1ー021 ~ 顔合わせ
結局説得されて断りきれなくなった。まぁ、半分は最初から行く気だったんだけどさ、ガイドに書いてあるより強くなってるって聞いてちょっとやる気が減ってたんだよね。
でも押し切られてしまった感じ。
まぁ仕方ない。
一応、調査の成果によっては謝礼も段階的に貰えるらしいし。
ベテラン冒険者チーム『鷹の爪』の4人をつけてもらうことになった。
断りたかったんだけど、どうしても、って言われて、ならば勇者として秘密にしなければならないことがいろいろあるので、今回同行してもらって知った僕たちの秘密については口外できないように契約魔術を交わしてもらうことになった。
あるんだってさ、契約魔術の書類。
そのための費用はギルドが出す、ってことで合意を得た。
折半でもいいかな、って思って金額を聞いたらぶっ飛んだ額だったんで素直に出してもらうことにしたよ。あぶなかったー。
呼ばれてやってきた『鷹の爪』の4人は不満そうだったけどね。ギルド長から言われて渋々従っていた。
実は契約魔術は、言ってみれば今回のは形だけで、ちょっと抵触すると手が痺れる程度の罰則に抑えてあったりする。
もちろんそれを知っているのは俺とリンちゃんとギルド長だけなんだけどね。
本来、契約魔術を結ぶというのは、それこそ命すら掛けなければならないほどの重大な契約なんだそうな。
実際やることは、名前を書いて後ろに血判を押すだけで、正副2枚作成して正のほうだけ契約魔術用紙を使う。もちろん特殊なインクも。それで副のほうはギルドで厳重に保管する。
『鷹の爪』のメンバーが不満に思うのも分かる。スゲー睨まれたよ。
そりゃね、ポッと出の新米勇者を連れてダンジョンの調査をするという仕事を依頼されて、金額がやけにいいから承諾したら、契約魔術で縛られるんだもんな。
元々危険な仕事だから、命がかかってるのは同じかもしれないので、そのへんは彼等の気持ちがすべて分かったとは言い切れないけれど、俺だったらやっぱり不満だもん。
なので申し訳ないなという気持ちもある。
でも秘密にしておきたいことであるのは確かなので、そのあたりを考慮して、罰則を最低のものだけにしておいてもらったんだよね。
その事はまだ言えないけど、それで許して貰えたらいいな、って思ってる。
『鷹の爪』の4人は不承不承ながらも契約に応じてくれた。
ありがとう、すみません。マイナススタートだけどよろしくお願いします、と言葉にはしないで心の中で唱えてたよ。
契約が終わり、正のほうの契約書が青白い炎を出して燃え尽き、薬臭いようなへんな匂いが少し残ったあと、ギルド長が全員を紹介してくれた。
リーダーのサイモンさんは、細マッチョとでも言おうか、薄茶色のサラサラした髪のイケメンで、そのままテレビで歌って踊ってもいいぐらいの、清潔感のある青年だった。
戦闘では彼が遊撃という立場で、前衛から中衛をこなし、場合によっては短弓や投擲もできるので後衛も可能という、いわばオールラウンダーの働きをするようだ。
体格のいいクラッドさん。上背もあって迫力がある。映画俳優のアーノルドさんみたいなイメージでいいと思う。茶色の角刈りっぽい短髪で、このひとがスゲー睨んでた人ね。怖かったよ!
戦闘では大楯を持つ、いわゆる盾職ってやつだ。見たまんまだよね。
スレンダーな感じでぱっと見た感じでは冷たい印象がしたプラムさん。濃いめの青いストレートヘア、切れ長の目で鋭い視線、薄い唇、ああ氷の美人だ。でも薄く微笑んでいらっしゃる。これが氷の微笑か!、ごめん、たぶん違うね。
火属性の魔術が使えるんだそうな。火属性っていうのはリンちゃんの講義によると、温度変化や燃焼を司るんだそうです。はい。なので火属性の負面?、聞いたときはダークサイドか!、って思ったけどそんなのじゃないらしい、すみません、つまり事象には陰と陽があって、それの発現とかなんとか、だから温度を上げ下げする魔法っていう、俺も何となくでしかイメージできてません。
王都の魔法学校を卒業したそうな。へー?、有名大学出のキャリアウーマンみたいな感じか?
4人の中で一番小柄なエッダさん。くるくるよく動く鳶色の瞳にクラッドさんより少し濃くて赤っぽい茶色のショートヘア。にこにこ笑顔だけれど何だか油断がならない感じ。
戦闘では弓がメイン、狩人をしていた経験があるらしい。罠に関しても詳しく、斥候職っていうものなんだろう、そういう役割をするらしい。
以上のバランスのいい感じなパーティでした。ベテランってのもわかる。雰囲気がいいものね。睨んでるひとも居たのでアレだけどさ。
少しリーダーのサイモンさんとエッダさんから質問された。でも答え辛いのが多くて自分でもうさんくさい返事しかできなくて、ほんと申し訳ない。
だから、ダンジョンに潜る前に、少し近くの森で狩りをすることになった。
鷹の爪ってんだからやっぱり辛口なのかな?、関係ないか、やっぱり。
●○●○●○●
「身体強化が使えるんですか!?、話には聞いていましたが勇者って凄いんですね」
「あれを避けて一撃で角クマの首を切断だと!?、あとで俺と模擬戦してくれ!」
「え!?、無詠唱ですか?、魔法はどちらで学ばれたんです?」
「さっきのって明らかに死角ですよね?!、探知魔法?、ちょっとズルくないですかそれ!」
言わなくてもいいぐらい、誰の発言かわかろうってもんだけど、順にサイモンさん、クラッドさんプラムさんエッダさんね。
プラムさんは魔力の流れが感じ取れるレベルでは無いらしく、最初の身体強化のときは疑いの目を向けてきていた。
でも角クマを狩った直後に、角サルが2匹、角クマの首を斬って通り過ぎたあと、踵を返して少し歩いたときに木の上から飛び掛ってきたのを、振り向きざまに片方を斬り、もう片方を無詠唱の土魔法で撃ち抜いたとき、3人のほぼ同時な発言ね。同時だったんでアレだけど、たぶん意味は合ってる。
「ふっふふーん、タケルさまはすごいんですよー?」
なぜか上機嫌なリンちゃん。でもキミなら全部魔法で瞬殺だよね。
あ、斥候職をやっているひとが、ある程度熟練になると、無意識に魔力検知、つまりパッシブソナーが使えるようになっていたり、隠形っていう、前に少し話した、魔力を漏らさないスキルが使えるようになっていたりするんだそうな。
だから、『ズルい』ってのは違うんじゃないかなと思う。言わないけどさ。
そんなこんなで、実力を認めてもらった。それと、勇者の秘密に関しても納得が行ったようだ。いや勝手に納得してくれたんだけどね。それはそれでOK。
あ、クラッドさんがしつこかったんで模擬戦したよ。やりたくなかったのにさ。強化も魔力を纏わせるのもしなかったら、あっさり負けちゃって、『手抜きしないで本気でやってくれ!』ってお怒りでした。
いいのかなぁ?、って視線に込めてサイモンさんを見ると、頷いたので仕方なく強化と魔力を纏ったら、秒殺どころか瞬殺だった。寸止めしたつもりなんだけど、それでも少しは反応したクラッドさんがすごいと思う。
でもそのせいでクラッドさんの盾を持っている左腕が骨のとこまで斬れてしまってスゲー焦った。もう謝り倒した。盾も真っ二つだったし。
リンちゃんがクラッドさんの腕くっつけて治しちゃったせいで、これまたサイモンさんとエッダさんは口をあんぐりあけたまま言葉を失ってた、これ知ってる。唖然ってやつだ。
プラムさんはハニワみたいな顔になってた。口が『 o 』の字になって固まってる。これも知ってる。呆然ってやつだ。
あ、クラッドさんはショックの連続で心がどっかいっちゃってた。目を開けたまま失神してるようなそんなやつ。これも知ってる。憮然ってやつだ。
盾については申し訳なかったので、買って返します、って言ったんだけど聞いてくれなくて、予備があるから大丈夫って、一歩も引いてくれないんだよね。仕方なくそのままこっちが折れた。
腕が治った直後、正気に戻ったクラッドさんは土下座して、
「侮って悪かった勇者様!、治療に感謝する!」
っていきなりだよ?、びっくりだよ、でも好感持てるわ、こういう竹を割ったような性格。
なんとか宥めて、クラッドさんやサイモンさんに剣技を教えてもらうことになった。だって強化がないとあっさり負けるぐらいなんだし。
とにかく、俺とリンちゃんのコンビが、『鷹の爪』のひとたちにとって一目置ける存在だって理解してもらえたので、ダンジョン調査は明日からすることにした。
リーダーのサイモンさんとエッダさんは明日のための準備へ、クラッドさんは俺と訓練、同じ場所だけどプラムさんはリンちゃんと魔法談義。
夜にまた食事をともにするってことで、2人と4人に別れて行動開始だ。
「どうして理解できないのデスか?、これぐらいのことはタケルさまならすぐモノにされました」
「理解はできたんです!、でも実際に魔力を練るところがうまく…」
「魔力構築が遅すぎるデス。それでは間に合わないのデス」
「しかし詠唱が…」
「詠唱に頼りすぎなのデス、魔力操作の修練が足りないのデス」
「そう仰られてもこんな高度な魔力操作は王都でも誰も…」
「全く、エリートだとタケルさまが仰るから期待してみれば、こんな低レベルだとは思いませんでした。タケルさまならあっさりこなされると言うのに…」
ちょっと、聞こえてますよお二方。そしてリンちゃん黒くなってるよねそれ。
- あの、クラッドさん?
「ん?、ああ、あっちの二人か?」
- はい、そろそろとめたほうがいいんじゃないかと…。
「プラムはあれで王都の魔法学院では主席をとったこともあったぐらいの上位にいたからな。研究教員にも一目置かれていたらしいし、魔法についてはかなりプライドをもっていたようだが、いい機会だから放っておいていいんじゃないか?、それよりタケル殿、手のほうがお留守になってるようだが?」
- あっはい、すみません!
「うん、型をきっちりモノにしなくちゃな。タケル殿は筋がいい、教え甲斐がある」
隣で同じように型をなぞって模範を示してくれるクラッドさん。
実にありがたい。しっかり覚えて日々の鍛錬に採りいれなくっちゃね。
「違うのデス!、魔力操作でフィードバックが遅いからズレるのデス!、もっと感覚を研ぎ澄ますのデス!」
「は、はい師匠!」
リンちゃん師匠になっちゃってるよ…?





