1ー022 ~ 調査開始
夕食を『鷹の爪』の4人と共にとりながら、明日からの調査について詳しく打ち合わせをする。
「……大体こういう感じで調査していきたいと思うんだけど、どうかな?、タケル君」
- そうですね、大筋はそれでいいと思われます。
ただ、斥候役のエッダさんを先行させて、というのは、しなくてもいいかと。
「ん?、聞こうか」
- 僕とリンの2人は、魔力探知――実際やっているのは『魔力感知』だが、探知することを説明するときには『魔力探知』と言ったほうが伝わりやすいのでこう言う――ができるんです。だから地形や魔物の存在については先に地図に記すことができます。
「ほう。それはどの程度先までわかるんだい?」
- そうですね、同じ階層なら周囲100m は確実に。300~500mは地形を確実に、でしょうか。
「……それが本当ならすごいことなんだが…」
「タケルさま、『最低でも』と前につけるのをお忘れです」
- あ、うん、そうだけど、確実にわかるのってこれぐらいだよね?
「タケルさまに従います」
「さっきも話したんだけど、ツギのダンジョンは洞窟型と遺跡型の混合タイプなんだ。だから罠のこともあって、地形だけでは安心できない部分もあるんだよ、斥候を先行させるのはそういう意味でも定番の攻略法なんだ」
- 物理タイプの罠については地形を把握したときにわかります。地図にも記すことができるんです。魔法タイプの罠なら、それこそ魔力探知なのではっきりとわかります。何にせよ、予め進む前に地図に示しますので、それでエッダさんにその都度調べてもらえばいいかもしれません。
「なるほど、先行というほどではないが、怪しい地点が先にわかるから、エッダを先頭にして全体で進んで大丈夫だ、ということかな?」
- はい。
「ならそれで行こう。他に意見は?」
- あとは、明かりが不要です。装備として一応持って行ってくださって結構ですが、調査中にランプを使わなくてもすみます。具体的には、その、現地で。
「そっか。わかった」
- それと、荷物ですが、用意されたものってこの宿の部屋にあるんですか?
「ん、うん、手分けして持つことになるかな、それがどうかしたのかい?」
- えっと、このあとで分かることですけど、少し耳を…
「うん?、え?!、おっと失礼、本当かい?、いや疑っているわけじゃないんだが…」
- なのでこちらでもかなりの量の用意がある、と思ってください。
「え?、何なの?、どういうこと?」
「エッダ、あとで」
「わかった」
「いろいろと内緒のことがあるようなので、場所を変えようか」
と言って上を指差すサイモンさんについてぞろぞろと宿の部屋に移動した。
部屋には小分けされた背嚢が6つ、用意されて積まれていた。4人部屋をとっていたようだ。そこそこの広さがある。
ここって結構いい宿だよね。俺がとった宿とはだいぶ雰囲気が違うし。
椅子がないのでベッドに腰掛けていいと言われたんでわかった。寝具も藁じゃなく綿入りだよ。
「さて、それじゃタケル君」
- はい。
返事をして、背嚢のひとつを、腰のポーチに入れる。何度見ても不気味だよね、この出し入れの瞬間ってw、一瞬だけどさ。
「「「えっ!?」」」
「いやはや、魔法の袋なんて伝説級のアイテムだよ、よくそんなの持ってたね」
- 入手については話せません。ごめんなさい。
「契約魔術を結んだ僕たちにでもかい?」
- はい。
「とにかくこれで皆の体力がかなり温存できるし、調査ペースもかなり上がると思われる」
- あ、あの、一応最低限の物資は個別に持っておいたほうがいいと思います。
「そうだね。水と食料と傷薬とランプやナイフかな、それを残してあとは背嚢から出しておくよ。背嚢もこんな大きさは要らないか、それもなんとかするよ」
「明かりの道具が要らないってのは?」
- リンちゃん
「はいタケルさま」
リンちゃんが手をふわっと動かす。それと同時に部屋の明かりを消した。
「「おお!?」」 「わわっ!」 「!?」
「なるほど、こういうことなんだね。よくわかったよ」
「これはどれぐらいもちますか?」
「探索中の1日ぐらいはもちます。休憩のタイミングでかけなおします」
「そんなに…、さすがは師匠です…」
「「師匠!?」」
- ということです。あとは魔物避けの結界魔法や、不寝番の人形もありますので、普通のダンジョン探索のことを考えるとかなり楽ができると思いますよ。
不寝番の人形というのは、光の精霊の里から帰るときにお土産にもらったビー玉がいっぱい入った袋で、ひとつがゴーレムのコア、と言えばわかりやすいかな。
ビー玉、って便宜上言うけれど、土魔法などで人形を作って、それにそのビー玉を埋め込み、起動制御の魔法を掛けると人型の魔法人形が構築できるものだ。
人形はだいたい人間サイズで、起動制御の魔法をビー玉に魔力を流し与える術者本人が作らなくてはならない。あまり大きな人間サイズだと動きも遅くなるので、身軽な人間サイズと思っておけばいいらしい。
だから魔力を結構食う。俺には大した消費には思えなかったんだけどね。
このビー玉はすべて人型用なので、馬は作れない。ちょっと残念。
あまり複雑なことはできない、って言われたんだけど、人型として動くとか不寝番ができるとか、言葉で命令ができるってだけで、元の世界のロボットのことを考えたら充分おそろしく複雑なことやってるよね。
「そ、そっか。もう驚くことばかりだけど、それも現地で見せてくれるんだよね?」
- はい。結構面白いですよ。
「面白い…?、どうもタケル君の感覚にはついてゆけそうにないが、まぁいいだろう、それじゃ各自準備を怠らないように。明日は日が出たらこの部屋に集合でいいかな?」
- はい。わかりました。
最後のは俺とリンちゃんに言ったものだろう、結構朝が早いが仕方ない。
元の世界と違って、みんな夜更かしをあまりしないんだよね。
日の出と共に起きて、日が沈むと眠る、みたいなさ。
大抵は日が沈んでもまだ活動してたりするけれど、明かりの燃料がもったいないってのもあって、夜は酒場も割高になるし、普通の商店はだいたい閉めてしまう。
娯楽は少ないし、夜番の兵士とかでもないと、夜遅く起きているということがない。
もちろん冒険者は活動してることもある。
街道はあっても街灯なんてないので、月や星の明かりが頼り、なんて移動はまずしない。
そういうものだ。
●○●○●○●
さて翌朝。日が出る少し前に起きて、『鷹の爪』が利用している宿へ行く。
もちろん起こしてくれたのはリンちゃんです。はい。ありがとう。
え?、ちゃんとベッド2つある2人用の部屋だよ?、一緒に眠るなんてないない、そこはきちんとしなくちゃね。
宿の人に一言断りを入れて、部屋に行くと、もう全員準備ができていた。
ポーチに収納する分はありがたいことに小分けされていた。順次ポーチに入れていく。
「どうみてもそこに入るようには見えないわ」
うん、俺もそう思う。でもそういうもんなんだから受け入れようよ。
そしてぞろぞろとツギのダンジョンへ向かう。
現在、ツギのダンジョンは入場制限をしていて、入り口のところには交代で依頼を受けた冒険者たちがキャンプを張っていた。
「ああ、聞いてるよ。調査だろ?、『鷹の爪』さんたちなら安心だ。2人はギルドから派遣された調査員ってことだが合ってるか?」
「ああ。その通りだ。では行ってくる。しばらく篭る」
「了解。気をつけてな」
というやり取りがあり、期待と不安と好奇心が混じったような数人の視線に見送られて中に入った。
「なるほど、確かに明かりは不要だな」
「盾職としてはかなり助かるな」
「斥候としても助かるわ」
「遠くまでちゃんと見えるのがいいわね。ランプだとどうしても遠くが見えないし」
「そうだな」
などとぼそぼそと会話があったが、しばらく進んだ所で、予定通り立ち止まる。
「それじゃ、タケル君、お願いできるかな?」
- はい。
用意した羊皮紙を手に、アクティブソナーを打つ。いや、魔法だけどもうそう呼んでいいじゃないか。わかりやすいしさ。
そして結果を羊皮紙に転写する。罠や魔物の位置もちゃんと注釈を入れた。
え?、筆記具で?、あるけどついでだから魔力操作でまとめて描いちゃってる。
「ほぇ~、すごく詳細よこれ!、こんなのズルいよ!、斥候いらずじゃない」
- 斥候、必要ですよ?、魔物は動きますし、罠だって解除しないと進めない場所もあるかもしれませんから。
「タケル殿の言うとおりだ。ほれ、仕事だぞ。斥候が必要だってとこ見せてみろ」
「はぁい、ちぇっ、一言余計なんだよっ」
クラッドさんに背中をぺちっと叩かれて送り出されるエッダさん。
それに続いて歩き出す一行。
「あのぅ、タケルさん?」
はいはいタケルですよ?、振り向くとプラムさん。
「さっきの探知魔法のとき、一瞬、ほんの少し違和感といいますか、魔力のゆらぎのようなものを感じたのですが…」
- あっはい。それで合ってます。えっとですね、大きな壁や、谷などで声が反響して返ってきたりすることがありますよね?
「はい」
- それと同じで、魔力の小さな衝撃を発すると、壁や地形に跳ね返ってくるんです。それを感知するんです。
「では羊皮紙に写し取ったのは別なんですか」
- そうです。感知すると頭にその情景というかイメージとして構築されるので、それを魔力操作で羊皮紙に焼き付けています。
「なんて……、どれも簡単に仰っていますが、どれひとつをとっても物凄く高度な魔法ですよそれ」
「プラム、できそうか?」
「とんでもない!、習得するのに何年かかるか全然自信がもてませんよ…、こんなの王立魔法学院の研究員たちですらできないわ」
「そんなにすごいのか。簡単にやってたようだが…」
「サイモンも少し魔法について勉強してみるといいわ。そうすれば少しでも師匠やタケル様の凄さがわかるかもしれないわよ?」
「いや、すまない。プラムがこれを使えたら今後の活動が楽になるんじゃないかって思っただけなんだ」
- あっ、さっきプラムさん、ピンガー、って言ってるんですが最初の波のこと、それ、感じたって言ってましたよね?
「ええ、はい、でもなんとなく、っていうかそんなしっかりと感じ取れたわけでは…」
- その感覚が大事なんです。プラムさん魔力感知を磨きましょう。この調査中、僕と一緒に魔力操作や魔力感知の練習をしませんか?、いつもそうしてるので、ついでと言っては何ですが。
「えっ、いいんですか?、ぜひ!、ぜひお願いします!」
うぉ、迫ってきたよ、思わず一歩下がっちゃった。





