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4ー085 ~ 移動の理由・魔法の訓練開始

 その場から離れるために飛行結界を張り、浮かび上がったんだけどね。

 現状、この『瘴気の森』は午前中にせっせと浄化結界柱を88本立てたのが絶賛稼働中なんだ。

 で、肉眼では見えないように隠蔽されてるけど、リンちゃんが言ってたように補助艇という小型の飛行機械が11機も出ていて、表現が難しいんだが、こう…、8本ずつの柱と、互いを結ぶ魔力線のようなものが結ばれてる。それで全体的に結界になってるってわけ。


 そこだけ見れば幾何学模様だね。


 そしてその線の色が、俺の目には白から黄色に変化し続けているように見えていて、その線で囲まれたそれぞれの部分、つまりは面となっている部分も、透けてるから薄くではあるけど白から赤、黄色、緑、青、紫とまぁ派手な変化をするわけなんだ。


- なんでこんなに派手なの?


 「何がですか?」


 俺の飛行結界の外側に薄い膜状の同調壁を作って、その派手な結界をぬるっと、俺のほうは脱皮をするような感じで抜けてから、眼下に見える派手な幾何学模様を斜めに見下ろして停止。それで俺の腰に後ろから抱きついてるリンちゃんに尋ねたんだけど、伝わって無かった。


 「其方の目にはどう見えておるのじゃ?」


- んと、11機の飛行艇が――


 と、左手で軽く指差しながら見えているものを説明した。


 「た、タケルさま?」

 「リン」

 「はい?」

 「タケル様はどうやら視覚的に魔力属性や効果が見えておるようなのじゃ」

 「え?、そんな、それって、」

 「うむ。(われ)と同等の目を持っているという事になるのじゃ」

 「ではお姉さまも?」

 「うむ。今言われたのと同じように見えておるのじゃ」


 テンちゃんの声は普通だったけど、俺の右手をむにゅぅっと抱きしめながら嬉しそうな表情で言った。


- そうなの?、リンちゃんにはこれ…


 見えてないの?、とは尋ねにくいので言葉を濁した。


 「感知はしているんですけど、色までは…」


 なるほど。

 あ、何か悔しそう。

 俺の背中に額だろう、とすんと当てて俯いてる。

 後ろだから頭を撫でるには無理があるので、俺の腰を抱えているリンちゃんの左手を撫でておいた。


 そうしながら、改めて斜め下を、まぁ派手な結界があるせいで見えにくいんだけど、飛び立つ前に居た中心部近くを見た。


 瘴気がかなり減って黒いシャボン玉結界からもやぁっと瘴気が漏れてるのがわかる。


 それは、今までは瘴気で隠されていたその周囲が、肉眼で見えるようになったって事なんだ。






 魔力感知ってのはご都合的な側面もあって、例えば広範囲に索敵(レーダー)魔法を使った場合、位置関係などをイメージ的に理解ができる。どんな形状だとか、今ならどんな属性配分だとかがわかるんだ。

 そして、幾つかの物体間の距離や位置関係も理解ができる。


 しかしそこまでなんだ。全体的なものってのは、感知した物体それぞれを全部思い浮かべてそのイメージのどこにあってとかを改めて組み立てて考える必要がある。

 だから地図に焼き付けないとわからない、って以前に話したと思う。


 視覚的にこうして見下ろし、全体的に見るというのは、その部分を地図に焼いて、改めて確認するのと同じ意味を持つわけ。






 つまり何が言いたいかというと…。


 「ん?、何を見て…、んん?、な、何なのじゃあれは…」

 「お姉さま?、…え?、足ですかあれ…」


 そう。

 いままで全く気付かなかったって言うか、どうやって移動してきたのかって事に全く気が回っていなかった俺たちが迂闊(うかつ)だったってのは認めようじゃないか。


 「おお、足と言われてみると確かに足…と言えるかも知れないのじゃ…」

 「ただの土台では無かったのですね、確かに移動してきた以上は移動手段があるはずでした…」


 ほらね、テンちゃんとリンちゃんもこんな事を言ってるしさ。

 テンちゃんは苦渋でも口に入れたみたいな表情で、リンちゃんはふむふむと納得しているような表情だけどね。実際俺の斜め後ろに身を乗り出すようにして小さく頷いてるし。


 まぁ簡単に言うと、土台に足がついてた。

 何を言ってるのか俺も正直わけがわからないけど、見たままを言うとそうなるんだよ。


 巨大亀の足が、平べったい土台というか、草木と岩に囲まれている中心部、つまりは飛行機械の動力部の一部だな、それを支えてるわけ。

 地面の跡を見る限り、そいつが移動の、文字通り『足』なんだ。


 巨大亀と言ったけど、頭も尾も甲羅もないんだから亀になんて全く見えない。こうして少し離れて斜め上から俯瞰で眺めているからやっとわかったようなもんだ。


 だって木やら岩と見た目がそう変わらないし、動く速度がめっちゃくちゃ遅いんだよ。年単位で数mいくかどうかだし、そんなもんわかるわけがない。

 どうしてわかったかというと、瘴気が薄くなったおかげで視覚的に全体が見えるようになったのと、魔力感知でただの草木や岩との区別がつきやすくなったからだ。


 周囲、地面や木などとは明らかにそこだけ瘴気の濃度が違っていて、近くに居た時には気付かなかったのは中心部が衝撃的――怨念が感じ取れるせいでもある――だったってのと昔の飛行機械の一部、結界発生部がまだ動いている、というのに気を取られていたからだ。

 まぁ言い訳にしかならないかも知れないけどね。


 とにかく、距離を置いて全体を見ればすぐに気づけたってわけ。


 「な、何なのじゃあの足みたいなのは、気持ち悪いのじゃ」


 だよね、巨大亀の足だと認識すると、気持ち悪いよね。


 「みたい、ではなく足ですよお姉さま」

 「せっかくひとがぼかして言ったのを断言するで無いのじゃ」

 「ボケたのを認めるのですね?」

 「そのボケでは無いのじゃ!」


 どうでもいいけど俺の斜め右後ろで言い合いをしないでもらいたい。


- まぁまぁふたりとも。僕にもあれが巨大亀の足だってわかったんだけど、なんで足だけなの?、頭も甲羅も無いよね?、あれ。


 「むぅ…、怨念の為せる技、という事かも知れぬ」

 「そういう例が昔あったのですか?、お姉さま」

 「む、あくまで可能性の話なのじゃ…」


- つまり、アンデッズが骨だけなのに動けているようなもん?


 「そうなのじゃ、あれも説明がつかないのじゃ」

 「誰も調べようなんてしませんでしたからね」

 「うむ。調べようにもサンプルなど取りようが無かったのじゃ」


 それもそうか。

 何でも、浄化すると骨が残る場合と、残らない場合があるんだそうだ。

 骨が残っても、一部足りないなんてのがザラにあり、それらの骨はもう普通の遺体の一部であるし、元の朽ちた骨と何も違いが無いとかで、研究するひとなんて居なかったみたい。


 あ、今なら安全なアンデッズたちが居るから、研究も…、いや、それはそれであの性格のいい連中が気の毒だ。

 それに光の精霊さんたちが、そんな事を…、しないはずだけど、ちょっと自信が無くなってきた。


- リンちゃん?、あのアンデッズって研究対象になってたりするの?


 「はい?、そんなのもうとっくに研究チームが発足してますよ?」


 そんな、何を当然の事をみたいに言わないで欲しい。


- え?、そなの?


 「はい。もちろんタケル様配下になってます」


 いやそれもうどうでもいい。


- アンデッズが嫌がったりは、


 「ありません。むしろ協力的というか、彼らも自分たちの健康状態が気になるようですし、公演の合間に進んでデータを提供してくれていますよ?」


 健康状態を気にするアンデッドって何なんだよ…。


- へー、じゃあ、


 「はい、彼らは日々健康で生き生きとしてますし、公演日は毎回大盛況ですよ、タケルさま」


 健康で生き生きとしてるアンデッド…。


 にこにこしながら言う事なんだろうか?

 あ、精霊さんたちにとっては笑うポイントだったっけね。


- ならいいのか…。


 「ところでタケル様よ」


 さっきまであの足に気持ち悪がっていたとは思えない笑顔でテンちゃんが俺の右腕を揺らした。柔らかい弾力が…、じゃなくて。


- ん?


 「あれは良いのか?」


 と、テンちゃんが指差す方向、斜め左後ろを見た。


- わ、ちょっと注意してくる。


 急いでその真上まで移動して停止。

 リンちゃんは毎度のように俺の腰をきゅっと締めたけど、停止したらすぐに離れてエプロンのポケットからソファーをにゅるっと取り出した。


 それを見て、行ってきますと言い、俺だけが下に降りた。






 川岸に立ってる柱にぺたぺたと触れてきょろきょろしているコウさんの後ろに、川の水面だけどそこに飛行結界の床だけ残して立って声を掛けた。


- コウ先輩。


 「うぉ、ほんっとお前急に現れやがんなぁ…」


- それ、壊さないで下さいね。今大事なところなんで。


 びくっと振り向き、腰の剣に手をやりかけて止めたコウさんを無視して注意をした。


 「これ、お前がやってんのか?」


 くいっと親指で後ろの柱というか結界の事だろう、それを指差して言う。


- ええまぁ、そういう事になります。


 だって光の精霊さんがやってるなんて言っても信じてもらえないだろうからね。


 「こんなもんどっから…、この結界もか?」


- はい、その柱がそういう魔道具なんです。


 「森に入れねぇんだが?」


- 今は我慢して下さい。


 「浄化してんのか?」


- はい。


 「中心部にぁ何があった?」


- 調査中です。


 「けっ、俺にぁ言えねぇってか?」


- いえ、僕にもまだ何が何だかはっきりわからないんですよ。


 「ロミにも言ってねぇってわけか」


- はい。まだ何なのかわからない以上、ロミさんに説明もできませんから。


 「ところでお前ぇ、水の上に立ってんのぁ、障壁魔法か」


- はい。


 「便利だな」


- はい。


 「タケル、お前ぇ一体ぇ何(もん)だ?、人か?」


- ひとですよ。コウ先輩と同じ、勇者です。


 「同じだって言いてぇのか?」


- そうですよ?


 「俺ぁ勇者やって60年ぐれぇだって言ったっけか、その俺ですらお前ぇみてぇな魔法は使えねぇ。何でそんなに差があんだ?、…素直に教えちゃくれねぇわな」


- 別に先輩に隠す事じゃ無いと思ってるんですけどね。


 じっと俺を見るコウさん。続けろって意味だろう。


- ただ、言っても信じてもらえないんじゃないかって。


 「ロミに口止めされてるってこたぁ無ぇのか?」


- 精霊さんたちに手伝ってもらっているんですよ。


 口止めされてる事は他の勇者の情報だけだ。今のところは。

 精霊さんたちに手伝ってもらっていること、それ自体は口止めされてはいない。

 ただし、リンちゃんとテンちゃんの存在は、コウさんには言いにくい、ってだけだ。


 「精霊さんだぁ?」


 薄笑いになった。

 ほらね、信じてもらえないって予想は正しいじゃないか。


 「お前ぇを手伝ってる女たちは精霊様だってのか?」


- はい。女性だけじゃありませんよ、ちゃんと男性もいますし、大勢の精霊さんたちが協力して下さっているから、そういう事ができるんです。


 と、手でコウさんの後ろの柱や結界を示した。


 「そっか…、お前ぇ、すげぇな…」


- 信じて下さるんですか?


 「嘘じゃねぇんだろ?」


- はい。先輩にそんな嘘は言いません。


 「じゃあ信じてやるよ。疑う余地がねぇからな。すげぇって言ったのは、そんなおとぎ話みてぇな存在と渡りつけてるって事にだぜ?、いや、お前ぇもすげぇな。俺にぁそんな水の上に立つなんて壁は作れねぇし、気配も無しに急に現れるなんてできねぇからな」


- ありがとうございます。


 「なぁ」


- はい。


 「俺に魔法を教えろ、ってったらどうする?」


- ロミさんに言って、まずは本を書写して下さい、と答えます。


 確かシオリさんの教本を『森の家』で書き写したと聞いた覚えがある。


 「は?、何だそりゃ」


- 僕の手元には無いんですよ、その本。


 「お前ぇから写したんじゃねぇのか?」


- はい。シオリさんの本を書写してました。


 「シオリさん?、ってーとロスタニアの勇者じゃねぇか、いつの間に…、ああ、ホーラードに行ってたっけな、そん時か」


- はい、たぶん。


 「何でお前ぇが、ロミから聞いたのか…」


- はい。


 「お前ぇは写さなかったのか?」


- はい。僕には必要無かったので。


 嘘は言ってない。写すべきだとは思ったけどね、何となく後回しにしてたせいだ。


 「そうかよ、わかった。んでこいつはいつまであんだ?」


- 早ければ今日まで、遅ければ数日かかりそうです。


 「おいおい、この森の浄化がそんなに早く終わんのか?」


- あ、いえ、浄化自体は目的じゃないんですよ。


 「あん?、浄化しに来たんじゃねぇのかよ?」


- 僕が請け負ったのは、瘴気の原因とその対策です。浄化が目的じゃないんですよ。


 「じゃあこんな大層に森を囲んどいて、浄化しねぇってのか?」


- 少し減らさないと中心部の調査が出来なかったんで、そうしているだけで、あくまで手段です。目的じゃないんですよ。それに地中にまで瘴気が染み込んでいるので、完全に浄化するには長い時間が掛かってしまうんです。今やってるのは地上の、空中にある瘴気の浄化だけですから。


 「そういう事かよ…」


- はい。ですから、危険は無いとは思いますが、その、


 「ああ、邪魔すんなってこったろ、わかったよ、終わるまでは近寄らねぇよ」


- すみません。


 「謝んなよ。わざわざ説明しに来たんだろ?、悪かったな、もう邪魔しねぇからよ、終わったら言ってくれよな?」


- わかりました。必ず。


 「そっか、じゃ、帰るわ」


 と、軽く手で合図するようにしたあと、川に入ってこちらへ近付いてきたので、俺はすっと横にずれた。


 「いいな、それ」


- はい?


 「ロミの本を写して魔法を覚えりゃ、俺でもできるようになっかな?」


- ああ、これぐらいならすぐにできるようになると思いますよ。


 「おお、じゃあヒマんなったこったしよ、一旦ロミんとこ行くか…」


 あ、余計な事を言っちゃったかな?

 まぁ言っちゃったもんはしょうがない。もし何か言われたら謝ろう。


 コウさんがじゃぶじゃぶと、膝下を川に浸しながら歩いて行くのを何となく見ながら…、ああ、もともと浅い箇所に、大きめの石を並べて置いてあるのか…、って、よく見たら結構幅広くこのあたりを渡れるようにしてあるんだな。


 川幅は200mちょいってとこか。今は水量が減りつつあるので土手の周囲は広く砂利が見えている。これもコウさんたちが敷いたんだろう。他は土と泥だからね。泥炭地だから草も多いし。


 と、周囲を観察している間にコウさんは渡り切ったようで、一瞬ちらっとこっちを振り向いたが、そのまま村への道を駆けて行った。






 「おかえりなのじゃ」

 「おかえりなさい」


 上空の飛行結界に戻ると、そう言いながらふたりが立ちあがった。


- ただいま。


 「何か言われたんですか?」


- ううん、入れないって言われたんで説明しただけ。


 「そうですか。ではどちらでします?」


- え?、あ、あのシャボン玉みたいな結界を張り直す方法を教えてもらうんだっけ。


 「はい」

 「うむ」


- じゃあ反対側に行こうか。


 というわけで、片付け終わったリンちゃんが構えているのに近寄った。






●○●○●○●






 昼食までに書き終わる量では無かった。


 ネリ先輩が言うには、『全部写すのに3日ぐらい掛かったよ』だそうだ。

 確かに多い。丸暗記するつもりでと言われたが、到底そうすぐに覚えきれるものでは無い。


 「とりあえず写せたところまででいいから、午後からはあたしもサクラさんも居るし、基礎の基礎から始めよっか」


 昼食の前にお二人が戻られてすぐに着替えられてから、台所で例の『チン』という音が何度もして、食卓にそれが並べられ、ここ数日で慣れた元の世界と同様の『いただきます』のあと、食べながらそんな事を言われた。


 思えばここに来てから食事前はイアルタン教の聖句を唱えなくなった。

 何でも、『ここだと目の前に精霊様が居たりするから』らしい。一体どんな状況ならそんな伝説かおとぎ話のような事になるんだと思ったが、先輩方がそう言うならそうなのだろう。


 俺は、食事の手を置き、よろしくお願いしますと言って頭を下げた。


 「カズも勇者だから、基礎の基礎はすぐに終わると思うよ」

 「そうだな、(つたな)くとも身体強化ができていたしな。ネリより優秀だぞ?」


- そうでしょうか…?


 ネリ先輩より優秀だと言われても、現状のネリ先輩を見ているだけに信じられない。いや、信じようと決めたのだから信じたいが。


 「うー、サクラさんそんなの言わなくったっていいじゃんー」

 「しかし私がお前の面倒を見始めた頃は身体強化どころか剣の腕もひどいものだったぞ?」

 「そりゃあサクラさんは元々剣道やってたんだしぃ?、あたしなんてそんなの全然だったんだから、しょうがないじゃん」

 「基礎体力も無かったな」

 「この見た目で、日本での学校生活をするのって大変だったんだよ?、何かって言うとガイジン、ガイジンって言われるし、運動部なんか入ったら目立つし、やっかみも多かったんだからー」

 「ああ、そうだったろうな、悪かった」


 なるほど、留学生だと勘違いされるのだろう。

 本人は『生まれはドイツだけど育ったのも国籍も日本で、英語なんてさっぱりだよ』って笑って言っていた。駅などで外国人旅行者から話しかけられて、困った事が何度もあるんだそうだ。


 大抵は親が家で母国語を話したり、教えたりするものだろうと思っていたが、父親の再婚相手は日本人で、家では日本語以外を聞く事が稀だったらしいから、そういうものだったんだろう。むしろテレビや学校授業のほうが英語と接する機会が多かったとも言っていたな。


 「それに、あたしだってカズぐらいの頃には身体強化だって使えてたじゃない」

 「そうだったか?」

 「ひどーい、あたしとカズって1年違いなんだよ?」

 「すると、昨年の今頃…か、言われてみれば確かに、今のカズぐらいだった…か?」

 「えー?」


- あの、サクラ先輩。


 「ん?」


- 本当にネリ先輩は、その、半年で…?


 「ああ、本当だぞ?」

 「何がぁ?」

 「ネリがこの半年で腕を上げたって話だ」

 「あ、うん、そうだよ?」


- そうなんですか…。


 一体何があればあんなに…。


 「あ、信じて無い顔だ。大丈夫だって、ちゃんと強くなれるよ」

 「ふふっ、とにかくさっさと食べて、魔法を覚えないとな」


- は、はい。






 「まずは武力だと思ってた頃にしてた身体強化を、ここに書いてある詠唱でやってみて」


 川小屋の表に出た俺たちは、前に置かれているテーブルにネリ先輩の書類を広げて置き、それを見ながら最初の数ページ目に書かれていた身体強化のところから始める事になった。


 言われたように詠唱をして身体強化魔法の効力を確かめた。


 「それと、いつもしていた身体強化とを、身体の中で動いてる魔力の動きを比べてみて」


 そう言われ、何度か両方を試した。


- 同じ、だと思います。


 「そう?、ま、最初はそんなもんか」

 「ふふっ」

 「サクラさん!、そんな含み笑いをするなら交代してよ!」

 「いやすまん、あっちで私の訓練をするよ」

 「もう、あ、それでね、詠唱してなくて魔力の動きが同じって事は、無詠唱で身体強化魔法ができてるって事なんだって」


- あ、そういう事なんですね。


 「うん、だからこっちのページに戻って、水属性の初級魔法で同じ事をするの」


 そう言って、ページに書かれている詠唱をし、手元にビーチボールぐらいの大きさの水球を作り、川小屋の壁に設置されている水道の流しにそれをばしゃーっと流した。


 「うーん、手加減してもこんな大きさになっちゃうのかー、やっぱタケルさんってすごいな…」


- タケルさん?、あの後輩の事ですよね?、彼は一体、


 「あ、ううん、今はそれはいいから。同じように無詠唱でやってみるね」


 そう言って今度は無詠唱で同じような水球を作り、また同じように流しにばしゃーっと流した。


 「じゃ、やってみて」


- はい。


 そうして詠唱をしてできた水球は、ハンドボールぐらいの大きさだった。


 「はいこれに入れて」


- はい。


 風呂場にあったのと同じ大きさの木桶を両手で差し出され、そこにばしゃっと入れた。


- あの、大きさが全然違いますが…。


 「それはあとで説明するから、今は大きさとか気にしなくていいよ」


- はい。


 こうして今日、俺は、各種初級魔法の詠唱と無詠唱を覚え、初級魔法使いを名乗っていいと言われた。






次話4-086は2021年11月12日(金)の予定です。




●今回の登場人物・固有名詞


 お風呂:

   なぜか本作品によく登場する。

   あくまで日常のワンシーン。

   今回も入浴シーン無し。


 タケル:

   本編の主人公。12人の勇者のひとり。

   まだちょっとコウには気を許せません。

   ロミたちのせいですけどね。


 リンちゃん:

   光の精霊。

   リーノムルクシア=ルミノ#&%$。

   アリシアの娘。タケルに仕えている。

   タケルとテンに見えているものが、

   自分には感じ取れるだけで見えていないのが

   少し悔しいと思っています。


 テンちゃん:

   闇の精霊。

   テーネブリシア=ヌールム#&%$。

   後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。

   リンの姉。年の差がものっそい。

   彼女が本気を出すとえらいことになりますが、

   『瘴気の森』程度では本気を出せません。

   でもちょっと出すだけでも困った事になります。

   あれ、教えるところまで行けませんでした。


 ファーさん:

   ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。

   風の精霊。

   有能でポンコツという稀有な素材。

   風の精霊の里では高位の存在なんですよ、これでも。

   1500年も踊ってたんですからねー

   タケルの認識はそこ止まりですけども。

   返却の危機はまだ続いています。

   リンが忙しいので保留になっているだけです。

   今回出番無し。


 ウィノアさん:

   水の精霊。

   ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。

   一にして全、全にして一、という特殊な存在。

   今回は出番無し。


 アリシアさん:

   光の精霊の長。

   全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊(ひと)

   だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。


 ハルトさん:

   12人の勇者のひとり。現在最古参。

   勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。

   ハムラーデル王国所属。

   およそ100年前にこの世界に転移してきた。

   『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。

   今回も出番無し。


 カエデさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号10番。シノハラ=カエデ。

   勇者歴30年だが、気持ちが若い。

   でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。

   お使いで走ってます。そろそろ砦への帰路かな?

   今回はちらっと名前が出ましたね。

   ハルトもですが、そのうち出て来るのでここに残しています。

   と言いつつなかなか出てきませんねー


 ロミさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。

   現存する勇者たちの中で、3番目に古参。

   現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。

   今回は名前のみの登場。

   実はシオリの本だけではなく、

   メルの本をシオリが写したのだと聞いて、

   メルからも見せてもらっています。

   4章039話あたりの時期に『森の家』で、でしょうね。


 コウさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。

   現存する勇者たちの中で、5番目に古参。

   コウがこの世界に来た時には既に勇者たちは各国に散っていた。

   アリースオム皇国所属。

   今回は前半の終わりに登場。

   実はタケルの実力を相当恐れています。

   だからあまり強くは出られません。

   『瘴気の森』に来るのは前回登場時にちらっと理由が見えましたが、

   瘴気耐性を獲得するためです。


 カズさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号6番。サワダ=ヨシカズ。

   ロスタニア所属らしい。今の所。

   体育会系(笑)。性格は真面目。

   川小屋に到着したので登場人物に復帰。

   今回は後半に登場。

   魔法が使えるようになりました。


 サクラさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号1番。トオヤマ=サクラ。

   ティルラ王国所属。

   勇者としての任務の延長で、

   元魔物侵略地域、現バルカル合同開拓地に居ます。

   今回は後半に登場。

   2人を見守ってます。


 ネリさん:

   12人の勇者のひとり。

   勇者番号12番。ネリマ=ベッカー=ヘレン。

   ティルラ王国所属。

   サクラと同様。

   今回は後半に登場。

   いつもの調子ですね。


 川小屋:

   2章でリンが建てた、現在はバルカル合同開拓地にある、

   カルバス川分岐のところの小屋。

   光の精霊のホームコア技術で守られていて、

   まるで現代日本と変わらない暮らしができてしまう家。

   小屋というよりはちょっとした民宿ぐらいのサイズ。

   現在は、サクラやネリ、シオリが利用している。

   ちょくちょくリンが補給物資を届けている。

   シオリはまだホーラード王国から戻っていない。

   今回は後半部分で現在の様子が描かれています。

   カズ君が初級魔法使いになれたようです。


 アリースオム皇国:

   カルスト地形、石灰岩、そして温泉。

   白と灰の地なんて言われてますね。

   資源的にはどうなんですかね?

   でも結構進んでる国らしい。

   勇者ロミが治めている国。


 ベガース戦士団:

   コウと一緒に『瘴気の森』に派遣されている戦士団。

   ここに派遣されている戦士団で最大。

   コウとよく行動している、

   それなりに長く存在している戦士団でもあります。

   団長はベギラムさんです。

   タケルはもう名前を忘れてますね。

   駐屯地を解体し、3村へ分かれて駐留しています。

   他の戦士団2つは分かれずにそれぞれ別の村へ。

   人数の関係上、一部が別の村に行くのは仕方ないのです。

   話には出ていませんが、与えられたお仕事はちゃんとしています。


 母艦エスキュリオス:

   4章056話で登場した。

   ベルクザン王国内の竜神教神殿地下にあった、氷漬けの恐竜を、

   その装置ごと回収するために近くに来た母艦。

   4章065話で、『倉庫ごと回収』というのも、

   この母艦が近くに居たままだったから。

   統括責任者はベートリオ。

   補助艇が11機もでているけど搭乗員などには言及されません。

   哀しき裏方さんたちですね。


 アンデッズ:

   3章019話から登場。

   今回はタケルが会話に出した。

   健康なアンデッドてw



 ※ 作者補足

   この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、

   あとがきの欄に記入しています。

   本文の文字数にはカウントされていません。

   あと、作者のコメント的な紹介があったり、

   手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には

   無関係だったりすることもあります。

   ご注意ください。


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2019年05月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
なるほど。わかりません。
2020年01月にAI分析してもらいました。ファンタジーai値:634ai だそうです。
同じやん。なるほど。やっぱりわかりません。
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