っ張ってどばーっとやるあれだね。こっちは魔法技術があるから引っ張るのが牛馬でも効率はいいんだってさ。
それで、別の場所で作っておいた腐葉土を撒き、時間を置いてからまた耕すらしい。
へー、あるんだ腐葉土。すごいなロミさん…。
「陛下にご指導を受けた農業技術者が派遣されてから、連作障害も減り、ここタラムでの収穫は年々増加しているのです」
と、そこは笑顔で言われた。
さらには堆肥も作っているらしく、それを作物によってブレンドしたものが使われているとか説明された。
もうそこまで行くと俺にはさっぱりだ。
そうなんですかと適当に相槌を打つ俺に、たぶんその農業担当責任者だろう彼は急に表情に影を落として言う。
「しかし『タビビトゴロシ』の生えた土地にそのような事をしてしまうと繁殖の手助けにしかならなかったのです…」
ああそうか。
焼いても粉砕してもダメなんだから、魔道具で鋤き込む農法が裏目にでちゃうのか。
そこに肥料を撒いたらそりゃ育てているようなもんだろうね。
作物の種や苗を植えても生存競争に勝てるわけが無いし。
コウさん率いる戦士団が派遣されてきた時、最初に油を撒いて焼き払おうとしたんだそうだ。
ここまで広範囲に猛威を奮っている『タビビトゴロシ』の土地は、一部でもそうすると燃え上がった上昇気流によって種が運ばれ、灰と共に周辺の土地に降り注いでしまい、大変な事になるから止めてくれと、この地の人々総出で抵抗し、何とか止めてもらえたんだってさ。
現在は街道に作られた壁もだけど、ここの街壁でなんとか食い止めているようで、もし水際対策の手を緩めてしまうと、街道をさらに離れた場所に作らなくてはならなくなるし、街も放棄せざるを得なくなってしまうのだと彼が言うと、列席者全員が険しい表情になった。
「もう我々には後がないのです…」
ロミさんへの訴えを続けて、対策に収益の多くを取られ、それでも食い止め切れていなかったんだと。
そこにロミさんから頼れる有力な人材を行かせるから話をしてみろと手紙が届いたんだってさ。
誰だよ頼れる有力な人材って…。
最後の希望とか言われてもなぁ…。と、ちらっと隣のテンちゃんに目をやると、テンちゃんもこっちを見てにこっと笑顔。うん、癒されるねぇ…。
とりあえず調べて来ますと言って会議室を出た俺たちだけど、その出る前にロミさんから渡された箱を会議テーブルの上に置き、ロミさんからですと言っておいた。
普通は会議が始まる前にそれを渡し、中身に目を通してもらってから会議するもんじゃないのかと疑問に思ったけど、事前に重要な事は通達されてあったみたいだし、まぁたぶん俺がいろいろ無茶な要求をするかも知れないから覚悟はしておきなさいとか、そういう内容だろうと思う。
『何とかできるものならあの地を沈めてしまってもいいわよ?』
などと無茶苦茶言ってたし。
冗談だと思いたかったけど、目は笑って無かったのがなぁ…。
●○●○●○●
「繁茂しているところに足を踏み入れるなら、靴やズボンは焼却し、灰はあの地に捨てる覚悟をして下さい」
と言われた。
どこでかと言うと、街道沿いにちょこちょこある対策分所のうち、ちょうど街と川の中間あたりにある一番大きい建物、街道警備本部でだ。
と言っても木造の2階建て程度。一応街道の停留所もあり休憩所にもなっていて、広場になっているところの周りには飲食店らしきものや売店などもある、まぁ言ってみりゃ高速道路のパーキングエリアみたいなもんだ。
街道沿いに作られたその場所の向かいは、ひと際高く作られた壁があり、少し奥まったところに扉があり、そこにも小さな詰所がある。
常に兵士、ああアリースオムでは戦士だっけ、それが厳重に警備をしているってわけ。
何でって、旅行者が勝手に入り込まないように、だろうね。
それで、先のように言われたのは、過去の例として、実を取ってきた者の足跡から生えてきて、当時のその村落がタビビトゴロシの繁殖により村を放棄する羽目になった事があるらしいからだ。
足跡から生えて来るってどんだけしぶとい草なんだよ…。
神話などに出てくる豊穣の女神や草木を司る神様とかそんなのをちょっと思い出したけど、それとは全然意味が違うね。
- 大丈夫ですよ、地面を踏んだりしませんから。
「え?、では許可証は…?」
- あ、それは一応下さい。あそこの扉は使わないというだけですので。
「あの、燃やしたり壁を壊したりはしないで頂けると…」
- 大丈夫ですって、そんな事はしません。あと、ここは屋上ってありますか?
「はい?、屋上…、あ、洗濯物を干す場所ならありますが…?」
- 案内してもらえます?
「はぁ、構いませんが…」
何を言ってんだコイツはみたいな表情をされたけど、俺が出入りをするのにそこを利用しようと思ってるだけなんだ。
というのも、ここに来た時、広場に着陸したらえらい騒ぎになったんだよ。
いや、そんな勢いをつけたわけじゃなくてね、巡回にはドーベルマンみたいなでかい犬が一緒みたいで、その巡回チームがちょうど居てさ、吠え掛かられるわ囲まれるわ武器を向けられるわ怒鳴られるわで大変だった。
スゲー怖かったよ?、いそいで障壁を張ったらその障壁に前足をつけてよだれ飛び散らかしてガウガウ吠えまくられてさ…。いやー、ビビったわ。マジで。
テンちゃんは小さく『ひぅ』って息を呑んでから俺の腕に顔をうずめてしがみ付いてた。右腕はそれは幸せだったけど、そんな場合じゃなかったから気にしていられなかった。
それはそうと貴女、古の精霊でしょ?、年なんて何万どころじゃない桁の精霊。
それがでっかいと言っても犬、それにがうがう吠え掛かられてこの有様だよ…?、可愛いからいいんだけど、何だかなぁ…。
という事があったんで、どこか離着陸しても邪魔にならないところは無いかなって思ってたわけ。
で、案内してもらった屋上の物干し場。うん、柱があってロープが張ってあって、衣類が掛かっている。どうみても物干し場だね。木造建屋の2Fからウォークインアウト可能な木造デッキだ。
正面からは2Fの後ろ側にあたるので、見えない位置。南向きで日当たりいいね!
「こちらですが…?」
わざわざ洗濯物を取り込んで新たに干す作業をしていた男女の手を止めさせ、デッキから室内に呼んで壁際に整列させてから俺を呼んだんだよ、このひと…。
それで『少しお待ちください』だったわけか。
そんな事をするもんだから、何この人どこの偉い人?、みたいな無遠慮な視線に晒されてる俺とテンちゃん。
まぁ案内してきた役人のひとをいれて5名だけど、俺とテンちゃんにちらちらと視線を彷徨させているのが露骨すぎてわかりやすい。
案内のひとはまだ、何するんだこんなとこ見て、みたいな怪訝そうな表情を隠そうともしていないしさ…。
- ここって日中はずっと洗濯物が?
「ずっとではありませんが、早朝から昼過ぎまではほぼ、干したり取り込んだりですね」
壁際に立っている4人のうち、一番年嵩の女性に目線で頷き合いながらそう答えた。
- ちょっと見てきてもいいですか?
「どうぞ?」
離着陸のスペースというか、飛行結界を張れるサイズが欲しいだけなんだけどね。
まぁ工夫次第でどうにでもなるといえばなる。
なのでもうここから出入りするのは俺としては決定なんだけども…。
いくつか洗濯物が干されている間を抜けて端を見る。ロープは取り外しが可能なようで、洗濯ばさみの数を減らすためなのかどうかは知らないけど、袖を通したりもするようだ。長袖はハンガーみたいだけどね。
奥は柵があって、うん、ロープ1本分外してくれれば楽に離着陸ができそうだ。
だってぎりぎりまであるんだよ…。
今はそのロープは外されている。
- あの、今日だけでいいので、一番奥のロープだけ、外したままにしておいてもらえませんか?
「今日だけですか…?」
と鸚鵡返しに言ってから、また目線で合図し合っている。
「今日だけでしたら何とか。何をされるおつもりでしょうか?」
- ここから出入りするだけですよ。ではちょっと行ってきます。
そう言ってまたテラスじゃなかった、物干し場の奥に行き、テンちゃんが俺の右腕に軽く手を添えたのを準備OKと考えて、小さく飛行結界ではなく足の下に張った障壁で浮かび上がってから、今度はテンちゃん式の飛行結界を新たに作って『タビビトゴロシ』の草原へと向かった。
また例によって驚いた声やらがしていたけどね。
上空高くから見る前に、低空、と言ってもここにやってきた時より少し低い程度、地上20m程度のあたりで一旦静止して、少し観察をした。
何をって、『ウゼー』という動物の群れだね。
飛行結界に穴を開けるのはちょっと気分的にイヤだったので閉じたままなんだけども、それでも聞こえてくる低音の『ンモー』、高音の『ンマー』、中音から高音にかけての『ンゼー』がうるさいの何の…。
「何なのじゃ…、こんな動物が居たのか…」
テンちゃんも知らなかった様子。
何というか癇に障る鳴き声だというのが最初の印象だ。
こりゃ『ウゼー』って名前になるのもよく分かる気がする。
飛行結界、以前のよりもテンちゃん式だから分厚いんだけどね。それでも聞こえてきてこの鬱陶しさ。
眼下ではとにかく食べ、食べる合間にその鬱陶しい鳴き声を発しているのがよく見えた。
それだけ食べているのに、『タビビトゴロシ』は減っている様子が無い。
普通なら牧草とかだと、例えばヤギやヒツジなどの群れを草地に放つとそこの牧草を食べ尽くしてしまうので、日によって違う場所へ誘導するわけなんだが、眼下の群れはどうしてるんだろう。
おそらく食べながら群れごと少しずつ移動しているんだろうけど、その痕跡が見当たらないんだよ。
食べた後に生えてきたり、残った部分が再生する速度が尋常じゃ無いって事だろうか…?
そんなだとすると、本当にとんでもない植物だ。毒草だし。トゲあるらしいし。
『ウゼー』のほうも肉は毒があって食べられるところが無い、皮にも利用価値が無い、かろうじて骨ぐらい?、それも手間暇かけて『タビビトゴロシ』の野に入ってまで狩るようなものではないし、内臓を埋めたらそこから『タビビトゴロシ』が生えてくる。内臓を燃やしたものを埋めても同じ。
この動物のいいところってったら、『タビビトゴロシ』を大量に食べるところだけど、排泄物から生えてくるのでは意味が無いどころの話では無い。
何て厄介な組み合わせなんだろうね、改めて目にすると余計にそう思うよ…。
「もういいのじゃ、魔力はもう充分識ったのじゃ、早く離れるのじゃ」
- あっはい。
テンちゃんに腕を揺らされて急かされたけど、俺もそう思ってたよ…。
だいたいの中央位置の真上、相応の上空から広範囲索敵魔法を使い、地域全体を出掛けに貰った大きめの羊皮紙に焼き付けてみた。
すると、目で見ただけでは判別できなかった、元は村があった場所だとか街道から分かれて道になっていた場所が薄く判るようになった。
焼き付ける時の都合もあって、両手で広げて見ているわけで、それを横から覗き込むテンちゃん。
「吾が手を貸すと、こういう範囲に影響が出ると思われるが、良いのか?」
当然のように俺もテンちゃんも、その気になっているわけなんだが、そう、テンちゃんの魔法でもって、この地の動植物から土中の細菌まで全て死滅…、って言ったらまたテンちゃんが涙目になるので、処理してしまおうという事なんだ。
まぁ他に方法が無いわけじゃないんだろうけど、思いつかないんだよ。
リンちゃんたちに頼む方法もあるだろうけど、その場合はまた、とんでもないSFスペクタクルな展開になりそうだし、ここの地域全体を結界で包んでから、なんて事になると、また結界柱を立てる作業やら、騒音やら現地調査やら大変になりそうというのもある。
何より上空に停泊中の母艦エスキュリオスの精霊さんたちが大変だ。
その点、テンちゃんの魔法だと植物も種も処理できるし、あ、もちろん光の精霊さんたちだってちゃんと処理はできるだろうけどね、俺としては手間が少ないという利点を推したいね。
- え?、1回でやっちゃうつもりなの?
「こういうのは一気にやってしまわぬと再生するものなのじゃ、その場合は、アクアよ」
『はいヌル様』
おおう、久しぶりに首飾りから声がしたよ。びっくりした。
「わかっておると思うが…」
『はい、その時は充分距離を取り避難致します』
「うむ。ところでタケル様よ」
- はい。
「ここで吾が力を少し揮うとなると上に居るベートリオに気付かれ、あとでリンから文句を言われると思うのじゃ…」
- あー、許可を取ってからにした方が良さそうですね。
「うむ。あとは、万が一があってはならぬゆえ、この地域から退避させるべきなのじゃ」
あ、それもそうか…、これはロミさんにも伝えた方が良さそうだ。
- それって、この地図で言うとどれぐらいなの?
「んー、もう少し分布を調べてからの方がいいと思うのじゃが…」
と、地図の方を見るテンちゃん。
そしてすぐに顔を上げた。
「リンが持っていた端末のような、魔力量の分布はわからぬか?」
あー、あれかー…。
- んー、ちょっと意識してもう一度作ってみますね。
うむ、と頷くテンちゃんに丸めた地図を渡し、新たに取り出した羊皮紙に、これまた新たに広範囲索敵魔法をやり直してから、等高線や等圧線のような感じになるような線を段階的な指標を付けるつもりで焼き付けてみた。
と、言葉では簡単に思えるかも知れないけど、実はなかなか大変だった。
何度か索敵魔法をやり直したりした。
植物の魔力なんて今までそれほど意識なんてしてなかったからね。普通か、ちょっと多いかなーぐらいなもんだ。そこらの草木とダンジョンや『瘴気の森』の木々についての差、その程度しか認識してなかったんだよ。
それに、例の『ウゼー』という動物の群れもある。
動物の方が植物よりも保有魔力が多いからね。ものによるけども。
あと、土地自体に含まれている魔力もある。
それらを何となくフィルタリングするみたいにして、魔力の狭い範囲で差を認識し、地図に焼き付けるんだから、大変なんだよ。
でも何とか見える形にはなった。
「ほう、言ってみただけなのじゃが、結構上手くできるものなのじゃ」
何だよ…、結構頑張ったのに…。
- でも結構誤差ありますよ、これ。
フィルタし切れなかったのも記載されてしまってるからね。
「いや、だいたいわかったのじゃ。このあたり、結構範囲があるが、その中心を基点とすれば、半径12kmの円形ですっぽり収まるのじゃ」
テンちゃんの示した場所、そこは地図でみた地形的な中心点よりは西側にだいたい1kmちょい離れた地点だった。
- え、かなり大きいよね?、それ。
半径12kmの円ってったら、ざっと450平方kmだ。めちゃくちゃ広い。
「おそらくじゃが余裕を持たねば再生すると思うのじゃ」
- なるほど…。
他ならぬテンちゃんがそう言うんだから、そうなんだろう。
そうすると川からタラム地域側の街道は全部どころか、その北側にある丘陵地の半分ほどが含まれていて、海のほうも浜から5kmちょいぐらいの範囲まで含まれている。
俺たちが最初に訪れたあの城砦のある街もすっぽり入ってしまっている。
問題は、その街の東側一帯と、街道の北側にちらほらある畑、それと丘陵地はおそらく牧草地になっているんだろう、開墾されたように森が切り開かれているからね。
こりゃあ、大変だぞ…?
街道の中心地に戻り、物干し作業をしていた2人に驚かれながらも階段を降りてあの案内のひとがいた部屋へ行くと、『いやはや勇者様というのはとんでもないですね』と言ったあと、『この目で見ましたがまだ信じられませんよ…』と、何故か輝いた瞳と笑顔で右手を左胸に添えた姿勢で言われた。
「案内の者が飛んでこられたと言っていたのは例え話では無かったのですね…」
- えっと、まだ決定ではありませんが、何日かして命令書が届くと思います。
「はい!、ついにあの地をどうにかできるのですね!」
何このやる気満々な態度…。
- それなのですが、たぶん避難命令がでると思うので、今のうちに街道全体に通達して準備を整えておくといいでしょう。
「は!?、避難…?、ですと!?、この地を見捨てると仰るのですか!?」
あ、しまった、言葉を間違えたかも。
彼はテーブルに両手をついて身を乗り出し、怒りと悲しみを湛えた表情で言い続けた。
「これまで我々がどれだけ苦労を、この街道の維持とこの地の将来を思って、粉骨砕身働いて来たというのに、そ、そんな、あんまりではありませんか!!」
ついに感極まって涙を零し、片方の袖でぐいとそれを拭ってから、椅子にどさっと腰を下ろし、両肩を下ろして歯を食いしばり、片腕はまた目のあたりに当てた。
まるで声を殺して泣いているようだった。
- 待って下さい、見捨てないからこそ、一時的に避難して下さいという話なんですよ!?
「一時的に…?」
ゆっくりと腕を下ろし、縋るような目で俺を見た。
- はい、一時的にです。ですがいろいろと注意事項があるので、落ち着いて聞いてもらえますか?
「はい…」
- まずですね――
と、幾つかの注意をした。
ひとつは、置いていくものに魔道具や食料品があってはならない事。
これは、テンちゃんの魔法によって、魔道具が壊れて使い物にならなくなる恐れがあるからで、生鮮食料品はおそらく食べられなくなるだろうからだ。
干し肉やパンなどは大丈夫だと思われるらしいけど、1日避難するのに食料を持って行かないなんて事も無いだろうし、ここには飲食店や売店などがあるので、魔道具を移動すると結構な荷物になるだろう。設置し直すにも手間と時間がかかると予想される。移動時間を考えたら避難先で1泊するかも知れないからね。
前にハムラーデル国境のあたりでテンちゃんが使った魔法は、対象が小さいとは言え魔物であり、魔力量は大抵の植物よりは多かったが、いずれも一般の人種に比べると少なかったので手伝いに来てくれていた兵士さんたちには影響が出ないようにできたんだ。
ところが今回はその植物と、牛の2倍ぐらいある動物、それぞれの根絶が目標なので、魔力量の範囲的にいろいろなもの、そこには一般の人種も含まれてしまうんだ。あの『ウゼー』がでっかいのと、土地自体の魔力も対象だからだ。
ここに戻って来る前にテンちゃんが『そこはどうしても範囲に入ってしまうのじゃ…』と哀しそうな目をして言っていた。
もちろん背中に手を添えて撫でながら慰めたよ。こちらからお願いする事でもあるんだしさ。
そして、北側の畑の作物もダメになる事、畑に新たに植えてもそのままでは作物が育たなくなる事も伝えた。牧草地の草も枯れますよと。
これについては、今はほとんどの収穫を終えた時期であり、一部の寒さに強い作物を除いて、年で一番作物が無い時期なんだそうだ。種を撒く直前で良かったとも言っていた。
彼がメモを取りながら聞き、そのあと尋ねた。
「それで、あの地はどうなるのでしょう?」
- 『タビビトゴロシ』は全て枯れます。再生もしません。
「ほ、本当でございますか!?、で、ではウゼーは…」
- あの地にあるものは全て、ですね。
「…それが実現するなら何と素晴らしい事でしょう…」
- 今はとにかく一時避難の準備を進めて下さい。さっきも言いましたが、陛下から日程の通達があると思います。
今度は希望の涙を零しながらうんうんと頷く彼に、『では僕たちはこれで』と辞してから、また2Fの物干し場から、城砦の街へ行き、同じような事を伝えた。
街道警備本部の責任者とは違い、激高する事は無かったが、結果は同じだった。
そんな彼らを後にして、その日はロミさんのお城の部屋へと帰ったってわけ。
もちろんその日にロミさんには報告をしたよ。
ロミさんは俺が地図を広げて説明をすると、女官さんに定規やコンパスを持って来させて、地図に直接円を描いて『この範囲ってことでいいかしら?』と確認した。
俺がテンちゃんを見ると、テンちゃんはひとつ頷いた。
「うむ。じゃが大体でしか無いのじゃ。実際の所はやってみぬと分からないのじゃ」
「つまりこの線を目安にして、余裕を持って避難しろというわけですね?」
「そういう事なのじゃ」
ロミさんは、避難所の手配がとか食料や魔道具の支援がとかぶつぶつと呟いてから、『わかりました、日程はこちらで調整します』と言って席を立ち、女官さんに地図と道具を手渡して一緒に執務室の方へ行った。
それを何となく目で追っていたら、俺の左側に座っていままで黙って聞いていたリンちゃんが言う。
「今日そんな事をされてたのですね、あたしも行きたかったです…」
と、俺の左肘のあたりを掴んで揺らしながら言い、俺が答える前に、
「それで、お姉さまが力を揮うという事でしょうか…?」
- あ、うん、それを一応伝えておかなくちゃって思ってたんだよ。
「はぁ…、もう決定事項なんですね。わかりました、あたしから連絡しておきます。いつになりそう、というのはロミさん次第って事ですか…」
ここんとこリンちゃんが多忙なのもあって、何だか疲れてる雰囲気だなぁ…。
- うん、何か仕事増やしちゃってごめんね?
「いえ、謝らないで下さい。タケルさまのせいではありませんから」
でも半分ぐらい俺のせいな気もする。
そうして時々配達したり、散歩したりというような日を挟んで、リンちゃんたち光の精霊さんたちが『瘴気の森』の処理を終えて、俺たちが上空から視察をした日の翌日、『タビビトゴロシ』の野へと処理に向かう事になった。
次話4-092は2021年12月24日(金)の予定です。
20211224:タラ族の地という意味で、タラ+ムなので言い換え訂正。
(訂正前)タラムの地での収穫率も年々上昇して
(訂正後)ここタラムでの収穫は年々増加して
20211224:ガウガウ吠えられたところの助詞などを訂正。
20211231:漢字をひらがなに。 見たいな ⇒ みたいな
20211231:影響範囲の説明部分に追記。
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
今回も入浴シーン無し。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
移動して話しをして…、
実際に働いてるのって精霊さんたちだよね?
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
光の精霊さんの遺産処理で走り回ってます。
気苦労が絶えませんねー
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンの姉。年の差がものっそい。
リンの手前、あまり表には出てませんが、
内心では頼られて喜んで舞い上がってます。
ファーさん:
ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。
風の精霊。
有能でポンコツという稀有な素材。
風の精霊の里では高位の存在なんですよ、これでも。
1500年も踊ってたんですからねー
タケルの認識はそこ止まりですけども。
返却の危機!?
パンと水だけで謹慎中のため出番無し。
寂しがってはいますが、そんなに反省はしてません。
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
今回は声がちょろっと。
まぁ大人しいだけでずっとタケルの首盛りに分体が居ますからね。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
今回は登場せず。
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号10番。シノハラ=カエデ。
勇者歴30年だが、気持ちが若い。
でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。
お使い継続中でまた移動。
今回は出番無し。
ロミさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。
現存する勇者たちの中で、3番目に古参。
現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。
タケルを働かせるためにせっせと根回しや書類発行やらで
仕事が大量に増えています。
コウさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。
現存する勇者たちの中で、5番目に古参。
コウがこの世界に来た時には既に勇者たちは各国に散っていた。
アリースオム皇国所属。
今回は名前のみの登場。
カズさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号6番。サワダ=ヨシカズ。
ロスタニア所属らしい。今の所。
体育会系(笑)。性格は真面目。
川小屋に到着したので登場人物に復帰。
今回は出番無し。
シオリさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号7番。クリバヤシ=シオリ。
現存する勇者たちの中で、2番目に古参。
『裁きの杖』という物騒な杖の使い手。
現在はロスタニア所属。
勇者姫シリーズと言えばこのひと。カエデは大ファン。
今回は出番無し。
サクラさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号1番。トオヤマ=サクラ。
ティルラ王国所属。
勇者としての先輩であるシオリに、
いろいろ教わったので、一種の師弟関係にある。
勇者としての任務の延長で、
元魔物侵略地域、現バルカル合同開拓地に居ます。
今回は出番無し。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号12番。ネリマ=ベッカー=ヘレン。
ティルラ王国所属。
サクラと同様。
今回は出番無し。
アリースオム皇国:
カルスト地形、石灰岩、そして温泉。
白と灰の地なんて言われてますね。
資源的にはどうなんですかね?
でも結構進んでる国らしい。
勇者ロミが治めている国。
母艦エスキュリオス:
4章056話で登場した。
ベルクザン王国内の竜神教神殿地下にあった、氷漬けの恐竜を、
その装置ごと回収するために近くに来た母艦。
4章065話で、『倉庫ごと回収』というのも、
この母艦が近くに居たままだったから。
統括責任者はベートリオ。
補助艇が11機もでているけど搭乗員などには言及されません。
哀しき裏方さんたちですね。
裏方さんたちが後始末に精を出しています。
それもやっと終わりが見えましたね。
ウゼー:
ロミは魔物と言ったが、実は魔物では無く、ただの害獣。
詳細は本文参照。
タビビトゴロシ:
大迷惑植物。
詳細は本文参照。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。