4ー084 ~ 瘴気の原因
翌朝。
リンちゃんが起こしに来てくれた。まぁいつもの事なんだけども。
「タケルさま、海中にあった残骸ですが、その、解析結果がですね…」
着替えを渡されてリンちゃんに背を向け、もそもそと着替えている俺の背中に、いつもと違って何やら言いにくそうにしているリンちゃん。珍しいな。
いや、最近はちょくちょく言いにくそうにしている事も…、無いか、結構ズバズバ言ってたっけ。やっぱり珍しい。
そんな事を思いつつ振り向いてリンちゃんを見た。
「こちらで沈没した船舶の残骸も確認されたのですが、その、それより前にあの位置に墜落した我々の飛行機械である事がわかったんです…」
- へー…、え?、何であんなとこに?
「残っている記録も一部消失していますし、中枢部のコアが未確認なのでどういった経緯であそこに墜落したのかまではわかりませんでしたが、当時戦闘中に行方不明となった飛行機械であるというのが引き上げた残骸から分かったんです…」
- じゃあそれが瘴気の原因?
「違うんです!、あ、その、実は行方不明となった機体は過去幾つも確認されて回収されているんです。でもそれらのコアは瘴気を発するような事はありませんでしたし、回収後にその厳重に保護された記録を精査する事も可能なんですよ…」
ああ、つまりリンちゃんたち光の精霊さんにとっては、自分たちの作ったものが原因となって各地で瘴気災害を発生させてしまうような事は無いはずだと言いたいわけか。
思えばあの劇団になった『聖なるアンデッズ』。あれは転移装置のコアが原因で瘴気とは逆に光属性のアンデッドなんてものを生み出してしまった例だ。
それがもし瘴気を発生させる原因と成り得るものであるなら、彼らは光属性ではなく、本来の魔物カテゴリーのアンデッドとなっていただろうし、そんなものが生まれる可能性があるのなら、精霊さんたちは血眼になって世界各地に残されているであろう過去の遺物を全て回収し始めなくてはならなくなる。
ん?、でも過去の遺物は見つけ次第回収するようにはしているんだっけ?
- リンちゃん、別に光の精霊さんたちが過去に作ったものを疑っているわけじゃないからね?
「はい…、そう言って頂けると…、ありがとうございます」
リンちゃんは目尻を人差し指の横でちょっと拭うような仕草をして頭を下げた。
- 見つけ次第回収してるんでしょ?
「はい、そのはずなんです。世界各地に母艦が配置され、地表を隙間なく走査しているのはそのためと言っても過言ではないと教わりました。既に稼働中のコアの位置は残す所ラスヤータ大陸の魔砂漠にあるものだけとなっていましたし、信号を発していないものは既に魔力が消失していますから…」
顔を上げたリンちゃんは俺に何を言われるのか不安そうだった。
そうか…。アンデッズはラスヤータ大陸に居たんだっけね。
あの時に墓地にあったというかリーダーゴーストさんが置いたコアは俺も目にしたけど、魔力なんて残ってなかったし、言ってみりゃ8面体のでかいガラスみたいなもんだった。まぁ魔力を使って調べたわけじゃ無いけどね。
だってあの時は亡者たちに縋り着かれてひどい絵面だったんだから。それどころじゃなかった。(※)
- まぁ何にせよ、直接の原因だとは思ってないから。
そう言って安心させようとしたんだけど、どうやら言葉を間違えたようだ。
「タケルさまは間接的に私たちが原因だと思われているんですか!?」
- え?、あー…、そこまでとは思ってないよ?
だってさ、今回はその墜落現場から現在の『瘴気の森』の中心部まで何かが移動したっていう形跡があるわけだからさ。現場にコアが無いって事と結び付けると、何かはまだ知らないけど直接の原因であるそれが、そのコアを持ち去ったと考えるのが自然だろう。
だから間接的な原因とまでは言わないけど、要素のひとつであると俺は予想してる。
「では……」
と言いかけたリンちゃんの目にじわーっと…、おっと、見てる場合じゃないな。
「あ…、タケルさま…」
- 大丈夫だって、リンちゃんたちを悪いものだなんて思うような事は無いから。
「はい…」
ぎゅっと抱きしめてぽんぽんとあやすようにしながら言うと、だんだんと落ち着きを取り戻したようだった。
ここでちらっと、精霊さんたちは『善』だけど、たまにやりすぎる事もあっただろうし、とばっちりで被害を受けた生物からすれば悪だよなぁ、なんて考えが過ぎったけど急いで他の事を考えた。朝食は何だろうとかそういうどうでもいい事をね。
そうしないと俺の考えてる事が伝わる可能性があるからね。
そう言えば結局どこまでが伝わるのかってわからないままなんだよな…。
今のところ不都合は無いからいいけど…。
朝食には改良された味噌汁が出ていて、まぁ主食がパンな時点でどうなんだと思うんだけど、それはおいといて、その味噌汁に元の世界で食べていたような豆腐が入っていたんだ。
その豆腐について尋ねると、リンちゃんから豆乳などの加工技術を聞いたらしくて、ロミさんが試験的に作らせたものなんだそうだ。
「石臼で挽く技術はあるのよ。でもそれは乾燥した穀類を挽くためのもので、加熱加工後のものを挽く事ができなかったのよ」
という事なんだそうだ。だから豆腐っぽいものはあるにはあったけど、ロミさん的には豆腐では無く別のものという認識だったらしい。加工中の衛生面だとか、温度がどうとかいろいろ言われたけど俺には理解が追い付かなかった。
まぁリンちゃんが、既存技術を考慮した上で話したのであれば、問題は無いって事なんだろう。
それと、海岸沿いの低地コァ族――高地コァ族と区別する場合はこう言うらしい――では古くから塩田技術があり、その副産物としてできる『にがり』がだぶつき始めていて、豆腐を作るのにそれを流用できるのもメリットなんだとか。
「アリースォムでは『にがり』の用途は結構多岐に渡っているのよ。高地では冬季に凍結防止用や融解用にも使われているし、建設資材としても使われているわ。でも食用その他で生産する塩の大半を低地コァ族で賄っている現在、『にがり』が余り気味で価格が下降傾向にあるの」
そこで、これまではあまり食用向きではなかった精製度合いを、リンちゃんたち光の精霊さんの技術で補う事で高める事ができて、食用としても安全なものができるようになるんだってさ。
と言っても、リンちゃんが言うには『我々から魔道具を提供しなくとも、そのうち実現できそうなぐらい進んでいましたから』、という事らしく、幾つかの助言をしただけなんだってさ。へーと言うしか無いね。
とにかくまぁそんなわけで、ロミさん的には和食ブームが彼女の中で到来しているかのごとく、やたら食事が和食寄りになってしまったってわけ。
光の精霊さん産の豆腐とは、豆が違うせいか風味も違うし、これはこれで美味しかったから、俺としては文句は無い。
無いけど今までが言ってみりゃ洋食主体のようなものだっただけに、こう立て続けに和食が続くのは、それはそれで微妙な気分でもある。嫌いでは無いからいいっちゃいいんだけどね。
あれだよ、いくらカレーライスが好きだからってずっとそればっかじゃダメなんじゃないかっていうような話だよ。
え?、カレーライスなら1カ月続いても平気?、そんなやつの事は知らん。
ああそうそう、それでシャワーの話を思い出したんだよ。
今の話のどこにシャワーが出てきたのかは、俺にもよく分からん。塩田の話だったと思うけど、もうそのあたりから俺には理解が追い付かなかったんで、相槌を打ちながら他の事を考えてたんだよ。
で、話が段落してロミさんが満足そうにしていたので、ロミさんとリンちゃんに尋ねてみたんだ。
- そう言えばさ、温泉のとこのシャワーっていつの間についたの?
この前から違和感なんて全然無かったんだけど、確か最初の時にはシャワーって付いてなかったはずなんだよ。
「ああそれなら、」
「今更なのじゃ」
「お姉さま」
「そんなもの、ここにホームコアが設置されれば、其方の生活圏にあるもの全てが管理されるに決まっておるのじゃ」
- う、うん…
そう言われて見れば確かに。
「そうですけどね、タケルさま、この部屋のちょうど真下なのですよ、間に倉庫などの階層がありますが、その一部も含め、温泉のあの水道の部分と給湯設備の改良も合わせて、ホームコアを設置した日に設置したものなんです」
うんうんとロミさんも笑顔で頷いている。
なるほど許可済みか。勝手にやっちゃってたんじゃないならいいよ。
- そうだったんだ。
「はい。正確にはタケルさまが入浴を済まされて脱衣所に出られたあと、私が温泉の水道のところに制御盤を設置した時からシャワーが使えるようになっています」
- あー、あの時かー…。
あの時はファーさんが広い湯の上で踊ってていろんな事がぶっ飛んでたっけ。
「タケルさんと一緒に行動してから、シャワーが無いのが物足りなくなってしまったのよ」
と、ロミさんは何故か少し頬を染め、その頬を左手で少し押さえる仕草で言った。
照れ隠し?、照れるところがよくわからないんだけど。
- あっはい、その気持ちはわかりますから…
と言うしか無いではないか。
●○●○●○●
そして、『瘴気の森』の中心部と言ってるけど、地理上の中心ではなくて、瘴気の中心って意味ね。その黒い靄が渦巻いている障壁の近くに来ているわけなんだが…。
「これ以上吾が近づくのはまずいと思うのじゃ」
テンちゃんはそう困り顔で言って、昨日の夜の位置で立ち止まった。
- わかった。僕はもうちょっと近づいてよく見てみるよ。
と言ってゆっくり近づき始めたら、俺の左手を掴んでリンちゃんがついてきた。
うーん、どう見てもやっぱりこの障壁って光の精霊さん由来の魔道具で作ってるものだよな。でももう効果が切れそうな感じなんだよ、綻びまくりの結界だ。
- この結界って、朝に聞いた飛行機械のものかな。
「はい、おそらくは。主機関部の一部がコアを含めて見つからなかったそうですから…」
なるほど。しかしよく持つものだと思う。
これだけの瘴気濃度でもまだ稼働し続けていられたんだから。
それに瘴気の影響で結界だってかなり弱体化していてこれだからね。
と言ってももう限界に近いんだろうと思う。
何て言うか、目ではもう黒い靄のせいで何も見えないんだけど、魔力感知の目には、シャボン玉のような薄い膜が、ふよふよと揺れていて、瘴気が漏れまくっているのがわかるんだ。いつ割れてもおかしくない、そんな状態。
テンちゃんが近寄るとまずそうってのは、それだけこの結界がぎりぎりだと感じたって事だろう。
「タケルさま、もう少し下がりましょう。昨夜お姉さまとも話したのですが、このあたりの瘴気を中和して除去してしまうと結界障壁のほうに影響が出かねないので、浄化という方法を採る事にしたんです」
- え?、ああ、そうなんだ。
なるほど、障壁自体は一応普通の魔法だもんな。
それで少しでも瘴気濃度を下げようって事ね。
まぁそうでもしないと、これは手が付けられないからしょうがないね。
だってこれ、シャボン玉が割れたらこの森の外に瘴気がどばーっと広がってしまいそうだから。
リンちゃんに手を引かれるまま、テンちゃんの居る位置にまで下がった。
- さて、んじゃ浄化するんだよね?
「はい、それでですね、少々数が多いのですが、こちらの――」
と、リンちゃんがエプロンのポケットからずるっと取り出したのは長さ4mぐらいある柱だった。いや先が尖ってるから杭か。何だこれ…。
「結界具を立てて欲しいのです、この森を囲む形で、88箇所」
- え?、そんなにあるの?
「はい、万が一瘴気が外に漏れてはと、あ、設置位置はこれです」
と、俺が作った地図に印を打ったものを手渡された。赤い×印に俺でも読める数字が振られていた。
地域の安全を考えてって事だろうし、仕方ない。
- じゃあこの数字の順番に設置していけばいいって事ね。
「はい、設置は私がやりますが、『小型スパイダー』のほうが間に合わなかったので、お手数ですが移動をお願いします」
「う…」
杭をしまい、ちらっとテンちゃんを見て、小さく俺に頭を下げた。
テンちゃんのほうはまたしゅんと項垂れて小さくなった。
- うん、わかった。どっちかというとこっちがお願いしてる立場なんだからさ。
そう言いながら、やや丸くなっていたテンちゃんの背中を撫でる。
「いえ、事はもう我々の問題でもあるので…」
そう言いながら俺の後ろに回り、いつものようにがしっと腰にしがみついた。
そして昼食。
地味に時間がかかるんだよ、杭の設置作業。
まず、杭の設置順が『瘴気の森』を囲む対角の位置、次はその2つから一番遠い位置と対角の位置、という風に、手間のかかるものだった事。
次に、設置自体に少し時間がかかる事。
前に、ベルクザン王国の首都、ベルクザバにある竜神教会を囲む結界を設置した時と異なり、地面が瘴気に冒されているので、杭がある程度潜るまで支えていないといけないんだ。
リンちゃんと俺とで柱みたいな杭を支えて、自立するのを待つんだけど、地味に時間がかかったってわけ。
それと、地図を見て次はどこだ?、って探すのに、法則性を理解するまで、これも地味に時間がかかった。
途中からリンちゃんが3D地図を表示してくれて、次の位置を点滅して教えてくれるようになったけど、たぶん地図を見て番号を探すのに、俺が『えーっと、今のが何番だったっけ?』って何度も訊くようになったからだと思う。
いやこれやってみるとわかるだろうけど、柱には番号が振られてないし、似たような作業を繰り返してると番号がわからなくなるんだって。
4時間ちょいかけて、やっと73本目が終わったとこなんだよ?
移動自体はそれほど大変じゃないんだけどさ、杭が立つまでが長いんだよ…。
俺たちが杭を支えてる間、テンちゃんなんて暇そうにしてたよ?
でも文句は言わなかった。たぶん文句を言うと、小型スパイダーを壊したからとか絶対リンちゃんから言われるのがわかってるからだろうね。言わないじゃなく言えないが正しいと思う。
そんなこんなで、昼食後の気怠い気分で続きをやり、何とか全部の杭を立て終えた。
「では今から順番に起動しますね」
- え?、また順番に回るの?
「あ、いえ、上に連絡をしますので、補助艇が出て結界と浄化を中継する事になってます」
あー良かった。またこれを順番に回るのかと思ったよ…。
リンちゃんが端末を取り出して操作をし、3分ぐらい待つと最後に立てた柱が動作を開始したのが魔力感知でわかった。
それと共に周囲に漂っていた瘴気が少しずつ薄くなっていった。
- で、これどれぐらい待てばいいの?
「試算では2時間弱で、目で見える程度まで濃度が下がるらしいです」
あっそうですか。結構かかるなぁ…
●○●○●○●
そして2時間後。
もうぱぱっと小屋作って仮眠したよ…。
と言うか小屋作ったらリンちゃんがソファーを置いてくれてさ、そこに座ってぼーっとしてたら居眠りになってたんだけどね。
え?、リンちゃんとテンちゃん?、最初はテーブルに並べられたお茶を飲んでたよ?、起きたら、『タケルさま、そろそろ時間ですよ』って起こしてくれているリンちゃんと、優しい微笑みを浮かべたテンちゃんのふたりが俺の顔を見ているのが見えて、ちょっとびびったけど。
たぶんソファーの背凭れで上向いてたから口あけて寝てたんじゃないかな。アホ面で居眠りしてたのをそんな笑みを浮かべて見られていたと思うとちょっと照れ臭い。
それはともかく小屋を片付けてから、すすっと飛んでやってきた瘴気の中心部。
に、張られているシャボン玉みたいに薄っぺらい結界障壁の前。
テンちゃんは午前中と同様、30mぐらい後ろで待ってる。
もやぁっと漏れてきている瘴気がそのシャボン玉結界の表面から滲み出ている。
結界の内側は肉眼では真っ黒だ。
でも感知でだいぶわかるようにはなった。
中心に何があるのかだけど、どうやら機械の残骸のようなものを背に、石像のような塊があるのがわかった。
結界を作っている魔道具はその機械の残骸の一部で、かろうじて動作を続けているようだ。
その石像だが…、うーん、見ようによっては太った人が胡坐をかいて前かがみで丸まっているような感じに見えそうか…?、よくわからんな。
で、だよ…。
その石像から――だと思う――ずっと、思念のようなものが駄々洩れしてるんだ。
それはもうこの位置どころかテンちゃんの位置まで近寄る前から聞こえて…、いやこれ魔力感知だから音声じゃ無いし、魔力音声でも無い、何て言うか、やっぱり思念波のような感じなんだろうか、んー、言葉で説明しづらいんだけど、一言で全部言ってるような感じなんだ。
で、それがずっと響いてる。
どんな風に感じるかというと…、
『苦ッ促嗾寨束鏃即速觸捉息齪惻塞熄仄嗽嘱燭鑿……』
こんな感じなんだ。
正直わけがわからん。うるさいだけだ。
だけじゃないな、気が滅入るし。
「タケルさま…」
リンちゃんが俺の袖を引いた。不安そうな、頭痛を抱えているみたいな表情。
- あ、うん、テンちゃんの所まで下がろうか。
こくりと頷くリンちゃんと一緒に心持ち早足で下がった。
「ふむ…?、つまりあれはソーガという奴に騙されて戦の先鋒に出され、囮にされて矢の集中攻撃に捉えられ、慌てて致命傷を避けるも命からがら逃げた先でどこかに嵌り込んで封印状態に陥っておったようなのじゃ」
え、何でわかるのテンちゃん…。
俺にはそくそく言ってるだけにしか聞こえなかったよ…?
「そしてあの玉石を抱え、恨み苦しみながら仄かに残った気力で少しずつ封印の結界を鑿とうとしておったのじゃ」
玉石?、ああ、そう言われてみれば抱えているように見えなくも無い。だってほぼ一体化してるんだよ。石を抱えてる石像がそのまま膨らんだみたいなもんなんだよこれ。
- 玉石ってあのひとが大事に抱えてる漬物石みたいな大きさの石?
「うむ、あれは魔力をかなり蓄えたものだったのじゃろうな。当時はもちっと綺麗だったと思うが」
- んじゃ今は…。
「魔力の大半が抜けてただの石になりかけているちょっと魔力があるだけの石なのじゃ」
あ、それが飛行機械のコア?、とリンちゃんを見るとしかめっ面一歩手前みたいな表情で頷いた。リンちゃんのそういう表情ってレアだな。可愛いけど。
と言う事は、残骸の中のコアに辿り着いたその恨みの主が、その怨念か執念かでコアの魔力を吸収して瘴気を発しているという事かな。
ん?、結界を張り続けている部分はどこから魔力を得てるんだろう?
- 封印ってのがこの薄い結界?
「当時はもっと強固だったと思われるのじゃ」
「タケルさま、墜落した飛行機械のコアを護れるほどの結界ですよ?」
- あー…、んじゃどうやってその中に入ったんだろう?
「わかりませんが、あそこにあるのは主機関の一部ですし、瘴気が漏れている部分もありますから、当時から隙間があったのかも知れません」
- なるほど…。
まぁ当時の事はいいや。問題はこれをどうするかって事だし。
- それでテンちゃん、どうすればいい?
「ん?、こんなモノを解き放ってしまうとこの辺りがえらい事になるのじゃ」
- そりゃそうなんだけど。
解き放っちゃまずいってのはわかるけどさ。
「きっちり封印し直すか、浄化し切るかの何れかなのじゃ」
- そうじゃなくて、いやほら、中のひと、生きてるのかなって…。
「ん?、そんなものとっくに干からびて石になっておるのじゃ。気にするだけ無駄なのじゃ」
- え?、んじゃこの怨念みたいなのって…?
「そりゃアレじゃ」
「ただの残留思念というか、残留魔力に宿った怨念ですよ」
「そう、そのアレなのじゃ」
「お姉さま…」
「ぼ、ボケて無いのじゃ!」
- まぁまぁ、で、どうすんの?
「封印し直すなら楽なのじゃが…」
「それも楽とは言えませんが…」
「浄化し切るには中に入るか外側を新たに結界で囲い、この今にも割れそうな結界は壊さねばならないのじゃ」
「どちらにせよ、現状の結界より強固で瘴気が漏れないものを張る必要があるんです」
「うむ」
- じゃあまずは結界を…?、どうしたの?、ふたりとも。
「それが、壊れかけていてもこれはかなりのものでして」
「かなり形式が古いのじゃ」
「それもありますが、例の、地下水脈から結界保持の魔力を発生させるシステムと同時代のものかと」
- ああ、こないだの竜神の神殿地下の。
「はい、あれよりも魔力量が多いんですよ。しかも瘴気に冒された魔力でも動作しているのです。通常ならただ停止させて撤去するのであれば我々でも可能ですが、ここまで瘴気に冒され発生源となってしまったものがすぐ近くにある状態で、それに耐えて稼働し続けていた程の結界具を停止するとなりますと相応の知識と経験が必要なので、大地の者、つまりここではミド爺様に頼らないと安全に操作ができないんです」
- 何だかややこしそうね。
「そうなんです。それでミド様に連絡を取って、事情を話して着手してもらうまで、この結界が持つのかどうか…」
- それは困ったね…。
実はもう俺にはよくわからん。
「吾がしても良いのじゃが、そうするとほんの一瞬停止状態になってしまうのじゃ、ならばいっそのこと壊してしまう方が潔いのじゃ」
「はい。解き放つのと変わらないんです、ってお姉さま?、やめて下さいね?」
「解き放っても数年から数百年ほどで散るのじゃ、問題無いのじゃ」
「問題ありすぎです!」
「おお怖、ちょっとした冗談なのじゃ、そう怒るで無いのじゃ」
「お姉さまの……それは冗談にならないんです」
「その妙な間は何なのじゃ!、何を言いかけたのか言うが良いのじゃ!」
年とか年齢とか言いたかったのを堪えたんだろうなぁ…。
数年から数百年て…w
相変わらずの時間的スケール感覚だ。シャレんならん。
- まぁまぁテンちゃん、リンちゃんも。それで張り直すほうも問題があるって事?
「はい、外側に結界を張るにも、この規模で地下深くまでを範囲にしなくてはならず、単純に結界魔法の術式では難しいんです」
「古い形式での結界魔法なら対応できるのじゃ」
「お姉さまなら可能なんですが、タケルさまもご存じのように、お姉さまの結界は少々特殊でして、今回は使えないんです」
「うむ。そうなのじゃ」
というわけで、一旦ここから離れてから、テンちゃんに教わって俺が結界を張り直すという事になった。
次話4-085は2021年11月05日(金)の予定です。
(作者注釈)
>>だってあの時は亡者たちに縋り着かれてひどい絵面だったんだから。それどころじゃなかった。
※ 3章019話。
20240419:やっぱり何か気になるので訂正。 しましたんです ⇒ したんです
●今回の登場人物・固有名詞
お風呂:
なぜか本作品によく登場する。
あくまで日常のワンシーン。
今回も入浴シーン無し。
タケル:
本編の主人公。12人の勇者のひとり。
今回はちゃんと?、仕事してますね。
リンちゃん:
光の精霊。
リーノムルクシア=ルミノ#&%$。
アリシアの娘。タケルに仕えている。
タケルに諸悪の原因だと思われるのがこわかった。
テンちゃん:
闇の精霊。
テーネブリシア=ヌールム#&%$。
後ろの部分は精霊語のため聞き取れない。
リンの姉。年の差がものっそい。
彼女が本気を出すとえらいことになりますが、
『瘴気の森』程度では本気を出せません。
でもちょっと出すだけでも困った事になります。
ファーさん:
ゼファーリィ=ヴェントス#$%&。
風の精霊。
有能でポンコツという稀有な素材。
風の精霊の里では高位の存在なんですよ、これでも。
1500年も踊ってたんですからねー
タケルの認識はそこ止まりですけども。
返却の危機はまだ続いています。
リンが忙しいので保留になっているだけです。
ウィノアさん:
水の精霊。
ウィノア=アクア#$%&。後ろの部分は精霊語。
一にして全、全にして一、という特殊な存在。
今回は出番無し。
アリシアさん:
光の精霊の長。
全精霊中最古というような存在。実は凄い精霊。
だいたい名前くらいしか登場しませんが一応。
ハルトさん:
12人の勇者のひとり。現在最古参。
勇者番号9番。オオミヤ=ハルト。
ハムラーデル王国所属。
およそ100年前にこの世界に転移してきた。
『フレイムソード』という物騒な剣の所持者。
今回も出番無し。
カエデさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号10番。シノハラ=カエデ。
勇者歴30年だが、気持ちが若い。
でも言動はタケルからするとちょっと古臭い。
お使いで走ってます。そろそろ砦への帰路かな?
今回はちらっと名前が出ましたね。
ハルトもですが、そのうち出て来るのでここに残しています。
と言いつつなかなか出てきませんねー
ロミさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号2番。マサダ=ヒロミ。
現存する勇者たちの中で、3番目に古参。
現在はアリースオム皇国皇帝を名乗っている。
タケルが居る間、チャンスと思って、
リンからいろいろ教わっていたり、
何気にちゃっかりしてますね。
コウさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号8番。ヨシカワ=コウイチ。
現存する勇者たちの中で、5番目に古参。
コウがこの世界に来た時には既に勇者たちは各国に散っていた。
アリースオム皇国所属。
今回も出番無し。
カズさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号6番。サワダ=ヨシカズ。
ロスタニア所属らしい。今の所。
体育会系(笑)。性格は真面目。
川小屋に到着したので登場人物に復帰。
今回は出番無し。
サクラさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号1番。トオヤマ=サクラ。
ティルラ王国所属。
勇者としての任務の延長で、
元魔物侵略地域、現バルカル合同開拓地に居ます。
今回は出番無し。
ネリさん:
12人の勇者のひとり。
勇者番号12番。ネリマ=ベッカー=ヘレン。
ティルラ王国所属。
サクラと同様。
今回は出番無し。
川小屋:
2章でリンが建てた、現在はバルカル合同開拓地にある、
カルバス川分岐のところの小屋。
光の精霊のホームコア技術で守られていて、
まるで現代日本と変わらない暮らしができてしまう家。
小屋というよりはちょっとした民宿ぐらいのサイズ。
現在は、サクラやネリ、シオリが利用している。
ちょくちょくリンが補給物資を届けている。
シオリはまだホーラード王国から戻っていない。
アリースオム皇国:
カルスト地形、石灰岩、そして温泉。
白と灰の地なんて言われてますね。
資源的にはどうなんですかね?
でも結構進んでる国らしい。
勇者ロミが治めている国。
ベガース戦士団:
コウと一緒に『瘴気の森』に派遣されている戦士団。
ここに派遣されている戦士団で最大。
コウとよく行動している、
それなりに長く存在している戦士団でもあります。
団長はベギラムさんです。
タケルはもう名前を忘れてますね。
駐屯地を解体し、3村へ分かれて駐留しています。
他の戦士団2つは分かれずにそれぞれ別の村へ。
人数の関係上、一部が別の村に行くのは仕方ないのです。
話には少しでただけですが、村の資産状況や収穫についての
調査をしています。与えられたお仕事はちゃんとします。
母艦エスキュリオス:
4章056話で登場した。
ベルクザン王国内の竜神教神殿地下にあった、氷漬けの恐竜を、
その装置ごと回収するために近くに来た母艦。
4章065話で、『倉庫ごと回収』というのも、
この母艦が近くに居たままだったから。
統括責任者はベートリオ。
裏方さんたちですね。
アンデッズ:
3章019話から登場。
今回はタケルが思い出した部分にその名が登場。
詳しくはそれ以降の話で。
※ 作者補足
この登場人物・固有名詞紹介の部分全ては、
あとがきの欄に記入しています。
本文の文字数にはカウントされていません。
あと、作者のコメント的な紹介があったり、
手抜きをしたり、詳細に書かれているけど本文には
無関係だったりすることもあります。
ご注意ください。